デンオン DCD-1800

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 一昨年、脚光を浴びて新登場したCDプレーヤーも、大勢としては、ローコスト化の方向に向いながらも、すでに、第二、第三の世代に発展しているが、今回、デンオンから、第二弾製品として、同社独自の開発によるDCD1800が発売された。
 価格的にも、標準と思われるクラスの製品で、デザイン的にも、左右にウッドパネルを配した、同社の高級モデルに採用されるポリシーを受継いだ落着いた雰囲気を備えており、機能面でも、ダイレクト選曲、プログラム選曲、インデックス選曲、イントロサーチ、スキップモニター、2点間リピートを含むリピート、タイマー再生など、リモコン機能を除き、フル装備というに相応しい充実ぶりである。
 ブラックにブルーの文字が鮮やかに輝やく集中ディスプレイは、トラック、インデックス、演奏経過時間とプログラムされた曲番と次の演奏曲番表示をはじめ、プレイ、ポーズ、リピートなどの各機能が3色に色分けされて表示される。
 本棟の注目すべき点は、レーザーピックアップ駆動に業務用仕様DN3000Fに採用された扇形トレースアームの外周をモーター駆動するリニアドライブトレーサー方式が導入され、トレースアーム軸とディスク用スピンドルの2軸が完全平行を保ちながら、厚手のダイキャストベースで支えられ、かつ、ダイキャストベースはシャーシからフローティングされ、外来の振動を防止して、高精度、耐久性、応答性の早さ、などを獲得している機構にある。それに加えて電気系の最重要部たるDAコンバーター個有の、アンプでいえばB級増幅のスイッチング歪に相当するゼロクロス歪を解消する新開発スーパーリニアコンバーターを採用し、特性上はもとより、聴感上での、いわゆるデジタルくさい音を抑え、飛躍的に音質を向上させたことがあげられる。
 聴感上では、本機は、ナチュラルな帯域バランスと細かく、滑らかに磨込まれた音の粒状性が特徴である。平均的にCDプレーヤーは、シャープで、音の輪郭をスッキリと聴かせる傾向が強いが、伸びやかさとか、しなやかさで不満を感じることが多い。DCD1800は、この部分での解決の糸口を感じさせてくれるのが好ましい。
 音像は比較的に小さくまとまり、音場感もスムーズに拡がり、水準以上の結果を示すが、もう少し改善できそうな印象がある。
 問題点の出力コードの影響は、比較的に少ないが、平均的なコントロールアンプ程度の影響は受けるため、細かい追込みには、各種のコードの用意が必要である。
 機能面は実用上充分であり、機能の動作、フィーリングも、ほぼ安定している。ただテスト機では、トレイのオープン時の反応が鈍かったが、個体差であろう。安定感が充分に感じられる手堅い新製品である。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サンスイのアンプは、AUシリーズのプリメインアンプ群の充実したラインが確固たる基盤を築き、すでに8年にわたって基本モデルを磨き上げ、多くの技術的特色を盛り込みながらリファインにリファインを重ねるという、地道な歩みを続けている。初期のものと、8年後の現在のものとでは、中味は別物のアンプといってよいほど充実していながら、型番やデザインを変更せずに、また、音のポリシーも一貫したサンスイの感覚で練り上げるという地に足のついた姿勢は誰もが認めるところであろう。まさにオーディオ専門メーカーらしい自信と頑固さといってよく、また、それゆえに、今回の信頼と成果が得られたといってよい。当然、より上級のセパレートアンプの開発は技術者の念頭に常にあったにちがいないが、安易に商品として出さない周倒さも、このメーカーらしい用心深さというか、今か今かと待っていたこっちのほうが、じりじりさせられたほどである。
 82年暮に、パワーアンプB2301が発表され、続いて翌83年初頭に、その弟分ともいえるB2201が満を持して発売された事は記憶に新しい。このパワーアンプは、さすがに実力のある内容で、その分厚く、どっしりとした音の質感は、豊かな量感を伴って、音楽の表現の暖かさと激しさを、そして、微妙な陰影に託した心のひだを、よく浮彫りにしてくれる優れたアンプである。内容の充実の割には、見た目の魅力と、品位に欠けるのが憎しまれるが、部屋での存在として必ずしも表に現われることのないパワーアンプの性格上、容認できるレベルではあった。しかし、その時点においても、このパワーと対になるコントロールアンプは遂に姿を見せることはなかったのである。
 C2301としてベールをぬいだのが、その待望のコントロールアンプであって、去年のオーディオフェアの同社のブースに参考出品として展示されていたのを記憶の方もあるかもしれない。本号の〆切に、その第一号機が間に合って、試聴する機会を得たのは幸いであった。
 C2301。パワーアンプのB2301と共通の型番を持つこのモデルは、どこからみてもサンスイの製品であることが一目瞭然のアイデンティティをもっているのが印象的で、パワーアンプで苦情をいったアピアランスは、コントロールアンプでは一次元上っている。どうしても、目立つ存在であり、直接操作をするコントロールアンプとして、しかも、かなりのハイグレイドな製品ならば、使い手の心情を裏切らないだけの雰囲気を持っているべきだ。
 細かい内容は余裕があれば書くことにして、まずこのコントロールアンプの音の印象を記すことにしよう。サンスイのアンプの音の特徴はここにも見事に生きている。それは音の感触が肉厚であること。弾力性のある暖かい質感だ。脂肪が適度にのっていて艶がある。それでいて決して鈍重ではない。低音はよく弾み、ずーんと下まで屈託なくのびている。中域から高域は、決してドライにならず、倍音領域はさわやかだが、かさつかない。ブラスの輝やきは豪華だが薄っぺらではないし、芯がしっかりと通る。弦の刺戟的な音は、やや抑えられ過ぎと思えるほど滑らかになる傾向をもつ。どちらかというと解脱には程遠い耽美的な情感に満ちている傾向のアンプである。音楽は宇宙だから、そこにはすべての世界を包含するが、このアンプで天上の音楽を奏でることは無理だろう。正直なところ、筆者のように俗物として、音楽に人の魅力や生命の息吹きを求め彷徨している快楽主義者にとっては、これでよい。いや、このほうがよい。色気がある音だから。しかし、あまりに強くこういうことをいいたくなるというのは、長く聴いているとやや食傷気味になるような個性なのかもしれない……などと思ってみたりしている。なにしろ、きわめて限られた時間の試聴だから、完全に自信のある印象記は書けない。
 オーディオ的な表現をつけ加えるならばプレゼンスはたいへんよいし、定位感も立派なものだ。奥行きの再現、音場の空気感も豊かだし、見通しのよい透明度もまずまず。肉感的な音の質感だから、音像のエッジはそれほどシャープな印象ではない。シャープさを望むなら、他に適当なアンプもあるから、このほうが存在理由があると感じられる。紙数がなくなったが、このアンプも、最近のサンスイ・アンプの技術的特徴であるバランス回路方式をとっていて、出力はアンバランスとバランスの両方が得られる。
 コントロールアンプとしての機能はよく練られ、随所に細かい気配りとノウハウのみられる力作である。

ボストンアクーティックス A400

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ボストン・アコースティック。その名の示す通り、このブランドは、アメリカ東部のマサチューセッツ州生まれである。
 オーディオの好きな読者なら先刻御承知のことと思うが、このマサチューセッツ州ボストン郊外は、ちょっとしたオーディオタウンであって、あのARの誕生以来、アメリカ製スピーカーの系譜の一つを代表する地域である。その中で、このボストン・アコースティック社は比較的新しいメーカーではあるが、その血統は、まさに、イーストコーストサウンドの純血を継ぐものであり、AR、KLH、アドヴェントと同系のメーカーである。有名なヴィルチュア博士のアクースティックサスペンション理論にもとづく、密閉型の小型エンクロージュアで最低音まで再生する方式が、イーストコーストスピーカーの原点といってもよいと思うが、この基本的な発想と設計のコンセプトを受け継いで、KLH、アドヴェントといった分派が生まれたのである。
 ボストン・アコースティック社の社長であるフランク・リード氏は、まさに、AR、KLH、アドヴェントという三つのメーカーの要職を歴任してきた人物であり、技術部長のペティート氏(フランス語のプティ……本当に背が小さい人…)は、ヴィルチュア博士の理論に基づく設計の実際をAR社において担当してきた人物なのである。ボストン・アコースティック社がイーストコーストのスピーカーメーカーの正統な流れをくむ存在であるといえる所以である。
 このB・A社の現在のラインアンプの中でのトップモデルが、ここに御紹介するA400であって、この下にA150、A100、A70、A60、A40という各モデルがシリーズ化されている。トップモデルとはいえ、日本での価格が15万円台という買い易いものであるのが目を惹くが、果して、その内容と、実力はどんなものであろうか……期待と不安が入り交った心境で、このニューモデルに接したのであった。
 結論から先に言いたくなる気のはやりを押え切れないので、いってしまおう。素晴らしいスピーカーシステムであった! 自宅と、SS誌の試聴室との二ヵ所で試聴したのだが、両所での音の印象はほとんど変らなかった。実は、この二ヵ所のルームアクースティックはかなり違い、いつも耳のイクォライゼーションに苦労をさせられるのだが、このスピーカーに限って、不思議なほど、同じような印象の音が聴けたのである。これは、このA400というシステムが、ルームアクースティックの影響を受けにくいことを示すものではないかと思って、英文の資料を読んだら、まず、その件が明記されていた。〝A400の独特の設計技術は、部屋の個有の癖による影響を出来る限り受けにくいものにした〟と書かれている。また、先を読み進むうちに、こんなフレーズも出てきた。〝A400は、軸上で直接音を測っても、間接音を含め、部屋でのトータルレスポンスを測っても、ほとんど同じ周波数特性を示す。技術者が今までに考えてもできなかった数少ないスピーカーシステムである。〟もちろん、メーカーの資料というものは、いいことずくめしか書いてないのは当然であるが、この件に関しては、計らずも、体験が先行したことだから信用してもよいとも思える。
 3ウェイ4ユニット構成のフロアー型で、ウーファーは20cm口径が2基、スコーカーは15cmコーン型が1基、そして2・5cmのドーム型トゥイーターが1基という内容だが、そのエンクロージュアのプロポーションがユニ−クで美しく、しかも、このシステムの優れた特性の秘密の一端を担っているものだ。幅53cm・高さ1mという大きいバッフルだが、わずか奥行は18cm少々といった薄さである。この寸法はエンクロージュア内のエアーボリュウムの厳密な計算の結果出たもので、トゥイーターのマグネット、スコーカーのキャビティ、ネットワークなどの体積を除いて、2つの20cmウーファーの低域特性の調整の最適値に設定されている。もちろん、完全密閉型だ。実に美しく、スマートな外観でもある。
 イーストコースト・サウンドといえば、重い低音の魅力が誰の耳にも記憶されているであろうが、新しいイーストコーストサウンドは鮮やかな変身をとげた。低音の質感は密閉型のエンクロージュアとは思えないもので、重苦しさがない。中高域は自然で、全帯域にわたって、きれいに位相感がそろっていてプレゼンスが豊かだ。こする音も滑らかだし、叩く音も実感があって潑剌としている。パワーにもタフだ。美しい姿といい、音の品位の高さといい、価格を超えた価値をもつ立派な製品である。

