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Date: 2月 4th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その50)

国産4ウェイ・スピーカーの多くが、ピストニックモーションの追求を徹底していた。

振動板への新素材の積極的な採用、フレームやエンクロージュアの構造を見直し、
不要輻射、雑共振の2次放射を徹底的に抑える。
このふたつは、前に述べたように、聴感上のSN比を高めていくことである。

いまや海外のスピーカーの多くも、4ウェイ構成でなくとも、同じところを目指しているように感じられる。
完全なピストニックモーションの実現は、たしかに理想追求の果てにあるといえるだろう。
けれども、はたしてピストニックモーションの完全な実現だけが、
スピーカーの理想の姿とは思えないし、考えられない。

1930年以前に、シーメンスが、リッフェル型のスピーカーをつくりあげている。
0.05mm厚の、555×120mmのジュラルミン振動板は平面だけに、
一見リボン型スピーカーのように勘違いされるが、
このスピーカーこそ、ジャーマンフィジックスのDDDユニットの、もうひとつのルーツである。

ピストニックモーションではなく、ベンディングウェーブのスピーカーユニットが、
ジャーマンフィジックスだけでなく、やはり同じドイツのマンガーからも登場したことは、
約80年前に、すでにこの方式のスピーカーをつくっていた国ということと無関係とは思えない。

シーメンスのリッフェル型スピーカーも、DDDユニットに採用されているチタン箔を使い、
現在のコンピューター解析と技術があれば、スピーカーの新しい可能性を示してくれそうな予感がする。

ピストニックモーションの追求を否定する気は、さらさらない。
だが、ピストニックモーションだけがスピーカーの原理ではないことは、
もう一度、思い返さなければならないことだ。

昨年、パイオニアが、リッフェル型のトゥイーターを採用したスピーカーをつくっている。
最近、ヴァリエーションが増えつつあるハイルドライバーも、ベンディングウェーブの一種といえるだろう。

スピーカーの、これからの展開がどうなっていくのか──、
そこに新しい動きが現われていることは確かである。

Date: 1月 29th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その49)

SX1000 Laboratoryのインディペンデントベースを、4343に使ってみたらどうなるだろうか。

4343の底板のサイズは63.5×43.5cm、SX1000 Laboratoryはすこし小さめで、55×37cmだから、
おそらく低域がタイトに締まった感じになる可能性がある。

4343にぴったりのインディペンデントベースがあったとしたら、どうなるだろうか。
4343の良さも悪さも露呈し、そのコントラストがはっきりするような気がする。

インディペンデントベースは、材質の固有音を積極的に音づくりに活かすモノとは正反対だけに、
それまでベースやスタンドの固有音に、うまく覆いかぶされていた欠点は、
よりはっきりと耳につくようになるだろう。
もちろん反対にそういった固有に音にマスキングされていた、良い面もはっきりと浮かび上がってくる。

だから固有音を活かしたベースなりスタンドは、スピーカーとの相性が、ことさら重要になる。
インディペンデントベースは、そんなことはまったくないとはいえないまでも、
ほぼ無視できるくらいに、固有音の少ない材質と構造となっている。

それだけに、スピーカーの使いこなしが、ますます重要になってくるのは、容易に想像できよう。
4343の場合、雑共振、不要輻射などの2次放射を適度に抑えることで、
聴感上のSN比を積極的に向上させていくのも、ひとつの正攻法な手だと言えるだろう。

だからといって、抑え過ぎてしまうくらいなら、いっそ4343ではなく、
他のスピーカーにしてしまったほうがいい、と私は思う。

4343とインディペンデントベースの組合せで使うようになったら、
4343に手を加えることになるだろう。

ここ10年以上、ベースやスタンドといえば、スパイクとの併用が当り前のようになっているだけに、
インディペンデントベースの設計方針、構造こそ、もう一度見直される価値がひじょうに高い。

Date: 1月 27th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その48)

SX1000 Laboratoryの前作SX1000専用スタンドLS1000だと、スピーカーの底面と床との間に空間ができる。
しかもX字型に組まれているため、この空間が三角形のようになり、
不要輻射に一種のメガホンがついたかたちとなっている。
そのためであろう、吸音材を入れた時の音の変化は、やや大きい。

響きの良い木でつくってあるにも関わらず、個性的な面も、すこし持っていると言えるかもしれない。

SX1000 Laboratoryのインディペンデントベースは、LS1000から、一歩も二歩も、
スピーカーとスタンド(ベース)、スタンドと床、スピーカーと床との相関性を考え、
従来のスタンドの構成から、先に進んでいる。

