Archive for category ESL

Date: 8月 10th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その13)

この「伝達関数:1」ということが、「だから素晴らしい」と力説した人の頭の中にはなかったのだろう。

では、なぜ彼は、6dB/oct.のネットワークがいいと判断したのだろうか。
彼の頭の中にあったのは、
「思いつき」と「思いこみ」によってつくられている技術「的」な知識だけだったように思えてならない。

そこに、考える習慣は、存在していなかったとも思っている。
考え込み、考え抜くクセをつけていれば、あの発言はできない。

いま、彼のような「思いつき」「思いこみ」から発せられた情報擬きが、明らかに増えている。

Date: 7月 28th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その12)

スピーカー用のLCネットワークの減衰特性には、オクターブあたり6dB、12dB、18dBあたりが一般的である。
最近ではもっと高次のものを使われているが、6dBとそれ以外のもの(12dBや18dBなどのこと)とは、
決定的な違いが、ひとつ存在する。

いまではほとんど言われなくなったようだが、6dB/oct.のネットワークのみ、
伝達関数:1を、理論的には実現できるということだ。

Date: 7月 27th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その11)

少し前に、あるスピーカーについて、ある人と話していたときに、たまたま6dB/oct.のネットワークの話になった。
そのとき、話題にしていたスピーカーも、「6dBのカーブですよ」と、相手が言った。
たしかにそのスピーカーは6dB/oct.のネットワークを採用しているが、
音響負荷をユニットにかけることで、トータルで12dB/oct.の遮断特性を実現している。

そのことを指摘すると、その人は「だから素晴らしいんですよ」と力説する。

おそらく、この人は、6dB/oct.のネットワークの特長は、
回路構成が、これ以上省略できないというシンプルさにあるものだと考えているように感じられた。
だから6dB/oct.の回路のネットワークで、遮断特性はトータルで12dB。
「だから素晴らしい」という表現が口をついて出てきたのだろう。

Date: 7月 21st, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その10)

QUADのESLのほかに、遮断特性(減衰特性)6dB/oct.のカーブのネットワークを採用したスピーカーとして、
井上先生が愛用されたボザークが、まずあげられるし、
菅野先生愛用のマッキントッシュのXRT20も、そうだときいている。

これら以外にもちろんあり、
ダイヤトーンの2S308も、トゥイーターのローカットをコンデンサーのみで行なっていて、
ウーファーにはコイルをつかわず、パワーアンプの信号はそのまま入力される構成で、やはり6dB/oct.である。

このタイプとしては、JBLの4311がすぐに浮ぶし、
1990年ごろ発売されたモダンショートのスピーカーもそうだったと記憶している。

比較的新しい製品では、2000年ごろに発売されていたB&WのNSCM1がある。
NSCM1ときいて、すぐに、どんなスピーカーだったのか、思い浮かべられる方は少ないかもしれない。
Nautilus 805によく似た、このスピーカーのプロポーションは、
Nautilus 805よりも横幅をひろげたため、ややずんぐりした印象をあたえていたこと、
それにホームシアター用に開発されたものということも関係していたのか、
多くの人の目はNautilus 805に向き、
NSCM1に注目する人はほとんどいなかったのだろう、いつのまにか消えてしまったようだが、
井上先生だけは「良く鳴り、良く響きあう音は時間を忘れる思い」(ステレオサウンド137号)と、
Nautilus 805よりも高く評価されていた。

Date: 7月 20th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その9)

アルテックのA5、A7で使われていたネットワークは、N500、N800で、
12dB/oct.のオーソドックスな回路構成で、とくに凝ったことは何ひとつ行なっていない。

QUADのESLのネットワークは、というと──かなり以前に回路図を見たことがあるだけで、
多少あやふやなところな記憶であるが──通常のスピーカーと異り、
ボイスコイル(つまりインダクタンス)ではなく、コンデンサーということもあって、
通常のネットワークが、LCネットワークと呼ばれることからもわかるように、
おもなパーツはコイルとコンデンサーから構成されているに対し、
ESLのネットワークは、LCネットワークではなく、RCネットワークと呼ぶべきものである。