デンオン PRA-2000Z, POA-3000Z

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのセパレート型アンプの新世代を意味する製品として、PRA2000とPOA3000が登場してすでに5年の歳月が経過している。今回、その安定した評価を一段と高めるために、最新のアンプ技術が投入され、新しく型番末尾にかつてのプリメインアンプPMA700Zで使われた、栄光のZの文字がついたPRA2000ZとPOA3000Zとして新登場することになった。
 デザイン的には、当然のことながら従来の製品イメージを受継いではいるが、操作性を向上するために細部の改良点は数多くある。たとえば、PRA2000Zでは、セレクタースイッチのパネル面の凹みへの移動、パネル下側の扉部分の開閉にロック機構が追加されたことなどだ。
 PRA2000Zは、パワーアンプに先行して発売されたモデルである。前作が発売以来5年というロングラン製品であり、その間に、PCMプロセッサー、CDプレーヤーなどのデジタルプログラムソースが登場したこともあって、アンプとしての内容は完全に一新され、現時点での最新のコントロールアンプに相応しいものがある。
 基本構成は、アナログ系のフォイコライザーにCR型を採用するデンオン独自のタイプであることは前作と同様だが、今回はフォノ入力系が3系統独立したタイプに発展し、スーパーアナログ対応型としている点に特徴がある。イコライザーの構成は、入力部に約1対7の昇圧比をもつステップアンプトランスを備えたヘッドアンプ①、MC型力−トリッジをダイレクトに使用できるヘッドアンプ②とMM型に代表される高出力型力−トリッジ用のヘッドアンプ③の後に切替えスイッチがあり、これに続いてCR型RIAAイコライザー・ネットワークとフラットアンプが置かれる。
 イコライザー出力と、チューナー、DAD、AUXの3系統のハイレベル入力は、電子スイッチと高精度リレーによるソフトタッチ作動方式により切り替えられ、この部分にはプリセット機能をもち留守録音などに対応可能である。
 ファンクション切替え、テープモニター、サブソニックフィルター、バランス調整、ボリュウム調整に続き、フラットアンプ兼リアルタイムトーンコントロール部と出力のバッファーアンプが信号系の通路となる。
 フラットアンプは、最高級機PRA6000で開発された無帰還技術を発展させたハイスルーレイトなダイレクトディストーションサーボ回路による無帰還型で、トーン使用時には、ディストーションサーボ回路内組込みの素子を使うリアルタイムトーンコントロールとして動作する。なお、出力部のバッファーアンプも無帰還型ハイスピードの低出力インピーダンス型だ。
 また、電源部は、従来の2倍の容量をもつ90VA級の大型トロイダルトランス採用。AC電源コードは、デンオン伝統のPMA500以来採用されている大容量型の新開発コードで、これらの部分はコントロールアンプの死命を決定する要点である。
 POA3000ZはPRA2000Zより根本的に設計変更が行なわれていることは、定格出力が250W+250W(8Ω)とハイパワー化されていることからも明瞭である。従来のPOA3000は、純Aクラスベースの高能率型アンプを特徴としていたが、今回は、その後のデンオンアンプに採用された、一般的なBクラスベースのノンスイッチング型に変わったとともに、独自の無帰還技術が全面的に新採用され、飛躍的に高度な性能を引出している。
 無帰還方式でNF技術を使わず歪みを除去するために、静的歪み除去のためのデュアルスーパー無帰還回路、信号のフィードバック、時間遅れ、スピーカーの逆起電力の影響などを排除するパワー段の新開発無帰還回路などが駆使されている。
 電源部は、左右独立トータル5電源型で、電源トランスは大型トロイダルクイブ採用。大型のピークレベルメーターは、0dBが200W(8Ω)表示で、内部に異状温度上昇と左右チャンネルの動作状態をチェックする自己診断ディスプレイを備える。なお、機能面には、CDプレーヤーをダイレクトに接続できるDAD IN端子を備える。
 PRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて試聴をする。
 従来のペアが、柔らかく、滑らかで、美しい音を聴かせながらも、内側にかなり芯の強いキャラクターをもち、これが程よい音の芯を形成したり、ある場合には、音の傾向から予想するよりも、はるかに強く輝かしい個性を示したりする傾向をもち、柔らかく、穏やかだが、芯の強さのあるアンプという印象であった。それと比較すると、固有のキャラクターが大幅に弱められて、プログラムソースの内容に素直に対応し、柔らかくもシャープにも音を聴かせるナチュラルさが感じられる点と、音場感的なプレゼンスやディフィニッション、音像定位のナチュラルさなどが加わったことは大変に好ましい新製品らしい成果である。
 アナログディスクをプログラムソースとする場合、とくにMC型カートリッジには、PRA2000Zの独特の3系統のフォノ入力が、積極的に使いこなせるようだ。
 昇圧トランスをもつフォノ㈰は、トランスの昇圧比が低いため、あまり、カートリッジ側のインピーダンスの差に影響されず、トランス独特の程よく帯域コントロールされた密度の濃い、いわばアナログならではの豊かな音を聴かせてくれる。いわゆる低インピーダンス型MCや、軽針圧タイプの空芯高インピーダンス型MCで、広帯域型であるために、力強さや、音の厚みに欠ける場合などはこのフォノ①が好適であり、一般的な嗜好からはこのサウンドのほうが熱い支持をうけるにちがいない。
 ダイレクトにMC型が使用できるフォノ②は、①とは対照的に、広帯域でディフィニッションの優れた、現代型の軽量級空芯MC型の特徴を引出すに相応しい音である。CDを使うことが多くなると、このポジションで使う音が、アナログディスクでも標準となるであろうし、最新のアナログディスクの質的な内容を聴くためには、このクォリティがぜひとも必要になるであろう。フォノ③は、MC型なら外附けの昇圧トランスやヘッドアンプ用に使いたい。
 CDなどのハイレベル入力で音質が優れているのは、PRA2000Zの魅力だ。一般的に、ハイレベル入力からプリアンプ出力までのアンプで音の変化が大きいのが常だが、この部分の質的向上を望みたい。

ピカリング XLZ7500S

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ピカリングといえば、シュアーと並んでアメリカの力−トリッジメーカーの名門として有名だ。数多くの優れたMM型カートリッジを世に送り出してきたが、このXLZ7500Sという新しいMM型は中でもひときわユニークな製品といってよい。
 MM型カートリッジのMC型のそれに対する一つの大きなメリットは、出力電圧が高く、ヘッドアンプやトランスを使う必要がない点にあるが、この製品は、あえてそのメリットを犠牲にしてまで、音質の品位を追求したものと解釈できるのである。0・3mVという低い出力電圧はMC型並みである。
 なぜ、こういう製品が生れたのかという疑問が当然おきて不思議ではないが、筆者も、この音を聴く前には納得できなかった。ピカリング社の主張は、MM型の振動系のほうが、容易に精度を高めることが可能であるから、コイルのターン数を減らして、SN比の向上と歪みの低減を実現すれば、従来のMM型を超える製品ができるはずだというものである。MM型とMC型との優劣については、物理特性的には容易に優劣がつきにくいが、現状では高級カートリッジはMC型が常識のようになっている。したがって、このMM型がただ単に既成のMM型を凌駕するだけでは存在の必然性が危ぶまれてもしかたがないだろう。多くのMC型に比較して、性能面はもちろん、音の品位やセンスに明確な存在理由を感じさせるだけの成果があらねばならないのである。
 メーカーは、この製品の使用条件に、100Ω以上のインピーダンスで受けるように指定しているが、これは、ヘッドアンプの使用を標準として考えていることと理解できそうだ。つまりトランスは、一次インピーダンスは3〜40Ωのものが多く、筆者の知る限り、100Ω以上の入力インピーダンスをもつものはほとんどない。手許にあったトランスも、ハイインピーダンスのもので40Ωだったが、一応ヘッドアンプと平行して使ってみた。
 試聴結果は、これがMM型であろうと、MC型であろうと、そんな事を忘れさせるにたる高品位の音質であった。とにかく、音の透明度が高いのが新鮮な印象で、いかにも純度の高い、歪みの少ないトランスデューサーらしい音がする。変換器としての特性は相当に高い次元まで追求された高級カートリッジだということが感じられる。標準針圧1gでトレースは完全に安定している。このメーカーの開発テーマの一つに振動系の立上り時間の速さが上げられているが、たしかにこのクリアーでフリーな音の浮遊感は、振動系の機械歪みが少ないためであろう。最近のコントロールアンプやプリメインアンプにはMC用ヘッドアンプ内蔵のものが多いから、この小出力MM型は、なんのハンディもなしに、その美しく透明な音の魅力を評価されるであろう。

フィデリティ・リサーチ FR-7fz

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 エフ・アールを代表する独創的な発電メカニズムをもつMC型カートリッジ、FR7は、七八年の発売以来、八〇年のFR7f、八一年の受註生産のスぺシャルモデルFR7fcとモディファイがおこなわれ、すでにシリーズ製品としては、長期間にわたるロングセラ㈵を続けている。
 今回、このFR7fに改良が加えられ、モデルナンバー末尾に、このタイプの発電方式による究極のモデルを意味するZの文字が付けられてFR7fzに発展し発売された。
 力−トリッジ、とりわけMC型では、その発電メカニズムそのものが結果としての音質を決定するキーポイントであるが、FR7系の発電方式は、3Ωという低インピーダンス型ながらも、コイル巻枠に鉄芯などの磁性材料を使わずに、空芯の純粋MC型として、驚異的な0・2mVの出力電圧を獲得している点に最大の特徴がある。
 では、どうして低インピーダンス型にこだわるのか。カートリッジを電圧×電流つまり電力で考える発電機として考えてみれば、出力電圧は、同じ0・2mVとしても、インピーダンスが、3Ωと30Ωでは、負荷に流せる電流の値は、簡単に考えて約10対1の差があると思ってよい。つまり、発電できる電力としては低インピーダンス型に圧倒的な優位性があるわけで、この発電効率の高さが、例えば高能率型スピーカー独特の余裕のある力強さや、豊かさに似た、音質上の魅力のもとと考えてよく、低インピーダンス型MCを絶対的に支持するファンは、この特徴に熱烈な愛着を持っているにほかならない。
 FR7fzの特徴は、コイルの線材に特殊製法の純銅線を採用し、コイル部分の再設計をおこない、負荷インピーダンスを3Ωから5Ωに変え、出力電圧を0・2mVから0・24mVと高めたことにある。
 試聴には、トーレンスのリファレンスとSME3012Rゴールドを使用した。ただ、シェル一体型で自重30gのFR7fzでは、この場合バランスはとれるが、最適アームであるかについては不満が残る条件である。なお、昇圧トランスは、XF1タイプLおよび他のものも用意した。
 FR7fが、押し出の効いた豊かな音をもってはいるが、やや、最新録音のディスクで不満を残した音の分解能やスピード感などが、新型になって、大幅に改善されるとともに、新しい魅力として、伸びやかで活き活きとした表現力の豊かさが加わった印象である。昇圧トランスを使わず、MCダイレクト入力でも使ってみたが、やはり真の発電効率の高さは、トランスで活かされることは、その音からも明瞭である。
 製品としての完成度は、非常に高いが、アナログ究極のMC型力−トリッジとしては、現在開発中と伝えられる、カンチレバーレスのダイレクトMC型に期待が持たれる思いである。

エンパイア 4000D/III GOLD

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 国内製品では、もはやカートリッジといえばMC型といえるほどに、MC型全盛時代を迎えている。それだけに、海外製品のMM型やMI型の新製品の登場は、アナログディスクファンとしては、非常に興味深い存在としてクローズアップされる。
 今回、米国の名門エムパイアから発売された4000D/III GOLDは、同社の高級モデルとしてロングセラーを誇り、独特のサウンドの魅力をもつ4000D/III LACをベースに改良された新製品だ。
 外観上の大きな変化は、独特の板バネを使ってヘッドシェルとカートリッジ本体をクランプする方式を採用していた従来型から、一般的なボディにシェルマウント用の台座が固定されたタイプに変わったことである。これにより、非常に短いネジを必要とした取付法が改善され、機械強度的に一段とリジッドな構成になったことが利点であろう。ただ、4000D/IIIファンの目には、視覚上のオリジナリティがなくなったことは、趣味的にいえば少し淋しい印象がないわけでもないと思う。
 振動系では、GOLDの名称をもつようにカンチレバーに金メッキが施されダンピングが加わっているのが主な変更点である。
 音は一段とナチュラルになり、穏やかな定定感のあるものに変化し、改良されたことは明瞭に聴き取れる。使用上は針圧の僅かな変化で音質が変化する点に注意したい。

