井上卓也
ステレオサウンド 74号(1985年3月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より
オーストリアのウィーンに本社を置くAKGは、マイクロフォン、ヘッドフォンなどの分野で、ユニークな発想に基づく、オリジナリティ豊かで高性能な製品を市場に送り、高い評価を得ている。
例えば、マイクロフォンの2ウェイ方式ダイナミック型D224Eや、システムマイクとして新しい展開を示したC451シリーズなどは、録音スタジオで活躍している同社の代表製品である。また、ヘッドフォンでは、かつてのドローンコーン付きダイナミック型K240や、低域にダイナミック型、高域にエレクトレットコンデンサー型を組み合せた現在のトップモデルK340なども、AKGならではのユニークな高性能モデルである。
一方、フォノカートリッジは、同社としては比較的新しく手がけたジャンルで、テーパード・アルミ系軽合金パイプカンチレバーを採用して登場したPu3E、Pu4Eが最初のモデルだと記憶している。
AKGカートリッジの評価を定着させたモデルが、第2弾製品であるP6E、P7EそしてP8Eなどの一連のユニークなテーパー状の四角なボディをもつシリーズである。とくに透明なボディにシルバー系とゴールド系のシールドケースを採用したP7ESとP8ESは、適度に硬質で細やかな独特の音とともに、現在でも第一線で十分に使える魅力的なモデルであった。
そして、第3弾製品が、1981年に登場した現在のP10、P15、P25をラインナップとするシリーズである。
昨年、同社のスぺシャリティモデルとして登場したP100Limitedは、出力電圧が高く使いやすく、MM型に代表されるハイインピーダンス型の振動系が、MC型の振動系より軽量であることのメリットがダイレクトに音に感じられる、久し振りの傑作力−トリッジであった。
今回、登場した新モデルは、これまでのAKGの総力を結集して開発された自信作である。
モデルナンバーは、AKGブランドを定着させたP8を再び採用。ボディのデザインと磁気回路の原型は現在のP25MD系を踏襲している。スタイラスにP100Limitedでのバン・デン・フル型をさらにシャープエッジ化したII型を採用するといった、充実し凝縮した内容をもつ。
リファレンスプレーヤーを使いP8ES NOVAの音を聴く。針圧は、1〜1・5gの針圧範囲のセンター値、1・25gとする。ワイドレンジ型で軽やかさがあり、プレゼンス豊かな雰囲気が特徴だ。
試みに針圧を0・1g増す。音に芯がくっきりとつき、焦点がピッタリと合う。ナチュラルで落ち着きがある音は、安定感が充分に感じられ、AKGならではの他に類例のない渋い魅力がある。
音場感情報は豊かだ。スピーカー間の中央部も音で埋めつくされ、音場は少し距離感を伴って奥に充分に広がる。定位もクリアーで、音像は小さくまとまる。音楽のある環境を見通しよく、プレゼンス豊かに聴かせるが、とくに静けさが感じられる音の美しさは、P8ES NOVAならではの魅力だろう。
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