低域をカットするためには、LCネットワーク同様、コンデンサーを使っているが、
高域カットはコイルではなく、R、つまり抵抗を使っている。

アンプのハイカットフィルターと同じ構成になっている。

このRCネットワークの遮断特性は、6dB/oct.である。

Date: 7月 19th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その8)

フェイズリニアが論文として発表されたのは、1936年で、
ベル研究所の研究員だったと思われるジョン・ヘリアーによって、であると、クックはインタビューで答えている。

ウーファーとトゥイーターの音源の位置合わせを行なっていた(行なえる)スピーカーシステムは、
QUADのESL以前にも、だからあった。
有名なところでは、アルテックのA5だ。
1945年10月に、”The Voice of The Theater”のAシリーズ全10機種のひとつとして登場したA5は、
低音部は515とフロントロードホーン・エンクロージュアのH100と15インチ・ウーファーの515の組合せで、
この上に、288ドライバーにH1505(もしくはH1002かH805)ホーンが乗り、
前後位置を調整すれば、音源の位置合わせは、できる。
ほぼ同じ構成のA7は1954年に登場している。

クックは、A5、A7の存在は、1936年のアメリカの論文の存在を知っていたくらいだから、
とうぜん知っていたであろう。
なのに、クックは、ESLを、最初に市販されたフェイズリニアのスピーカーだと言っている。

Date: 7月 18th, 2009
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その7)

KEFのレイモンド・E・クックは、最初に市販されたフェイズリニアのスピーカーシステムは、
「1954年、QUADのエレクトロスタティック・スピーカー」だと、
1977年のステレオサウンド別冊「コンポーネントステレオの世界」のインタビューで、そう答えている。

ただ当時は、位相の測定法が確立されていなかったため、まだモノーラル時代ということもあって、
ESLがフェイズリニアであることに気がついていた人は、ほんのひとにぎりだったといっている。
そして、QUADのピーター・J・ウォーカーに、そのことを最初に伝えたのはクックである、と。

このインタビューで残念なのは、そのとき、ウォーカーがどう答えたのかにまったくふれられていないこと。
KEF社長のクックへのインタビューであるから、しかたのないことだとわかっているけれども、
ウォーカーが、フェイズリニアを、ESLの開発時から意識していたのかどうかだけでも知りたいところではある。

Date: 12月 16th, 2008
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その6)

QUADのESLを、はじめて聴いた場所は、オーディオ店の試聴室でもなく、個人のリスニングルームでもなく、
20数年前まで、東京・西新宿に存在していた新宿珈琲屋という喫茶店だった。

当時のサウンドボーイ誌に紹介されていたので、上京する前、まだ高校生の時から、この店の存在は知っていた。
ESLを鳴らすアンプは、QUADの33と50Eの組合せ。記事には場所柄、電源事情がひどいため、
絶縁トランスをかませて対処している、とあった。
CDはまだ登場していない時代だから、LPのみ。
プレーヤーはトーレンスのTD125MKIIBにSMEの3009SII、
オルトフォンのカートリッジだったように記憶している。

新宿珈琲屋の入っていた建物は、木造長屋といった表現のぴったりで、2階にあるこの店に行くには、
わりと急な階段で、昇っているとぎしぎし音がする。
L字型のカウンターがあり、その奥には屋根裏に昇る、階段ではなく梯子があって、
そこにはテーブル席も用意されていた。

ESLは客席の後ろに設置されていた。
濃い色の木を使った店内にESLが馴染んでいたのと、パネルヒーター風の形状のためもあってか、
オーディオに関心のない人は、スピーカーだとわかっていた人は少なかったと、きいている。

鳴らしていた音楽は、オーナーMさんの考えで、バロックのみ。LPは、たしか20、30枚程度か。
そのなかにグールドのバッハも含まれていた。

この装置を選び、設置したのは、サウンドボーイ編集長のOさん。
Mさんとは古くからの知合いで、相談を受けたとのこと。

新宿に、もう一店舗、こちらはテーブル席も多く、ピカデリー劇場の隣にあった。
ふだんMさんはこちらのほうに顔を出されることが多かったが、
ときどき西新宿の店にも顔を出された。
運がよければ、Mさんの淹れたコーヒーを飲める。