NEC A-11

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 アンプのエネルギー源である電源回路は電圧増幅を行なうコントロールアンプはもとより、電力増幅を行なうパワーアンプでは、直接アンプそのものの死命を制する最重要な部分だ。従来からも大型パワートランスや大容量コンデンサーの採用をはじめ、テクニクスがかつて採用したパワー段を含めての定電圧化、ソニーやビクターのパルス電源方式、ヤマハのX電源など各種の試みが行われてきた。しかし最近では、模準的な商用電源を使う電源トランス、整流器、大容量電解コンデンサーを組み合わせたタイプに戻っているのが傾向である。
 NEC A10プリメインアンプで採用され、新電源方式として注目を集めたリザーブ電源方式は、標準的な電源方式をベースに独創的な発想によるサブ電源を加えて開発されたタイプだが、今回、発売されたA11とA7では、これをさらに発展させたリザーブII電源方式を採用している。その内容は、蓄電池に代表される純直流電源とAC整流型の一般的な電源の比較検討の結果から、電源コンデンサーへ充電する場合の両者の波形の差に注目して、主整流電源の充電波形の谷間を埋める副整流電源を加えることで、限りなく純直流電源に近づけ、充電電流による混変調歪を抑え、低インピーダンスで電流供給能力の優れた電源とするものである。
 結果として物量投入型の電源となるために、価格制約上で定格出力は他社比的に少なくなるが、負荷を変えたときのパワーリニアリティは、A11で8Ω負荷時70W+70W、4Ω負荷時140W+140Wと理想的な値を示しているのは、注目すべき成果である。
 A11の主な特徴は、各増幅農独立の5電源方式とリザーブII電源、全段独立シャントレギュレーター型定電圧電源、全段プッシュプル型増幅回路の採用などである。
 A11の音は、安定な低域をベースにクリアーで、ストレートな音を特長としたA10の魅力を受継ぎながらも、一段と余裕があり、しなやかな対応を示す表現力の豊かさが加わったことが印象的だ。いわば大人っぽくなったA10といえるわけだが、試聴機は機構面での仕上げに追込みの甘さがあり、聴感上での伸びやかさ力強さがやや抑えられ、スピード感が弱められているのが残念な印象であった。

ダイヤトーン DS-1000

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンの新世代のスピーカーシステムは、大型フロアーシステム、モニター1で採用された、アルミハニカムコアにスキン材を両面からサンドイッチ構造にしたハニカム・コンストラクション・コーンの低域ユニットに、新開発のDUD(ダイヤトーン・ユニファイド・ダイアフラム)構造のダイアフラムとボイスコイルボビンを一体成形したドーム型ユニットを組み合わせ4ウェイ構成としたDS505がその第一弾だ。そして翌年のDS503、これに続くフロアー型DS5000と一年一作のペースで、そのラインナップを充実させ、デジタルプログラムソースに対応するハイスピードのサウンドを追求し続けてきた。
 今回、発売されたDS1000は、型番そのものはDS5000系を受継いではいるが、その内容は従来のシリーズとは、異なった構想に基いて開発されたオリジナリティにあふれた新製品である。
 開発の基本構想は数年にわたりモディファイを繰り返し、発展改良が加えられ完成期を迎えた、ハニカム・コンストラクション・コーンやDUDの娠動系をベースとしている。それをもとに、ユニットの原点ともいえるフレームに代表される機械的な構造面を見直し、従来よりも一段と優れた振動系の特徴を積極的に引き出し、性能が高く、音質が優れたユニットをつくり、これを従来のエンクロージュアの大小で製品の位置付けを決める手法ではなく、ダイヤトーンスピーカーシステムの出発点の主張である、小型高密度設計アコースティックサスペンション方式の小型エンクロージュアに収納しようというものである。
 エンクロージュアは放送モニター2S305で実績のある、回折効果を抑えて中音域を改善し、ディフィニッションが優れ、音質定位が明確な特徴をもつラウンドバッフルを、コンシュマー用システムとして最初に採用している。バッフルボード上には、従来モデルのようにレベルコントロール、サブパネルなどがない。これらは固有共振をもちバッフル面の振動やウーファーの背圧により駆動され、中域から高域にわたり一種のパッシブラジエーターとなる。その不要輻射を生じ音を汚していた部分を全廃し、ダイレクトプリント方式でデザイン処理を施しているのである。
 この部分の不要輻射による音質の劣化は、かねてより指摘していたことだが、やっとDS1000において初採用されたことは大変に好ましいことだ。ちなみに、どのスピーカーシステムに限らず、アッテネーターツマミ、パネルなどをガムテープなどでマスキングして聴いてみていただきたいものだ。想像を絶するほどの音質改良の効果は、誰にでも容易に聴き分けられるだろう。
 現状のシステムで、重要なバッフル板に余分な穴を開けデザイン上でのアクセントとすることは百害あって一利なしの典型だ。優れたユニットの性能、音質を劣化させる重要なファクターと知るべきである。
 ユニット構成は、27cmカーブドハニカムコーン採用ウーファー、5cmと2・3cmDUDチタンドーム型の中、高域ユニットの3ウェイ方式だが、各フレーム部分は完全な剛体構造の新設計である。低域用フレームは、振動板の反作用を受ける磁気回路の反動をフレーム自体で受けるDMM方式が特徴。ちなみに一般的フェライト磁石の磁気回路は、国内製品では構成部品は接着材で固めてあり強度的に不足しているが、海外製品は基本的に前後プレートをネジで強固に結んで固定しているのが原則である。JBLはもとより、古いボサークでさえネジ締めを行なっている。つまり反動を受ける磁気回路が宙ぶらりでは仕方ないわけだ。
 中高域ユニットも、従来型のように磁気回路をフレームで受ける方式ではなく、前プレートに振動系を直接マウントし、この部分でバッフルに取付けるダイレクトマウント方式が単純明解な処理である。
 詳細は省くが、とにかくスピード感、反応の鋭さ、早さは、このシステムの異次元の魅力である。設置方法、使用機器にわずかでも不備があれば、それを音として露呈するシビアさは物凄い。まず、これを正しく使いこなすことができれば、その腕は第一級であろう。恐ろしい製品の登場だ。

パイオニア Exclusive C5

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 現時点での世界のトップランクのコントロールアンプを目指して開発されたモデルだけに、C5は長期間にわたり培われたパイオニア独自のアンプ回路設計技術の集大成をベースに、ユニークで簡潔なコンストラクション、コンデンサー、抵抗、スイッチ類などの数多くの部品を非常に高い次元で吟味し選択して採用している。
 このように文字として書けば、ほとんどの新製品アンプのコマーシャルコピーと何の変りもない表現になるが、実際のEXCLUSIVE C5の内部を見てみると、平均的なオーディオアンプの要求度とは隔絶した、非常に高い次元での要求に基づいて開発された製品であることが、現在のアンプ設計技術の水準を適確に捉えている目をもってさえいれば、瞬時に認識できるだけの内容を備えている。
 まず外観から眺めてみると、基本的なデザインポリシーは、EXCLUSIVEの顔ともいえるパネル面の下側に、サブパネルを設けたパネルフェイスに、天然木キャビネットという流れを受け継いではいるが、手づくりのフロントパネルは、C5では一枚構成のシンプルなタイプに整理され、C3、C3aではサブパネルとなっていた下側のパネルは、実際には開閉できず、単なるデザイン上の処理となっている。
 特徴的なパネル左端の長方形の部分は、大型のパワースイッチで、本機独特のマルチトランス・パワーサプライ方式、ACアウトレットのON・OFF用として、音質上でも重要な部品であり、ここでは特殊なタイプが採用されている。
 内容的なアンプとしてのブロックダイアグラムは、入力部に3Ω/40Ω切替型のMCカートリッジ用昇圧トランスを持つフォノイコライザー部、TUNER、AUXなどのハイレベル入力用と、テープ入力用に独立したバッファーアンプ、フラットアンプ部、トーンコントロールアンプとサブソニックフィルター、出力用バッファーアンプ部で構成され、ボリュウムコントロールは、フラットアンプの前に、バランサーは出力用バッファーアンプの前に置かれるレイアウトである。
 これらの各アンプ部は、モジュールアンプ化されていることが本磯の大きな特徴である。280μ厚無酸素圧延銅使用のガラスエポキシ基板上にトランジスター、コンデンサー、抵抗などの構成部品をマウントし、これをポリプロピレン系の特殊な導電樹脂ケース内に、鉛ガラスフィラーを混入した高比重エポキシ樹脂で固め、音質上有害な振動や電磁波の除去と、熱的安定度をも含めた耐久性、安定度の向上をはかった設計であり、フォノイコライザー部のイコライザー素子も同様な構造のCRモジュールが採用され一般的なアンプの内部に見られる基板上に半導体、コンデンサー、抵抗、スイッチ類が林立するアンプらしさは皆無に等しい。
     *
 このところ、アンプの話題は、信号系の回路構成上の斬新さもさることながら、アンプの基本である電源部の見直しが各社でおこなわれ、それぞれにユニークな名称がつけられているようだが、C5の電源部もオーソドックスな手法によるマルチトランス・パワーサプライ方式を採用している。
 基本的な構想は、フォノイコライザーアンプ部、フラットアンプ部の左右チャンネル用4ブロックに、それぞれ独立した4個のパワートランスを使用する方式で、アンプにとっては理想的ともいえる電源方式であり、従来の巻線のみ独立したタイプににくらべ、電源による混変調歪やセバレーションの劣化に対して効果的な手法である。
 本機の電源部は、この4個のトランスに加えて、信号系制御用の主にリレー用に使う電源用の専用トランスを備えるため、これも音質に直接関係をもつAC100Vラインの配線が複雑化する難点をもつが、この解決策として、5個の電源トランスとACアウトレット用の6系統のACラインに対応した無酸素銅線使用の6本のAC用コードを束ねた新開発の電源コードが開発され、各電源トランス間の干渉を低減するとともに、電源インピーダンスをも低くしている。また電源プラグは、当然のことながらEXCLUSIVEらしく、極性表示付である。
 MC用昇圧トランスの採用も本機の大きな特徴である。昇圧トランスのポイントは鉄芯にあるが、ここでは独自の53μ厚リボンセンダストをトロイダル型として採用。パーマロイにくらべ広帯域であり、非結晶性材料のような経年変化のない特徴があるl。巻線はφ0・25mm無酸素銅線を2本並列巻としDCRを低くし、MC型独特の低電圧・大電流を活かしている。
 その他、BTS規格の0〜−90dBと−∞〜の40ステップのアッテネーターの採用、新開発のリレーによる入力セレクター、テープ関係などの信号切替、トーンフラット位置でリレーにより完全にトーンコントロールアンプがディフィートするトーン回路、22番線相当の無酸素銅撚線を芯線とし、低容量ポリエチレン絶縁物、同じく無酸素銅線と導電性ポリ塩化ビニール使用の高性能シールド線など、機構面での非磁性材料使用モノコンストラクション筐体、非磁性ステンレスネジなど、単体部品開発から手がけている点は、類例のないものだ。
 ヒアリングは、EXCLUSIVE M5をはじめ、2〜3機種のパワーアンプと組み合わせて使用したが、基本的にキャラクターが少なく、優れた物理特性をベースとしたナチュラルな音が聴かれる。聴感上のSN比に優れ、音場感的な定位やパースペクティブを誇張感なくサラリと聴かせる。M5との組合せでは、全体に滑らかに美しく音を聴かせる傾向を示すが、旧いマランツ♯510では、整然としたダイナミックな押し出しのよい音を聴かせる。
 現代の優れたオーディオ製品に共通する特徴は、これといった個性を誇示する傾向がなく、自然な応答を示すことだが、C5も同様である。いわゆる、シャープな音とか雰囲気のある音という表現は、結果では生じるが、使用条件、使用機器でかなり変化をするため、簡単にC5の音はこうだと判断するわけにはいかない。あくまでナチュラルで、正確な音といったらよいであろう。とくにコントロールアンプで音の差が生じやすいハイレベル入力からの性能が優れているようで、この点はCD、デジタルプロセッサー用として、現代アンプらしい特徴である。

