瀬川冬樹氏のこと(番外)
「コンポーネントステレオの世界 ’78」に、芳津翻人(よしづ はると)氏という方が、
「やぶにらみ組み合わせ論(IV)」を書かれている。
IVとあるくらいだから、ステレオサウンド 4号(67年秋号)からはじまり、
13号(70年冬号)、17号(71年冬号)に亘って書いている、と前書きにある。
私が読んだ4回目の記事は、小型スピーカーの組合せの記事。
スピーカー選びから始まって、ロジャースのLS3/5A、スペンドールSA1、
JR(ジム・ロジャース)JR149の組合せを、他の筆者とは違う視点からあれこれ悩みながらつくられていて、
「素人の勝手なたわごと」とことわっておられるが、どうして、なかなかおもしろい。
文章も書き慣れているという印象を受ける。
だから5回目を期待していたのだが、結局、(IV)でおしまい。
ステレオサウンドにはいってから、先輩のIさんにたずねた。
「どうして、芳津翻人さんを使わないんですか」と。
まったく想像してなかった答えだった。
「芳津翻人さんは、瀬川先生のペンネームだから」。
さらに「芳津翻人を違う読み方をしてごらん。ハーツフィールドと読めるでしょ」。
JBLのハーツフィールドは、瀬川先生にとって憧れのスピーカーだったことは、どこかに書いておられる。
ただ山中先生のところで聴かれたとき、憧れのスピーカーではあっても、
自分の求める世界を出してくれるスピーカーではないことを悟った、ということも。
それでも憧れのスピーカーは、いつまでも憧れであり、芳津翻人という名前をつくられたのだろうか。
瀬川先生だということをわかった上で読みなおすと、たしかに「瀬川氏」とよく出てくるし、
音の評価も、瀬川先生とよく似ている。
オーラトーンのスピーカーは好みと違うとあるし、ドイツのヴィソニックの評価はなかなか高い。
このへんは、まさに瀬川先生とそっくりだ。
瀬川先生がいなくなり、芳津翻人さんもいなくなった。