Date: 7月 22nd, 2015
Cate: 4350, JBL, 組合せ
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4350の組合せ(その9)

「4350の組合せ」について書こうとしたのは、
井上先生が4350Aを所有されていたこと、井上先生ならばどういうシステムで鳴らされたのか。
そのことを考えていたからである。

最初はそのことについて書く予定だったのが、書いていくうちに書きたいことが出てくる。
瀬川先生はオール・レビンソンの組合せだったわけだが、
こんな組合せもつくられたのではなかろうか……、そうおもえることがある。

「コンポーネントステレオの世界 ’80」の巻頭の冒頭を読んでほしい。
     *
 秋が深まって風が肌に染みる季節になった。暖房を入れるにはまだ少し時季が早い。灯りの暖かさが恋しくなる。そんな夜はどことなく佗びしい。底冷えのする部屋で鳴るに似つかわしい音は、やはり、何となく暖かさを感じさせる音、だろう。
 そんなある夜聴いたためによけい印象深いのかもしれないが、たった昨晩聴いたばかりの、イギリスのミカエルソン&オースチンの、管球式の200ワットアンプの音が、まだわたくしの身体を暖かく包み込んでいる。
 この200ワットアンプは、EL34/6CA7を8本、パラレルPPでドライヴするモノフォニック構成の大型パワーアンプで、まだサンプルの段階だから当分市販されないらしいが、これに先立ってすでに発売中のTVA1という、KT88・PPの70ワットのステレオ・パワーアンプの音にも、少々のめり込みかけていた。
 近ごろのТRアンプの音が、どこまでも音をこまかく分析してゆく方向に、音の切れこみ・切れ味を追求するあまりに、まるで鋭い剃刀のような切れ味で聴かせるのが多い。替刃式の、ことに刃の薄い両刃の剃刀の切れ味には、どこか神経を逆なでするようなところがあるが、同じ剃刀でも、腕の良い職人が研ぎ上げた刃の厚い日本剃刀は、当りがやわらかく肌にやさしい。ミカエルソン&オースチンTVA1の音には、どこか、そんなたとえを思いつかせるような味わいがある。
 そこにさらに200ワットのモノ・アンプである。切れ味、という点になると、このアンプの音はもはや剃刀のような小ぶりの刃物ではなく、もっと重量級の、大ぶりで分厚い刃を持っている。剃刀のような小まわりの利く切れ味ではない。力を込めれば丸太をまっ二つにできそうな底力を持っている。
 たとえば、少し前の録音だが、コリン・デイヴィスがコンセルトヘボウを振ったストラヴィンスキーの「春の祭典」(フィリップス)。その終章近く、大太鼓のシンコペーションの強打の続く部分。身体にぴりぴりと振動を感じるほどの音量に上げたとき、この、大太鼓の強打を、おそるべきリアリティで聴かせてくれたのは、先日、SS本誌53号のための取材でセッティングした、マーク・レビンソンML2L2台のBTL接続での低音、だけだった。あれほど引締った緊張感に支えられての量感は、ちょっとほかのアンプが思いつかない。ミカエルソン&オースチンB200の低音は、それとはまた別の世界だ。マーク・レビンソンBTLの音は、大太鼓の奏者の手つきがありありとみえるほどの明解さだったが、オースチンの音になると、もっと混沌として、オーケストラの音の洪水のようなマッスの中から、揺るがすような大太鼓の轟きが轟然と湧き出してくる。まるで家全体が揺らぐのではないかと思えるほどだ。
 B200の音の特徴は、もうひとつ、ピアノの打音についてもいえる。もう数年前から、本誌での試聴でも何度か使ってきた、マルタ・アルゲリチのショパンのスケルツォ第2番(グラモフォン)の打鍵音は、ふつうとても際どい音で鳴りやすい。とくに高音の打鍵ほど、やせて鋭い人工的な鳴りかたになりやすい。しかしB200では、現実のピアノで体験するように、どんな鋭い打鍵音にもそのまわりに肉づきの豊かな響きが失われない。ただ、アルゲリチ独特の──それを嫌う人も多いらしいが──癇性の強い鋭いタッチが、かなり甘くソフトになってしまう。まるで彼女の指までが肉づき豊かに太ってしまったかのように。それにしても、近ごろ聴いた数多くのアンプの中で、音の豊かさ、暖かさが、高域の鋭さまでを柔らかくくるみ込んでしまって、ピアノの高域のタッチをこれほど響きをともなって聴かせてくれるアンプは、ほかにちょっと思い浮かばない。いくら音量を上げても、刺激性の音がしない。それで、最後に、アース・ウィンド&ファイアの「黙示録」(CBSソニー)の中から、おそらくこれ以上上げられないと言う音量で二曲聴き終えたら、同席していた3人とも、耳がジーンとしびれて、いっとき放心状態になってしまった。あまり大きな音量だったので、玄関のチャイムが聴こえずに、そのとき友人が表でウロウロしていたのだが、遮音については相当の対策をしたはずのこの部屋でも、EWFのときばかりは、盛大に音が洩れていたらしい。
     *
この時は試作品だということで型番がB200となっているアンプは、マイケルソン&オースチンのM200のことだ。
EL34を八本使った出力段をもつこのアンプは200Wで、KT88プッシュプルのTVA1の約三倍の出力を持つ。

シャーシーはTVA1とM200は共通。TVA1がステレオ仕様に対してM200はモノーラル仕様。
出力トランスもM200のそれはTVA1の出力トランスのふたつ分の大きさとなっている。

瀬川先生はこのM200を低域用として、TVA1を中高域用として4350Aを鳴らされたのではないか。
そうおもえてくるのだ。

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