アクースタットとのスリリングな一年

黒田恭一

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「同社比による徹底研究 アクースタット篇」より

 去年、つまり一九八二年の手帳を、調べてみた。なにがしりたかったのかというと、はじめてアクースタットのスピーカーをきいたのがいつであったかである。
 むろん、そのときの鮮烈な記憶が薄れているというわけではない。アクースタットではじめてきいたレコードがなんであったか、誰ときいたのか、その日の天気はどんなであったかといったようなことは、よくおぼえている。しりたかったのは正確な日付けである。なぜしりたかったかというと、あれからずっとアクースタットにかかわりつづけてきてしまったので、ぼくとしてはいったいどの程度の時間をアクースタットの周辺でうろうろしたのかをはっきりさせる必要があったからである。
 アクースタットのスピーカーをはじめてきいたのは、去年の四月二十九日である。場所はステレオサウンド社の試聴室であった。一緒にきいていたのは作曲家の、もはやすでに卵とはいいかねる、しかしまだ一人前の作曲家というには多少無理がなくもない草野次郎であった。草野君はぼくの教えているさる大学の、といってもぼくは集中講義をするだけの非常勤講師でしかないが、そういうぼくの受け持っているゼミの生徒である。先生よりすぐれている生徒というのはままいるものであるが、草野君は少し前までそのような正とのひとりであった。
 しかも、その草野君もまた、なかなかのオーディオ通でもあった。そこで、編集部の要望もあって、ステレオサウンド社が「ステレオサウンド」の別冊として企画した「サウンドコニサー」のための試聴者として参加してもらうことになった。そのときに登場したのがアクースタットであった。
     ●
 男女の関係で一目惚れということがあるそうであるが、オーディオ機器とききてとの関係でも似たようなことがある。ただ、男女の関係での一目惚れは情熱的なおこないに思えるが、オーディオ機器での一目惚れは情熱の証明にはなりがたいようである。
 自分の過去をふりかえってみると(むろんふりかえってみるのは男女の関係についてではなく、オーディオ機器との関係についてである)、一目惚れの連続であった。そのためにこれまでにも、オーディオ通を持って自認する友人たちに、お前のオーディオの好みは支離滅裂でわけがわからんと、しばしば批判されてきた。たとえわけがわからんといわれたって、ぼくに説明のつくはずもなかった。かつて、スピーカーをAR3からJBL4320にとりかえたときも、そういわれたことがある。
 一九八二年四月二十九日も、その一目惚れをやってしまった。これは凄い、アクースタットのモデル3の音をほんの一分もきかないうちに、まずそう思った。
 そこで血迷ってさっそく買いこんでしまったわけであるが、その辺の経過について、あるいはそのときにアクースタットのモデル3というスピーカーのどのような音に決定的にとらわれたのかといったようなことは、かつて一度書いたことがあるので(ステレオサウンドNo.63)、恥のうわぬりをしてもはじまらないであろうから、ここではくりかえさない。ここで書くべきは、その後のこと、つまりぼくにおけるアクースタット騒動の後日談である。あれから後、さらにいろいろなことがあり、さらについ最近また大騒動があった。
 オーディオ機器は、むろん買うのも大変であるけれど、買ってから後がこれまた大変である。とどけられた、電気を通した、はい、音がでました、それですめばいいが、そうは問屋がおろさないことは、同志諸兄におかれては充分にご存じの通りである。しかし、そのために、オーディオは趣味たりうる。とどけられた、電気を通した、はい、これで洗濯できますという洗濯機とオーディオ機器とはやはり違う世界のものであろう。電気洗濯機的なオーディオ機器が一方にあることは歓迎すべきであるが、電気をお通してからできるオーディオがやはりもう一方にあってほしい。
     ●
 アクースタットのモデル3はなかなか微妙なところのあるスピーカーである。スピーカーのきかせてくれる音との対話をくりかえしつつ、そのスピーカーをひたひたと追い込む使い手側の執拗さがないかぎり、このスピーカーの最良の面はなかなかひきだしにくいように思う。
 このようにいうと、アクースタットのモデル3があたかもじゃじゃ馬のごとくに考えられてしまうのかもしれないが、このスピーカーは俗にいわれるじゃじゃ馬ではない。むしろ逆である。アクースタットのモデル3を敢えてなにかにたとえるとすれば、これは、じゃじゃ馬どころか、慎ましすぎる淑女である。
 どこが淑女か。ついに下品な音をださないところである。彼女の口調が大袈裟になることは決してなく、どちらかといえば内輪になりすぎるきらいさえある。そのような属性はやはり、じゃじゃ馬のものではありえず、淑女のものというべきであろう。使いはじめの段階でいくぶんもじもじするようなところがあるところもまた、淑女的といえなくもない。
 淑女は淑女で素晴らしいとは思うが、スピーカーにあっては淑女的性格そのものがかならずしも美徳にはなりえない、ということを忘れるわけにはいかない。ききてがきく音楽は実にさまざまだからである。およそ淑女的などとお世辞にもいうことができない、けたたましくてワイルドな音楽だってききてはきくことがある。
 多くのスピーカーではあたかもじゃじゃ馬を調教するといったかたちで使い込んでいくようであるが、このアクースタットのモデル3の場合には方向としてむしろ逆である。内気な淑女の隠れた可能性を、スピーカーのきかせてくれる音に耳をすませつつ、徐々にほりおこしていくのである。そのうちに、気持も次第にほぐれてきて、はじめはくちかずの少なかった淑女もうちとけた表情になり、自分から積極的にはなすようになる。そこまでもっていくのがなかなか大変である。その努力を怠る人にはこの淑女は手においかねるかもしれない。
     ●
 たとえばききてに対してのスピーカーの表面の角度をどうするか、これもなかなか重要問題である。角度をほんのちょっと変えただけで、きこえ方はがらりと変わった。このことはいずれのスピーカーについても大なり小なりいえることであるが、アクースタットのスピーカーでの変化量は、敢えていうが絶大である。調整などというもっともらしいいい方は好むところではないが、メジャーを片手にほんの少しずつスピーカーを動かすようなおこないは、やはり調整というよりほかに適当な言葉はないであろう。
 角度といえば、平面上の角度のみならず、床に対しての角度もまた、きこえ方にわずかとはいいがたい影響をおよぼした。したがってこの点でも微妙な調整が必要になった。このような調整にはこれといった基準があるわけではなかった。スピーカーのきかせてくる音と自分の耳との対話を繰り返しつつ、そこにある種の仮説をたて、手探りで淑女の可能性を探っていくだけであった。このときのたよりは自分の耳だけである。こうかな? それともこうかな? と自問しながら作業を進めるよりなかった。
 そのほかにもまだ、スピーカーの背後の壁面までの距離をどの程度にするとか、スピーカーの横の壁面まで距離をどの程度にするとか、あるいは二つのスピーカーをどの程度離して置くかとか、あれこれこだわることにかけてはことかかなかった。そのようにこだわることがたのしみでもあったのであるが。
 そうはいっても四六時中スピーカーの調整にのみかかわりっきりになっているわけにもいかなかったので、仕事が一段落したときとか、あるいは気分転換をするときとか、そういうときにこまめに手をかけつづけて、淑女の隠れた可能性を一応自分なりにひきだしたつもりでいた。しかし、まだ、先があった。したたかな淑女はさらに未知なる魅力を隠していたのである。
     ●
 その未知なる魅力をひきだしたのはラスクであった。ラスクをしいて、その上にアクースタットのモデル3を試しにのせてみた。さして期待はしていなかった。JBL等のボックス型のスピーカーで効果的なのは、すでに自分の耳で確かめていた。ボックス型のスピーカーにラスクが有効なのは、このかならずしも上等とはいいかねる頭脳でも一応理解できた。
 ボックス型のスピーカーと較べて、エレクトロスタティック型のスピーカーであるアクースタットのモデル3は、床に接している面積が少ない。ということは、ラスクに接する面積も少ない、ということである。それでもなお効果があるのであろうかとここでのラスクの働きをいくぶん訝る気持がなくもなかった。
 しかし、ラスクをしいたことで、音がひきしまった。それまでだってそんなに音がふくれていくわけではないが、目にみえて(?)くっきりした。そのときまでにぼくの部屋にアクースタットのモデル3が運びこまれてからすでに一年以上の時間が経過していた。ラスクをしいた段階で、一応の目的地にたっしたような気持になっていた。
 誤解のないように書きそえておきたいと思うが、そこにいたるまでの作業を、自分としては苦労などと思えなかった。楽天的な性格の持主である男は常にいそいそとことをおこなった。スピーカーの角度をあれこれなおしたりしているときはたのしかった。それにもともとが気に入ったスピーカーの隠れた魅力をさぐっていたわけであるから、好きになった人にあうたびにその人のいいところに気づくようなもので、アクースタットのモデル3にかかわりつづけた日々はまことにハッピーであった。出来の悪いじゃじゃ馬を調教するときの苦労などそこであじわうはずもなかった。
     ●
 かくしてぼくは、アクースタットのモデル3との蜜月をぼくなりにたのしんでいた。そこに、またしても(!)メフィストフェレスのごとき声で、「ステレオサウンド」編集部のM君がぼくに囁いた。アクースタットのほかのスピーカーもきいてみませんか?
 いつだってぼくの泰平の夢を破るのはM君である。今回もそうであった。しかも今回はぼくのおかれている状況がいつもと違っていた。そのときすでに新しい音楽雑誌「音楽通信」の準備に入っていたので、ぼくの気持としてはスピーカーどころではなかった。しかし、悲しむべきことに、誘惑に弱い男はメフィストフェレスを撃退できない。そこをM君に狙われる。まあ、モデル3の姉妹たちがどんなであるか、こういうチャンスにみておくのも悪くないな、と思った。
 そしてある日、2M、3M、それに2+2といったアクースタットの三種類のスピーカーが、ぼくの部屋に運びこまれた。たまたまそれらのスピーカーが運びこまれたときには仕事の都合で家にいられなかった。家に帰ってみてびっくりした。それまでのスピーカーも含めて都合八本のスピーカーがずらりと並んで立っているさまをみて、これはまさに摩天楼の林立するニューヨークの夜景を飛行機から眺めているようなものではないかと呟かないではいられなかった。
 それまでのスピーカーも人並みはずれてのっぽであったが、それさえも2+2の尋常ならざるのっぽさにくらべれば、可愛いものであった。摩天楼の林立した部屋の中はいつになく狭苦しく感じられた。
 出来るだけ試聴中のスピーカーに影響を与えないようにと、それ意外のスピーカーを隅の方におしやってききはしたものの、おそらくなんらかの影響からまぬがれることはできなかったであろうと思う。ともかく、モデル3の姉妹を、とっかえひっかえきいて、内心ほっとした。
     ●
 なぜかというと、モデル3がアクースタット姉妹のなかでも優れているということがわかったからである。そうはいっても、この比較には、いくぶんフェアでないところがなくもない。なぜなら、モデル3は、ぼくの部屋ですでにわずかとはいいかねる時間をすごしていたわけであるから、設置場所等のことで或る程度のところまではもっていってあったが、ほかの三機種についてはその点でハンディキャップがあった。考えてみれば、やはり我がモデル3がいいなと思ったのも、至極当然であった。
 むろん、新参の三機種それぞれの間に、多少の優劣の差は認められた。ただ、どれがよくて、どれがよくなかったというようなことをいう前に、ひとことつけくわえておくべきことがありそうである。
 アクースタットのスピーカーでは、そのスピーカーのフロントパネルの表面面積がそれをきく部屋の容積と微妙に関係するようである。つまり、その関係がアンバランスになっては、望ましい結果がえられないということである。Aという大きい部屋で好ましくなったものでも、Bという小さい部屋ではその本領を発揮しえないということがアクースタットのスピーカーにはある。このことはほかのメーカーのスピーカーについても大なり小なりいえることではあるが、アクースタットのスピーカーではその点がかなり厳しいところがある。
 したがって、以下のことは、その辺のことをふまえた上でよろしくご判読いただきたいと思う。たまたまぼくの部屋の容積では好ましい成果をあげたものの、別の部屋に持っていけば、これがあのスピーカーか? といったことにもなりかねない。アクースタットのスピーカーではこれがベストといかれば、それにこしたことはないのであるが、このスピーカーについてはケース・バイ・ケースで語るより手がない。そこがアクースタットのスピーカーのおもしろいところでもあり、同時に難しいところでもある。
     ●
 ぼくの部屋できいた感想をもとにいうとすれば、これではやはりこじんまりしすぎると思ったのが2Mであった。たの2Mのきかせた音は、いかにも部屋の容積に対してスピーカーの表面面積が不足しているといった感じのものであった。おそらくそのようになるであろうということは、あらかじめ予想がついた。
 このような場合のききての心理というのはおかしなもので、このスピーカーはこの程度であるかと思えたときには、やはり安心するのであろう。きき方が冷静である。ふむふむ、きみもユニットがふたつなのに、よくがんばるね、といったところである。金持喧嘩せず、とはうまいことをいったものである。これなら我が淑女の方がいいと思えているから、こっちにはまだ余裕が或る。いかにもいじましい心理ではあるが、ともかく余裕が冷静さを保たせているとみてよさそうである。
 冷静でいられるということは、熱中できないということで、一通りの試聴をすませてしまえば、さらに繰り返してきこうとしないのが人情である。この2Mのきこえ方にしても、ぼくの部屋ではいくぶんものたりなかったということでしかなく、部屋の条件が違ってくれば、おのずと2Mに対しての感想も変わってくるはずであった。
     ●
 期待に胸躍らせてきてたのは、のっぽの2+2であった。なにぶんにもユニットが二段になっているのであるから、すくなくともみた目でほかのアクースタット姉妹とは大変に違っていた。ききての耳の位置にはおよそ関係がなさそうにおもえるところまでユニットがついていることが、聴感上どのように影響するのかが理解できなかった。しかし、ここで肝腎なのは、頭で理解することではなく、耳で納得することであった。それにはまずきいてみるより手がなかった。
 たしかに響きのスケールは大きかった。ただ、ほんのちょっとではあるが、ひっかかるところがあった。音としてのまとまりがよくなかった。音像もいくぶんふくれぎみであった。スピーカーの角度とかあれこれ、一通りのことはやってはみたものの、なるほどと納得できるところまではいかなかった。それまでのモデル3のきかせる音に較べて大味に感じられた。ここでまた、ほっと、安堵の溜息をついた。
 別にスピーカーの勝ち抜き戦をしていたわけではないが、ききての気持としては、無意識のうちに我がモデル3対2M、あるいはモデル3対2+2といったようなきき方をしていた。そして、ともかく2+2との大戦までは、まずまずの成果をおさめてきた。安堵の溜息はそのためのものであった。
     ●
 残るは3Mであった。これは我がモデル3とユニットの数が同じである。ただ、ユニットそのものが多少違っているということであった。それに、ユニットの下に台のようなものが新たにつけられているので、全体としての背丈がいくぶん高くなっていた。
 これは、きいてみて、おやっと思った。モデル3と、微妙にとはいいがたい、かなりきわだった違いがあった。敢えてモデル3を古風な淑女というなら、3Mは現代的な淑女であった。
 もっとも違っていたのはそれぞれのスピーカーのきかせる音の輪郭であった。モデル3の輪郭には丸みがしり、それがまたモデル3の魅力にもなっているが、3Mではよりシャープであった。3Mではきこえ方がきりっとしていた。これは! と、モデル3派のききては慌てた。音としてのまとまりもよかった。なにぶんにも一年以上ならしてきたモデル3と新品の3Mとを比較しているのであるから、もともと較べようのないものを較べているようなものではあるが、それでもこの違いは気になった。
 しかし、このモデル3と3Mの音の違いは、優劣でいえる違いではなかった。浮気性のぼくは3Mの方にぐっと傾いてしまったが、ききてによってはモデル3の方がいいという人がいても不思議のない、ぼくの部屋でのきこえ方であった。
     ●
 ここでふたたび、メフィストフェレスが登場する。さすがにこっちのことをしりつくしているメフィストフェレスである。ぼくが3Mの音をきいてぐらっときたところをみはからって、こう囁いた。どうです、この3Mのユニットを倍にした6というのがあるんですが、きいてみませんか? まだ日本に入ってきたことはないんですが、もしききたいのなら取り寄せてもらいますけれど。いや、ただきくだけでいいんですよ。なんともこしゃくなメフィストフェレスである。モデル3だけをきいていたときにはことさらのものでもなかったアクースタット姉妹への好奇心を、2M、2+2、さらに3Mときいてきて、刺激されたところでの、そのメフィストフェレスの言葉であった。ついふらふらっと、そうだな、きいてみたいな、と後先のことも考えずにいってしまった。
 なぜかいずれのメフィストフェレスも約束を守る。M君というメフィストフェレスも例外ではなかった。しばらくして、その6なるアクースタットのスピーカーが、ぼくの部屋に運びこまれた。覚悟はしていたものの、6の大きいのには驚かないではいられなかった。2+2より横にひとつずつユニットがふえただけのはずであるが、とてもそうとは思えなかった。
     ●
 これもまた、あの2+2のように音像が大きくなりすぎるのであろうかと、その表面面積の大きさから推測したことをぼんやり考え、さしたる期待もなくききはじめた。
 このスピーカーが運びこまれたときにも仕事で留守にしていて、家に戻ったときには深夜に近かった。明日の朝ゆっくりきこうと一度は思ったものの、やはり気になったので、プレーヤーのそばにたてかけてあったレコードをかけてみた。
 気がついたら、朝になっていた。あたりにはあちこちの棚からとりだしたレコードでちらかっていた。次の日の予定のことも忘れて徹夜できいてしまったことになる。おかしいな、カーテンの間が明るいけれど、どうしたんだろうと思って外をみたら、朝になっていた。
 術の音が、背筋をしゃんとのばして、思い切りよくなっているといった気配であった。むろん思い切りよくなっているといっても、アクースタット姉妹のひとりである6のことであるから、野放図になっているはずもなかった。よくいわれるスケール感を、いささかもこれみよがしになることなく、ごく自然に無理なく、6は示した。オーケストラの響きはすーと向うの方にひろがり、ときたまソロをとる楽器があったりすると、そっちの方角に目をやってしまいそうになるほどなまなましかった。
 比較的大きな楽器編成の音楽からききはじめて、おそるおそる小編成のアンサンブルによるものに、さらに声とピアノによるリートにといったように移行していった。6は音像を肥大させるようなことはなかった。そのときはまだセッティングでことさらのことはしていなかったものの、きこえ方で特に気になるところはなかった。
 ただ、モデル3でのきこえ方と比較していうとすれば、音像が6の方がいくぶん大きいというべきであったが、これは追い込んでいくことによってさらに改善の余地がありそうであった。そのほかのすべての点で、6の方がモデル3より勝っていた。モデル3では響きが前方にひろがるという感じできこえたが、6では響きにつつみこまれるように感じられた。
     ●
 2Mとか、2+2といった、ユニットの数が二の倍数のスピーカーがフィットする部屋と、3M、ないしは6といった、ユニットの数が三の倍数のスピーカーがフィットする部屋があるのであろうか。ほとんど自分の部屋でしかアクースタットのスピーカーをきいていないぼくには、その件に関してこれといったことがいえないが、すくなくともぼくの部屋では三の系統のスピーカーの方が好ましいとはいえそうである。2+2も素晴らしいスピーカーであるといわれているが、ぼくは実家としてどうもぴんとこない。
 オーディオを趣味とする人間には、ひとたび前に進むと後にもどれない将棋の香車のようなところがある。その辺のことを、やはり自身もオーディオを趣味とするために、メフィストフェレスのM君はしっかりわかっている。モデル3をきいてかなりの満足を味わっていたききては、6をきかされて後にもどれなくなってしまった。それだけの魅力が6にはあったということである。
     ●
 アクースタットとのつきあいは一年半目にまたあらたな展開を示しはじめたということであるが、この一年半を振り返ってみて、そういえばといった感じで思い出すことがある。ぼくがアクースタットのモデル3にしてから部屋を訪ねてくれた、オーディオマニアとはいいかねる知人の、アクースタットのスピーカーからでた音をきいたときの驚嘆ぶりである。
 それまでにもそういうことはなくもなかったが、アクースタットのスピーカーにしてからきいた人の反応は微妙に違っていた。いい音ですね、といったような再生装置の音に対して普通つかわれるような言葉ではない、音のなまなましさを褒めてくれた人が多かった。そのことが暗示的に思える。きいていて、どきどきしちゃった、といった人もいた。なんだか怖くなった、といった人もいた。
 それらの賛辞をぼくは自分の装置の自慢の種にもちだしているわけではない。アクースタットのスピーカーの音の独特のなまなましさをお伝えしたくてもちだしているだけである。オーディオに日頃積極的な興味を抱いている人ではないから、おそらくきき方はひどく素朴である。そういういらぬ思い込みにみたされていないききてを驚嘆させるというのは、実はなかなかむずかしいことのはずである。そのむずかしいことをアクースタットのスピーカーはさらりとやってのける。ぼくがアクースタットのスピーカーにとらわれた最大の理由はその辺にありそうである。この音はまさにオーディオの音でしりながら、ききてにオーディオを感じさせない。
 しかも、M君というメフィストフェレスがいたために、香車は一歩前進できたことになる。泰平の夢は破られ、しかもさんざん揺さぶられたあげくに、こういうことをいわなければならないというのも、いかにもしゃくではあるが、やはりぼくはM君に感謝すべきであろう。
 これからまだしばらく、ぼくはアクースタット・ミクロコスモスからのがれられそうにない。

