岩崎千明氏と瀬川冬樹氏のこと(その13)
瀬川先生が期待されずに導入されたJBL・LE175DLHの音はどうだったのか。
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LE175DLHはホーン型のユニットである。ホーン型スピーカーというものはAXIOM−80以前のモノーラル時代にボール紙で自作した中音ホーン以後、ついぞわたくしの手許に居つづけたことがない。その先入観をLE175DLHは見事に打ち破ってしまった。そして米国系のスピーカーに抱いていた先入観をも。
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そしてLE175DLHが「これほどの音で鳴るのなら」と思われた瀬川先生は、
JBLの「最高のユニット375を、何が何でも聴きたい」と思い始められる。
このときのことは「私のスピーカー遍歴」よりも、
無線と実験の誠文堂新光社からでた「’67ステレオ・リスニング・テクニック」が詳しい。
1966年12月に出ている。
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JBLのスピーカーについては、鋭いとか、パンチがきいたとか、鮮明とか、およそ柔らかさ繊細さとは縁の無いような形容詞が定評で、そのJBLの最大級のユニットを、6畳の和室に持ちこんだ例を他に知らないから、友人たちの意見を聞いたりもしてずいぶんためらったのだが、これより少し先に購入したLE175DLHの良さを信じて思い切って大枚を投じてみた。サンスイにオーダーしてからも暑いさ中を家に運んで鳴らすまでのいきさつはここではふれないが、ともかく小生にとって最大の買い物であり、失敗したら元も子もありはしない。音が出るまでの気持といったらなかった。
荒い音になりはしないか、どぎつく、鋭い音だったらどうしようなどという心配も杞憂に過ぎて、豊麗で繊細で、しかも強靭な底力を感じさせて、音の形がえもいわれず見事である。弦がどうの声がどうのというような点はもはや全く問題でないが、一例をあげるなら、ピアノの激しい打鍵音でいくら音量を上げても、くっきりと何の雑音もともなわずに再現する。内外を通じて、いままでにこれほど満足したスピーカーは他に無い。……まあ惚れた人間のほうことだから話半分に聞いて頂きたいが、今日まで当家でお聴き頂いた友人知人諸氏がみな、JBLがこんなに柔らかで繊細に鳴るのをはじめて聴いたと、口を揃えて言われるところをみると、あながち小生のひとりよがりでもなさそうに思う。
もっともこれは、ユニットのせいばかりでなく、537-500ホーンのよさでもあるらしい。特に、パンチングメタル15枚のエレメントからなる音響レンズの偉力は見事なもので、これまでは頭を少し動かしただけでも音の定位が変る点に悩んでいただけに、狭い部屋で指向特性を改善することがいかに重要かを思い知らされた。
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1966年夏、菅野先生よりも早く瀬川先生はJBL・375 + 537-500をリスニングルームに招き入れられている。