Date: 7月 28th, 2016
Cate: 表現する
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音を表現するということ(間違っている音・その2)

間違っている音を出していた男は、
間違っている音に惚れ込んでいた(少なくともその時はそうだった)、
酔いしれていた、といいかえてもいい。

間違っている音を出していた男のつきあいは長かった。
言いたいことをいってきた間柄だったし、率直な意見を聞かせてほしい、ともいわれた。
だから、おかしい音、間違っている音だ、と答えた。

これが間違っている音を出していた男のプライドをひどく傷つけたようだ。
間違っている音を出していた男とのつきあいはそれっきりになってしまった。

間違っている音に酔いしれていた、と私は感じた。
つまり間違っている音を出していた男に、ナルシシズムを感じた、といえるのか。

ナルシシズムは、ギリシャ神話に由来した言葉だ。
ナルキッソスは、水に映るわが姿に恋して死す。

ナルキッソスは美少年である。
ここで重要なことだ。
ナルキッソスの美貌と間違っている音は、美しさにおいてまったく違うもの。

少なくともナルシシズムが成り立つためには、ナルキッソスのような美貌がなければならない。
ナルキッソスの美貌に匹敵するほどの美しい音でなければならないとすると、
間違っている音は美しい音とはいえない。

その間違っている音を聴いて、うっとりする。
これはナルシシズムとはいえないはずだ。

ナルシシズムに必要なことが欠如しているのだから。
そうなると間違った音を出していた男が醸し出していたのは、なんといったらいいのか。

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