岩崎千明と瀬川冬樹がいた時代(その11)
都内の大きな書店に行くと、
いまでもオーディオコーナーの書棚に「良い音とは 良いスピーカーとは?」が並んでいる。
たしか2013年に出ているから、それでも売れているわけなのだろう。
けっこうなことだと思う。
思うとともに、「続・良い音とは 良いスピーカーとは?」は出ないのか、と思う。
「良い音とは 良いスピーカーとは?」には、
「コンポーネントステレオの世界 ’75」の鼎談が載っている。
岡俊雄、黒田恭一、瀬川冬樹の三氏で、
「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」というテーマで語られたものだ。
この鼎談について、岡先生がステレオサウンド 61号に書かれている。
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白状すると、瀬川さんとぼくとは音楽の好みも音の好みも全くちがっている。お互いにそれを承知しながら相手を理解しあっていたといえる。だから、あえて、挑発的な発言をすると、瀬川さんはにやりと笑って、「お言葉をかえすようですが……」と反論をはじめる。それで、ひと頃、〝お言葉をかえす〟が大はやりしたことがあった。
瀬川さんとそういう議論をはじめると、平行線をたどって、いつまでたってもケリがつかない。しかし、喧嘩と論争はちがうということを読みとっていただけない読者の方には、二人はまったく仲が悪い、と思われてしまうようだ。
とくに一九七五年の「コンポーネントステレオの世界」で黒田恭一さんを交えた座談会では、徹底的に意見が合わなかった。近来あんなおもしろい座談会はなかったといってくれた人が何人かいたけれど、そういうのは、瀬川冬樹と岡俊雄をよく知っているひとたちだった。
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この鼎談がいまも読めるわけだから、これもけっこうなことだと思っている。
けれど、この鼎談を読んだ上で、読んでほしいと思う記事は、ステレオサウンドにはいくつもある。
たとえばステレオサウンド 44号と45号のスピーカーシステムの総テスト。
この試聴は、単独試聴であり、一人一人が試聴記を書かれている。
それぞれの試聴記を比較しながら読んでいく、という行為。
私は44号、45号の試聴記を読んで数年後に、
「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」を読んでいる。
順序が逆になってしまったけれど、ここでもう一度試聴記を読み返す面白さがあった。
それからHIGH-TECHNIC SERIES-3のトゥイーターの総試聴。
ここでは井上、黒田、瀬川の三氏による合同試聴で、
書き原稿による試聴記ではなく鼎談による試聴記になっている。
これが、まためっぽうおもしろい。
「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」を読んでいれば、
ここでも、そのおもしろさは増してくる。
それだけではない、
「オーディオシステムにおける音の音楽的意味あいをさぐる」のおもしろさも増す。
「続・良い音とは 良いスピーカーとは?」は出ないのか。