インディペンデントベースは、まずスピーカー本体と同寸法の、重量級の分厚い木製ベースによって、
床をある程度安定化させようする、一種のアブソーバー的なものであり、
スピーカー底面と床との空間を埋め、定在波の影響を抑えようとしている。

もちろんこのベースそのものの不要輻射(2次放射)を抑えるために、
表面処理も考慮されたものに仕上がっている。

この基本ベースの4隅には、それぞれ円筒型の穴が開けられている。
ここに円柱状の脚を挿し込み、これがスピーカーの底面と接する構造だ。
しかも円筒型の穴の内壁には、厚めのフェルトが貼られている。
それぞれの相互干渉と、脚そのものの共振を抑えるためであろう。

4本の脚は、ある意味フリーな状態で、頼りないと感じられるかもしれないが、
SX1000 Laboratory本体が上にのることで、安定する。

SX1000 Laboratoryと4本の脚、脚とベースをネジや接着剤で固定してしまっては、
このベースの意味はなくなる。

専用ベースとしてSX1000 Laboratoryに付属してきながらも、それぞれが独立している意味を考えてほしい。

Date: 1月 22nd, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その47)

ステレオサウンドの試聴室では、JBLの4344の下にダイヤトーンのDK5000をかませて使っていた。
DK5000の一辺は9cmだから、4344の底面と床の間に空間が生じる。この空間が案外厄介である。

こんなわずかな空間でも定在波が発生するし、後ろの壁から回り込んできた音との絡みもあるのだろうが、
この空間に吸音材を入れた音を聴いてみてほしい。
もちろん吸音材はグラスウールではなく、天然素材のものが好ましい。
ウールでもいいし、かなり厚手のフェルトでもいい。その吸音材を、スピーカーの底板に接触しないように置く。

その大きさは試聴を繰り返しながら、最適値を決めていくしかないが、とにかく、まず吸音材がある音とない音を聴く。
聴感上のSN比に注目して聴けば、その差は明らかだろう。

ダイヤトーンのスピーカーDS2000専用のスタンドのDK2000は、これらのことも考慮して作りとなっている。
スピーカー本体とベースが平行にならないようになっているし、
スピーカーを支える脚部も、ハの字にすることで、やはり平行面をなくしている。

台輪(ハカマ)付きのスピーカーでも、この定在波は発生している。

Date: 1月 21st, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その46)

ビクターのZero-L10とSX1000 Laboratoryの間には、SX1000が存在する。

SX1000の登場は1988年、SX1000 Laboratoryは1990年。
この5年の間に、個々のユニット、エンクロージュアは細部が見直され、さらに聴感上のSN比は向上している。
エンクロージュアの仕上げも、カナディアンメイプル材をイタリアで染色するという、
凝ったツキ板の採用で、日本のスピーカーには珍しい雰囲気をまとっている。

だが、これ以上に外観の変化で目につくのは、スタンドにおいて、である。

SX1000は、LS1000という専用スタンドが別売りされていた。
このスタンドの構造は、基本的にはZero-L10のものは同じだ。

それがSX1000 laboratoryではインディペンデントベースという名の専用スタンドが、最初から付属している。
SX1000 laboratoryは、エンクロージュアの底面も、他の面と同じ仕上げが施されている。
いわゆる6面化粧仕上げで、大型のブックシェルフ型に分類されるだろうが、
実際にはインディペンデントベースと一体で開発されたものだけに、
この専用ベース込みでの、中型フロアー型と見るべきだ。

このインディペンデントベースの構造は、LS1000とは、まったく異っている。

Date: 1月 19th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その45)

ビクターのZero-L10とSX1000 Laboratoryを比較する。

Zero-L10は口径39cmコーン型ウーファー、21cmコーン型ミッドバス、6.5cmドーム型ミッドハイ、
3cmドーム型トゥイーターからなり、クロスオーバー周波数は230、950、6600Hz。

SX1000 Laboratoryは、31.5cmコーン型ウーファー、8cmドーム型スコーカー、3cmドーム型トゥイーターで、
クロスオーバー周波数は440、5000Hz。

Zero-L10のミッドハイとトゥイーターの振動板はピュアファインセラミックス、
SX1000 Laboratoryのスコーカーは、ダイヤモンドをコーティングしたピュアファインセラミックス、
トゥイーターはダイヤモンドになっている。

