Date: 6月 4th, 2017
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日本の歌、日本語の歌(アルテックで聴く・その13)

ステレオサウンド 51号の「オーディオ巡礼」の最後には、こうある。
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 大事なことなので言っておきたいが、H邸のクリプッシュホーンも拙宅のオートグラフも、オリジナル・エンクロージァなので、そうでなければ断じて出ないソノリティというものがある。ハーモニィの陰翳とでも言うほかないこの音のニュアンスは、かなり使いこまねば出てこない。金にあかせ、名器の評判の大型スピーカーやアンプを揃えたところで、それだけでは音楽でなく、特性のいい音しか聴こえないだろう。特性のいい音は、たとえば弦のユニゾンがシンセサイザーの音に化す。周波数レンジがのびるほどシンセサイザー的にきこえる。だが弦のユニゾンはあの飴色をしたヴァイオリンを馬の尻尾で鳴らした音の総合なので、断じてシンセサイザーの響かせる音ではない。その辺のちがいのわからぬ手合いが、大金を投じて馬鹿でかいアンプやスピーカーを購入して足れりとしたり、物理特性がよければそれで音がいいと思っている。そういう人には多分、クリプッシュホーンはレンジのせまい音としか聴こえないだろう。だが何という調和のとれた、私には美しい音だったろう。
 H氏は、じつはまだ音が不満で、何故なら古い録音のレコードなら良いのだが、多チャンネルで収録した最新録音盤では、高域の輝きに欠けるし、測定データをとってみてもクリプッシュホーンは340ヘルツあたりで10デシベルちかく落ちこんでいる。このためチェロが玲瓏たる音をきかせてくれないので、高域にはリボン・トゥイーターを加え、340ヘルツあたりも何とか工夫したいと言う。このオーディオの道ばかりは際限のない、どうかするとドロ沼におち込む世界だ、それは私も知っているが、特性を追いすぎるとシンセサイザーになるのを危惧して、夫人に「いじらせないように」と言ったわけである。もっとも、私を送ってくれる車中で彼はこう言った。「どれほど優秀なシステムでも、今は、オリジナルにどこかユーザーが手を加えねば、マルチ・チャンネル方式で録音される現在のオーディオサウンドを十全には再生できない。どこにどう手を加えるかがリスナーの勝負どころだろうと思うんです。オリジナルをいじるというのは邪道かもしれないし、本当はたいへんむつかしいことでしょう、しかしうまくそれがなし得たとき、はじめて、その装置は自分のものになったといえるんじゃないですか」そうかも知れない、私もそれは感じていることだが、まあそういうものが完成したら又きかせてもらいましょう、と言った。内心では、家庭で音楽を鑑賞するためのオーディオなら、今の音で十分ではないか、とやっぱり思っていた。
     *
五味先生が訪問されたH氏(ステレオサウンドの原田勲氏)は、
このときヴァイタヴォックスのCN191 Corner Hornを鳴らされていた。

いまもそうだが当時も輸入元は今井商事で、
CN191もそうだがBiton Majorも国産エンクロージュアのモデルも併売していた。

CN191は796,000円だったが、国産エンクロージュア仕様だと606,000円、
Biton Majorは536,000円が、国産エンクロージュア仕様だと400,000円になる。
その他にも、インペリアルからBiton Majorのエンクロージュアが125,000円、
CN191のエンクロージュアが350,000円で発売されていた。

ヴァイタヴォックスのオリジナル・エンクロージュアも単体で販売されていた。
CN191が540,000円、Biton Majorが144,000円である(価格はいずれも一本)。

CN191の中古を何度かみかけたことがある。
国産エンクロージュアだったことが二度あった。
Biton Majorはみかけたことがない。

CN191の陰にかくれて人気がなかったのだろうか。
記憶に間違いなければ、三井啓氏がBiton Majorだったはずだ。

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