NEC CD-803

黒田恭一

別冊FMfan臨時増刊 ’84カートリッジとレコードプレイヤーの本(1983年10月発行)
「CDの本当の実力を垣間見た」より

 世代という言葉はゼネレーションという英語に対応すると考えていいであろう。「広辞苑」では世代をこう定義している、「生物が母体を離れてから成熟して生殖機能を終わるまでをいう。ほぼ三十年間をひとくぎりとした年齢層。親・子・孫と続いてゆくおのおのの代」。
 ところが、昨今では、あちこちで、CDプレイヤーの第二世代といったような活字を目にする。なに? 第二世代? といったところである。もし、「広辞苑」の定義にしたがうとすれば、昨年の秋から今年の前半にかけて発表されたCDプレイヤーが親の世代で、それ以後のものが子の世代ということになる。

 なにごとによらず変化の激しい時代ではあるが、一年もたたないうちに親の世代から子の世代にかわってしまうというのでは、いかになんでもドラマチックにすぎるように思うが、どんなものか。しかし、現実には、その第二世代のCDプレイヤーがつぎつぎに登場しつつある。まだそれらのうちのごく一部のプレイヤーにふれただけなので、断定的なことはいいにくいが、おおむね親のいたらなさを子がおぎなっているようである。とりわけ使い勝手の点で、そのことがいえそうである。
 親の世代の製品を買った人間としては、どうしたって心おだやかではいられない。しかし、あわててどうなるものでもない。一年未満で第一世代が第二世代に変わったのであるから、来年の今ごろには第三世代の製品が世にでていても不思議はないわけで、そのたびにあたふたしていては身がもたない。ぼくにも人並みに自己防衛本能があるから、親が子に変わり、子が孫に変わっても、すでに冷静でいられるようになった。
 おそらく、今のぼくがしなければならないのは、CDプレイヤーに関しての最新情報とやらに動揺する前に、現在使用中のCDプレイヤーを十全につかいきることであろう。はじめのうちは、CDプレイヤーはどんなつかい方をしてもいいという、あちこちからきこえてきた言葉を信じて、ひどく無頓着につかっていたが、そんなつかい方をしていたのではCDプレイヤーのよさが引き出せないとわかった。
 そのことがわかってから、あれこれ試行錯誤がはじまった。むろんそれなりに面倒なことではあるが、その面倒なことがまたたのしいと思う気持ちは、オーディオに関心を抱いでおいでの方なら、ご理解いただけるのではないか。夜が更けてから、つまり俗にいわれるアフター・アワーズに、いろいろ試しているうちに、思いもかけぬ発見をしたりして、ひとり悦に入ったりした。
 今はNECのCD-803というCDプレイヤーをつかっている。恥をさらすようであるが、そのCD-803をいかなるセッティングでつかっているかを、なにかのご参考になればと思い、書いておこう。ぼくの部屋に訪ねてきた友人たちは、そのCDプレイヤーのセッティングのし方をみて誰もが、いわくいいがたい表情をして笑う。もう笑われをのにはなれたが、それでもやはり恥ずかしいことにかわりない。
 では、どうなっているか。ちょっとぐらい押した程度ではぴくともしない頑丈な台の上にブックシェルフ型スピーカー用のインシュレーターであるラスクをおき、その上にダイヤトーンのアクースティックキューブをおき、その上にCDプレイヤーをのせている。しかも、である。ああ、恥ずかしい。まだ、先が。

 CDプレイヤーの上の放熱のさまたげにならないような場所に、ラスクのさらに小型のものを縦におき、さらにその上に鉛の板をのせている。このようなことをしていればどうしたって、今はやりの「ほとんど病気」という言葉を思い出す。しかし、念のために書いておきたいと思うが、見た目は、いくぷんユーモラスではあっても、美観(!)をそこねるようなものではない。
 そして、CDプレイヤーからプリアンプにつながっているコードは、ブチルゴムを六重に(!)まいたものである。普段はその状態で聴いている。しかし、今日は徹底的にコンパクトディスクを聴こうと思うときには、NECのCD-803ではアウトプットのレベルが可変なので、CDプレイヤーからでているコードをダイレクトにパワーアンプにつなぐことにしている。この方法はかなり効果的である。
 相手の可能性を信じられたときに、人間は挑戦的になれる。尻をたたいてもしれている駄馬と思ったら、鞭を手にしたりしない。駿馬と思えばこそ、ジョッキーは狂ったように鞭をふるう。
 なぜこのような恥さらしをも辞さずにありのままを書いてきたかといえば、それは、NECのCD-803が、すくなくともぼくにとっては駿馬だからである。ごく無造作につかっているときにも、その音質的な面での卓越性には気づいていた。しかし、つかっているうちに徐々に使い手であるこっちが追いこまれた、というのが正直なところである。あのようにしてみたらどうであろうとか、次はこうしてみようとかいったことを次々考えた。

