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Date: 2月 11th, 2014
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(ガラード301との比較・その1)

EMTの930stは何度も聴いたことのあるアナログプレーヤーであり、自分でも使っていた。
ガラードの301は、何度か聴いたことはあるけれど、その回数は930stのそれよりもずっと少ないし、
自分のプレーヤーとして使ったことはない。

つまり同じ空間で同時に聴いたことは、これまで一度もなかった。

930stの音は、かなり身にしみ込んでいる。
930stの他のプレーヤーとの音の差もある程度は掴んでいて、
そういったプレーヤーと比較することによって、ガラード301の音をなんとなく掴んでいたつもりであった。

今回、機会があって930stとガラード301(トーンアームはオルトフォンRMG309で、カートリッジはSPU)を、
同時に聴くことができた。

ガラード301といってもプレーヤーベースをどうするのか、
組み合わせるトーンアーム、カートリッジによっても結果として出てくる音は違ってくるわけで、
システムとして構築されている930stと同列で比較するのが難しいのはわかっている。

それでも同じ条件で聴きくらべられるのはこれまでなかったし、ありがたい体験でもあった。

どちらが良かったのか。
結果を先に書いてしまうと、私には930stだった。

けれど、こうやって比較試聴して得られたものはそれだけではなく、
ここにオーディオの面白さがある、と感じられることも得られた。

Date: 10月 25th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(続余談・ベイヤー DT440 Edition2007)

「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」が出た1978年でのDT440の価格は14800円。
ベイヤーのラインナップではいちばん安価なヘッドフォンだったし、
高価なヘッドフォンはこの当時もいくつかあった。

それにDT440は瀬川先生が書かれているように、
《ユニット背面の放射状のパターンなどみると、決して洗練されているとは言えず見た目にはいかにも野暮ったい》
外観だった。およそ高級ヘッドフォンとはいえない、見た目の印象だ。

それから30年が経過して、DT440 Edition2007になっているわけだが、
DT440の放射状のパターンはなくなっている。野暮ったさはなくなっているが、
高級ヘッドフォンという趣は感じないし、買う前から予想していたことでもあるのだが、
ドイツで製造しているわけではないようだ。

現在のベイヤーのラインナップで、より上級機はドイツ製を謳っているモノがある。
DT440 Edition2007はオープンプライスになっているが、実質30年前の定価とほぼ同じである。

そんなこともあって、ほとんど期待せずにiMacのヘッドフォン端子に接いでみた。
きちんとしたヘッドフォンアンプで鳴らしたわけではない。
おそらく中国で製造しているであろう、普及価格帯のヘッドフォン。

鳴ってきた音を聴いて、まず私が思っていたのは930stの帯域バランスと同じだ、ということだった。

瀬川先生がステレオサウンド 55号で書かれている文章そのものの帯域バランスがここにあった。
     *
中音域から低音にかけて、ふっくらと豊かで、これほど低音の量感というものを確かに聴かせてくれた音は、今回これを除いてほかに一機種もなかった。しいていえばその低音はいくぶんしまり不足。その上で豊かに鳴るのだから、乱暴に聴けば中〜高音域がめり込んでしまったように聴こえかねないが、しかし明らかにそうでないことが、聴き続けるうちにはっきりしてくる。
     *
もちろん930stの音そのものがDT440 Edition2007で聴けるわけではない。
だが、少なくとも930stの美点ともいえる、瀬川先生が書かれているとおりの帯域バランスは聴ける。

Date: 10月 25th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(余談・ベイヤー DT440 Edition2007)

30年以上前ならばEMTの930stをオーディオ店で見たり、聴くこともできたであろうが、
いまはその機会も少なくなっている、と思う。

ここで930stのことをいくら書いたところで、
930stに関心をもってくれても聴くことがなかなかかなわないのは時代の成り行きとはいえ、
残念なことだし、さびしくもあり、もったいない感じもする。

中古を専門に扱っているところに行けば、930stはあることにはある。
けれど、それがどの程度のコンディションかといえば、はっきりとしたことは何も言えない。
いいコンディションの930stにあたるかどうかは、運次第ともいえる。

完全整備と謳っているところは少ないないけれど、
私はほとんど、この謳い文句は信用していない。
店主の人柄がいいから、といって、そこで扱っている930stのクォリティが保証されるわけでもない。

