マルチアンプのすすめ(その5)
ステレオサウンド別冊「マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ」で、
瀬川先生はマルチアンプシステムに向くか向かないの見極めるための四つの設問をされている。
あなたは、音質のわずかな向上にも手間と費用を惜しまないタイプか……
あなたは音を記憶できるか。音質の良否の判断に自信を持っているか。
時間を置いて鳴った二つの音のちがいを、適確に区別できるか
思いがけない小遣いが入った。
あなたはそれで、演奏会の切符を買うか、レコード店に入るか、それともオーディオ装置の改良にそれを使うか……
あなたの中に神経質と楽天家が同居しているか。
あるときは音のどんな細かな変化をも聴き分け調整する神経の細かさと冷静な判断力、
またあるときは少しくらいの歪みなど気にしない大胆さと、
そのままでも音楽に聴き惚れる熱っぽさが同居しているか
瀬川先生はそれぞれの設問について説明をされている。
そして最後にこう書かれている。
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ずいぶん言いたい放題を書いているみたいだが、この項の半分は冗談、そしてあとの半分は、せめて自分でもそうなりたいというような願望をまじえての馬鹿話だから、あんまり本気で受けとって頂かない方がありがたい。が、ともかくマルチアンプを理想的に仕上げるためには、少なくともメカニズムまたは音だけへの興味一辺倒ではうまくいかないし、常にくよくよ思い悩むタイプの人でも困るし、音を聴き分ける前に理論や数値で先入観を与えて耳の純真な判断力を失ってしまう人もダメだ。いつでも、止まるところなしにどこかいじっていないと気の済まない人も困るし、めんどうくさいと動かずに聴く一方の人でもダメ……、という具合に、硬軟自在の使い分けのできる人であって、はじめてマルチアンプ/マルチスピーカーの自在な調整が可能になる。
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でも、これらの設問とそれについて書かれた文章は、
瀬川先生のマルチアンプシステムへの本音のような気もする。
「硬軟自在の使い分けのできる人」、
そうできるようになったときにマルチアンプシステムに手を出せばいい、
それでも遅くはない、と、
HIGH-TECNIC SERIES-1を読み、そう思ったものだ。