パイオニア PL-7L

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 このところ、10万円未満のアナログプレーヤーに注目すべき内容をもつ製品が多くなっている。今回、バイオニアから発売された、PL7Lは、リファレンス・プレーヤーの名称をもつだけに、同社の定評あるプレーヤー技術を集大成した、デジタルプログラムソース時代のアナログプレーヤーとでもいえる、内容の濃い製品である。
 PL7Lの最大の特徴は、デザイン的にもアクセントとなっている、左右からプレーヤーベースを挟むように置かれた、4個の特殊な構造をもつダブルインシュレーションシステムと呼ばれる脚部にある。
 従来機が、プレーヤーベース本体と置場所の棚などの間にインシュレーターを入れて振動を違断していたことにくらべ、この方式は、設置場所とプレーヤーベース本体の底板に相当するアンダーボード間と、アンダーボードとプレーヤーベース本体の間にそれぞれインシュレーターを設けたダブルフローティング構造である。
 このダブルインシュレーションシステムは、それ自体が低重心構造であり、ラテラルダンパーの採用で、床などから伝わる縦方向の振動とスピーカーの音圧などの横方向の振動、さらに高トルクDDモーターの反作用による振れなど、あらゆる方向の振動を効果的に抑制し、200Hzあたりの中低域では、従来型と比較して30dB近い振動遮断特性の向上が得られたようで、音質面での効果は相当に高いはずだ。
 また、ダストカバー部分には、フードインシュレーションシステムが採用してある。これは、ダストカバーが受ける音圧による振動、床からの振動をプレーヤーベース本体と遮断する方式で、アナログプレーヤーの本質を捉えたオーソドックスな処理だ。
 トーンアームは、共振を抑え、混変調歪の少ない忠実な音楽再生を狙った設計で、パイプ部分には、軽量、高剛性のアルミナセラミックスを、強度が高く、重量的にも有利なストレート型として採用し、これに、パイオニア独自の開発によるDRAを組み合せている。
 DRA(ダイナミック・レゾナンス・アブソーパー)とは、トーンアーム自体の共振を逆共振を利用して打消そうとするもので、適度なバネ特性をもつダンパーとウェイトで構成する副共振体がDRAで、これをパイプアームに装着して、カートリッジの針先が音溝以外の振動を拾わないようにする、という巧妙な設計である。
 バランスウェイト部分の特徴として、ウェイト支持軸とパイプ支持部分の接点になる部分の共振を抑える目的で、一点で両者がコンタクトをする構造にダンパーを組み合せた一点支持型防振構造が採用されている。このウェイト支持軸にバランスウェイトが組み合され、DRAと相まってトーンアームの分割共振を徹底して抑える手法が目立つ点だ。
 アームベース、パイプ支持部、ヘッド部などは、アルミと亜鉛ダイキヤストがそれぞれの特徴を活かして採用されており、水平軸受部はラジアルベアリングを使用している。アーム全体として、共振系を形成する無用な突起物が少なく、トータルバランスの優れた点が、このアームの特徴である。なお、アルミナセラミックスのストレートパイプは、DRA付で交換可能である。
 モーター部分は、モーター底部にあったローター支持点をターンテーブルの直下に移動し、ターンテーブル重心とこの支持点をほぼ一致させ、軸受部の側圧を抑え、回転安定度を飛躍的に向上した独自のSHローター方式を踏襲し、トルクリップルを極限まで抑える新着磁方式を採用したコツキングのないコアレス構造のクォーツPLL・DCサーボ型である。
 ターンテーブルは、直径36cm、重量13・3kg、シートを含めた慣性重量は、655kg/㎠と重量級で、内周部と裏側には、適度の制動効果のあるダンプ材が貼ってあり、ターンテーブルの固有振動によるカラレーションを排しているのは、このクラスの製品として細かい配慮である。なお、起動特性は、1回転以内、約2秒と発表されている。
 カートリッジは附属せず、機能はオート・リフトアップ機構が備わっている。
 基本的には、あまり神経質に置き場所を選ばなくても比較的にクォリティが高い音が得られ、本格的に使いこなせばそれだけの成果があるのが、この製品の素晴らしいメリットである。中量級カートリッジとの組合せも安定した対応を示すが、やや高級なMC型やMM型で、静かで、音離れがよく、音場感もスッキリと拡がる、最新録音の特徴を引出して聴く、という使用方法に好適である。CDと共存できる新しいアナログプレーヤーの登場を喜びたい。

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