結局、自分の目で判断できなければ、ということになる。

それでも930stの音がどういう音なのか、
その良さを、なにか別のモノで聴くことはできないのか──。

いまから三年前、iMacで使うヘッドフォンを探していた。
ちょうどそのころ、瀬川先生の文章を集中的に入力作業していたころで、
しかもステレオサウンド別冊の「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」にとりかかっていた。

iMacで使うものだから、高価なものでなくてもいいし、日常使いとして適当なヘッドフォンがあればいい、
という気持で探しに来ていた。
たまたま目についたのが、ベイヤーのDT440 Edition2007だった。

価格も手頃だし、「Hi-Fiヘッドフォンのすべて」で瀬川先生が購入されていたことを知っていたから、
試聴もせずに、これに決めた。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その9)

これも衝動買いといえば、そうなるのかもしれない。

衝動買いとは、パッとひと目見て気に入り、その場で買ってしまうことだとすれば、
私の930stに関することは、13歳のころから、このプレーヤーが音楽を聴いていく上では必要だ、
いつかは930stと思い続けてきたわけだから、いわゆる衝動買いとはすこし違うのかもしれない。

でも、買えるかもしれない、とわずかでもそうおもえた時に、
ごく短時間で買う! と決意して買ってしまうのも、衝動買いかもしれない。

21で930stは、分不相応といわれればそうであろう。
でも、13のときからずっと思い続けてきたプレーヤーである。
そのプレーヤーを手に入れるチャンスであれば、なんといわれようと買うしかない。

それでもOさん、Nさん、Sさんたちの「買いなよ」が後押しになっていたし、
ノアの野田社長のおかげでもある。

ロジャースのPM510を買った時もそうだった。
PM510はペアで88万円していた。
そのPM510を20までに買えたのは、輸入元の山田さんのおかげである。

山田さんは、瀬川先生のステレオサウンド 56号のPM510の文章に登場する山田さんである。
山田さんがいなければ、私はPM510を買えなかったかもしれない。

惚れ込んだオーディオ機器を買う、ということは、私の場合、誰かのおかげである。
山田さんがいてくれたし、野田社長がいてくれて、
私はなんとかPM510、101 Limitedを自分のモノとすることができた。

縁があったからこそである。
よすがも、縁と書く。
だから縁が必要だったのだろう。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その8)

EMTの930stというプレーヤーは、私にとっては特別な意味をもつプレーヤーでもある。
ただ単に音のよい、信頼できるプレーヤーということだけではなく、
五味先生の「五味オーディオ教室」からオーディオの世界にのめり込んでいった私にとって、
五味先生が、誠実な響きとされていたからだ。
     *
どんな古い録音のレコードもそこに刻まれた音は、驚嘆すべき誠実さで鳴らす、「音楽として」「美しく」である。あまりそれがあざやかなのでチクオンキ的と私は言ったのだが、つまりは、「音楽として美しく」鳴らすのこそは、オーディオの唯一無二のあり方ではなかったか? そう反省して、あらためてEMTに私は感心した。
     *
オーディオの世界に足を踏み入れようとしていた13の中学生にとって、
この文章の意味は重かったし、大事なことだということはわかっていた。

音と音楽の境界ははなはだ曖昧である。
音楽を聴いているのか、音を聴いているのか、
とはよくいわれることである。

そういう危険なところがあるのは「五味オーディオ教室」を読めばわかる。
わかるからこそ、
《「音楽として美しく」鳴らすのこそは、オーディオの唯一無二のあり方ではなかったか?》
これをよすがとした。

930stがあれば、どこかで踏みとどまれるかもしれない。
そういう意味で、特別なプレーヤーが930stであり、
その色違いの101 Limited見てわずかのあいだにを買う! と決意して、
私のところに、この特別な意味をもつプレーヤーが来ることになった。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その7)

EMTの930stは河村電気研究所が取り扱っている時に生産中止になっている。
そのあとEMTがバーコに買収され、輸入元がエレクトリに移ってから再生産が一度なされている。
そのときの価格がいくらだったのか記憶にない。

930stの1980年での価格は本体が1258000円、専用のサスペンション930-900が295000円。
930stは930-900込みでのパフォーマンスの高さだから、1553000円ということになる。
1981年には930stの価格は1399000円になっている。

101 Limitedが登場した1984年までにいくらになっていたのか正確には記憶していない。
このころのステレオサウンドには河村電気研究所の広告も載っていない。
載っていたとしても価格は掲載されないことが多かったから、いまのところ調べようがない。

