音の悪食(その10)
長島先生はジェンセンのG610Bをはじめて鳴らした時の音を「怪鳥の叫び」みたいだ、
とステレオサウンド 61号で語られている。
そういう音が出たから、といって、
角を矯めて牛を殺す的な鳴らし方を、長島先生はやられてきたわけではなかった。
38号では、
「たとえばスピーカーでいえば、ムチをふるい蹴とばしながらつかっているわけですから」
ともいわれている。
つまり、スピーカーとの格闘であり、
スピーカーの調整というよりも、スピーカーの調教といったほうがぴったりくる。
悪食とは、大辞林には、こうある。
①普通,人が口にしない物を食べること。いかものぐい。「好んで—する」
②粗末な食事。粗食。
③仏教で,禁じられた獣肉を食べること。
長島先生にとって、鳴らしはじめのころG610Bの音、
そのひどい音は、①なのか、②なのか。
粗末な音ではない。
けれどひどい音だったのだから、②に近いともいえる。
怪鳥の叫びみたいな音は、人が聴きたくない音でもあるのだから、①的でもある。
もちろん長島先生は好んで怪鳥の叫びを聴かれていたわけではない。
①、②、どちらの音であっても、耐えながら聴くことは、音の悪食であろう。
いい音になってくれるまでしんぼうして聴く。
しんぼうできない人は、とりあえず聴きやすい音に安易にもっていく。
音の悪食を嫌う鳴らし方をする。
音の悪食なんて、できればしたくない、といえばそうなのだが、
かといって絶対避けたい、とも思っていない。
オーディオに関していえば、無駄になることなどないからだ。
①、②の意味での音の悪食は経験しておくほうがいい。
では③の音の悪食とは──、と考える。
禁じられた音を聴くこと、そういう意味での音の悪食とは、どういうことがあるのか。