何を欲しているのか(その5)
録音器を買っても、とくに録音したいものはないから……、という声がすぐに聞こえてきそうだが、
なにも音楽でなくてもいいではないか。
ふだん聞きなれているものを録音してみる。
たとえば家族の声を録ってみる。
リスニングルームの、左右のスピーカーの中央に立つなり坐ってもらい、
歌でもいいし、なにかを朗読してもらい、録音してみる。
そして再生する。同一空間における録音と再生を、とにかく体験できる。
スピーカーから鳴ってきた、ふだん聞きなれている人の声が、
どう変化して、どういうところが同じに聴こえるのか。
そして、次はマイクロフォンの位置を工夫して録る。また再生してみる。
リスニングルーム内で、ある程度満足のいく音がとれるようになったら、
リスニングルームとは別の空間で録ってみる。
またひとりの声ではなく、複数の人の声を録ってみるのもいい。
これらのことをくり返していくうちに、音の変化を体験として、自分の中に蓄積していける。
再生側では、チューニングによる音の変化をあたりまえのこととして、蓄積していっていても、
録音のこととなると、機会がないため、ほとんどのかたが未体験であろう。
確かにプロの演奏家をプロ用機器で、コンサートホールなりスタジオで録音するという機会は、まずない。
でも、身近な音であれば、いまやそれほど費用をかけなくても録音できる。
録音と再生は、つねに一対のものであること──。
菅野先生が、以前よく言われていたことを実感できる。
もし実感できないとしたら、実感できるまでやってみてほしい。