1955年に電波新聞社から「電波とオーディオ」が創刊されている。
「電波とオーディオ」の創刊メンバーのひとりが、若き日の菅野先生である。
そのころのことを「僕のオーディオ人生」に書かれている。
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新しい雑誌のタイトルは、僕達の間では「オーディオ」と決まっていた。とはいうものの、この「オーディオ」という言葉は当時全く知られていない言葉であって、専門家ならいざ知らず、一般には通用するはずもなかった。この頃、アマチュアの間で使われていた、レコードとオーディオに関する言葉は「ハイ・フィ」というもので、どういうわけか、「ハイ・ファイ」とは発音されなかった。
こんな状態だったから、平山社長や、その他会社の幹部の意見では、ハイ・フィかハイ・ファイのほうがよいだろうということだったが、これには僕達が頑強に反対した。ハイ・フィやハイ・ファイは俗語であって、オーディオこそ、我々が真面目に取組もうとしている世界の正しい呼称であると突っぱったのである。もちろん、ハイ・フィやハイ・ファイは当時の辞書には出ていなかったが、オーディオは出ていた。当り前である。しかし、今だったら、雑誌のタイトルとして、辞書に出ている言葉はボツにして、出ていないほうを採るだろうに、当時は、やはり世の中、コンサーバティブであった。結局、タイトルは『電波とオーディオ』と決まったのである。この「電波」がつくことには我々は抵抗したが、電波新聞社の刊行物だからということで押し切られてしまった。しかし「電波」という字はごく小さく、ほとんど「オーディオ」が全面に目立つ題字が選ばれることになったのである。
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「電波とオーディオ」の編集を約三年やられて、菅野先生は離れられている。
そのころには電波の文字が大きく、オーディオは小さくなっていたそうだ。
「電波とオーディオ」の書名がいいとは思っていないが、
いまの時代からみれば、時代の先取りともいえそうである。
決して好きな表現ではないが、一周まわって新しい、ということになる。
電波とはテレビ、ラジオ、アマチュア無線などを、ここでは指しているが、
無線という意味で捉えれば、
「電波とオーディオ」はケーブルレス(ワイヤレス)・オーディオということにもなる。
「電波とオーディオ」のころの無線と、いまの時代の無線は技術的には進歩があり違ってきている。
けれど電波を使うことは同じで、機器間の接続をケーブルに頼らずに、という点は同じといえる。
「電波とオーディオ」のころの電波は長い距離の伝搬手段であり、
いまの時代の家庭内での電波は至近距離の伝搬手段である違いはあっても、
「電波とオーディオ」や「無線と実験」といった書名は、
かなり長いこと古くさい印象があったが、いまは必ずしもそうではなくなっている。
オーディオ信号の伝送において、ケーブルなのかワイヤレスなのか。
一刀両断で、どちらかが劣るとは、いまのところいえない。
ワイヤレスなんて……、という人がオーディオマニアに少なくないことは知っている。
なぜ、そんなふうに決めつけてしまうのか。
決めつけてしまうことで、自分を誰かにアピールしたいのか。
すべての技術にメリットとデメリットがあり、
ケーブルにしても無線にしても、どういう規格でどう使っていくのかので、
判断していくものであって、いえるのはどちらが好きか嫌い程度である。
ケーブル伝送は一見簡単そう(単純そう)にえるが、
部品点数においては複雑な構成の増幅よりも、
実のところ難しい面を持っているようにも思えることがある。