EMTのプレーヤーの価格は不思議なところがあって、
1975年の時点では、930stは980000円、927Dstは1300000円だった。
930stと927Dstの価格差は小さいものだった。
サイズの違い、出てくる音の凄さの違いは大きいものであったにもかかわらず、である。

それがいつしか927Dstは2580000円になり、3500000円、最終的には450万円を超えていたときいている。
1975年の価格から三倍以上になっているのにくらべると、930stの価格の上昇はそれほどでもないのだが、
それでも150万円は150万円の重みがあることには変りはない。

「買います」といったものの、
支払い能力があやしい者には売れない、といわれればそれまでである。
そういわれるかと思った。ことわられるかも、とも思っていたけれど、
ノアの野田社長は、あっさりと「いいよ」といってくださった。

もう撤回はできない。

Date: 10月 24th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その6)

少年とは、私のこと。18でステレオサウンドで働くようになったので、少年ということだった。
このときいたNさんも、同姓の人がサウンドボーイ編集部にいたので、Jr.(ジュニア)と呼ばれていた。
私も、Nさんと呼ぶことはなくて、ずっとジュニアさんといっていた。

当時のステレオサウンド編集部は、そういう雰囲気があった。
いまは、おそらくそんなことはないと思う。

「少年、これ買えよ」

私だって支払えるだけの経済力があれば、欲しい。
EMTの930stは、五味先生も愛用されていたし、瀬川先生も927Dstにされるまで使われていた。
買えるものならば、いますぐ欲しいプレーヤーだった。

けれどトーレンスの101 Limitedは150万円だった。
21歳の若造が買える金額ではない。
そうでなくてとも、ロジャースのPM510を買ってから一年ほどしか経っていなかった。
余裕は、まったくなかった。

Oさんの「少年、これ買えよ」に続いて、
NさんもSさんも「買いなよ」と、簡単にいってくれる。

このとき930stは製造中止だといわれていた。
101 Limitedにしても、型番が示すように101台の限定である。
この機会をのがしたら、新品の930stを手に入れることは難しくなる。

無理なのはわかっている。
でも、これしかない、とおもったら、「買います」といっていた。

Date: 10月 19th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その5)

HiVi(このときはまだサウンドボーイ)編集長のOさんは、
以前は930stを、そして937Dstにされた人だから、
そして非常に凝り性の人ということもあって、EMTのプレーヤーに関しては非常に詳しい。

Nさんは、ステレオサウンドの編集後記を丹念に読んできた人ならば思い出されることとと思うが、
瀬川先生の927Dstを譲ってもらった人である。
私はNさんの部屋によく行っては音を聴かせてもらうとともに、
瀬川先生のモノだった927Dstを見て触れていた。

SさんはEMTのプレーヤーは所有されていなかったけれど、
EMTのプレーヤーの良さは認めている人だった。

こういう人たちがオーディオ談義をしていたところにトーレンスの101 Limitedは届いたものだから、
すぐに開梱され、EMTの930stと同じなのか、それとも違いがあるのかがチェックされていった。

この日、ステレオサウンド編集部に来た101 Limitedは、シリアルナンバー102番だったモノ。
サンプル用として二台の101 Limitedがはいってきて、
一台はシリアルナンバー101番、つまり101 Limitedのシリアルナンバーは101から始まっている。

シリアルナンバー102番の101 Limitedは、930stとブランド名が違うこと、
デッキ部分の塗装が金色になっていること、トーンアームのパイプの塗装が違うこと、
そういう違い以外はなく、930stそのものだという、いわばオスミツキがもらえた。

ノアの野田さんは、それを聞いて満足げだったようにみえた。

そして、その次にOさんの口から出て来たのは、
「少年、これ買えよ」だった。

Date: 10月 18th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その4)

トーレンスのPrestigeが悪いプレーヤーでないことは、当時からわかってはいた。
頭では、Prestigeにはこういう良さがある、Rederenceにはない良さもある──、
そんなふうにPrestigeの良さを積極的にさがそうとしていた。

そうやって自分を納得させようとしていたわけだ。
なぜそんなことをしていたのかというと、SMEの3012-R Special用のターンテーブルとして、
Prestigeに決めよう(といってもすぐに買える金額ではないから目標にしようという意味が強い)としていた。