SX1000 Laboratoryの振動板は、より精確なピストニックモーションに必要な条件を、
Zero-L10のそれよりも高い次元で満たしている。

注目すべきはSX1000 Laboratoryのスコーカーで、
Zero-L10のミッドバスとミッドハイが受け持っていた帯域を、
このユニットひとつで、ほぼカバーしている。

ウーファーもひとまわり小さくすることで、指向性を犠牲にすることなく、440Hzまで受け持たせている。
これがZero-L10と同じ39cm口径なら、指向性がやや狭くなりはじめる帯域になってしまったであろう。

SX1000 Laboratoryのインピーダンスは4Ω。ウーファーに直列に入るコイルの値も、
8Ωにくらべて小さくて済む。

Date: 1月 19th, 2009
Cate: 4343, JBL, SX1000 Laboratory, Victor

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その44)

4343は、トゥイーターの2405は、ミッドハイの横に配置されているが、
基本的なユニット配置は、インラインになっている。

ダイヤトーンのDS5000とビクターのZero-L10は、どちらもインライン配置を取っていない。

ビクターはG (Gliding) ラインと名付けられた、独自の配置で、上3つのユニットが弧を描くようになっている。
ダイヤトーンの配置は、できるだけ4つのユニットが近接するようになっている。

4ウェイ構成で特に問題となる、垂直方向の指向性を、どれだけ均等に保てるかに対する、
それぞれの、その時点での答えであろう。

この問題に関しては、ユニットの数を減らすのも答えである。

スピーカーユニットの振動板に、より高剛性、より内部音速の速い素材を採用し、
ピストニックモーション領域を、さらに可能な限り広くしていくことで、3ウェイ構成へと、進化していける。

ビクターの解答が、SX1000であり、SX1000 Laboratoryである。

Date: 1月 18th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その43)

分割振動が起きる周波数をできるだけ高いほうに移動させ、
ピストニックモーションの領域の拡大、より精確な動きを実現、
さらに4ウェイにして、それぞれのスピーカーユニットの、優れている領域のみを使う。

そうすることで浮かび上がってきたのが、エンクロージュアの鳴きだった。
箱鳴りである。

響きのいい素材でエンクロージュアをつくろうと、板厚を増し補強桟をさらに入れ、強度を高めようと、
スピーカーユニットがピストニックモーションなのに対して、
エンクロージュアの鳴きは、ピストニックモーションで振動することは、まずない。

このふたつの響きは、性質の異るものである。
だからこそスピーカーユニットの性能が高くなればなるほど、異質の鳴りだけに、
エンクロージュアの鳴きが、以前よりも耳につくようになってきた。そう言えないだろうか。

ならば、どうするか。
エンクロージュアを、というよりも、エンクロージュアを構成するそれぞれの面──
左右の側板、天板、裏板などをピストニックモーションで振動するような構造にすればいい。

少なくとも、面積の大きい左右の側板だけでも、そういう構造にするだけで効果はかなり期待できるような気がする。

具体的にどうするか、2つほど考えている。
ただ作るのがどうやっても面倒なので、もうすこし簡略化できる構造を考えつくまでは、
手がける気が起きない。

Date: 1月 18th, 2009
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その42)

雑共振、不要輻射をひとつひとつできるだけ抑えていく。
結果、確かに聴感上のSN比は、少しずつ確実に高くなっていく。

けれど、同時に、世の中に存在する、すべての物質には固有音がつきまとう。
どんなに高剛性で内部音速が速い素材であろうが、固有音から逃れることは出来ない。

その固有音が、いままで雑共振や不要輻射にマスキングされていたのだろうか、
ダイヤトーンでいえば DS5000の6年後に登場したDS-V9000は、より徹底した高SN比を実現したためであろう、
特にドーム型振動板に採用されたB4Cの固有の音が、際立って聴こえる。

これはビクターのZero-L10にもいえる。
やはりDS5000より3年後に登場した分だけ、DS5000よりも、高SN比化の手法が随所に見られる。
そして、その分だけ、やはりドーム型振動板のセラミック特有の音が、際立つようになった、と私は受けとめている。

いま思うと、DS5000は、なかなかバランスのとれたスピーカーだったのかもしれない。

そういえば、早瀬さんが、昔、吉祥寺に住んでいたときのスピーカーがDS5000だった。
意外に小さめな音量で鳴っていたように記憶している。
しかも、そういう音量でも、音が痩せるということはなく、余裕があって、静かに鳴っていた。

