ヨッフムのマタイ受難曲(その1)
マタイ受難曲を聴くのであれば、最初はヨッフムの演奏で聴きたい──。
五味先生の文章にふれてきた者にとって、
そして五味先生の文章によって導かれるようにクラシックを聴いていった私にとって、
バッハのマタイ受難曲は、五味先生の愛聴盤であったヨッフム盤で聴きたい。
それも国内プレスのLPではなく、輸入盤で聴きたい──、
五味先生の文章によってマタイ受難曲を知った時から、そう思っていた。
マタイ受難曲のヨッフムの、それも輸入盤は私が高校生の時まで住んでいた田舎では手に入らなかった。
国内盤も見た記憶がない(輸入盤ばかり探していたせいもあろうが)。
マタイ受難曲を10代の若造がぱっときいて、すべてを理解できるなんて思っていなかったし、
だからこそ、できるだけ、その時の自分にできる範囲であっても、
少しでもいい環境でマタイ受難曲を聴きたかった。
それが初めて耳にすることになるマタイ受難曲になるのだから。
ヨッフムのマタイ受難曲は、だから輸入LPで買った。
初めて聴いたマタイ受難曲となった。
その後だった、クレンペラー、リヒターの新旧録音を聴いたのは。
ヨッフムのマタイ受難曲は、割と早い時期にCDになった。
さっそく買った。もちろん輸入盤だった。
マタイ受難曲を聴いた時から30年以上が経ち、
いくつものマタイ受難曲を聴いてきた。
ヨッフム盤がベストなのかどうかは、どうでもいいことであって、
誰の、どの演奏がベストか、などと考えたことはない。
それでもいくつものマタイ受難曲を聴いた後にヨッフム盤に耳を傾けると、
素直に美しい、とおもえる。
私にとってヨッフムのマタイ受難曲は愛聴盤となった。
けれど、いつのまにかCDは廃盤になっていたようで、
一時期はハイライト盤のみだったりもした。
いまも輸入盤は廃盤のようであるし、国内盤も廃盤である。
そのヨッフムのマタイ受難曲をタワーレコードが、今回復刻してくれた。
タワーレコードのサイトによれば、国内盤は1997年以来の再発、ということだ。
オリジナルマスターからのハイビット・ハイサンプリング音源をCDのマスターとして使用しているらしい。
でも、そういうことは、この演奏の前には些細なことのようにおもえてしまう。
とにかく、やっとヨッフムのマタイ受難曲を誰かにすすめられるようになったのが、うれしい。
このうれしさは、どこか格別である。