続・再生音とは……(歴史の短さゆえか・その1)
ステレオサウンド 38号の特集「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」、
その中で、井上先生が最後に語られている。
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ほとんどすべての人間が生まれながらに現実の音に反応しているはずです。それが再生音になると、どうしても他人の手引きや教えばかりをもとめるのか。いい音というのは、あなたがいまいいと思った音なんてすよ、とぼくはいっておきたい。つまり結局は、ご自分で探し出すことでしかないんです。
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なぜ再生音になると、そうなってしまうのか。
ひとつには、再生音の歴史が短いということが深く関係しているのかもしれない。
エジソンの発明から140年。
このころは録音・再生に電気を必要としなかった。
電気録音が行われるようになり、電蓄が登場するようになってからは、100年ほどしか経っていない。
SPの時代であり、モノーラルの時代でもある。
ステレオの時代になってからだと、まだ60年ほどである。
ステレオとは虚像である。
虚像の再生音を聴くようになってから、まだ60年と考えれば、
人がその判断に迷ってしまうのは、むしろ当然なのかもしれない。