ダイヤトーン DS-3000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 プログラムソースのデジタル化は、コンシュマーサイドでは、EIAJフォーマットのPCMプロセッサー、CD、ごく最近でのLDをデジタル化したLDDとバラエティも豊かになり、かつては、特別な響きをもって受け止められていた『デジタルプログラムソース』の言葉も、最近は身近な存在となり、伝統的なアナログプログラムソースと共存のかたちで定着しつつあるようだ。
 デジタルプログラムソースの一般化により、その桁外れに優れた基本特性に裏付けられた情報量豊かなサウンドと素晴らしい機能の両面から、従来の伝統的なアナログプログラムソースで育ち、発展してきたオーディオコンポーネントの全ジャンルにわたって、少なからぬ影響を与え、非常に興味深い結果が生じているようである。
 ダイヤトーンの新世代の到来を感じさせた500シリーズの第1作DS505は昭和55年に発売されたモデルだが、いち早くデジタルプログラムソース時代に対処して開発された、いわばデジタル対応スピーカーシステムの第1号機ともいえるコンセプトをもつシステムであった。
 今回、発売されたDS3000は、4ウェイ方式完全密閉型エンクロージュア採用というアウトラインから判断すれば、DS505を受継ぐモデルと思われるだけに、いわゆるマークII的なモディファイによる開発なのか、または、似て非なる完全な新製品であるかについて、DS505以来のDS503、DS501と続く500シリーズ、一昨年から始まった1000シリーズともいうべきDS5000、DS1000などとの相関性から探ってみることにしよう。
 最初に、ユニット構成、使用ユニット、スペックなどからDS505とDS3000の比較をしてみよう。基本コンセプトが同一だけに、両者の相違点を探せば結果は明瞭に出るはずだ。
 まず、エンクロージュア関係では、外形寸法的な高さと幅が3cm大きくなり、外容積では13ℓ増加しているが、内容積は70ℓから78ℓへの増加だ。外観的には判らないが、ミッドバス用バックチャンバーは、DS3000用のユニットの磁束密度が向上しているため、チャンバーに取り付けたときのQを臨界制動の0・7にする目的で、容積は12ℓから9・7ℓに縮少された。また、使用材料の変更で、本体重量は42kgから52kgに増加した。
ユニット関係では、低域と中低域振動板はアラミドハニカム・ストレート型コーンを採用し口径も同じだが、磁気回路とフレームの相対的な構造はDS1000で初めて採用されたDMM方式になっている。
 中高域と高域は、チタンベースにボロンを拡散した独自の製法による材料を使い、ボイスコイルと振動板を一体成型した直接駆動DUDドーム型採用は同じだが、中高域ユニットの口径が40mmから50mmに大型化され、ダイアフラム周辺に取り付けられた6個のディフューザー的なフィンは廃止された。なお、構造的には、低域や中低域ユニットと同様に、DS1000での技術を受け継いだDM方式が採用された高剛性設計である。
 また、発表された定格からは、再生周波数帯域、最大許容入力、定格入力などに相違を認めるが、決定的な差はなく、周波数特性、指向周波数特性での僅かな改善と、高調波歪特性で現状の限界値と思われる、100Hz~10kHz間で-60dBというラインに、DS505より一歩近付いたようだ。
 これらかち判断すると、デジタル対応スピーカーシステム第1号機として誕生した昭和55年当時のDS505において既に、ユニット関係の、とくに振動板周辺技術は完成されており、現在でもトップランクの性能を当時から獲得していた先進性は、発表された定格値が示している。
 一方、DS505以来の500シリーズの歩みを考えてみると、翌年の昭和56年に、口径65mmDUDボロン振動板採用の中域ユニットを開発し、ダイヤトーンの3桁シリーズは完全密閉型が原則という禁を破ったバスレフ型3ウェイシステムDS503を開発し、続く、昭和57年に新材料ωチタン採用の3ウェイ密閉型システムDS501と、DS502での開発の成果である65mm口径のDUDドームユニットに、新開発のアラミドハニカム・カーブドコーン採用の27cm口径ミッドバスユニットを中核とした4ウェイ構成バスレフ型のフロアーシステムDS5000を完成させている。このDS5000は、モデルナンバー的には500シリーズを受け払いだ♯1000シリーズの第1弾製品であるが、使用ユニットからみれば、500シリーズの技術の集大成として頂点を極めたモデルであり、モデルナンバーもDS500+0と考えられ、500シリーズのスペシャリティという類推もなりたつように思う。
