Date: 11月 24th, 2015
Cate: High Fidelity
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手本のような音を目指すのか(その1)

誰なのかはあえて書かない。
オーディオの仕事をしていた人がいた。
彼はスピーカーを買おうとしていた。

彼は気に入っているスピーカーをすでに鳴らしていた。
それでも彼はスピーカーを買おうとしていた。
つまり買い足そうとしていたのだ。

彼自身の音の好みを無視してでも、
オーディオを仕事としている以上、仕事にふさわしいスピーカーを買おうとしていたわけだ。

心がけとして立派と言えるかもしれない。
彼は何にすべきか、少し迷いがあった。
彼はある人に相談した。

相談を受けた人は、オーディオの世界の大先輩である。

彼は候補を二、三あげた。
いずれも世評の高いスピーカーであった。

どれを選んだとしても、
彼の要求に応えてくれるだけの性能の高さを持っていた。

相談を受けた人は言った。
どれも仕事の音だ、と
音楽を聴いて楽しい音のスピーカーではない、と。

七、八年前の話だ。
相談をした人も受けた人も知っている。

相談をした人から直接聞いた話だ。
なぜ彼はこんな相談をしたのか。

どんな答が返ってくるのか、おそらく彼はわかっていたはずだ。
彼自身も同じように感じていたのだと私は思っている。

私もそんなことを相談されたら同じことを答えたはず。
彼が候補としたスピーカーは、確かに優秀なモノだ。ケチをつけられるようなところは、ほとんどない。

細かな点を疎かにせずひとつひとつクリアーにしていくという開発をとっていて、それが音にも結実している。

だがそれは手本のような音だ、といえるように思っている。

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