他にないではないか、これしかないのだから……、
そんなふうに自分自身をなんとか納得させようとしていた……。

そのトーレンスから、今度は101周年記念モデルとして、
EMTの930stのトーレンス・ヴァージョン、101 Limitedが出た。

このころのトーレンスの輸入元はノアだった。
そのノアの野田社長が、ある晩、編集部に101 Limitedを持ってこられた。
なぜ昼ではなく、夜だったのかはもう忘れてしまった。
101 Limitedをすこしでも早く誰かに見せたかったからなのかもしれない。

その晩、編集部には私の他にHiVi編集長のOさん、ステレオサウンド編集部のSさんとNさんがいた。
仕事をしていたわけではなかったはずだ。
オーディオ談義をしていたところに、101 Limitedが現れたのだ。

Date: 10月 17th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その3)

トーレンスのPrestigeを、Referenceと同シリーズのプレーヤーとして見るから、
そう思って(がっかり)しまったわけで、
Prestigeというターンテーブルシステムを、そういう先入観なしに冷静に捉えれば、
この時期のトーレンスの主力モデルであったTD12、TD226、TD127といったプレーヤーに、
Referenceの開発で得られたさまざまなことをフィードバックした上級機として見るべきものである。

そういう視点でとらえれば、Prestigeにがっかりすることはない。

でも、これはあくまでも頭のなかで冷静に捉えようとしてのことでしかなく、
一度でもReferenceの素晴らしいパフォーマンスに接した者にとっては、
そんなことはどうでもいいこと、ということになってしまう。

私は熊本のオーディオ店で、Referenceの音を初めて聴いた。
このときの音は、瀬川先生が鳴らされた音であった。
最後にかけられたコリン・デイヴィス指揮のストラヴィンスキーの火の鳥における「凄さ」は、
陳腐な表現で申しわけないが、ほんとうに凄かった。
そして、このときの瀬川先生が私が会えた最後の瀬川先生でもあったから、
Referenceの印象は、ますます強くなっていた。

そんなReferenceと比較してしまう私が悪いわけであって、
Prestigeが悪いプレーヤーということではない。

Date: 10月 15th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その2)

トーレンスのPrestigeをいまも愛用されている方は、
これから先はお読みならないほうがいいかもしれない。

Prestigeの姿を、登場の噂をきいた日から想像していた。
Referenceは三本アーム仕様だが、おそらく二本アーム仕様だろう。
これは当っていた。
そしてうれしいことに、Referenceでは標準装備のトーンアームベースではロングアーム装着できなかったが、
Prestigeではロングアームの使用も最初から考慮されていた。

ターンテーブルの駆動方式がベルトドライヴなのは変更はないのは当然として、
Referenceがターンテーブルプラッターの外周にベルトをかける仕様から、
トーレンスの伝統ともいえるインナーターンテーブルとアウターターンテーブルのふたつにわけ、
インターの方にベルトをかけるタイプになっていたのは、
Referenceが実験機として開発されたことも併せて考えれば予想できたことだが、意外な感じを受けた。

サスペンション構造はReferenceのそれをそのまま踏襲するものと思っていた。
これも変更がなされていた。

とにかく、ずいぶん予想とは違うプレーヤーが、目の前に登場した。
とはいえ、肝心なのは、その音、パフォーマンスである。
Referenceを超えることはないと、その姿を見て思っていたけれど、
どこまでReferenceのパフォーマンスに肉迫しているのか、それを見定めたかったし、期待もしていた。

見た目の通りの音がしてきた。
それはいい意味でもそうでない意味でも、である。

Referenceの存在を知らなければ、Prestigeは悪いプレーヤーではない。
けれど、Referenceを知っていたし、Referenceの音には瀬川先生に関する想い出も関係しているから、
よけいにPrestigeは、がっかりしてしまった。

Date: 10月 15th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(購入を決めたきっかけ・その1)

音の入口にあたる機器には、できるだけ贅沢をしたい。
ここのところをお金をけちっていては、ダメだということはわかっていた。
だから、自分の買える範囲内で買える最高のモノ、ではなくて、
その範囲を超えたところのモノを買うぐらいの気迫がなければ、と思っている。

だからアルバイトも何もしていない時に、
とにかくSMEの3012-R Specialだけは12回払いで買ってしまった。

そのころの憧れのプレーヤーはEMTの927DstとトーレンスのReferenceだった。
どちらかが欲しかった。本音は両方欲しかった。
とはいえ927Dstはすでに製造中止になっていて、最後の価格は300万円を超えていた。

