フィデリティ・リサーチのカートリッジFR7が登場したのは1977年。
40年前のことで、ステレオサウンド 47号の新製品紹介で取り上げられている。
記事では製品写真だけでなく、発電構造図も載っていた。
そこの説明文には、完全なプッシュプル発電をめざしている、と書かれてあった。
たしかにマグネットを左右にふたつ配して、それまで見たことのない発電機構だった。
フィデリティ・リサーチは、FR1からずっとコイル巻枠に鉄芯を使わない、
いわゆる純粋MC型カートリッジを一貫して作ってきたメーカーである。
鉄芯を使わない空芯型は、どうしても発電効率が低くなりがちである。
FR7ではプッシュプル発電により、0.25mV(5cm/sec)の出力電圧を、
内部インピーダンス2Ω(負荷インピーダンス:3Ω)で実現している。
同時期のオルトフォンのSPUが鉄芯型で、同じスペック、
MC20も鉄芯型だが、こちらは0.07mVと低いのをみても、
FR7の発電効率の高さはわかる。
もっともマグネットをふたつ内蔵していることもあって、
FR7はヘッドシェル一体型とはいえ自重30gの重量級ではあった。
FR7の発電機構は、他に例のないものだった。
だから、そこばかりに目が行っていた。
1978年の長島先生の「図説・MC型カートリッジの研究」に、FR7も取り上げられている。
内部構造図もある。
それを見ていて、ふと気づいた。
他のカートリッジとコイルの描き方が少し違うことに気づいた。
構造図はふたつあって、ひとつは内部構造の全体図と、振動系の断面図だ。
断面図のほうのコイルは、通常、巻枠の断面図、つまり縦に二本の直線、
それにコイルの断面図、これは○がいくつも一直線に並んでいる。
巻枠にコイルが巻かれているわけだから、断面図はこうなる。
ところがFR7の断面図は、○だけでなく両側の○と○を結ぶ水平方向の直線も描かれていた。
なぜ、FR7だけ違うのか、と最初は疑問だった。
図面を描き慣れている、見慣れている人ならば、
この断面図が意味するところはすぐに理解できるだろうが、
高校生だった長島先生の解説が必要だった。
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発電径の中心をなすコイルは、各チャンネルにそれぞれ二個のコイルが使用され、計四個のコイルが籠型に組み合わされているが、巻枠は全く持っていない。完全に中空で作られた籠型コイルの中心をカンチレバーが貫通した形になっている。これは、ともすれば質量が大きくなりがちなMCカートリッジのコイル部分を少しでも軽量化するため、このような手法が採られたのであろう。コイル用導線はわりと太めの銀線が使用されている。
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コイルの巻枠がないから、
同じようにコイルが組み合わされている他社のカートリッジとはコイルの断面が違う。
つまり非磁性体の巻枠もないため、まさしく空芯なのがFR7である。
アナログブームといわれ、アナログディスクの製造枚数は増えいるようだし、
カートリッジの新製品も登場してきている。
高価すぎるカートリッジも登場している。
けれどいまFR7のコイルを巻けるのか、と思う。
40年前に、55,000円で販売されていたカートリッジと同等のカートリッジを、
いま作れるのだろうか。