Date: 1月 14th, 2009
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その41)

雑共振を抑えるだけでなく、不要輻射も抑えることで聴感上のSN比は、確実に向上していく。

振動板から出るより先に、スピーカーのフレームから音が出ることは以前書いたとおりだ。
フレームの表面処理も重要になってくるし、フレームをフロントバッフルに固定しているネジにも言える。
ダイヤトーンのDS10000、DS9Zのネジの頭にゴム製のキャップをかぶせていた。
ネジの頭の凹みから不要輻射を抑えるためである。このキャップにも、DIATONEの文字が入っていた。

ラウンドバッフルの採用も、不要輻射を抑えるためで、
DS5000は曲線ではないけれど、両サイドを斜めにカットすることで、鋭角な箇所をなくしている。

4343も、後継機の4344、4344 MkIIも、フロントバッフルはすこし奥に付いている。
その分、直角のコーナーが増えることになり、不要輻射の箇所も増しているわけだ。

4348が、音響レンズの採用をやめたのも、フロントバッフルも引っ込ませていないのも、
聴感上のSN比向上のためであろうし、実際に早瀬さんのところで4343Bと直接比較した際にも、
はっきりと、そのことが確認できたし、
おそらく今後JBLは音響レンズ付きのモデルを開発することはないであろう。

ダイヤトーンのスピーカーは、DS5000までは、フロントバッフルにレベルコントロールがついていたが、
その後に出た機種、DS1000から、レベルコントロールそのものがなくなってしまう。

レベルコントロールを廃したことに賛否あったが、これも不要輻射をなくすための手法である。
レベルコントロールのツマミも、そのまわりのパネル部分も雑共振と不要輻射の元である。

Date: 1月 14th, 2009
Cate: 4343, DIATONE, DS5000, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その40)

聴感上のSN比を高めるために、井上先生が4343に施されたことを一言で表せば、雑共振を抑えることである。

このことはダイヤトーンのDS5000やビクターのZero-L10を仔細に見ていけば、納得されるだろう。
ひとつひとつ具体例をあげていこうと思ったが、そうすると、この項がいつまでも終らないので省かせていただく。

それでもいくつかあげれば、吸音材はどちらもウール100%の天然素材だし、
エンクロージュアのどの部分を叩いてみても、雑共振を感じさせるところはない。
Zero-L10はドーム型振動板の保護用の金属網を着脱できるようになっていた。
ダイヤトーンもDS5000ではないが、DS1000あたりから鉄と銅の異種金属を使い、
少しでも影響を少なくしようとしていた。

異論もあるだろうが、スピーカーユニットの分割振動も、ある種の雑共振といえるだろう。

国内メーカーが、スピーカーの振動板に高剛性の素材を使いはじめたころから、
聴感上のSN比の向上が始まっていた、といえるし、
ピストニックモーションの追求は、SN比の追求でもあった。

Date: 1月 9th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その39)

アンプは何も複雑な回路構成のものでなくてもいい。
アナログディスク全盛の時には、FET1石のゼロバイアスのヘッドアンプの自作記事がよく載っていた。
私も作ったことがある。電源は006P角形9V乾電池でいい。コンデンサー、抵抗の使用も僅かだ。
配線さえ間違えなければ、調整箇所もない。

ゼロバイアス・ヘッドアンプの音が優れているかどうかはおいておくが、
こんなアンプでも、プリント基板の音の違いははっきりと出す。

アンプをつくるのが面倒な人は、ガラスエポキシ基板とベークライト基板だけを買ってきて、
親指と人さし指で基板をはさみ、指で弾いた音を聞いてほしい。

テフロン基板単体を手にしたことはないので、弾いたことはないけれど、
ガラスエポキシともベークライトとも違う音なのは確かだ。

プリント基板は、トランジスター、FET、OPアンプ、真空管などの能動素子、
コンデンサー、抵抗、半固定抵抗などの受動素子を支えるベース(基板)である。

こんなことがあったのを思い出す。
DATが登場したときのことだ。ステレオサウンドの試聴室で、各社のDATデッキ、テープの試聴が終った後、
「振ってみろ」と言いながら、井上先生が、使用テープをこちらに渡された。

親指と人さし指ではさみ数回振ってみる。無音ではない。テープ機構の音がする。
カチャカチャという音、カシャカシャという感じに近い音、ガチャガチャと濁る音……、
まったく同じ音がするものはひとつもなかった。

