Archive for category トランス

Date: 6月 19th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その4)

瀬川先生が、以前こんなことをはなされた。

MC型カートリッジはMM型カートリッジよりも(値段が)高い傾向にある。
MC型カートリッジの材料費という点での原価は、それほど高くない。
MC型カートリッジがどうしても高価になってしまうのは、手作業によってつくられるから。

MC型以外のMM型、MI型ではコイルは固定されていて動かない。
MC型はその名が示すようにコイルがカンチレバーの後方に取り付けられていて、動く。
このコイルの質量をできるだけ小さくすれば、そのカートリッジの振動系の実効質量は小さくなる。
とはいえ人が、そのコイルを巻くわけだから、小型軽量にするにも限度があるし、
あまり小型化して発電効率が低下しすぎても、別の問題が発生することになる。

MC型カートリッジを製造しているメーカーには、
熟練のコイル巻き専門の人がいた、ときいている。
たとえば専門メーカーであったスペックスは、広告で「日産21個」をうたっていた。
20個が就業時間内で、残業時間で1個ということだった。

そういう性質の製品だから、コイルを巻く人が数人いれば、
そこには、たとえ検査で合格したとはいえ、わずかなバラつきは生じる。
MC型カートリッジは同じ会社の同じ型番の、同じ時期につくられたモノを10個、
その音を比較試聴すれば、わずかとはいえ、差が生じることになる。

そういう違いは、他の要素も関係していたとしても、
おもにコイルの巻き具合だという話をきいたことがある。

Date: 6月 19th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その3)

銅線を巻いたものは、オーディオ機器にはいろんなところで使われている。
コイルがまずある。

アンプの部品としてのコイルもあれば、
カートリッジの中で発電するものとしてのコイルがあり、
スピーカーユニットにはボイスコイルがある。

コイルを鉄心にふたつ以上巻いたもの、つまりトランスがある。
トランスは音声信号用と電源用とがある。
最近ではスイッチング電源用(高周波用)もある。

それにモーターにも巻線技術は使われている。
プログラムソースがアナログ全盛時代にくらべると、
モーターの使われ方は減ってきている。
けれど以前はアナログプレーヤー、オープンリールデッキ、カセットデッキ、CDプレーヤー、DATデッキなどで、
モーターは重要なパーツだった。

巻枠に銅線を巻きつけていくだけ──、
そんなふうにトランスのことを捉えている人がいるのかもしれない。
たしかに何かに銅線を巻きつけていく作業である。
だが自分でやっていみると、巻線の技術は誰にでもできることではない。

いわゆるガラ巻きと呼ばれる、いいかげんな巻き方ならば誰にでもできよう。
けれど巻枠に対して銅線が浮かないように、ある一定のテンションを与えて巻いていく。
しかもトランスは一回巻けば終りではなく、
二層、三層……と巻きつけていく。

トランスの製造なんて、さほど難しいものではない、と思う人は、
一度トランスをバラしてみるといい。
シールドケースがあるものはシールドケースをはぎとり、
トランス本体を取り出して、巻線をバラしていく。
そんな作業を自分でやってみれば、トランスをつくることの大変さが少しはわかるはずだ。

Date: 6月 18th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その2)

タンゴ(Tango)の名のつくトランスがなくなるのは、
ほぼ間違いなくトランスをつくる職人の高齢化と、
若い職人がいないことによるものであろう。

6月5日に四谷三丁目の喫茶茶会記で行った「岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代」において、
元パイオニアの片桐さんが話されたことがあった。

「昔、オーディオの御三家はサンスイ、トリオ、パイオニアといわれていて、実は順番もそうだった。
理由はサンスイは古くからトランスを作ってきていたし、トリオもコイルを作ってきていた。
パイオニアはスピーカーは作ってきていたけど……」

トランスを作ってきていたから、御三家の中で一番──、
このことに頷かれる人もいれば、そうでない人もいる。
私は頷くほうである。

トランスを作ってきたことより、アンプやスピーカーの優れたモノを作れれば、
それでいいのではないか、そちらの方が重要ではないのか。

たしかにそうではある。
けれどトランス、コイルの優れたモノを作るのに必要な基本的な技術は、
巻線の技術であることを思い出してほしい。

Date: 6月 18th, 2013
Cate: トランス

トランスからみるオーディオ(その1)

先週、何気なくアクセスしたノグチトランスのウェブサイトのトップページに、
タンゴ・トランスが製造中止になる、と書かれていた。
このニュースを知った人による注文が殺到していて、たいへんなことになっているようだ。
だから、あえてリンクはしない。

タンゴ・トランスは、真空管アンプを以前から自作してきた者にとって、
ラックス、タムラとともに、主要パーツを製造してくれたありがたいメーカーであった。

ラックスがまずトランスの単売をやめた。
日本製のトランスは、だからタンゴとタムラになった。
もちろん、他にもいくつかトランスメーカーはあったし、いまも製造しているところもある。
けれど、無線と実験、ラジオ技術に掲載される自作記事に使われるトランスとなると、
タンゴとタムラばかり、といえなくもない。

タムラはいまも製造している。
けれど数年前に大幅な値上げをした。
この値上げの幅が大きすぎて、上杉アンプはタンゴ・トランスへと移行した。

とはいえ、タムラのトランスの値上げを一方的には批判しにくい。
いまの時代に、よく製造してくれている、という気持がやはりあるからだ。

タンゴ・ブランドを使っていた平田電機製作所が、何年前だったか、
もう忘れてしまっているから、けっこう経っている、といってもいいのだろうか、
廃業した時にタンゴ・トランスもなくなるかと思われたが、
アイエスオーがブランドを引き継ぎ、製造は継続された。

そのアイエスオーが今夏廃業することになった。

もうどこかがタンゴ・ブランドを引き継ぐことはないと思われる。
タンゴ・トランスは、もうじきなくなる。