 相手に魅力があればこそ夢中になれた。NECのCD-803にはそれだけの潜在能力があったということである。ラスクをつかえば、あきらかにそれまでとは違う音を聴かせた。調教しがいがあった、とでもいうべきかもしれない。
 今、ラスクでサンドイッチにしたようなかっこうでCD-803をつかっていで、そこできける音には十分に満足しているし、デジタルであるがゆえの不満はなにひとつない。コンパクトディスクはどうもデジタル臭くてなどという人にかぎって、CDプレイヤーをプリアンプの上とかカセットデッキの上においていたりする。こっちが愛情と誠意々もって接しなくては、相手だってほどはどの力を示してとどまる。道具でも人間でも、そのことでは同じである。
 NECのCD-803は、ばくの聴いたかぎりのことでいえは、第一世代のCDプレイヤーのなかでは、音そのものの実在感とでもいったものを示すことにかけてひときわ抜きん出た能力をそなえている。よくいわれるようにともすると響きが薄くなりがちなところがコンパクトディスクにはあると思うが、そこから巧みに逃れているのがCD-803だ。

 もともとそのような能力をそなえているCD-803を、一応ほくなりに追いこんだかたちでつかっているわけであるが、そこで聴ける音はコンパクトディスクはやはりミュータントであるという思いをあらたにさせる、と自分では思っている。したがって、今のところは、第二世代の機器が登場しようと、さほどあたふたとはしないでいられる。なぜかといえば、いまなおCD-803に夢中であって、とても子の世代の機器に浮気をする気持ちになれないからである。
 たしかにCD-803には使い勝手のうえでもう一歩と思うところがなくもないが、慣れとは恐ろしいもので、しばらくつかっているうちにその点でのいたらなさも気にならなくなった。アバタモエタボとでもいうべきかもしれない。
 今ぼくは、CD-803でコンパクトディスクをきいて、CD万歳! といいたい気持ちである。

デンオン PRA-1000, POA-1500

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 安定感があり、信頼するにたる内容と音質で堅実なオーディオコンポーネントを開発しているデンオンから、新しく従来にないローコストなセパレートアンプ、PRA1000コントロールアンプとPOA1500パワーアンプが発売された。
 表面的に捉えれば、単に普及価格帯のセパレート型アンプで、セパレート型アンプの入門者用と評価されがちだ。しかし開発の基本コンセプトは、プリメインアンプの超高級機が数は少ないが存在する価格帯で、プリメインアンプに本質的に存在する、MCカートリッジ入力からスピーカー出力までを増幅する、ひじょうに高利得のアンプが単一筐体に組込まれているために起きる相互干渉による音質劣化の問題点を解決することだろう。電圧増幅機であるコントロールアンプと電力増幅機であるパワーアンプに分割し、現時点で高度に発達しているエレクトロニクス技術に基づく物理特性の良さを損うことなく、結果としての音質に、いかに引出すかにあると思われる。
 外観上の特徴は、上級機種PRA2000とPOA3000を受継いだ、いかにもデンオン製品らしいデザインにあり、仕上げも普及価格帯の製品といった印象が少ないのがメリットである。
 コントロールアンプPRA1000は、アナログディスクのハイクォリティ再生の重要な要素としてデンオンが主張しPRA2000、6000で実現したイコライザーアンプの超広帯域化を受継いでいる。一方、CD時代に対応して、高レベル入力のCDプレーヤーを受けるフラットアンプやバッファーアンプにも最新の技術を導入して、広帯域、高SN比化が図られ、ピュアフォーカスなサウンドが狙われている。ちなみに、現状のコントロールアンプでは、簡単に考えれば容易に見受けられる、高レベル入力からコントロールアンプ出力にいたるフラットアンプ、バッファーアンプ、トーンコントロールアンプだが、各社間、各モデル間の音質が相当に異なっていることを体験するのがつねである。
 イコライザーアンプは、低雑音、広帯域に加え、入力インピーダンスの変動による歪増加を抑える設計。これは内外各種のMCカートリッジとの対応性の幅を拡大した、MC/MM切替のCR−NFタイプで、RIAA偏差は±0・2dBで20Hz〜1100kHzを保証している。
 高レベル入力を受けるフラットアンプは、初段ボリュウムの影響による歪の増大を防ぎ、0・002%以下の低歪率が特徴だ。なお、トーンコントロールは、フラットアンプの帰還回路に素子を組み込み、音質上有害なコンデンサーを除去したリアルタイムトーンコントロールである。
  これにつづく、バッファーアンプは、動的歪の発生がなく、接続されるパワーアンプの入力特性の影響を受けずに信号を送り出す独自の無帰還バッファーアンプである。
 その他、高速応答強力電源回路、信号伝達ロスを極少に抑えた、超高周波機器用のポリエステル系基板採用などが目立つ。
 パワーアンプPOA1500は、デンオン独自の入力系への信号フィードバックや時間遅れがなく、動的歪が発生しない無帰還ハイパワー型で、最終段に採用したダイレクト・ディストーションサーボ回路は、出力側から得た信号と入力信号を比較して歪成分のみを検出し、これを入力側に位相反転をして加え歪を打消す本機の重要な回路である。
 電源部は、600VAのトロイダルトランスと6000μFのコンデンサー、強力なダイオードを採用し、8Ωで150W+150W、6Ωで200W+200W、4Ωでは、240W十240Wという優れたパワーリニアリティを確保している、なおフロントパネル中央部のディスプレイにはヒートシンク異常温度、左右チャンネルのパワー段の動作確認ができる自己診断機能を備え、入力系はノーマル入力と、CDプレーヤーダイレクト接続用に、CDサンプリング周波数に近い40kHz以上をカットするとともに−3dBのアッテネーターの入った、CDプレーヤーとのベストマッチを計ったハイカットフィルター付の2系統をもつ。なお、注目のアース関係の処理は、フローティング・ロード回路の採用で、小出力時のノイズと歪を低減している。
 新セパレートアンプを組み合わせた音はブックシェルフ型やフロアー型のスピーカーを問わず、従来のデンオン製品とは一線を画した広帯域でディフィニッションの優れた音を聴かせるのが新しい魅力だ。問題の低域特性も豊かに伸び、CD入力時でも質感の優れた活気のある低域を聴かせる。全体に安定度重視で少し音を抑えて聴かせるデンオンサウンドの傾向はなく、反応が早くナチュラルに拡がる音場感、定位感に加えて、活き活きとした音楽を聴く楽しみが味わえることが本機の大きな魅力だ。

ソニー APM-55W

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 全製品に平面振動板ユニットを採用する方向に進んでいるのが、ソ二−のスピーカーシステムの大きな流れとなっているが、今回、発売されたAPM55Wは、既発売のAPM77W/33Wにつづく、平面振動板採用のスピーカーシステムの中核となる新製品である。
 一般的な口径でいえば、27cmに相当する振動板面積をもつウーファーは、スキン材にアルミ箔を採用したハニカム構造であり、ボイスコイルボビン端から伸びた4本の軽金属製のアーマチュアを介して、分割振動の低次モードにおける4点の節目を駆動するタイプだが、駆動点は振動板を駆動するアーマチュアがハニカムサンドイッチ構造を貫通して振動板の前、後面を駆動する、ダイレクト・デュアルサーフェイス・ドライブ方式と名付けられたタイプだ。
 中域は、スキン材に力−ボン織維とグラスファイバーシートを複合した材料を使う、直径8cm相当の平面振動板は、直径5cmのエッジワイズボイスコイルで直接駆動される。なお、直径4cm相当の高域ユニットは、スキン材がチタン箔、ボイスコイル直径は25mmである。
 エンクロージュアはバスレフ型で、北米産高密度材使用のウォルナット突坂仕上け。内部吸音材は、ミクロン・グラスウールや高分子化合物繊維の3種類を使い分けている。なお、ネットワークは、大電流が流れる低音用回路と高音用回路を独立させた分散配置型で、最近の高性能システムとしてオーソドックスな手法である。また内部配線材やコイルはすペて無酸素銅線使用、コンデンサー類は独自の開発による音質対策型というのは、いかにもソニー製品らしい設計である。
 APM55Wのユニークなポイントとして、別売のスピーカースタンドWS500(2台1組¥8500)が用意されており、システムの底板に設けられたネジを利用して、スタンドを固定できることがあげられる。このスピーカースタンドを含めてシステムとする方法は、とかくセッティングにより大幅にサウンドバランスが変化するスピーカーシステムを使いこなすための、ひとつの解決策として歓迎したいものだ。
 APM55Wはソニーの製品らしく、平均的なコンクリートブロックを横積1段程度の比較的に低いセッティングでバランスがとれるようだ。ブロックの固有音を避けるために厚手のフェルトを介してシステムを置き、ブロック間隔を調整してセッティングを追い込む。低域は比較的にタイトなタイプで量感よりも音の輪郭をクッキリ出す。中域は、明るくカラッとした音で、高域とのクロスオーバーあたりに、キラッと輝くキャラククーをもつ。これに対して高域は、少し穏やかにバランスをする。
 全体にモニター的な性格が、特徴であり、いかにもソニーらしい整理された音をもつが、遠近感の再生が、もう少し欲しい。

オンキョー Monitor 2000

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 このところ、オンキョーで高級スピーカーシステムを、3機種同時開発中という噂が流れていた。その第一弾として登場した製品が、このモニター2000であり、続いて20万円前後と50万円前後の高級横が発表されるようである。
 従来から同社のスピーカーシステムは、振動板の新素材として、中域以上にマグネシュウム合金を代表とする物理特性の優秀な材料を導入し、熟成に努めていたが、低域用は、紙からポリプロピレン系への置換が目立った。この材料は、かなり優れた物性値をもつが、国内の使用では最適比重範囲を特許で押えられているために、本来の性能を活かした設計が行えない難点が存在していたことは否めない事実だ。
 この点を打破すべくオンキョーが新しく採用した振動板材料は、ピュア・クロスカーボンと名付けられた素材である。基本構想は、高剛性で軽量というカーボン繊維の特徴を活かし、内部損失の不足をコーンの成型時に使うバインダーでコントロールをするというものである。カーボン繊維は、平織り状であり、ウーファーコーン用としては、これを3枚、角度を30度づつずらせて(キャップ部分は、45度、2層)バインダーで成型してある。
 カーボン繊維を振動板に使うための最重要ポイントは、繊維を接合するバインダーであり、現状ではエポキシ系樹脂以外にはなく、適度に内容損失があり樹脂固有の附帯音を抑えたバインダーを開発できるかが鍵を握っていることになる。
 新振動板採用の34cmウーファーは、φ200×φ95×25tの38cm級ユニットに匹敵する大型磁石採用で14150ガウスの磁束密度をもつ。中域は、100μ厚、直径65mmマグネシュウム合金ドームと100mmコーンの複合型振動板で、マグネット寸法φ140×φ75×17tを使用し、振動板面積を増して能率を確保する設計であり、高域は、40μ厚マグネシュウム合金、口径25mmのドーム型、マグネット寸法φ90×φ45×15tで18250ガウスの磁束密度をもつ。
 エンクロージュアは、裏板28mm厚アピトン合板、それ以外は25mm厚パーティクルボードを使い、裏板にポートをもつ変型バスレフ型だ。なお、レベル調整ツマミは小型で、バッフル面の平滑化を計るためプッシュ構造で調整時に飛出す特殊型だ。
 モニター2000は、低域を重視した製品だけに、セッティングには入念の注意が必要だ。堅めのコンクリートブロックを2段積みとしフェルトを敷いて間隔を調整する。この製品の特徴は、柔らかく豊かな低域をベースとし、しなやかで、のぴのある中域から高域がバランスしたキレイな音にある。ハードドーム独特の硬質さがなく、むしろソフトドーム的な傾向が加わっていることがユニークだ。低域重視設計のため安定度の高いことが大変に好ましい製品だ。