ふだんはH(男性)さん、K(女性)さんのどちらかが淹れてくれる。
Kさんとはよく話した。

よく通った。コーヒーの美味しさを知ったのはこの店だし、
背中で感じるESLの音が心地よかった。

いまはもう存在しない。
火事ですべてなくなってしまった。

その場所の一階に、いまも店はある。名前が2回ほど変っているが、基本的には同じ店だ。
ただMさんはもう店に出ないし、HさんもKさんもいなくなった。

オーディオ機器も、鳴らす音楽も、他店とそう変わらなくなってしまった。

Date: 11月 23rd, 2008
Cate: ESL, QUAD, 長島達夫

QUAD・ESLについて(その5)

ステレオサウンドの弟分にあたるサウンドボーイ誌の編集長だったO氏は、
QUADのESL63が登場するずいぶん前に、スタックスに、
細長いコンデンサースピーカーのパネルを複数枚、特注したことがあって、
それらを放射状に配置し、外周部を前に、中心部を後ろに、
つまり疑似的なコーン型スピーカーのようにして、
長島先生同様、なんとか球面波に近い音を出せないかと考えての試作品だった、と言っていた。

結果は、まったくダメだったそうだ。
だからO氏も、ESL63の巧みな方法には感心していた。

Date: 11月 23rd, 2008
Cate: ESL, QUAD, 長島達夫

QUAD・ESLについて(その4)

QUAD・ESLの2段スタックは、1970年代前半、
香港のオーディオショップが特別につくり売っていたことから始まったと言われている。

ステレオサウンドでは、38号で岡俊雄先生が「ベストサウンド求めて」のなかで実験されている。
さらに77年暮に出た別冊「コンポーネントステレオの世界’78」で山中先生が、
2段スタックを中心にした組合せをつくられている。

38号の記事を読むと、マーク・レヴィンソンは75年には、自宅で2段スタックに、
ハートレーの61cm口径ウーファー224MSを100Hz以下で使い、
高域はデッカのリボン・トゥイーターに受け持たせたHQDシステムを使っていたとある。

山中先生が語っておられるが、ESLを2段スタックにすると、
2倍になるというよりも2乗になる、と。

ESLのスタックの極付けは、スイングジャーナルで長島達夫先生がやられた3段スタックである。

中段のESLは垂直に配置し、上段、下段のESLは聴き手を向くように角度がついている。
上段は前傾、下段は後ろに倒れている格好だ。
真横から見ると、コーン型スピーカーの断面のような感じだ。
上段と下段の角度は同じではないので、写真でみても、威容に圧倒される。

この音は、ほんとうに凄かったと聞いている。
山中先生の言葉を借りれば、3段だから3乗になるわけだ。

長島先生に、この時の話を伺ったことがある。
3段スタックにされたのは、ESLを使って、疑似的に球面波を再現したかったからだそうだ。

繊細で品位の高い音だが、どこかスタティックな印象を拭えないESLが、
圧倒的な描写力で、音楽が聴き手に迫ってくる音を聴かせてくれる、らしい。

その音が想像できなくはない。
ESLを、SUMOのThe Goldで鳴らしていたことがあるからだ。

SUMOの取り扱い説明書には、QUADのESLを接続しないでくれ、と注意書きがある。
ESLを鳴らすのならば、The Goldの半分の出力のThe Nineにしてくれ、とも書いてある。

そんなことは無視して、鳴らしていた。
ESLのウーファーのf0は50Hzよりも少し上だと言われている。
なのに、セレッションのSL6をクレルのKMA200で鳴らした音の同じように、
驚くほど低いところまで伸びていることが感じとれる。
少なくともスタティックな印象はなくなっていた。

Date: 11月 22nd, 2008
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その3)

