Archive for category Studio Monitor

ワイドレンジ考(その19)

4331Aについて井上先生は、ステレオサウンド 62号に
「システムとしては、バランス上で高域が少し不足気味となり、
3ウェイ構成が、新しいJBLのスタジオモニターの標準となったことがうかがえる」し、
4333Aについて「本格的な3ウェイ構成らしい周波数レスポンスとエネルギーバランスを持つシステムは、
4333Aが最初であろう」と書かれている。

瀬川先生は、41号に、「家庭用の高級スピーカーとしては大きさも手頃だし、
見た目もしゃれていて、音質はいかにも現代のスピーカーらしく、
繊細な解像力と緻密でパワフルな底力を聴かせる」L300の登場によって、
「4333の問題点、ことにエンクロージュアの弱体がかえっていっそう目立ちはじめた」と書かれている。

4331/4333から4331A/4333Aの変更点は、主にエンクロージュアにある。
使用ユニットにいっさい変更はない。
板厚が、43331/4333はすべて19mm厚だったが、フロントバッフル以外を25mm厚にしている。
バスレフポートが、4331/4333で、ウーファーの上部横だったのが、
ウーファーの斜下、エンクロージュアのかなり低いところに移動し、
ポートの径も多少小さくなっている。
2405の取付け位置もまた変更され、4320と同じ位置になっている。
こういった細かな改良を施したことによって「4333よりもL300が格段に良かったのに、
そのL300とくらべても4333Aはむしろ優れている」と瀬川先生は高く評価されている。

C50SMからスタートしたスタジオモニターは、4333Aとなり、
質の高いワイドレンジを実現したことになる。

Date: 10月 16th, 2008
Cate: JBL, Studio Monitor, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その18)

同じ2ウェイの4320と4331は、エンクロージュアのプロポーションやつくり(板厚)は同じだが、
ユニットは、ウーファーが130A系の2231Aになっている。
4320採用の2215Bは、LE15系のハイコンプライアンス型で、
磁束密度も2231Aが12000ガウスと高くなっている。
中高域のホーンも変更されている(ドライバーは同じ2420を採用)。
4320採用の2307はホーン長・約22cmに対して、4331の2312は約29cmだが、
クロスオーバー周波数は800Hzと同じだ。

2231Aは、マス・コントロールリングを採用したJBL初のウーファーだ。
軽くて硬いコーン紙を使いながらも、
コーン紙とボイスコイルボビンの接合部に金属のリングをつけることで、
f0(最低共振周波数)を下げることを実現している。

外観上の変更点は、ユニットのレイアウトとバスレフポートの数の変更だ。
4320は3ウェイ化するときに追加する2405の位置が、
ウーファー、ミッドレンジ、トゥイーターが縦一直線に並ぶようになった。
バスレフポートは4320の2つから1つに減り、当然チューニングも変えられている。

4331、4333について、瀬川先生はステレオサウンド 41号に次のように書かれている。
     ※
しかしこのシリーズは、聴感上、低域で箱鳴りが耳につくことや、トゥイーターのホーン長が増してカットオフ附近でのやかましさがおさえられた反面、音が奥に引っこむ感じがあって、必ずしも成功した製品とは思えなかった。
     ※
翌75年に、4331と4333のコンシュマーモデル、L200とL300が発表される。
この両モデルの成功が、4331、4333にフィードバックされ、76年に4331A、4333Aになる。

Date: 10月 16th, 2008
Cate: JBL, Studio Monitor, ワイドレンジ

ワイドレンジ考(その17)

JBLがプロフェッショナル部門の設立と同時に発表した
スタジオモニターの4310と4320(1971年発売)。
ワイドレンジについて語るとき、4320のその後の変遷は興味深い。

4320の原型は、C50SM。1962年に発表されている。約170リットルのエンクロージュアは密閉型で、
2ウェイのS7と3ウェイのS8の2つの型があった。
4320は、大ざっぱに言えば、C50SM/S7をバスレフ型に、使用ユニットをプロ仕様のモノに変更、
クロスオーバー周波数も500Hzから800Hzになっているのは、耐入力向上のためでもある。

翌72年に、4320の小改良モデルとして4325を出す。ウーファーを2216に変更(4320は2215B)、
ドライバーとホーンは4320と同じだが、クロスオーバーは1.2kHzに上げられている。
発表データでは、4320の低域レスポンスは40Hz、4325は35Hzと少しだけワイドレンジ化されている。
4325の評価は必ずしも高いものではなかったようで、4320は製造中止にならず併売されている。

4320、4325が、アルテックの604を使用したモニタースピーカーに代わり、
スタジオに導入されるケースが増えるとともに、低域レスポンスの拡張、最大出力音圧レベルの向上、
クロスオーバー付近の音質向上が求められ、74年に、4330/4331に改良される。

4331がネットワーク仕様モデルに対し、4330はバイアンプ駆動専用である。
そして同時に3ウェイモデルの4332/4333も発表されている。

Date: 10月 15th, 2008
Cate: JBL, Studio Monitor, ワイドレンジ, 井上卓也

ワイドレンジ考(その15)

以前から言われていたことだが、安易にワイドレンジ化すると、
中域が薄く(弱く)なるということがある。

この場合のワイドレンジ化はトゥイーターによる高域を伸ばすことだが、
トゥイーターを追加してもレベルを他のユニットときちんと合わせて鳴らせば、
中域が薄くなるということは理屈に合わないように思える。
そう思って聴いても、中域が薄く感じられる例がある。

井上先生もステレオサウンド62号に、具体例を書かれている。
     ※
 余談ではあるが、当時、4320のハイエンドが不足気味であることを改善するために、2405スーパートゥイーターを追加する試みが、相当数おこなわれた。あらかじめ、バッフルボードに設けられている、スーパートゥイーター用のマウント孔と、バックボードのネットワーク取付用孔を利用して、2405ユニットと3105ネットワークを簡単に追加することができたからだ。しかし、結果としてハイエンドはたしかに伸びるが、バランス的に中域が弱まり、総合的には改悪となるという結果が多かったことからも、4320の帯域バランスの絶妙さがうかがえる。
 ちなみに、筆者の知るかぎり、2405を追加して成功した方法は例外なく、小容量のコンデンサーをユニットに直列につなぎ、わずかに2405を効かせる使い方だった。
     ※
なぜこういう現象が起こるのか。
40万の法則が、ここでも当てはまる、と私は思っている。