マイクロ SX-111FV

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 マイクロのプレーヤーシステムは、DD型全盛の動向に反して、アナログプレーヤーシステムの原型ともいうぺき、慣性質量が非常に大きい重量級のターンテーブルをベルト、もしくは糸でドライブする方式を、頑として推進させている点に特徴がある。
 今回、新登場したSX111FVは、同社のコンプリートなプレーヤーンステムのスタンダードとして位置づけされ、高い評価を得ているSX111をベースに、ターンテーブルシャフトのエアフロートシステムとレコードのバキューム吸着システムの、両方を導入して完成された注目の製品である。ちなみに、モデルナンバー末尾のFは
フローティング、Vはバキューム吸着の意味をあらわしている。
 外観上は、従来のSX111にエアポンプユニットが加わった、2ブロック構成であるが、当然のことながら、本体部分のシャフト構造とレコード吸着構造が組み込まれている。
 Fを意味するフロートのメカニズムは、同社の高級モデルSX8000、SX777などに採用されているエアーベアリング方式で、エアポンプで圧縮された空気をターンテーブルの内側に送りこみ、ターンテーブル裏面と内部フレームの間を通過することによりできる空気膜により、ターンテーブルを0・03mm浮上させ回転を可能とするものである。
 この方式は、従来のようにシャフト下端部にボール等の軸受がなく、機械的摩擦や機械的ノイズの発生がなく、静かで滑らかな回転が得られる。それに加えて、ターンテーブル内側に常に圧縮空気が満たされているため、空気の制動作用により外部振動を受けにくく、ターンテーブル自体の共振を抑えるという非常に大きな特徴がある。
 直径31cmのターンテーブルは、重量10kgの砲金製で、ダイナミックバランスは精密加工により極めて良好である。また、ゴムシートを使わず、直接レコードをターンテーブル上に置く設計であるため、音溝に対する応答性が改善され、音質面での分解能、音像定位感などに非常に効果的であるとされている。
 Vを意味するバキューム吸着システムは、レコードのソリを修正できることに加え、レコードと重量級ターンテーブルが完全に一体化され、レコード自体の固有共堆が除去され、音溝の情報をより正確に拾うことが可能となる。なお、吸着方式は常時吸着型であり、演奏中のレコードの浮き上がりは皆無であり、レコードを交換するときには、スイッチOFFで逆噴射エアが働き、簡単にレコードの取り外しができる設計だ。
 ターンテーブル駆動用モーターは、本体左側奥に取付けられた、8極24スロットのDCブラシレスFGサーボモーターを使用している。
 その他、従来のSX111の特徴である、ターンテーブルシャフトアッセンブリーとアーム取付マウント部を重量級の金属フレームで一体化して、ターンテーブルとトーンアーム間の振動循環系の振動モードを同位相化し音溝情報を電気信号に変換するときの変換ロスを追放するダイレクトカップリング方式や、新1500シリーズ等で実績をもつ独自の高支点エアスプリングサスペンション方式により、十分なハウリングマージンを確保している。
 この支持方式は、空気とオイルの粘性抵抗、特殊構造のゴム、円錐状金属スプリングと、それぞれ固有共振の異なる4種の材料を組み合わせた構造により、広帯域にわたり振動減衰特性を実現している。上下左右、前後方向の外部振動を除去できるうえ、このサスペンションは取付支点を高くとった結果、プレーヤー全体の重心が低く、安定性が非常に高いというメリットがある。
 トーンアームは付属していないが、有効長257mm以下のタイプは全て使え、マウントベースは、SX777、111と共通のA1200シリーズが使用可能。
 試聴は、A1206マウントベースにSME3010Rを組合わせておこなう。エアポンプユニットRP1100は、機械的振動やノイズの点でも充分に低く抑えられ、この意味での懸念は皆無にひとしい。
 SX111FVの音は、なんといってもスクラッチノイズが質的にも、量的にも大変に低く抑えられているのが最初の印象である。この聴感上の利点は、音の分解能、高ダイナミックレンジの魅力にくわえて、ステレオフォニツクな音場感のパースペクティブな再現性の良さ、シャープな定位感の良さにつながる。このシステムならではの新鮮で、強烈な魅力である。音楽が活き活きと伸びやかに響き、従来のレコードから未知の音が引出される。快心作と評価できる、価格対満足度に優れた製品であるが、駆動モータープーリー部のカバーは強度不足で、このシステムの脚を引張っているアキレス腱であり改善を望みたい。

デンオン AU-1000

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのDL1000Aは、振動系の軽量化を極限にまで追求して開発された現代的な空芯MC型の典型的な製品として既に高い評価を得ているが、今回、デンオンから発売された昇圧トランスAU1000は、DL1000Aの性能と音質をフルに発揮させるための専用トランスである。
 外観は、従来の昇圧トランスとは異なる剛体構造の筐体に特徴があり、その前半部分に、左右チャンネル独立のトランス本体が組込まれ、後半部分は、部厚いカバーをもった入出力端子部である。
 トランスのコア材は、特殊形状の大型パーマロイ鋼板を使用し、少ない巻線で低域特性を確保するために要求されるコアの透磁率は低域において従来の同社製品と比較して約1・5倍の値となっている。高域はオーソドックスに分割サンドイッチ巻線を採用して低域とのバランスをとったため周波数特性は、従来のAU310の、20Hz〜40kHzに対して5Hz〜200kHzと驚異的なワイドレンジ型になっている。
 また、左右独立型のトランス本体は、2重シールドおよび充てん材で固定され、砲金ケースに収納されており、重量級の筐体とあいまって振動防止は徹底して追求されている。なお、トランス巻線は、DL1000A専用設計のために、入力インピーダンスは固定、音質劣化の原因となるバイパススイッチなどは省略してある。
 入出力部のカバーは、太いネジで固定する振動防止を追求した設計である。付属の出力コードは、無酸素銅線採用の低容量・低雑音タイプのコードで、しっかりとした金メッキ処理が施されている。
 DL1000Aは、1g以下の針圧を標準とする超軽量級カートリッジであるために、併用するトーンアームの選択は、現状では困難といえよう。標準的な針圧で、しばらく、エージング的に音を出してから、細かい針圧調整、インサイドフォースのコントロールをしてから試聴をはじめる。
 従来の例では、適合性の良いトランスがなく、ヘッドアンプを使用する他はないため、その結果では、線が細く、音の細部を引出す特徴は認めながらも、やや、ダイナミックな表現を欠いていたのがDL1000Aの音である。AU1000との組合せでは、トランスにありがちなナローレンジ感が、皆無に近く、トランス独特の、いきいきとした音楽の躍動感が得られるのだ。
 表現を変えれば、この音は、鉄芯MC型の力強さと、空芯MC型の広帯域・高分解能を併せもつもので、まさに、MC型ならではの、非常に魅力的な音の世界である。なお、昇圧トランスの使用法として注意したいのは、剛性の高い、安定した台にのせて使うことが、優れたトランスの性能を引出す重要なポイントである。今回の試聴でも、ジュウタンの上にのせたり、机の端に置いたりした場合には、音は薄くなり、躍動感に欠け、大幅な質的低下が聴きとれた。

ハーマンカードン PM660

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サイテーションXXシリーズをトップランクの製品とするハーマンカードンからの新製品は、創立30周年を記念して発売されたスペシャルエディションのプリメインアンプPM660である。
 同社のアンプ共通の特徴は、1978年以来、TIM、PIM、IIMなどの、いわゆるアンプの動的歪を発見したフィンランド国立電子技術研究所のマッティ・オタラ博士を迎え、アンプの動的状態でのみ発生する歪を解消した回路設計を採用していることと、実装状態で2Ω以下にも下がるといわれているスピーカーのインピーダンスに対して、動的出力を向上させるためにHICCという概念を採用していることだ。
 HICCとは、瞬時電流供給能力の意味で、低いインピーダンス時にも負荷に必要なだけの電力を供給できる能力をいい、この結果、定格出力から考えると異例ともいえる大電力用パワートランジスターと電源部を採用している点に、同社アンプの特徴がある。
 PM660は、8Ω/90W+90Wの定格出力をもつが、60AのHICCを備えるために、瞬時出力は、4Ω負荷で200W、2Ω負荷で292Wであるという。
 では、実際にPM660を試聴してみよう。基本的には、ハーマンカードンのアンプ共通の柔らかく量的にタップリと豊かな低域をベースに、滑らかで粒子の細かい中域から高域がバランスした音だ。音場感的には、やや距離感を伴って、スピーカーの奥に音場が拡がるタイプで、オーケストラやライブハウス的な録音では、適度なプレゼンスがあり、音像定位もナチュラルである。
 このタイプの音は、ちょっと聴きではおとなしい感じであるが、聴きこむにつれ内容の豊かさが判ってくるようだ。とくに、電源スイッチ投入後のウォーミングアップが少し遅いだけに、即断は禁物である。
 このアンプで少し気がかりなことは、プログラムによりキャラククーが変わることである。アンプの細部を検討したところでは、機構的なチェックでは厳しいと定評がある同社の製品にしては珍しく、筐体内部に機械的なビリツキが多いことだ。ステレオサウンドでの試聴以前に、どこか他の場所で内部を開けてチェックでもしたことに原因があるのかもしれない。

NEC A-10

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 昨年のCDプレーヤーCD803の優れた音質で急激に脚光を浴びたNECから、独自の最新技術を採用したプリメインアンプが発売されることになった。
 薄型的なパネルフェイスになりがちなプリメインアンプのなかにあって、オリジナリティのあるデザインが目立つ、このA10は、内容的にも従来にないユニークな発想に基づいた新開発の電源部を採用していることに最大の特徴がある。
 一般的なアンプに使われる電源部は、50/60Hzの100Vをトランスで必要な電圧に変換してから整流器で100/120Hzの脈流に変え、これをコンデンサーに充電、放電させて滑らかにして直流化している。手の指を拡げたように間欠的にコンデンサーに充電する充電波形が従来型とすれば、新開発の電源方式は、両方の掌を重ねて指の間を埋めたように充電時間を増し、放電時の充電電流が途切れた時間を補うという発想が出発点となったものだ。
 このタイプの特徴は、従来型では、充電時以外はコンデンサーの放電にたよっていた部分を、リザープ電源と名付けられた別電源で充電しているため、電源インピーダンスが低下し、電流供給能力を増大できることにある。
 A10の定格を見ると出力は、8Ω/60W+60W、4Ω/120W+120Wとあるように、この新開発の電源方式は、半分の負荷で2倍の出力が得られる理想的電源として動作していることが判かる。
 その他、全増幅段プッシュプル増幅、全段独立シャントレギュレーター電源採用など、オーソドックスな設計方針が特徴だ。
 A10は、量的にも充分に豊かであり、ソリッドに引き締まった質感のよい低域をベースに、明解な中域が目立つ、このクラスとしては見事な音が印象的だ。この下半身はたしかに素晴らしいが、中域の少し上にキャラクターがあり、高域をマスキングし、結果として低域バランスの音に聴こえるのが残念だ。定格出力は8Ω/60W+60Wだが、パワー感は充分にあり、これは新電源方式の成果だろう。ボンネット部分の機械的共振を適度の重量物を載せて抑え、見通しのよい高域とすることが使いこなしのポイント。こうすることで、質的に高い低域が活かされ、相当に聴きごたえがある立派な音が得られる。

