Archive for 5月, 2009

Date: 5月 4th, 2009
Cate: 井上卓也

井上卓也氏のこと(その24)

1982年10月1日に登場したCDとCDプレーヤーを、
自分の装置に導入したのは、1984年の後半だったと記憶している。

アナログプレーヤーに、トーレンスの101 Limitedを無理して買って、それほど時間も経っていなかったことで、
正直、金銭的にCDプレーヤーまで手が回らなかった。
一方、ステレオサウンドでの取材では、確実にCDに、使用プログラムソースは移行していた。

私が最初に使ったCDプレーヤーは、京セラのデビュー作のひとつである、DA910。
といっても自分で購入したものではなく、まだCDプレーヤーを導入していない私を見兼ねて、
傅さんが貸してくださったから、なんとかCDを聴くことができるようになった。

自宅で使いはじめて、ステレオサウンドの試聴でもなんとなく感じはじめていたことを確認できた。
意外にも、CDは再現性が低いということで、これは、この項の(その14)で述べている再現性である。

CDをトレイにセットして、プレイ・ボタンを押せば、つねに同じ音がする、そんなイメージがあったと思うし、
事実、井上先生とある筆者の方(Hさん)の取材のとき、Hさんが
「CDになって試聴が楽になりましたね。再現性が高いから。アナログディスクのような不安定要素がないから」と、
井上先生に同意を求めるように言われたことがあった(Hさんは早瀬さんのことではない。念のため)。

85年ごろのことだ。確かにCDの音に手ごたえを感じられるようになってきていた。
だから余計に、CDの再現性の低さも感じとれるようになってきてもいたと言えよう。

正直、Hさんの発言を聞いて、「えっ?」と思った。

Date: 5月 3rd, 2009
Cate: 五味康祐

五味康祐氏のこと(その8・補足)

五味先生がお使いだったヤマハ製のラックは、BLC103シリーズで、
イタリアのデザイナー、マリオ・ベリーニによるもの。

BLC103は、縦型タイプ(下段がレコード収納用、その上にアンプ、チューナー類を収められるように3段)、
スクエア型タイプ(下段はレコード収納用で、その上に小物入れの引出しが2段)、
このふたつを連結する天板をデスクタイプと分類し、かなり自由に組み合わせることが可能だった。

ヤマハでは、単なるラックとは呼ばず、コンポーネントファニチャーと名付けていた。

モダンなラックだと、中学生の頃、思っていたし、
そのころは五味先生が使われていたことは知らなかったけど、BLC103が欲しかった、使いたかった。

でも基本セットで、8万円ほどしていたラックは、学生には高すぎた。
そんなこともあって、ステレオサウンド 55号の五味先生の追悼記事中の写真に、
このラックを見つけたときは、なんとなく嬉しかった。

練馬区役所で、五味先生のマッキントッシュやEMTが収められているラックは、
盗難防止のため扉と鍵が必要なのは理解できるけど、なんと武骨なだけなんだろうか。

余談だが、1970年代のヤマハは、
このラックとカセットデッキのTC800GL、ヘッドフォンのHPシリーズは、マリオ・ベリーニに、
アンプやチューナーなどは、日本のGKデザインに依頼していた。

瀬川先生は、GKデザインのヤマハの製品についてひと言、
「B&Oコンプレックス」と言われていたのを思い出す。

TC800GLは1975年、コントロールアンプのC2は翌76年に、
イタリア・ミラノHiFiショーで、トップフォルム賞を受賞している。

Date: 5月 2nd, 2009
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと
2 msgs

瀬川冬樹氏のこと(その50)

フェログラフはイギリスのオーディオメーカーで、日本に紹介されたのは、スピーカーシステムのS1と、
オープンリールデッキのStudio 8(本格的なコンソール型で、価格は1980000円)ぐらいだけだろうか。

S1は、価格的にはスペンドールのBCIIと同クラスのスピーカーシステムで、
ユニット構成は、ウーファーにKEFの楕円型ユニットB139、スコーカーは12cm口径のプラスチックコーン型、
トゥイーターはドーム型で、クロスオーバー周波数は、400Hzと3.5kHz。
縦にラインのはいったサランネットと、白く塗装された一本脚のスタンドが外観上の特徴となっている。

S1の音について、瀬川先生は、「ステレオのすべて ’73」では、
低音のうんと低いところがふくらみ、そのため、他のスピーカーと並べて聴くと、
S1だけ低音が別に出てくる。だぶついているという受け取り方もあるくらい、と述べられている。

さらに中域については、うまく押えられている、と言われ、
それに対し菅野先生は、押えられているというよりも足りない、と指摘され、
具体例として、ソニー・ロリンズのテナーサックスが、アルトになるという感じがある、
図太い音楽があきらかに痩せてしまう、と。

その点は瀬川先生も認められている。
高いほうもややしゃくれ上った、いわゆるドンシャリの高級なやつというふうに、
S1の全体のイメージを表現されている。

そんなS1の、中域の薄さを補う意味で、ダイナコとオルトフォンを選択されている。
つまりS1の組合せにおいて、低音のふくらみに関して、どうにかしようとは考えておられないことがわかる。

おそらく傅さんだけでなく、クラシック好きのひとでも、
S1とダイナコの組合せの低音を「ゆるい」と感じられる方がいても不思議ではない。

Date: 5月 1st, 2009
Cate: 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(その49)

この項の(その35)を読まれた傅さんから、すぐにメールをいただいている。

傅さんが、マークレビンソンのML7Lの購入のために手放されたオーディオ機器がリストアップされていた。
そのなかにフェログラフのS1があった。
「例のスピーカーですね」というコメントがついていた。
その下には、ダイナコの管球式のモノーラルパワーアンプのMark IIIがあり、
「これはS1との組合せを瀬川先生が推薦されていましたが、ポップスでは低音が緩かったです」
と書き加えられていた。

フェログラフのS1にダイナコのMark IIIとは、意外な感じがして、
何に掲載されていたんだろうか……、と思っていたら、
実は、この組合せも、「ステレオのすべて ’73」で紹介されていたものだった。

コントロールアンプには、やはり管球式のラックスのCL35/IIを使われている。
プレーヤーは、トーレンスにオルトフォンの組合せだ。

参考までに書いておく。
フェログラフ S1(135000円×2)
ラックス CL35/II(98000円)
ダイナコ Mark III(56000円×2)
トーレンス TD125(88000円)
オルトフォン SPU-GT/E(27500円)
オルトフォン RS212(26000円)

傅さんも、これに近い組合せで、鳴らされていたわけだ。

「ステレオのすべて ’73」は、25年ほど前にいただいた本、
それをいまになって、きちんと読み、知りたいと思っていたことが、そこに書いてある。
まさに「灯台下暗し」だし、当時は、いただいた本が、いまこんなにも役立つことになろうとは、
当然だけど、まったく想像できなかった。
伊藤喜多男先生からいただいた本だから、ずっととっておいていたわけだ。
自分で購入したものだったら、かなり以前に処分していただろう。

そう思うと、本一冊のことではあるが、縁の不思議さを感じている。