「言葉」にとらわれて(その18)
話は変わりますが、皆さんは、本物の低音というものを聴いたことがあるでしょうか。僕はないんじゃないかと思うんです。本物の低音というのは、フーっという風みたいなもので、そういうものはもう音じゃないんですよね。耳で音として感じるんじゃないし、何か雰囲気で感じるというものでもない。振動にすらならないようなフーっとした、空気の動きというような低音を、そういう低音を出すユニットというのは、今なくなって来ています。
*
音楽之友社発行の「ステレオのすべて ’77」において、
岩崎先生が「海外スピーカーユニット紳士録」で述べられていることである。
これは1976年終りごろの発言であり、
このときまでに岩崎先生はエレクトロボイスのパトリシアン、
JBLのパラゴンにハーツフィールドといった、
1950年代から60年代にかけてのアメリカの大型スピーカーシステムを相次いで導入されたあとの発言でもある。
これらはスピーカーシステムと呼ぶよりも、ラッパといったほうがより的確な表現である構造のものばかりで、
どれもウーファーを直接見ることができない。
中高域のみだけでなく低域までホーンを採用したシステムである。
しかもパトリシアン、ハーツフィールド、パラゴン、いずれもホーンもストレートではなく折曲げ型である。
これらのラッパ以前に岩崎先生のメインであったのはD130をおさめたハークネス。
これもまたバックロードホーンであり、いうまでも折曲げ型である。
こういうラッパをいくつも鳴らされていた岩崎先生が、
「本物の低音というのは、フーっという風みたいなもの」といわれている。
岩崎先生がヤマハのAST1を聴かれたら、長島先生、原田編集長と同じように喜ばれたように思う。