B&W 800シリーズとオーディオ評論家(その11)
試聴室に届いたB&Wの801Fを開梱して、セットする。
中高域のサブエンクロージュアを、ウーファーのエンクロージュア上部に取り付ける。
その際に、こんな簡単(いいかげんな)取り付け方と思ったのを、
いまもはっきりと思い出す。
それまで期待は膨らみ続けていた。
それが一瞬にして萎み始めた。
でも、音は聴いてみないことにはわからない。
音が鳴ってくるまでは、期待はまだまだ残っていた。
801Fを貶めるつもりはまったくないし、悪いスピーカーとも思っていない。
ただこちらが一方的に期待していただけのことであり、
その期待が裏切られた、ということでしかない。
私は勝手にKEFのModel 105のスケールアップした音を期待していた。
そういう音が、801Fからは鳴ってこなかった。
それだけのことである。
それでも期待とは違っていても、こちらをワクワクさせる音が鳴ってくれれば、
B&Wに対する私の印象は、ずいぶん変ったはずだ──。
そう思う反面、ほんとうにそうなっただろうか、と思う気持がそうとうに強くある。
801Fを聴いて、KEFの105と似た格好ながら、精度感が足りないと感じた。
音の体温といいたくなるところも、ぬるいと感じた。
KEFの105の音も、音の体温が高いわけではない。
けれど、その体温感を不快とは感じなかった。
つまりぬるいとは感じなかった。
なのに801Fの音はぬるいと感じた。
このぬるいは、あきらかに不快感である。
801で始まったB&Wの800シリーズは、それから三十年以上かけて、ずいぶん進歩した。
最近の800シリーズの音を聴いて、ぬるいとは感じなくなった。
精度感のたりない音とも感じない。
けれど、音に血が通っている感じを、そこから感じとれるかというと、
つまり音楽を聴いて、血の通った音と感じられるかとなると、
私は疑問が残ってしまう。
正しい方向に向っているのか、
精確な方向に向っているだけなのではないのか。