Date: 8月 16th, 2014
Cate: オーディオマニア
Tags:

オーディオマニアとして(その6)

いままでとはまったく異る次元の理論が発見されて、
文字通りの音楽を封じ込める、いわゆる音のカンヅメが可能になったとしよう。

そのカンヅメのフタを開ければ、たちどころに音楽が部屋いっぱいに鳴り響く。
しかも、音量、スケール感を除けば、演奏会で聴いた音(聴ける音)がそのまま鳴っている。

同じような架空の話は瀬川先生書かれている。
「虚構世界の狩人」所収の「聴感だけを頼りに……」の冒頭がそうだ。

そこには「X星からUFOに乗っていま私の目の前に飛んできた、ミスター・クヮェトロ氏」が登場する。
クヮェトロ氏に、ステレオのメカニズムを電気的、物理的に説明する。

アナログディスクでもいい、コンパクトディスクでもいい、
どうやって音を記憶し音が鳴るのか、
プレーヤーの仕組み、アンプの仕組み、スピーカーの仕組みなどすべてを事細かに説明する。
これは大変なことだし、ていねいに説明しようとすればするほど、
われわれはいかに複雑な機構で録音し、それを再生しているのかをあらためて実感できる。

クヮェトロ氏は、長々とした説明をきくはめになる。
そして、瀬川先生はこう続けられている。
     *
「というような次第なんですがね、クヮェトロさん。こういう仕掛のメカニズムで、たとえば私の声を録音・再生したら、いったいどの程度忠実に再現できると思いますか」
 するとクヮェトロ氏、しばらく首をひねっていたが、やおら胸のポケットのあたりから何やらピカピカ光る箱のようなものをとり出した。(中略)
 ところでそのピカピカ光る箱、だが、これもわれわれに身近な例でいえば小型の手帳か電卓ぐらいの大きさで、しかしこれまた見たこともない素材で、アルミニウムよりは深い光沢で、ステンレスよりは冷たく硬い材質のようで、しかし彼が何やらあちこち押したりしているのをみると金属にしてはエラスティックな感じがして何とも奇妙だか、しかし話はさっきの、私が地球上のステレオ録・再装置の話をして、それでたとえば私の声がどの程度の忠実さで再現できると思うか、と質問したところに戻る。
 するとその箱をいじりまわしていたQ氏の手もとから、何と驚いたことに、いま長々と説明していた私の声が、気味悪いぐらいそっくりに再生されてきたではないか! そしてQ氏はニヤリと笑って言ったのである。
「もしかしてこの声よりももう少し忠実かもしれませんが、それにしてはお話の装置は複雑すぎますね」
     *
地球に住む人類とはまったく異る知的生命体にとっては、
現在のオーディオのメカニズムは、あまりにも複雑で、滑稽なものにみえるのかもしれない。

われわれは、そういうシステムで、音楽を聴いている。

Leave a Reply

 Name

 Mail

 Home

[Name and Mail is required. Mail won't be published.]