オーディオとバイアス(その1)
クラシックのコンサートを聴きに行くとする。
つまりどこかのホールに行くわけだ。
オーケストラを聴けるホールであれば、いわゆる大ホールと呼ばれる大きさをもつ。
開場の時間が来てホールのロビーに入る。
この時点で、日常の空間とは大きく違う空間に来たことを肌で感じる。
そしてホールに入り、自分の席を目指して歩く。
ここでもすでに着席している観客のざわめきが、
大ホールというただ広いだけでなく、響きのたっぷりした空間でのざわめきなのだから、
これからオーケストラを聴くんだ、という気持は少しずつ昂ぶっていく。
クラシックのオーケストラのコンサートでは、
演奏が始まる前に楽器のチューニングがステージ上で行われる。
これを聴いていると、ますます気持は昂ぶることになる。
そして会場が暗くなり、対照的にステージが映えるかっこうになり、
指揮者が登場する。
拍手が起る。
そして指揮者が指揮棒を……。
最初の音が鳴り出すまでに、われわれはさまざまなバイアスを受けている。
そのバイアスはホールのある建物に入ったときから、少しずつ大きくなっていく。
このバイアスが、これから演奏される音楽の聴き手の感覚にどれだけ影響を与えているかは、
そんなことは測定できないものであろうが、かなりのもののはずだ。
そして、これらのバイアスから完全にフリーでいられる聴き手はいない、と思う。
むしろコンサートホールに出かけて音楽を聴くという行為は、
このバイアスを全面的に受け容れて楽しむ行為のはずだ。