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Date: 7月 21st, 2014
Cate: 「スピーカー」論

トーキー用スピーカーとは(その11)

まだアルテックが健在だったころ、
JBLと比較でよくいわれていたのは、アルテックの方が音が飛ぶ、ということだった。

スピーカーの正面1mのところにマイクロフォンを立て、
どちらのスピーカーシステムも同じ音圧になるように設定する。
そして音を出す。

さほど広くない空間では、アルテックもJBLもスピーカーからの距離がましても差はあまりないが、
小劇場くらいの空間となると、後方の席まで音が届く(飛ぶ)のはアルテックである、と。

私はそういう空間での比較試聴をしたことはないけれど、そうだろう、と納得できる。
ここでいうアルテックのスピーカーとは、おそらくA7、A5といったところだろうし、
JBLは、というと、どれを指すのかはっきりとしないけれど、
同口径のウーファーと同規模のコンプレッションドライバーとホーンの組合せとなるのだろう。

どんなスピーカーであり、離れればそれだけ音圧は低下する。
球面波か平面波という違いがあれば、距離による音圧の減衰の仕方もちがってくるが、
どちらもホーン型で指向特性において大きく違わないのであれば、音圧の減衰も同じような結果になるはず。

にも関わらずアルテックは音が飛び、JBLはそうでない、といわれてきた。
おそらく音圧はアルテックもJBLも低下する。
ただ音圧と音量に対する聴き手の感じ方が違いがあるのであれば、
片方のスピーカーは音が飛び、トーキー用スピーカーにおいても、
スクリーン裏のスピーカーだけで劇場後方の席の観客も満足させることも不思議なことではなくなる。

Date: 7月 16th, 2014
Cate: 「スピーカー」論

トーキー用スピーカーとは(その10)

スピーカーとの位置関係を自由に変えるようなことをコンサートホールではまず行えない。
たいていが全席指定席だし、全席自由席でがらがらの入りであれば、
ステージと聴き手との距離を変えることはできても、そんなことはまれにしかない。

いわばコンサートホールでは固定である。
同じことは映画館もそうだ。

いまの映画館と違い、
トーキー用スピーカーと呼ばれていた時代の映画館では、
スピーカーはスクリーン裏に設置されたモノだけだった。
つまりメインスピーカーだけで、客席の両側にサブスピーカーと呼ばれるモノの存在はなかった。

スクリーン裏のメインスピーカーだけで観客全員を満足させなければならない。
それは音質面だけではなく、音量面において、でもある。

このふたつの満足のうち、難しいのは音量面での満足ではなかったのか。
スクリーンのすぐ近く(つまり前の席)と後方の席とでは、通常到達する音圧は違ってくる。

簡単に考えれば前の席の観客にとってちょうどいい音量であれば、
いちばん後方の席の観客にとっては小さな音量となるだろうし、
反対にいちばん後方の席の観客に十分な音量にすれば、最前列の席の観客は大きすぎる、と感じることだろう。

私は残念ながら、ウェスターン・エレクトリック、シーメンスといった、
佳き時代のトーキー用スピーカーを設置した映画館で鑑賞した経験はない。

だからなにひとつはっきりしたことはいえないのだが、
それでも同じ料金を払っている観客全員を、音質・音量ともに満足させていたはずだ、と思う。

このことが家庭用スピーカーとトーキー用スピーカーの、大きく異っている点ではないのか。