「いましがた聴いた音と、いまのその音、似てるだろう」とも言われた。
そのとおりなのだ。

そのテープにはデジタルで記録される。にも関わらず、アナログ的な要素が音と関係してくる。

Date: 1月 9th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その38)

スピーカーの聴感上のSN比には、ネットワークの処理も、もちろん大きく関係してくる。
回路が同じ、コンデンサー、コイル、抵抗などの使用パーツも同じでも、
個々のパーツの配置や取りつけ方法が異れば、音は変るし、聴感上のSN比も良くなれば悪くなることもある。

私がステレオサウンドにいた頃のスピーカーは、海外製品でネットワークの構成に、
プリント基板を使っていないものは、ほとんどなかった。
一方国産スピーカーは、いわゆる598のスピーカー(スピーカー1本の価格が59800円のもの)でも、
ネットワークにプリント基板を使ったものは見たことがない。
たいていが木のベースにパーツを固定して、パーツのリード線同士をハンダ付けもしくは圧着している。

エンクロージュア内部の音圧は高い。ネットワークは振動に取り囲まれている。

プリント基板の採用は絶対悪だと言いたいわけではない。
ただ細心の注意が求められる。
ネットワークの設置場所は、エンクロージュア内のどこなのか。またプリント基板の向きはどうなのか。
こんなことでも、聴感上のSN比には影響する。
プリント基板の材質も、もちろん影響する。

スピーカーのネットワークだけでなく、アンプ、CDプレーヤーの大半に使われているのは、
ガラスエポキシ基板である。

20年ほど前に、マークレビンソンが、No.26Lのプリント基板を、
ガラスエポキシからテフロン製のものに交換したNo.26SLを出し、その音の違いが話題になった。
プリント基板が異るだけで、回路もその他の使用パーツはまったく同一なのに、
大きく音が変化したからだ。

このときテフロン基板の電気的特性の良さが注目されたが、理由はこれだけだろうか。

アンプの自作経験がある方のなかには、
プリント基板の材質によって音が違うのは経験されているだろう。
テフロン基板なんてものは入手が容易でないため比較対象に入らなかったが、
少なくともベークライト基板とガラスエポキシ基板の音を較べると、
電気的特性、信頼性ではガラスエポキシが基板が上だし、価格も高いが、
こと音に関しては、ガラスエポキシ基板がいいとは言い切れない。

Date: 1月 7th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その37)

エンクロージュアの仕上げで、スピーカーの音は変る。

ツキ板と塗装の違いもあるし、
塗装にしても、一回だけの塗装と2回、3回と重ね塗りしたものも違うし、
一般的なウレタン塗装と、ダイヤトーンがDS10000で採用した漆黒塗装でも、大きな違いがある。

エンクロージュア表面の仕上げが音に影響することは、具体例を細かく挙げなくても周知のことだろう。

エンクロージュアの表面は、なにも表から見えているだけではなく、
エンクロージュア内部から見れば、内側もまた表面である。

外側の表面を丁寧に仕上げているスピーカーでも、エンクロージュア内部、
内側の表面を仕上げているものは、おそらくほとんど存在しないだろう。

けれど、エンクロージュア内部の音は、吸音材の違いが音となって表われるように、封じ込められるものではない。

手間もお金もかかるのはわかっている──。
聴感上のSN比をさらに高めるためには、内側の表面も仕上げたほうがいい。

Date: 1月 6th, 2009
Cate: 4343, JBL

4343と国産4ウェイ・スピーカー(その36)

聴感上のSN比に関係するものとして、エンクロージュア内部の吸音材もあげられる。

ダイヤトーンのDS5000は、SN比の劣化を嫌い、グラスウールではなく100%のウールを採用している。
ビクターのZero-L10もそうだ。

グラウスウールは工業製品で、繊維の一本一本がほぼ同じ太さで同じ長さ。
つまりグラスウールが立てる音、いいかえれば雑音はある帯域に集中する。
帯域が分散してれば、それぞれのレベルも低く、それほど聴感上のSN比を劣化させないが、
なまじ均一なものをつくるのが得意な日本製だと、それが裏目に出てしまう。

4343当時のアメリカのグラスウールは、日本製ほど繊維の太さも長さもそれほど揃っていない。
工業製品としては、出来が悪いということになるのだが、このことがかえって聴感上のSN比を、
国産グラスウールほどは劣化させなかった。

グラスウールを押しつぶしたときの音を聴いてみるとわかる。
その音がエンクロージュア内で発生しているのだ。