B&W 800シリーズとオーディオ評論家(その6)
そういえばと思い出すと、
私が知っているオーディオマニアでマルチチャンネルをやっていた人も、
その時はB&Wの800シリーズだった。
2チャンネル再生だったころは、B&Wとは性格の違うスピーカーだった。
彼の鳴らすマルチチャンネルの音を聴いていない。
だからいえることはあまりないのだが、
それまでの鳴らしていたスピーカーと同じモノを、
チャンネル数だけそろえるのではなく、
スピーカーを全面的に換えてのマルチチャンネル再生であるのを考えると、
B&Wの800シリーズは、マルチチャンネルには最適といえる性格のスピーカーなのかもしれない。
けれど私はこれまでも、これからもマルチチャンネル再生をやろうとは考えていない。
それに、いまステレオサウンドに執筆している人たちで、
マルチチャンネル再生に取り組んでいる人は、誰がいるのか。
ほとんどが2チャンネル再生のはずだ。
「800シリーズ、(オーディオ評論家は)誰も使っていないよね」、
こう言ってくる人も、マルチチャンネル再生はやっていない。
2チャンネル再生のオーディオマニアの人ばかりである。
ここまで書いて、五味先生が4チャンネルについて書かれていたことをおもいだす。
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いろいろなレコードを、自家製テープやら市販テープを、私は聴いた。ずいぶん聴いた。そして大変なことを発見した。疑似でも交響曲は予想以上に音に厚みを増して鳴った。逆に濁ったり、ぼけてきこえるオーケストラもあったが、ピアノは2チャンネルのときより一層グランド・ピアノの音色を響かせたように思う。バイロイトの録音テープなども2チャンネルの場合より明らかに聴衆のざわめきをリアルに聞かせる。でも、肝心のステージのジークフリートやミーメの声は張りを失う。
試みに、ふたたびオートグラフだけに戻した。私は、いきをのんだ。その音声の清澄さ、輝き、音そのものが持つ気品、陰影の深さ。まるで比較にならない。なんというオートグラフの(2チャンネルの)素晴らしさだろう。
私は茫然とし、あらためてピアノやオーケストラを2チャンネルで聴き直して、悟ったのである。4チャンネルの騒々しさや音の厚みとは、ふと音が歇んだときの静寂の深さが違うことを。言うなら、無音の清澄感にそれはまさっているし、音の鳴らない静けさに気品がある。
ふつう、無音から鳴り出す音の大きさの比を、SN比であらわすそうだが、言えばSN比が違うのだ。そして高級な装置ほどこのSN比は大となる。再生装置をグレード・アップすればするほど、鳴る音より音の歇んだ沈黙が美しい。この意味でも明らかに2チャンネルは、4チャンネルより高級らしい。
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五味先生のころのマルチチャンネル(4チャンネル)は、アナログがプログラムソースだった。
しかも、いわゆる疑似4チャンネルであるから、
現在のデジタルをプログラムソースとするマルチチャンネルと同一視できないけれど、
マルチチャンネル再生における重要なことは、静寂さの深さであることは同じのはずだ。