日本のオーディオ、これまで(ラックスCL32・その1)
1976年秋に、ラックスからXL32というコントロールアンプが登場した。
このころの日本のコントロールアンプは、
明らかにマークレビンソンのJC2の影響下にあったといえる。
各社から、それまでとは違う薄型のコントロールアンプが登場してきた。
アメリカでは、マークレビンソンの成功に刺戟され、
多くのガレージメーカーが誕生したが、こちらは薄型のコントロールアンプはほとんどなかった。
とはいってもJC2が外部電源仕様だったのに対し、
国産メーカーの薄型コントロールアンプは、すべて電源内蔵仕様だった。
この違いは評価すべきことである。
ラックスのCL32は、その中でも、真空管アンプだったという点が、JC2との違いとして挙げられた。
真空管を横置きにしたアンプは、それまでにもあった。
マランツのModel 7もそうだ。
けれど、CL32のような薄型のモノは存在しなかった。
真空管で薄型だから、CL32の存在価値があるわけではなく、
真空管アンプであることを打ちだすことをしなかった点にある、といえよう。
いまでこそ各社から真空管アンプが出ているが、
1976年当時、真空管アンプをつくり続けているメーカーは、わずかだった。
ラックスは、その代表的メーカーであり、
ラックスを象徴するアンプはプリメインアンプのSQ38FD/IIだった。
*
最新の技術を駆使した、いわば、電算機的なプリメインアンプが登場してくると、旧型アンプの存在価値が薄れるのが当然であるが、そこは、趣味としてのオーディオであるだけに、アナクロ的な典型ともいえる、古き良き時代の真空管プリメインアンプが、現在に生きているのも大変に楽しいことなのである。プロトタイプ以来10年に近い歳月を経過したこのモデルは、いわば、SL的な新しさであり、懐かしさがある音を聴かせる。
(井上卓也 ステレオサウンド 43号より)
*
SQ38FD/IIには、こういう面があった。
旧型アンプ、アナクロ的な典型、古き良き時代の、といった面が、
トランジスターアンプ全盛時代の1970年代後半、《SL的な新しさであり、懐かしさ》でもあった。
CL32は、同じラックスの真空管アンプであっても、このところが対照的だったのだ。
だからこそ、高い評価を得た。