Archive for 10月, 2010

Date: 10月 4th, 2010
Cate: 瀬川冬樹

確信していること(その3)

デッカ・デコラについて語られている文章では、
ステレオサウンド別冊の「サウンドコニサー」に載っている五十嵐一郎氏の書かれたものが、いい。

デコラという電蓄がどういうものか、がはっきりと伝わってくる。

五十嵐氏は、デコラの音を、「風景」ということばを使いたい、とされている。
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「風景」が見えるような感じで、冬に聴いていますと、夜など雪がしんしんと降り積もっている様子が頭にうかびます。夏に聴けば、風がすーっと川面を渡っていくような感じ、春聴けば春うららっていうような感じ。自分の気持ちのもちようにとか四季のうつりかわりに、わりと反応するような気がする。
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そして「ホカホカの日だまり」という感じとも表現されている。

池田圭氏は「ハイもローも出ないけど諦観に徹している」、
大木恵嗣氏は「これは長生きできる音だなぁ」、
両氏の表現も、五十嵐氏の文章のなかに、そうある。

デコラをは、2回、これまで聴く機会があった。
時間は短かったけれど、五十嵐氏、池田氏、大木氏のことばのとおりである。

五十嵐氏の文章の題名は、
幻の名器研究 デコラにお辞儀する、だ。

レコードを鳴らす器械が蓄音器と呼ばれていた時代だからこそ、
そういう時代に意を尽くして作られたモノだからこそ、「お辞儀をする」ということばが似合う。

デコラを、瀬川先生は聴かれたことがあるのだろうか。
どこかに、デコラについて書かれている文章はあるのだろうか。

Date: 10月 3rd, 2010
Cate: 瀬川冬樹
2 msgs

確信していること(その2)

クレデンザでもいい、HMVの♯202(203)でもいい、どちらかの音、そのよさをそのままに、
周波数特性(振幅特性、位相特性ともに)だけでなく、ダイナミックレンジ、それに指向特性までふくめて、
ワイドレンジにすることは、ほんとうにできるのだろうか、
そういう音は、じつは聴き手の中にしか存在しない音なのかもしれない。
それでもけっして無理なことではないはず。

そう気づいたときに、「虚構世界の狩人」ということばの重みが変ってきた。

「虚構世界の狩人」という題名をつけられたのは、音楽之友社の佐賀氏だ、と同著のあとがきにある。
佐賀氏が、何故、この題名にされたのかはわからない。
ただ瀬川先生自身、この「虚構世界の狩人」を気に入っておられたことは、わかる。

いま、この「虚構世界」が、アクースティック蓄音機の音をワイドレンジにする、という、
およそなしえないことのようにおもえる「音」の世界に重なってきてしまう。

アクースティック蓄音機は、機械仕掛けの音である。
現在のオーディオは、電気仕掛け(むしろ電子仕掛けといいたいくらい)と機械仕掛け、
それも電気仕掛けのウェイトがあきらかに大きい。

アクースティック蓄音機に対して、電蓄と呼ばれていたころのモノとは大きく違ってきている。

電蓄という言葉がつかわれていたころの、代表的なモノが、デッカのデコラである。
「デッカの電蓄」といえるデコラの音は、アクースティック蓄音機の音を、
電気仕掛けのなかに、すこしだけワイドレンジ化することにうまくいった、そういう音だと感じている。

とはいっても、デコラはワイドレンジというよりも、むしろナロウレンジではある。
それほど高音も低音も伸びていないし、ダイナミックレンジもむしろ抑えぎみといった印象を受ける。

それでも、アクースティック蓄音機よりは、やはりワイドレンジになっている。

Date: 10月 2nd, 2010
Cate: 真空管アンプ

真空管アンプの存在(その65)

真空管アンプでS/N比を高くするためには、ヒーター、フィラメントの直流点火がもっとも手っとり早い方法である。

けれど、以前から、直流点火よりも交流点火のほうが、ノイズは多いけれど音は良い、という人が少なくなかった。
プッシュプルアンプではハムは打ち消されるものの、シングルアンプでは、交流点火はノイズの増加だけでなく、
ハム対策もめんどうになってくる。
それでも、交流点火にこだわる人たちはいなくならない。

この項の(その25)で使った「遅れてきたガレージメーカー」がつくる管球式コントロールアンプでは、
三端子レギュレーターを使って定電圧の直流点火している。

交流点火よりも非安定化(定電圧回路を使わない)の直流点火、それよりも定電圧電源による直流点火のほうが、
リップル除去率は高くなるし、一見、ノイズは減っているように受けとめられている。

だが昔からの真空管アンプのマニアになればなるほど、三端子レギュレーターによる直流点火は、最悪だという。
最悪なのは、もちろん音に関して、である。
それも直熱管におけるフィラメントの点火だけでなく、傍熱管のヒーターの点火に関しても、
三端子レギュレーターに対して、ひじょうに厳しい。

直熱管における点火方法の違いによる音の変化は実際に試聴したことはないが、
傍熱管(電圧増幅管)では、その機会があった。

たしかに三端子レギュレーターでの直流点火の音は、聴くとがっかりする。

Date: 10月 1st, 2010
Cate: 瀬川冬樹

確信していること(その1)

瀬川先生が追い求められていた音とは、
クレデンザ、HMVの♯202、203といったアクースティック蓄音器の名器の音を、
真の意味でワイドレンジ化したものだった、と確信している。