程々の音(その15)
五味先生がコーネッタで鳴らされたピアノのレコードは、
ラフマニノフ自演の「前奏曲」。
マランツ・ファーイーストがスーパースコープのシリーズとして出したもので、
ラフマニノフの生きていた時代には録音機はなかったわけで、
ピアノロールによる記録であり、それを鳴らしての録音である。
「よせばよかったのであろう。」と書かれている。
ラフマニノフの「前奏曲」は4343で、コーネッタの前に聴かれている。
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さてト短調の『前奏曲』が鳴り出した。唖然とし、私は耳を疑った。狼狽しました。何たる下らん「前奏曲』か。極言すれば、もうラフマニノフではないのである。
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五味先生の文章はこの後も続いている。
そしてオーディオが抱える再生ということの難しさへの重要な問いかけともなることを書かれている。
コーネッタはいいスピーカーではある。
けれども、世の中にひとつとして完璧なスピーカーシステムが存在しないことは、
このコーネッタの音についての五味先生の文章が語っている。
それでもコーネッタは充分に優れたスピーカーだ、と私は五味先生の文章から感じていた。
クラシックを聴いていくのであれば、そうである、と。
「IIILZと〝オートグラフ〟では低音の伸びに格段の差はあるが、鳴り方そのものの質は変らぬ」
とも書かれている。
オートグラフとコーネッタとではエンクロージュアの構造も違い、サイズも大きく違う。
ユニットのサイズも15インチと10インチという差がある。
「低音の伸びに格段の差」があって当然で、
それをコーネッタに求めたところで、それは聴き手の無理な要求ということになる。