トーレンスのReferenceもほぼ同じような価格だった。
このくらいになると、買える範囲を超えたところには違いないが、
あまりにも範囲を超えてしまいすぎていて、ただ憧れるしかなかった。

そんなときにトーレンスからReferenceの廉価版が出る、というニュースが伝わってきた。
廉価版といっても、トーレンス創立100周年記念モデルということだったから、期待は脹らむ。

Prestigeが入ってきた。
ステレオサウンドの試聴室にやって来た。

Date: 10月 8th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その8)

これから書くことは、一年ほど前に書いたことのくり返しになる。
別項「私にとってアナログディスク再生とは(リムドライヴのこと)」で、
モーターの回転方向について書いた。

ターンテーブルの駆動方式としては理想と思われたダイレクトドライヴは、
その名の通りモーターの回転がそのままターンテーブルの回転となるため、
ターンテーブルの回転方向(時計廻り)とモーターの回転方向は同じである。

ベルドドライヴもダイレクトドライヴ同様、
モーターの回転数とターンテーブルの回転数は異るけれど、回転方向は時計廻りで同じである。

ところがリムドライヴだけはモーターがターンテーブルとは逆に反時計廻りである。
カラードの301、401にしろ、EMTの927Dst、930stにしろ、
リムドライヴであるかぎり、ターンテーブルは時計廻り、モーターは反時計廻りである。

ターンテーブルとモーターの回転方向が逆ということが、
ターンテーブルの回転の安定性にどう影響・関係してくるのか、
それを理論的に説明することは私にはできないけれど、
よく出来たリムドライヴのアナログディスクプレーヤーに共通して感じられる良さ、
それはこのことと無関係ではないだけでなく、深く関係しているはずだと、直感している。

Date: 10月 8th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その7)

テープデッキにおける走行系は、
アナログディスクプレーヤーではターンテーブルの回転が、それにあたる。

アナログディスクはCDとは異り、回転数は一定である。
LPでは33 1/3rpm、EPは45rpm、つまり角速度一定で回転している。
そのためアナログディスクの外周と内周とでは、例えば一秒間に針先がトレースする距離は違ってきて、
外周のほうが長い分だけ、音質的には当然有利になる。

そういう宿命的な問題点を抱えているとはいえ、
ターンテーブルは常に一定の回転数で安定して廻っていればいいわけだが、
カタログ上のワウ・フラッターの数値では表示できない、
微妙な回転のムラが、
外部からの影響、アナログディスクの振幅の大きいところなどにより発生していると考えられている。

それにターンテーブルの駆動源であるモーターが、どれだけスムーズに回転しているかの問題もある。

とにかく、いついかなる時もスムーズで安定した回転。
これを実現するに、どうすればいのだろうか。

一般的にはアナログディスクプレーヤーの場合、
角速度一定ゆえにターンテーブルの質量を、それも外周部において増やすことで、
慣性質量を利用する手法が、以前からとられてきている。

現在市販されているアナログディスクプレーヤーの主流は、
比較的重量のあるターンテーブルを、
比較的トルクの弱い(振動の少ない)モーターによるベルドドライヴということになる。

EMTの927Dst、930stは、そういう手法は取らずに、
充分すぎる大きさのモーターによるリムドライヴ(アイドラードライヴ)である。

Date: 10月 7th, 2013
Cate: 930st, EMT

EMT 930stのこと(その6)

アナログディスク再生ではカートリッジの針先がレコードの溝をたどった際に発生する振動が、
カンチレバーの奥に取り付けられている(MC型の場合)コイルに伝わり、
このコイルが磁気回路内で動くことにより発電し、音声信号が得られる。

カートリッジが信号を生み出していることになるわけだが、
ただレコードの溝に針を落としただけではカートリッジは発電はしない。
あくまでもレコードが回転しているからこそ、カートリッジは発電できる。

レコードが回転できるのは、レコードを乗せているターンテーブルが文字通り回転しているからである。

こんなふうに考えていけば、ターンテーブルの回転こそが、
アナログディスク再生におけるエネルギーの源と捉えることができる。

そして、これも当り前すぎることで、こうやって書くのもどうかと思ってしまうのだが、
ターンテーブルの回転エネルギーの源はモーターである。