日本の歌、日本語の歌(アルテックで聴く・その2)
ステレオサウンド 56号の翌年の夏、セパレートアンプの別冊が出た。
巻頭の「いま、いい音のアンプがほしい」で、
アルテックの604EをマッキントッシュのMC275で鳴らした時のことを書かれている。
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しかしその試聴で、もうひとつの魅力ある製品を発見したというのが、これも前述したマッキントッシュのC22とMC275の組合せで、アルテックの604Eを鳴らした音であった。ことに、テストの終った初夏のすがすがしいある日の午後に聴いた、エリカ・ケートの歌うモーツァルトの歌曲 Abendempfindung(夕暮の情緒)の、滑らかに澄んで、ふっくらとやわらかなあの美しい歌声は、いまでも耳の底に焼きついているほどで、この一曲のためにこのアンプを欲しい、とさえ、思ったものだ。
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620Bに搭載されているのは604-8Hで、
604Eとはホーンもフェイズプラグも、フレームもネットワークも違うから、
まったく同じには語れないにしても、同じ604であり、アルテックの同軸型ユニットである。
そうなると56号での《歌謡曲や演歌・艶歌》を、
女性ヴォーカルを受けとめた私の読み方は、それでいいんだ、と思った。
セパレートアンプの別冊が出た時には、上京していた。
とはいえアルテックのスピーカーを聴く機会はなかった。
当時はJBLが圧倒的だった。
JBLは、どのオーディオ店に行っても聴けた。
アルテックはそうではなかった。
展示はしてあったから、聴かせてほしい、といえば聴けたであろう。
けれど18の若造は、買う予定のないオーディオ機器を聴かせてほしい、とはいえなかった。
私がアルテックのスピーカーで、女性ヴォーカルを聴くのは、もう少しあとのことだ。