ケンプだったのかバックハウスだったのか(補足・3)
五味先生がはじめて自分のモノとされたタンノイは、「わがタンノイの歴史(西方の音・所収)」にある。
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S氏邸のタンノイを聴かせてもらう度に、タンノイがほしいなあと次第に欲がわいた。当時わたくしたちは家賃千七百円の都営住宅に住んでいたが、週刊の連載がはじまって間もなく、帰国する米人がタンノイを持っており、クリプッシ・ホーンのキャビネットに納めたまま七万円で譲るという話をきいた。天にも昇る心地がした。わたくしたちは夫婦で、くだんの外人宅を訪ね、オート三輪にタンノイを積み込んで、妻は助手席に、わたくしは荷台に突っ立ってキャビネットを揺れぬよう抑えて、目黒から大泉の家まで、寒風の身を刺す冬の東京の夕景の街を帰ったときの、感動とゾクゾクする歓喜を、忘れ得ようか。
今にして知る、わたくしの泥沼はここにはじまったのである。
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このタンノイで最初にかけられたのが、イーヴ・ナットの弾くベートーヴェンの作品111である。
シャルランの録音だ。
結局、このタンノイのクリプッシュ・ホーンは、
当時売られていた「和製の『タンノイ指定の箱』とずさんさにおいて異ならない」ことがわかる。
あといちどナットによる作品111は出てくる。「日本のベートーヴェン」においてである。
REPLY))
五味氏のこの文章については以前から不思議に思っていました。
クリプッシュ・ホーンは1000Hz以上が大幅に減衰する構造ですから、タンノイの同軸複合型ユニットを付けたら高音がほとんど聞こえなくなるでしょう。
そんな使い方をしていたとは到底思われないのですが?
ですから、「クリプッシュ・ホーン」というのは五味氏の勘違いではないかと思うのです。
REPLY))
SSさま
コメント、ありがとうございます。
五味先生がクリプッシュ・ホーンと書かれたのは、ご自身でエンクロージュアの構造を見て判断されたのではなく、
おそらく、元の持ち主のアメリカ人の説明をそのまま書かれたのだあろう。
ですから、五味先生の勘違いとは言えないと、私は思っています。
実際にクリプッシュ・ホーンであったのかどうかですが、
おそらくエレクトロボイスのBaronet(バロネット)と同じ構造のエンクロージュアだった可能性があると考えています。
オリジナルのクリプッシュ・ホーンやエレクトロボイスのパトリシアン・シリーズ、
ヴァイタヴォックスのCN191に採用された構造では、ご指摘の通り、高域が早い段階から減衰してしまいます。
ただ五味先生も書かれていますように「和製の『タンノイ指定の箱』とずさんさにおいて異ならない」わけですから、
上記のスピーカーシステムと同構造とは思えません。
エレクトロボイスは、オリジナルのクリプッシュ・ホーンをアレンジしてパトリシアンに採用していますし、
バロネットの構造もクリプッシュ・ホーンのアレンジだと聞いています。
バロネットのエンクロージュアは、当時アメリカでキットでも販売されていましたし、
バロネットはSP8用のエンクロージュアですので、タンノイのユニットには小さすぎますので、
それを模倣したものだったのかも、と思っています。
REPLY))
「勘違い」と書いたのは、
五味氏がクリプッシュホーンなるものを勘違いしている、つまり、五味氏はクリプッシュホーンがどのようなものか知らなかったのでは?
という意味です。
ご返答のように、バロネットと同形式のエンクロージュアだった可能性もありますね。
自分は、ジェンセンG610用のバックロードホーン(長島氏が使用されていたタイプ、または、両サイドにホーン開口部があるタイプ)だったのでは?と憶測しました。