オーディオマニアとして(その5)
オーディオマニアは、録音されたものを聴く。
たまにライヴ放送を聴くことはあっても、ほぼすべて録音されたものを聴いている、といえる。
録音されたものは、最新録音のものであれ、数ヵ月から一年ほど前に録音されているわけで、
つまりは過去の演奏といえなくもない。
それに最新録音ばかりを聴いているわけではない。
もっと前に録音されたものも聴く。
十年前の録音、二十年前の録音、三十年前の録音……、
さらにもっと古い録音も聴く。そうなってくるとステレオ録音ではなくモノーラル録音になり、
モノーラル録音でもテープ録音もあればディスク録音もあり、
電気を使わなかったアクースティック録音の復刻まで聴いている。
そうなってくると百年ほど前の録音ということになる。
数ヵ月前の録音ですら過去というふうに捉えるのであれば、
五十年、百年近く前の録音となると、過去というより大昔というふうに捉える人がいても不思議ではない。
録音された音楽を、いまでもカンヅメ音楽と軽視する人がいる。
まるでナマのコンサートで演奏される音楽とはべつものであるかのように蔑視する。
そういう人は、こうもいう。
自分らはコンサートで、現在の音楽を聴いている、
オーディオマニア(に限らず録音物で聴く人)が聴いているのは、すべて過去の演奏だ、と。
たしかに録音された日時は、現在からすれば過去である。
数ヵ月前であろうと十年前であろうと過去である。
録音されたものも、過去といえるのだろうか。
グレン・グールドがたしかいっていた。
グールドの感覚として、録音は未来で、演奏会の舞台は過去だった、と。