ステレオサウンドについて(その53)
ステレオサウンド 51号の表紙は、アルテックの604-8Hである。
604-8Gまでのマルチセルラホーンから、マンタレーホーンに置き換った。
外観の変更はホーンだけであるが、
全体のイメージはずいぶん違って見える。
マンタレーホーンの604-8Hの方が新しいと感じるといえばそうなのだが、
それまでのマルチセルラホーンと比較すると開口部がフラットということ、
当然ホーン開口部にもスリットがないため、平面的な印象を受ける。
しかもユニットの前面のみで磁気回路を含めた後側が写っていないから、
よけいに平面的と、いまも見えるのは特集の内容も関係してのことである。
51号の特集はベストバイ。
私にとっては43号、47号に次ぐ三回目のベストバイの号である。
51号を手に取って最初のページからめくっていく。
広告をのあとに最初に登場するのは、「続・五味オーディオ巡礼」である。
51号では、H氏(東京)とある。
このときはH氏が誰なのかはわからなかった。
「五味オーディオ教室」にもH氏のことを書かれている。
ヴァイタヴォックスのCN191を鳴らされている人だとは、だから知ってはいた。
そのH氏のリスニングルームに、五味先生が訪ねられている。
わくわくしながら読んだことを、いまも憶えている。
*
〝諸君、脱帽だ〟
ショパンを聴いてシューマンが叫んだという言葉を私は思い出していた。
*
他にもここに書き写したいところはいっぱいあるが、これだけでいいだろう。
五味先生のオートグラフは、タンノイではもう製造されなくなっていた。
輸入元であるティアックのカタログに載っているオートグラフは、
タンノイの承認を得た国産エンクロージュアである。
エンクロージュアはオリジナルに限る。
五味先生の書かれたものを読んできた私にとって、
ヴァイタヴォックスのCN191はオリジナルのエンクロージュアのままの現行製品だった。
CN191を、いつか鳴らしてみたい、と思った日でもあった。