ヤマハ A-950, A-750, T-950

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ヤマハのプリメインアンプが、最新のコンセプトにより開発された新世代の製品に置換えられることになった。その第1弾の製品が、今回、発売された中級価格帯のプリメインアンプA950、A750と、各々のペアチューナーであるT950、T750の4機種のシリーズ製品である。
 プリメインアンプの特徴は、パワーアンプに新しくクラスAターボ回路が採用されたことと、電源部がX電源方式ではなく、従来型の方式に変更されたことである。
 クラスAターボ回路とは、ヤマハ初期の名作といわれたCA1000において採用された、A級動作とB級動作のパワーアンプをスイッチ切替で使い分ける方式を発展させ、新シリーズでは、純粋なA級動作とA級動作プラスAB級動作の2種類の組合せがスイッチで切替えられるようになった。
 とかく定格出力が最重視され、表示パワーが最大の売物になっているプリメインアンプの動向のなかにあって、質的には非常に高いが効率が悪くパワーが得難いA級動作を復活させた背景には、ヤマハオーディオの初心であるクォリティ重視の思想が、現状で、もっとも必要なテーマであるという判断があったからにちがいない。
 一方、データ的な裏づけとしては、A750をAB級動作領域のノンクリッピングパワー150W(8Ω)にテストレコードのの最大振幅部分を合わせた状態での各種レコードの実測データによれば、平均して、A級動作領域(5Wまで)96・4%、AB級動作領域3・6%の割合が得られたことで、実際の使用では音量は10〜20dB程度は低いであろうから、ほとんどA級動作領域でアンプは使われることになるはずだ。
 クラスAターボ回路に加え、従来からのヤマハ独自のZDR方式を採用し、A級動作を一段とピュアにするとともに、AB級動作時にもA級に匹敵する特性と音質が得られる。さらに、アースの共通インピーダンスの解決策として採用されたグランドフィクスド回路は、単純明快な方法である。また、スピーカーの低インピーダンス負荷時の出力の問題に対しては、X電源以上に優れた給電能力をもつ一般的な大型電源トランスと大容量電解コンデンサー採用の物量投入型設計への転換が見られる。
 その他、NF−CR型リアルタイムイコライザー、ピュアカレントダム回路、連続可変ラウドネス、メインダイレクトスイッチなどの機能面の特徴、クォリティパーツの採用などは、すべて受け継いだ内容だ。
 デザインの一新も新シリーズの魅力で、すべてブラックに統一し、CT7000以来のドアポケット型のパネルの採用による適度な高級感のある雰囲気は楽しい。
 チューナーは、各種のオート壊能を備え、とくに強電界での実用歪率の改善が重視されている点に注目したい。
 A950は、電気的な回路設計と機構設計が最近の製品として珍しく見事にバランスした出色の製品である。柔らかく豊かで適度にソリッドさをも併せもつ低域は、新世代のヤマハらしい従来にない魅力をもつ。中域から高域は音の粒子が細かく滑らかで、ナチュラルなソノリティを聴かせる。プログラムには自然に反応し、シャープにもソフトにも表現できるのは、電気系、機械系のバランスの優れたことのあらわれであり、キャラクターの少ない本棟の特徴を示すものだろう。久し振りのヤマハの傑作製品だ。
 A750は、比較をすれば少しスケールは小さいが、フレッシュな印象の反応の早さは、安定感のあるA950と対称的な魅力で、デザインを含めた商品性は高い。
 T950は、CT7000以来の、品位が高く、独得のFMらしい魅力をもつヤマハチューナーらしい良い音をもつ製品。強電界でも汚れが少なく抜けのよい音であった。

トリオ KA-1100

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 トリオの新製品プリメインアンプKA1100は、昨年秋に発売されたKA2200、KA990シリーズの中間に位置する製品である。
 基本的な構想は、同社のプリメインアンプのトップランクに位置するL02Aでの成果を踏襲したもので、デュアルヘッドイコライザー、ダイナミックリニアドライブ(DLD)回路、独自の㊥ドライブなどが導入されている。
 フォノイコライザー段は、カートリッジの出力、インピーダンスが大きく異なるMMとMCの各々に最適な増幅段を独立させ、これとシリーズになる増幅段をスイッチで切替えてペアとし、ワンループのイコライザーとする方式で、従来のヘッドアンプ方式やゲイン切替型とくらべ、高SN比、低歪で、低インピーダンスMCをダイレクトで充分に使いこなせる特徴がある。
 トーン回路は独自のNF−CR型で変化がスムースであり、独立した周波数と変化量が各々3段切替のラウドネスコントロールを備えている。また、機能面でのフロント・リア切替型のAUX端子を前面にもつ点は、CD、PCMプロセッサー、ハイファイビデオなどへの対応を容易にしている。
 DLD回路は、小パワーアンプと大パワーアンプを内蔵し、両者の特徴を組み合わせて使う独自な方式で、織細さとダイナミックさを両立させたものといわれている。また、DLDは低インピーダンス負荷に強く、8Ω負荷ではハイパワーだが、4Ω負荷ではさしてパワーが増さない高出力アンプが流行したり、アンプのパワーを8Ω負荷時より有利な6Ω負荷表示にしようという傾向がある現状からは、2Ω負荷でも連続出力で230Wが得られる点は、注目に値するものだ。なお、電源部は、各ステージ別の巻緑から供給するマルチ電源方式だ。
 K1100は、少し腰高だが、適度にソリッドで引き締まった低域をベースに、明るい中域とストレートな高域がバランスした音だ。音色は明るく、表現はストレートであり、音の粒子は平均的だが、音像は比較的に前にくる。このタイプの音は、ホーン型スピーカーでは、輪郭が明瞭で効果的に聴こえる。優れた回路上の特徴が充分に活かされたなら、現状でも充分な魅力があるだけに、素晴らしいアンプになるであろう。今後に一層の期待が持てる製品だ。

オーディオテクニカ AT150Ea/G

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 テク二力独自のVM型の代表製品であるとともに、長期間にわたりベストセラー製品として数多くのファンを獲得しているAT100シリーズが、リフレッシュされ新製品となって登場することになった。
 ニュー100シリーズのトップモデルが新しいAT150Ea/Gであり、ヘッドシェルに組み込まれたモデルである。
 改良のポイントは、振動系の軽量化と発電コイル系のリニアリティの向上というオーソドックスなアプローチである。
 0・12mm角から0・1mm角に小型化された天然ダイヤ楕円スタイラスは、ベリリュウムテーパードカンチレバーに組み合わされ、カンチレバー表面は、上級機AT160ML/GやMC型AT33E同様に金蒸着され、耐蝕性とQダンプ効果に使われている。パラトロイダル発電系は、伝送損失を約12%減らし、コイル巻数を減らしても出力4mVを確保している。ヘッドシェルは新設計マグネシウム合金製で、OFCリッツ線使用のタイプだ。
 AT150Ea/Gは、中域がやや張り出し気味の旧型にくらべ、MC型的なワイドレンジ・フラットレスポンス型になった。とくに分解能が一段と向上した点は新型の大きな特徴だ。標準針圧1・25gに対する音質変化はシャープなタイプで、試聴では1・45gがベストだった。温故知新的な伝統をもつ完成度が高い優れた製品。

オーディオテクニカ AT29E

井上卓也

ステレオサウンド 67号(1983年6月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 MC型としては比較的にローコストな新製品であるが、充分に中級機以上に匹敵する高度の内容を備えた、伝統のある専門メーカーならではのファンには大変に楽しい製品である。独自のデュアル・ムービングコイル型の振動系は、国内初採用を10年以上前にはたしたテーパードアルミ合金パイプカンチレバー、0・12mm角天然ダイヤブロック楕円針、バナジュウムパーメンダーコアにアニール高純度銅線を整列巻とした左右独立コイルで構成される。ハウジングは、アルミ合金ダイキャストを上下から硬質合成樹脂でサンドイッチ構造とする異質材料間Qダンプ方式。
 標準針圧1・5gにセットして聴いてみる。トーンアームにもよるが±0・3gの針圧範囲で変化させると、音はかなりシャープに変化する。分解能は高いがやや素っ気ない音を聴かせる国内のMC型にくらべ、こだわりなく、伸びのある楽しく音を聴かせる本機の独自の魅力を活かすには、使用したトーンアームの針圧目盛では、1・65gがベストな針圧だった。軽くすれば軽快さが出るが、表情の抑揚が薄れがちとなり、それ以上に重くすると、MC型としては異例ともいえる腰が強く、枯りのある独特の低音が得られ、これはこれなりの魅力があるが、プログラムソースを幅広くこなすとなれば、1・65gである。とにかく聴いて楽しい異色のMC型だ。

ハーマンカードン Citation XII + Citation XI

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ステレオ初期に最高級管球アンプとしてハーマンカードンから登場したサイテーション・シリーズのIとIIは、当時としては先進の技術であった、NFブロックアンプを多段使用する内容に対する興味と、豪華なデザインとで注目を集めたが、価格的にも高価であり、いわばショーウィンドウで眺めるだけの憧れの製品であった。
 その後、マッキントッシュやマランツ、さらに新生JBLなどの陰にかくれて、国内では、陽の当らぬ存在という期間が長く続き、サイテーション健在という製品が話題にのぼり出したのは、それほど古いことではない。
 本来のサイテーションらしいサイテーションの復活は──つまり、時代の最先端をゆく技術的内容と豪華なデザインが両立した非常に高価格な製品という意味でのカテゴリーとしてなら──一昨年のサイテーションXXシリーズの発売であろう。マッティ・オタラ博士の独創的な頭脳から生まれた新理論に基づく回路設計は、強力な電源部にふさわしい強力なパワーステージとの連携動作で、HICCと呼ぶ瞬時電流供給能力にポイントをおいたパワーアンプと、裸特性そのものをRIAAイコライザーと同じとし、これに、RIAA補正定数をもつNFをかけたデュアルRIAAイコライザー方式を採用したコントロールアンプを生み、これに独自の機構設計が加わり、現状では、デザイン、内容そのもので非常にユニークな存在となっている。
 XXシリーズに続く、サイテーションシリーズの第2弾製品が、今回のX(シングルエックス)シリーズである。
 コントロールアンプのサイテーションXIは、基本的にXXシリーズと共通の開発方針でプロデュースされているが、構成上の変化として、一般的な高・低域のトーンコントロールが設けられている。回路的には、単体として充分の性能をもつMC用ヘッドアンプ、デュアルRIAAイコライザー、フラットアンプに独立したA級動作ヘッドフォンアンプという4ブロック構成である。電源部は強力であるべきとの理論に基づき、40W+40Wクラスのプリメインアンプの電源に匹敵する容量をもつという。
 パワーアンプのサイテーションXIは、出力150W+150Wであるが、瞬時電流供給能力は100Aに達し、電源部は左右独立巻線EI型トランスを採用している。特徴的な横能として、XXシリーズ同様に入力部には不要信号をカットするインフラソニック(1Hz)、ウルトラソニック(100kHz)のフィルターアンプを備え、不要信号入力時には表示ランプが点灯する。また、パワー段のアイドリング電流を2段に切替えるバイアスコントロールスイッチをフロントパネルに備えるのも一般的なパワーアンプと異なる点だ。
 試聴は、アナログソースがP3にDL305をメインに、デジタル系はソニー業務用とヤマハのCDプレーヤーを使う。いつものように、電源スイッチ投入後かなりウォームアップをしているので熱的にはバランスしているが、HICCをテーマとし巨大な電流を扱うタイプだけに、信号を入れてのエージングが必要である。
 基本的には柔らかいが質感に優れた低域をベースに、独特の豊かさをもち音場感情報をタップリ聴かせる中低域と、音の粒子が細かく滑らかでしなやかな対応をみせる中域、ナチュラルに誇張感のない高域が安定感のある帯域バランスを聴かせる。いわば暖色系の音色であるためソフトフォーカスな音と思われやすいが、内容は非常に豊かだ。基本的に分解能が不足するアンプならCDで馬脚を現わすが、Xシリーズは優れたCD独特の抜けのよい音場感をサラリと聴かせてくれる。ちょっと聴きには、やや古典的とも受け取れるタイプの音だが、質的な高さ、素直な音場感と安定した音像定位は、このアンプが基本的に広帯域型であることのひとつの証しだ。

JBL 4411

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶での総奏が音場的ひろがりを感じさせて、しかもたっぷりとひびく。❷でのヴァイオリンがふっくらした感じでこえるので、これがJBLのスピーカーであることを思いだして、おやおやと思う。❸でのコントラバスはいくぶんふくらみぎみである。したがって❺でのリズムをきざむコントラバスも重めに感じられる。❹でのフォルテの音は硬めである。ここでもう少しやわらかいといいのだがと思う。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノはくっきりと輪郭をつけて手前にはりだす。音像的にはかならずしも大きすぎない。❷での吸う息を強調しないのはいいが、声のみずみずしさの提示でいくぶん不足している。❸ではベースの音の方がめだち、ギターの音に繊細さが不足している。したがってギターの音はきわだちにくい。❹でのストリングスは奥の方で充分にひろがり、効果的である。総じてひびきは明るい。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
❶でのピコピコいう音のくっきりとした提示のされ方はなかなか特徴的である。❷でのティンパニの音の質感そのものにはいくぶんものたりないところがあるものの、独自の鮮明さがある。そのために❸での左右への動きなどは効果的に示される。ただ、❹のブラスの音などには多少の力強さの不足を感じなくもない。❺でのポコポコについても❶と同じことがいえて、ここでの音楽の特徴がききとりやすい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
ここでの結果がもっともこのましかった。❶ではベースがいくぶんひかえめに提示される。❷でのきこえ方も、無理がなく、自然である。とりわけピアノの高い方の音には充分な輝きがある。しかし❸でのシンバルは、どちらかといえば、消極的である。ここで特に見事だったのは❺での木管のひびきのひろがりである。これまでの部分との音色的な対比も充分についている。すっきりした提示がこのましい。