オーディオマニアとして(その8)
現在の録音方式、
つまりマイクロフォンがとらえた空気の疎密波を電気信号に変換して、
さらにテープレコーダーであれば磁気に変換して記録する。
この方式と、私が架空の話としての音のカンヅメの録音との大きな違いは、
どこにあるかというと、方式そのものの違いではなく、
われわれが耳にしている録音は、演奏が行なわれた場で鳴っていた音を録っているのではない。
あくまでも、われわれがLP、CDなどで聴いているのは、
演奏が行なわれた場で鳴っていた音を、録音する者が聴いた音である、ということである。
瀬川先生が書かれた、クヮェトロ氏が取り出したピカピカ光る箱のようなもの、
私が書いた音のカンヅメが記録しているのは、そこで鳴っていた音をそのまま記録する。
聴いた音、鳴っていた音。
いまのところ、鳴っていた音を録ることは不可能である。
だからこそ、録音エンジニアが聴いた音を録る、ということに意図的にも結果的にもそうなってしまう。
以前、あるオーディオマニアが録ったピアノのCDを聴いたことがある。
ワンポイント・マイクロフォンによる録音である。
はっきりいって、ひどい録音だった。
なぜ、ひどいのか。
その録音を手がけたオーディオマニアは、そこで鳴っていた音を録ろう、としていたからである。