 CDが実用化され、実用面での安定度が高まり、ソフト側のプログラムソースも数を増しはじめた昨年秋に、ダイヤトーンが新製品として発売したDS1000は、DS5000やDS505以来の500シリーズのシステムとは、一線を画した内容をもつコンパクトなブックシェルフ型システムである。表現を変えれば、500シリーズが新世代のダイヤトーンを象徴するとすれば、DS1000は新々世代、つまり、近未来型ダイヤトーンシステムの出発点となるモデルである。その技術的内容は500シリーズで展開し、完成されたアラミドハニカムとDUDボロンの2種類の振動板の優れた性能を一段と高め、より次元の高い音の世界への進化を目的として、振動板周辺のユニット構造を再検討し、構造面での性能アップを図っている点が最大の特徴である。
 この構造面での新技術は、きわめて基本的な部分での検討に端を発したもので、コーン型ユニットのフレームと磁気回路の相対関係にメスを入れたDMM方式と、ドーム型ユニットのフレームレス化を計ったDM方式が2本の重要な柱であり、DMM方式の採用で問題点として浮上してきたことがらが、変形8角フレームよりも振動減衰モードが単純で、音質向上ができる円形フレームの採用と、均等分割8点止めのユニット取付方法、さらに、フレームの不要輻射を抑えるための前面露出面積の縮少などがあげられる。
 これらの新構造ユニットの完成でクローズアップされたものが、ディフラクションを抑えるラウンドバッフルの採用へとつながった。ダイヤトーンにとってはこのラウンドバッフルは、放送用モニター2S305に初採用し2S208へと続く、いわば伝統的な手法であるが、このタイプを最初にコンシュマー用に採用したのがDS1000だ。
 このように、スピーカーシステムを歴史的に開発の流れに従って眺めてみると、今回発売されたDS3000は、1000シリーズのモデルナンバーが意味するように、DS1000をベースに4ウェイ構成化をしたシステムであることが判るであろう。
 DS3000で採用された4ウェイ構成は、帯域の分割方法により各種のバリエーションが存在するが、ここでは当然のことながら、DS505、DS5000での成果が反映された設計になるであろう。
 DS505の開発時点でダイヤトーンが名付けた、ミッドバス構成4ウェイシステムという考え方は、一般的な3ウェイシステムの場合に、低域を受持つウーファーは重低音から中低域までをカバーしており、これは音楽の最もエネルギー量の多いところだが、1個のユニットでこの帯域を完全にカバーすることはたいへんに難しいようだ。
 大ホールのライブネスやライブハウスのプレゼンスを重視すれば、中低域のレスポンスはタップリ必要となるが、それでは重低音が弱くなり、いわゆる重心が高い腰高の低音になってしまう。逆に、重低音を要求すれば、線が太くゴリゴリとした、力感めいたものがある低域になるが、いわゆる楽器の低音とは少し異なったものになる。
 現実は、二者択一で、重低音型のチューニングのほうがユーザーに判りやすく、いわばオーディオファン好みでもあるため、このタイプのほうが一般的であり、巷の評価も高いように思われる。
 この3ウェイ方式での問題点である低域ユニットの受持帯域を、重低音を受持つウーファーと中低音を受持つミッドバスユニットに分割したものが、ミッドバス構成4ウェイ方式とダイヤトーンで名付けたタイプで、それぞれの帯域を専用ユニットで再生するだけに制約は少なく、理想に近い低音の実現が可能である。
 この構想に至るまでには、ダイヤトーンにも、かなりの期間が必要であったようだ。もともと、コンプリートなスピーカーシステムとして市販されている製品では、4ウェイ構成のシステムはそれほど多くないが、ダイヤトーンではコンシュマーユースのシステムを手がけた第1作のDS301が4ウェイ構成を採用している。しかしこの場合の帯域分割の方法は、1500Hz以上を3個のユニットで分割したタイプで、放送用モニターシステム2S305の高域ユニットTW25の受持帯域を3ウェイ化したような特殊な4ウェイ化である。
 DS301の次期モデルとして開発されたDS303も4ウェイ構成のシステムだ。この場合は、低域と中域のクロスオーバー周波数が600Hzあたりで、標準的な3ウェイシステムにスーパートゥイーターを加えたとも考えられる帯域分割である。
 この2モデルの開発を通じて得られた結果が、ミッドバス構成4ウェイシステムに到達し、ユニット開発面での性能向上の要求が、コーン型ユニットではハニカムコンストラクションコーンの開発 スキン材のCFRPからアラミドへの発展と進化し、ドーム型では、フェノール系、紙などを使った従来型のタイプから、ボイスコイルボビンとダイアフラムを一体成型したDUDボロン型が開発され、従来のモデルにくらべて驚異的ともいえる性能と内容をもったDS505が完成されたわけだ。
