編集者の悪意とは(その10)
ステレオサウンド 87号(1988年夏号)の特集は、
「世界のスピーカー その新しい魅力を聴く」であり、
特集の最後には、沢村とおる氏による
「スピーカーエンクロージュアづくりの秘密をさぐる」という、
国産メーカー各社へのアンケート調査結果をまとめた記事がある。
沢村とおる氏は、スイングジャーナルの読者だった方は、
誌面で氏の名前をよくみかけられていたはず。
沢村とおるはペンネームで、よく知られている国産メーカーの人であった。
ちなみに沢村は、奥さんの旧姓である。
「スピーカーエンクロージュアづくりの秘密をさぐる」は、私の担当ではなかった。
けれど、担当者から、原稿を渡され、どうにかならないか、といわれた。
読むと、これを載せるのか、と思った。
担当者が困り果てているのもわかる。
しかも〆切りをすぎての原稿で、その程度の出来でしかなかった。
もっと早くにあがってきた原稿ならば書き直しというのがいいわけだが、
そんなことはいってられない。
結局どうしたかといえば、記事を読まれた方ならばわかるように、
沢村とおる氏による本文と、
記事で掲載した写真の説明文とは、正反対の内容になっているところがある。
どの写真を使うか、その写真の説明文は私がやっている。
編集作業も終り近くになっての青焼き校正で、
担当者と私以外の編集者も、本文と写真を同時に見る(読む)ことになる。と
そこで、Sくんが
「本文とネーム(写真の説明文)、まるで逆のことをいっているじゃないですか」
と訊いてきた。
私は「それでいいんだ」と答えた。