ソニー TA-F555ESII

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ソニーから、去る9月に発売された新プリメインアンプは、デジタルプログラムソースからアナログプログラムソースまで高忠実度で再生できるように、基本特性を向上させるとともに、AV対応にはビデオ入力端子を2系統と出力端子を1系統備えていることに特徴がある。
 アンプとしての基本特性の向上のポイントは、実使用時のダイナミックレンジ120dBと左右チャンネル間のセバレーション100dBを実現していることだ。
 アンプ構成上の特徴は、プリアンプ部とパワーアンプ部との間に新たにカレント変換アンプを設け、信号系をプリアンプ部とパワーアンプ部とに電気的に分離し、独立できるオーディオ・カレント・トラスファー方式にある。この方式は、電圧としてプリアンプ出力に出てくる入力信号を、いったん電涜信号に変換し、このカレント変換アンプ終段に設けたリニアゲインコントロール型アッテネーターで再び電圧信号に戻す、というものだ。この方式の採用でプリアンプとパワーアンプ相互間の干渉やグランドに信号電流と電源電流が混在することに起因する音質劣化や、歪、ノイズなどの問題が解消でき、実使用時のダイナミックレンジの拡大と優れたセバレーション特性を獲得し、音質を大幅に向上しているとのことである。
 この電流変換アンプに設けられた新方式アッテネーターは、最大から実際に使われる音量に絞り込むに比例してインピーダンスが低くなり、通常のリスニングレベルでの歪や周波数特性、SN比、クロストークなどの諸特性が改善できる特徴をもつ。
 パワーアンプ部は、独自のスーパー・レガートリニア方式パワーアンプと大型電源トランスを組み合せ、100W以上の大出力時にも広帯域にわたりスイッチング歪、クロスオーバー歪を激減させ、4Ω負荷時180W+180W、1Ω負荷で、瞬時供給出力500W+500Wを得ている。
 なお、音質を左右する大きな要素である配線材料には、このところ話題のLC-OFCを大量使用しているあたりは、いかにもOFCワイヤー採用以来のソニーらしい動向を示すものだ。
 JBL4344を、LC-OFCコードを使いドライブしたときの本機の音は、ピシッと直線を引いたように感じられるフラットな帯域バランスと、タイトで密度感があり、十分に厚みのある質感、ダイレクトな表現力などが特徴だ。低域は芯がクッキリとし、力感も充分にあり、従来のソニーアンプとは一線を画した見事なものだ。
 音場感的には、音像が前に出て定位するタイプで、輪郭はシャープ。前後方向のパースペクティプな再生も必要にして充分だ。
 質的にも洗練され、ダイナミックでストレートな表現力を備えた立派な製品である。

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