598というスピーカーの存在(KEF Model 303・その9)
カートリッジについては、
《カートリッジは(一例として)デンオンDL103D》となっている。
DL103D以外のカートリッジ、
たとえば、同時代のオルトフォンのMC20MKIIもいいカートリッジだし、
瀬川先生は、ステレオサウンド 55号の特集ベストバイでは、
My Best3として、デンオン DL303(45,000円)、
オルトフォン MC20MKII(53,000円)とMC30(99,000円)を挙げられている。
どのカートリッジにしてもDL103Dよりも高価になる。
それにAU-D607内蔵のヘッドアンプに関して、別冊FM fanの25号で、次のように評価されている。
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MCヘッドアンプだが、やはりMC20MKIIまではちょっとこなせない。ゲインは音量をいっぱいにすればかなりの音量は出せるが、その部分では、ハム、その他のノイズがあるので、オルトフォンのような出力の低いカートリッジにはきつい。ただし、MC20MKIIの持っている音の良さというのを意外に出してくれた。ヘッドアンプの音質としてはなかなかいい。もちろんデンオン103Dの場合は問題なく、MCの魅力を十分引き出してくれた。
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オルトフォンのような低インピーダンスで、低出力電圧のMC型カートリッジは、
ヘッドアンプには少々荷が重いところがある。
かなり優秀なヘッドアンプでなければ、満足のいく再生音は得にくかったのが、
この時代である。
ならばカートリッジはMM型の選択も考えられる。
それでもMC型のDL103Dである。
DL103シリーズには、DL103、DL103S、DL103Dの三つがあった。
瀬川先生の、熊本のオーディオ店での試聴会で、この三つを聴くことができた。
DL103Dを瀬川先生は高く評価されていた。
聴けば、そのことが納得できた。
56号の組合せにおいて、DL103でなくDL103Sでもないのは、
やっぱりと納得できた。
DL103Dが、この三つのカートリッジのなかでは、音楽を活き活きと聴かせてくれる。
47号で《単なる優等生の枠から脱して音質に十分の魅力も兼ね備えた注目作》とある。
そのとおりである。
にしても、である。
MM型カートリッジも、この時代は多くの選択肢があった。
それでもDL103Dを選択されたのは、
一種の遊び心(型番遊び)ではないのだろうか。
岩崎先生が書かれていたことをおもいだす。
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名前が良くて得をするのはなにも人間だけではない。オーディオファンがJBLにあこがれ、プロフェッショナル・シリーズに目をつけ、そのあげく2345という型番、名前のホーンに魅せられるのは少しも変なところはあるまい。マランツ7と並べるべくして、マッキントッシュのMR77というチューナーを買ってみたり、さらにその横にルボックスのA77を置くのを夢みるマニアだっているのだ(実はこれは僕自身なのだが)。理由はその呼び名の快さだけだが、道楽というのは、そうした遊びが入りやすい。
(「ベスト・サウンドを求めて」より)
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瀬川先生にも、こういうところがあったのだろう。