 DS3000の低域と中低域ユニットは基本となるDS1000の27cmウーファーの帯域を拡張し2分割するために、結果としてはDS505での成果を受け継いだ32cm口径のウーファーと16cm口径のミッドバスユニットとなったが、ユニット構造はともにDMM方式を採用している。
 DMMとは、ダイレクト・マグネティックサーキット・マウントの略で、簡単にいえば、スピーカーフレームと磁気回路を機械的な強度を上げて結合しようというものである。国産ユニットでは一般的に、磁気ギャップがある前側の磁気プレートはフレームとネジで国定してあるが、マグネットとポールを含む後側磁気プレートは接着剤で糊付けする方法がとられている。
 ボイスコイルにパルシブな信号が人り、例えば前に動けば、その反動でフレームと磁気回路は後に動くのは当然であるが、このときに、フレームと前側のプレートと、マグネットと後側プレートは、接着剤で固定されているため個別な運動をするわけだ。
 海外製品ではマグネットのフェライト化にあたり、古くは米ポザーク、昨今では英タンノイ、米JBLなどは、この糊付部分は、ネジで固定し強度的にも問題はないようにしている。
 DS3000で採用されたDMM方式は、低域はフレームと別ピースのブロックで磁気回路を抑えるタイプ、中低域が磁気回路全体をフレームが包み込むタイプと、構造的違いはあるが、保持する部分が後側プレートのボールピース外側を抑えるアウターサポート方式と呼ばれるタイプで、DS1000のボールピース中心を抑えるセンターサポート方式と異なった方法を採用している。
 両者の得失は、モーダル解析の結果から、一次モードに対しての制動効果はセンターサポートが強烈だが、高次モードの高い周波数では効果が激減するのとくらべ、アウターサポートは広い周波数帯城のモードに安定した効果があり、ミッドバスを含めた中低域までの高剛性化では、アウターサポートが優れるという。この結論から、DS3000ではアウターサポート方式が採用された。
 中高域ユニットと高域ユニットは、独自のボロナイズドチタンDUDドーム型でDM構造採用である。DMとは、ダイレクトマウントの略で、従来型がフレームに振動系を組み、これと磁気回路をネジで固定していたが、DM方式では、磁気回路の前側プレートに振動系を組み、このプレート自体をエンクロージュアに取り付ける構造で、磁気的なエネルギーロスにより、わずかに磁束密度に影響は出るが、フレームの固有音や共振が皆無となり、シンプルで高剛性化が達成でき、非常に優れた応答性を実現している。
 中高域ユニットは、外観はDS1000の中域ユニットと類似するが、バックチャンバーレスとなり、バックチャンバーの形状、材質などに起因する固有音の発生や鳴きがなく、一段と純度が高い再生音が得られるユニットに発展している。なお、振動板関係は、DS1000の中域ユニットとエッジ部分を除いて共通である。このタイプのダイアフラムは、DS505の中高域ユニットと比較して、口径のほかに、ボロンが強化拡散化され物性値の向上と、ボイスコイルボビン部分までボロン処理が行なわれ、ボビンの長さも短縮してある。
 高域はDS1000のトゥイーターと同じ振動系に、φ85×φ32×13tからφ100×φ50×16tのストロンチュウムフェライト磁石を採用し、これはDS505の高域ユニットと同じものだ。
 エンクロージュア内部の吸音材も音質を左右するポイントとして、一部では古くから研究が続けられてきた。DS505時点でも、聴感上でのSN比を向上させるために、ナイロンロック、アセテートファイバーにグラスウールを加えた吸音材が採用されていたが、フレームを含めたユニット関係やネットワーク関係での高SN比が促進されたために、DS3000ではグラスウールは全廃され、ピュアウール、フェルト、ナイロンロックの3種のノイズの少ない吸音材が使われている。ちなみに、グラスウールはノイズの発生が目立つが、繊維状のガラスとほぼ同量の粒子状のガラスが混っているのがその原因であろう。この点で少しは、米国系のグラスウールは粒子の混入が非常に少なく、ノイズの発生も少ない。いずれにせよ、吸音材関係の研究は、いまだにメーカーサイドでもあまり意欲はなく、マンネリな吸音材の使用をしているのが実態のようで、音質に非常に有害なアッテネーターやレベルコントロールの問題を感知していない点も含み、使う側の使いこなしの欠如とも相まって、スピーカーの問題点は山積しているようである。
 ネットワーク関係も、ユニットと同等に音質を左右する重要なファクターである。基本的には、フィルムコンデンサーを主体としたDS505当時とは逆に、フィルム系独特の音的な強いキャラクターを避けるため、音質面で充分に検討されたバイポーラ電解コンデンサー主体の方向に進んでいる。