ウェスターン・エレクトリックの555ドライバーの設計者のE.C.ウェンテは、1914年に入社し、
3年後の1917年にコンデンサー型マイクロフォンの論文を発表している。
555の発表は1926年だから、コンデンサー型マイク、スピーカーの歴史はかなり長いものである。

コンデンサー型スピーカーの原理は、1870年よりも前と聞いている。
イギリスのクロムウェル・フリートウッド・ヴァーリィという人が、
コンデンサーから音を出すことができるということで特許を取っているらしい。
このヴァーリィのアイデアを、エジソンは電話の受話器に使えないかと、先頭に立って改良を試みたが、
当時はアンプが存在しなかったため、実用化にはいたらなかったとのこと。

ウェンテのマイクロフォンは、0.025mmのジュラルミン薄膜を使い、
その背面0.0022mmのところに固定電極を置いている。
11年後、改良型の394が出て、これが現在のコンデンサー型マイクロフォンの基礎・基本となっている。

このことを知った時にふと思ったのは、可動電極がジュラルミン、つまり金属ということは、
コンデンサー型スピーカーの振動板(可動電極)にも金属が使えるのではないか、と。

いまのコンデンサー型スピーカーは、フィルムに導電性の物質を塗布しているか、
マーティン・ローガンのCLSのように、導電性のフィルムを使っている。
金属では、振幅が確保できないためだろう。
しなやかな金属の薄膜が実現できれば、コンデンサー型スピーカーに使えるし、
かなりおもしろいモノに仕上がるはず、と思っていた。

だから数年前にジャーマン・フィジックスのDDDユニットを見た時は、やっと現われた、と思っていた。
DDDユニットに採用されているのはチタンの薄膜。触ってみるとプヨプヨした感触。
これならば、そのままコンデンサー型スピーカーに流用できるはず、という予感がある。

いま手元に要修理のQUADのESL63Proが1ペア、押入れで眠っている。
初期型のものだ。

純正のパネルで修理するのが賢明だろうが、いずれ、かならず、また修理を必要とする日が来る。
ならばいっそチタンの薄膜に置き換えてみるのも、誰もやってないだろうし、楽しいはず。
ただ、あれだけの面積のチタン薄膜がなかなか見つからない。

Date: 11月 22nd, 2008
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その2)

QUADの旧型のESLを、ESL63とはっきりと区別するために、ESL57と表記するのを見かける。

ESL63の末尾の「63」は、発売年ではなく、開発・研究が始まった1963年を表している。
なのに、ESL57の「57」は発売年を表しているとのこと。
ESLが発表されたのは1955年である。

なぜ、こう中途半端な数字をつけるのだろうか。

ところで、ESLだが、おそらくこれが仮想同軸配置の最初のスピーカーだと思う。
中央にトゥイーター・パネル、その左右にスコーカー・パネル、両端にウーファー・パネル。
ESLを90度向きを変えると、仮想同軸の配置そのものである。

ESLを使っていたとき、90度向きを変えて、鳴らしたことがある。
スタンドをあれこれ工夫してみたが、安定して立てることができず、
そういう状態での音出しだったので満足できる音ではなかったが、
きちんとフレームを作り直せば、おもしろい結果が得られたかもしれない。

Date: 11月 21st, 2008
Cate: ESL, QUAD

QUAD・ESLについて(その1)

QUADのESL(旧型)を使っていたときに、山中先生にそのことを話したら、
「ESLをぐんと上まで持ちあげてみるとおもしろいぞ。
録音スタジオのモニタースピーカーと同じようなセッティングにする。
前傾させて耳の斜め上から音が来るようにすると、がらっと印象が変るぞ!」
とアドバイスをいただいたことがある。

やってみたいと思ったが、このセッティングをやるための、
壁(もしくは天井)からワイヤーで吊り、脚部を壁からワイヤーで引っ張る方法は、
賃貸の住宅では壁に釘かネジを打ち込むことになるので、試したことはない。

山中先生は、いちどその音を聴かれているとのこと。
そのときの山中先生の口ぶりからすると、ほんとうにいい音が聴けそうな感じだった。