Archive for category チューナー・デザイン

Date: 7月 25th, 2011
Cate: チューナー・デザイン

チューナー・デザイン考(その2)

中継局を経由することによる音質の劣化がどれだけなのか実際に聴いたわけではないが、
テレビで衛星放送がはじまったとき、大晦日の紅白歌合戦の見較べはFMの聴き較べと理屈の上では同じことになる。

テレビの電波も中継局をいくつか経由して東京から九州まで届く。
一方衛星放送(BS放送)では受信する地域によって経由が異るわけではない。
もちろんそれ以外の違いがあるから厳密な、経由局による劣化を確認していることにならないだろうが、
それでもチャンネルを変えてみると、こうも発色の具合、鮮度の良さが違うものかと驚いた。
こういう比較は、東京に住んでいると逆にできなくて地方に住んでいたから可能なことでもあった。

おそらくこれに近いことがNHK-FMを聴くときには生じていたはずだ。
1980年以降、中継局間をデジタルによる伝送方式に置き換わっていくことで、
この中継局経由によるクォリティの劣化はほとんど無視できるようになっているはずだが、
私がいなかに住んでいたころは、まだそういう時代ではなかった。

1981年に上京して、東京FMが聴けるようになった。
初めて聴いた民放のFM放送だ。
とはいっても私がそのころ用意できた受信環境は貧弱だった。
とにかく受信できた、聴けた、といったところだった。
それからしばらくしてマッキントッシュの管球式のFMチューナーMR71を使っていたころがあったが、
集合住宅に住んでいると専用アンテナを立てるわけにはいかずフィーダーアンテナ。

「五味オーディオ教室」を読んだ時から思っていた、
いつかはFMの受信環境をきちんと整えて、生放送を聴く、ということはなかなか実現できなかった───、
ではなく、ついに実現できなかった。

このころになって、FMとは、実は贅沢なものであることに気づく。

Date: 7月 25th, 2011
Cate: チューナー・デザイン

チューナー・デザイン考(その1)

オーディオに興味をもった1976年は、FM関連の雑誌が3つあった。
週刊FM(音楽之友社)、FM fan(共同通信)、FMレコパル(小学館)で、
そのあと名前は忘れてしまったが創刊されていた。
オーディオに関心のない友人も、FM誌は買っていた。

FM全盛時代だったようにも思う。
けれど当時住んでいた九州のいなかでは受信できるのNHK-FMだけだった。
民放FM局はなかった。となりの県にはあっても、
どんなに多素子のアンテナを立てても受信できないことはわかっていた。

FM放送の音はいい。
このころはまだAM放送のモノーラルだったし、
オーディオ誌やFM誌の読者相談のコーナーに、
LPを再生するよりもFMで同じレコードを聴いた方が音がいいのはなぜでしょう? といった質問も寄せられていた。
聴きたいレコードをすべて買えるわけではない、むしろ買えるのはほんのわずか。
だからFM放送は学生にとって貴重なプログラムソースであったわけだが、
チューナーに関しては、あのころ、それほど強い関心は持てなかった。

まずは1局しか受信できないこと。
それから九州と東京の距離は離れている。FMの電波が届く距離ではなく、
当然地方の放送局まではいくつかの中継局を経由して届き、
その中継によって多少なりとも劣化した音質で放送されてしまうということ。
このふたつのことによって、チューナーはNHKだけを雑音なく聴ければそれでいいや、ぐらいに考えていた。

もちろんFM放送で生中継の音が素晴らしいことは、五味先生の「五味オーディオ教室」で知っていた。
知ってはいても五味先生は東京、私は九州。上記の理由でたとえマランツ10Bを持ってきたとしても、
東京と同じ音質は得られないことを、それは体験ではなく知識として持っていると、
学生で使えるお金はバイトで稼いだ額だけだから、優先順位としてチューナーは後廻しになっていた。