 アッテネーター、レベルコントロールの類を全廃しているのは、DS1000に続く見事な英断である。レベルコントロール用のツマミ類は、それ自体が、パッシブラジエーター的に中高域あたりの周波数でノイズを発生することにはじまり、アッテネーターをバッフル面に設けることにより、配線経路の延長と磁気フラツクスの影響による歪の発生、接点の存在や半田付処理の必要、さらに経時変化的接触不良の問題、バッフル板に穴あけが必要で、バッフルの響きを損うなどの問題が発生する。性能、音質を極限にまで追求する高級スピーカーシステムにおいては諸悪の根源といっても過言ではない存在だ。
 コイル関係は、ダイヤトーン独自の特殊コア採用の低歪型。配線材料は一種OFC、1・4スケアを中低域と中高域に、LC-OFCを低域と高域に使い分けている。素子間の接続などは、すべてノンプレーティングOFCスリーブを使用した庄着によるもので、入力端子部分のターミナルはDS5000と同一仕様の大型金メッキターミナルを採用し、各ユニット間の電流密度を均一化する特殊給電方式が採用されている。
 DS3000の試聴を始めることにしよう。このクラスの完成度が高いシステムでは、結果を決定的に支配するのがセッティングである。セッティングに関係なく、だれが使っても良い音で鳴るスピーカーが優れた製品とされた時代があるが、基本性能を向上させ、細部のモディファイを続けて追い込んでいくと、スピーカーシステムは、反応がシャープになり、無視されるようなセッティングの差や、わずかのアンプやプレーヤーシステムの使用条件の変化も音の変化として聴かせるようになるものだ。
 現在の優れたスピーカーシステムは、適当なセッティングでも程よく鳴り、正しく使いこめばシャープに反応を示し、圧倒な素晴らしいサウンドとプレゼンスが得られるものだと考える。このことは、いわゆるシャープな音からソフトな音まで、ダイナミックなサウンドからキメ細やかな繊細な響きまで、かなりの幅でコントロールできるだけのフレキシビリティを備えることを意味している。
 最初のラフなセッティングは、重量級のブロックや硬質な木製のブロックなどを置き、その上にスピーカーをのせて、ガタガタしないように置くことが条件である。ブロックを2段積む場合は、ブロック間に数mm厚のフェルトを挟む必要があり、スピーカー底板とブロック間にもフェルトを敷くべきだ。
 調整は、左右のブロックの幅をコントロールして低域と高域のバランスをとり、続いて前後方向に移動をさせてシステムの鳴りっぷり、表情をコントロールする。ポイントは、左右、前後ともに大幅に置き方を変えてみて、変化量を試してから細かい調整をすることだ。細かいコントロールを要求するときには、ブロックの穴は吸音材などで塞ぐべきであるし、スピーカー底板と床面、左右のブロック間の反射を避けるために、スピーカーに当らぬように吸音材を軽く入れるとよい。この吸音材にグラスウールの使用は不可だ。詳しくは、本誌71号の特集を参照されたい。
 本誌試聴室での試聴は、硬質な木製ブロックを1段で使ったが、床がコンクリートの上にカーペットを直接貼った仕上げのためか、この木製のブロックでは、やや重く、鈍く、反応が遅い傾向の音になるようだ。この条件では、重量級ブロックかビクターのLS1のような木組みのスタンドがマッチするだろう。使用コードはLC-OFC。手元にあったのは4本の芯線がパラレルになったタイプだけで、しかたなくそのうちの2本のみを使い、残りは使用していない。
 全体の傾向としては、柔らかく芯がクッキリとした安定感のある低域をベースに、、厚みのある中域、シャープな分解能が高い中高域から高域という広帯域型のバランスをもつが、聴感上のSN比が非常に優れ、音像定位がクリアーに立つ、音場感情報の豊かさが他のシステムと一線を画した特徴で、聴感上のSN比は、ブロック周辺の吸音材の使用と密接な関係がある。
 注意点としては、システム全体のメインテナンス、つまりコード関係のクリーニングやAC極性のチェックと機器の給電方法、プレーヤーやアンプの置き方などをあらかじめ整えてからヒアリングを始めることだ。システムに不備があれば、それはそのまま音に出て、スピーカーの責任と受け取りやすいことが往々にしてあるからである。DS3000はまず、整備された試聴室などで試聴をし、少しセッティングを変えながら、自分にとって好ましいかをチェックすることが必要であろう。イージーに使っても、優れた特質の片隣は聴かせるが、どのように使いこなすかによって、結果は大幅に変わるだろう。これが、試聴の印象を最少限にとどめた理由である。DS3000は使い手の力量が試されるシステムである。しかしそれにもまして、内に秘めた力をとことん引き出してみたいという強烈な誘惑にかられるシステムである。

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