AXIOM 80について書いておきたい(その5)
瀬川先生は1955年ごろに、最初のAXIOM 80を手に入れられている。
1955年といえば瀬川先生はハタチだ。
まだモノーラル時代だから、一本のみである。
ステレオサウンド創刊号には、こう書かれている。
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そして現在、わたしのAXIOM80はもとの段ボール箱にしまい込まれ、しばらく陽の目をみていない。けれどこのスピーカーこそわたしが最も惚れた、いや、いまでも惚れ続けたスピーカーのひとつである。いま身辺に余裕ができたら、もう一度、エンクロージュアとアンプにモノーラル時代の体験を生かして、再びあの頃の音を再現したいと考えてもいる。
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1966年時点で、すでにAXIOM 80は鳴らされていない。
ステレオサウンド 62号「音を描く詩人の死 故・瀬川冬樹氏を偲ぶ」には、
20年のあいだ鳴らされなかった、とある。
つまり瀬川先生にとってAXIOM 80は、20代前半のころのスピーカーである。
《AXIOM80の本ものの音──あくまでもふっくらと繊細で、エレガントで、透明で、やさしく、そしてえもいわれぬ色香の匂う艶やかな魅力──》、
この音を鳴らされていたのは、20代の瀬川冬樹である。