Monthly Archives: 12月 1984

パイオニア PL-7L

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 このところ、10万円未満のアナログプレーヤーに注目すべき内容をもつ製品が多くなっている。今回、バイオニアから発売された、PL7Lは、リファレンス・プレーヤーの名称をもつだけに、同社の定評あるプレーヤー技術を集大成した、デジタルプログラムソース時代のアナログプレーヤーとでもいえる、内容の濃い製品である。
 PL7Lの最大の特徴は、デザイン的にもアクセントとなっている、左右からプレーヤーベースを挟むように置かれた、4個の特殊な構造をもつダブルインシュレーションシステムと呼ばれる脚部にある。
 従来機が、プレーヤーベース本体と置場所の棚などの間にインシュレーターを入れて振動を違断していたことにくらべ、この方式は、設置場所とプレーヤーベース本体の底板に相当するアンダーボード間と、アンダーボードとプレーヤーベース本体の間にそれぞれインシュレーターを設けたダブルフローティング構造である。
 このダブルインシュレーションシステムは、それ自体が低重心構造であり、ラテラルダンパーの採用で、床などから伝わる縦方向の振動とスピーカーの音圧などの横方向の振動、さらに高トルクDDモーターの反作用による振れなど、あらゆる方向の振動を効果的に抑制し、200Hzあたりの中低域では、従来型と比較して30dB近い振動遮断特性の向上が得られたようで、音質面での効果は相当に高いはずだ。
 また、ダストカバー部分には、フードインシュレーションシステムが採用してある。これは、ダストカバーが受ける音圧による振動、床からの振動をプレーヤーベース本体と遮断する方式で、アナログプレーヤーの本質を捉えたオーソドックスな処理だ。
 トーンアームは、共振を抑え、混変調歪の少ない忠実な音楽再生を狙った設計で、パイプ部分には、軽量、高剛性のアルミナセラミックスを、強度が高く、重量的にも有利なストレート型として採用し、これに、パイオニア独自の開発によるDRAを組み合せている。
 DRA(ダイナミック・レゾナンス・アブソーパー)とは、トーンアーム自体の共振を逆共振を利用して打消そうとするもので、適度なバネ特性をもつダンパーとウェイトで構成する副共振体がDRAで、これをパイプアームに装着して、カートリッジの針先が音溝以外の振動を拾わないようにする、という巧妙な設計である。
 バランスウェイト部分の特徴として、ウェイト支持軸とパイプ支持部分の接点になる部分の共振を抑える目的で、一点で両者がコンタクトをする構造にダンパーを組み合せた一点支持型防振構造が採用されている。このウェイト支持軸にバランスウェイトが組み合され、DRAと相まってトーンアームの分割共振を徹底して抑える手法が目立つ点だ。
 アームベース、パイプ支持部、ヘッド部などは、アルミと亜鉛ダイキヤストがそれぞれの特徴を活かして採用されており、水平軸受部はラジアルベアリングを使用している。アーム全体として、共振系を形成する無用な突起物が少なく、トータルバランスの優れた点が、このアームの特徴である。なお、アルミナセラミックスのストレートパイプは、DRA付で交換可能である。
 モーター部分は、モーター底部にあったローター支持点をターンテーブルの直下に移動し、ターンテーブル重心とこの支持点をほぼ一致させ、軸受部の側圧を抑え、回転安定度を飛躍的に向上した独自のSHローター方式を踏襲し、トルクリップルを極限まで抑える新着磁方式を採用したコツキングのないコアレス構造のクォーツPLL・DCサーボ型である。
 ターンテーブルは、直径36cm、重量13・3kg、シートを含めた慣性重量は、655kg/㎠と重量級で、内周部と裏側には、適度の制動効果のあるダンプ材が貼ってあり、ターンテーブルの固有振動によるカラレーションを排しているのは、このクラスの製品として細かい配慮である。なお、起動特性は、1回転以内、約2秒と発表されている。
 カートリッジは附属せず、機能はオート・リフトアップ機構が備わっている。
 基本的には、あまり神経質に置き場所を選ばなくても比較的にクォリティが高い音が得られ、本格的に使いこなせばそれだけの成果があるのが、この製品の素晴らしいメリットである。中量級カートリッジとの組合せも安定した対応を示すが、やや高級なMC型やMM型で、静かで、音離れがよく、音場感もスッキリと拡がる、最新録音の特徴を引出して聴く、という使用方法に好適である。CDと共存できる新しいアナログプレーヤーの登場を喜びたい。

テクニクス SU-V10X

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CD、PCMプロセッサーなどのデジタルプログラムソース、ハイファイVTR、ビデオディスクなどのAVプログラムソースなど、多様化するプログラムソースに対応する現代のプリメインアンプとしてテクニクスから登場した新製品がSU-V10Xである。
 アンプとしての基本構成は、テクニクスが理想のパワーアンプを目指し、クロスオーバー歪とスイッチング歪を解消するシンクロバイアス回路ニュー・クラスA、トランジエント歪に対するコンピュータードライブ、理論的に歪を0とするリニアフィードバック方式などの技術と、大電涜が流れる出力段で発生する電磁フラツクスを抑えるコンセントレイテッド・パワーブロック構造の採用などが、従来からのテクニクスアンプのストーリーだが、今回さらに、駆動電圧と電流間に位相差をもつ実スピーカーに対し、リニアな駆動とドライブ能力を向上するコンスタントゲイン・プリドライバー回路を採用したことが特徴で、オンキョーのアプローチとの対比が興味深い。
 機能面では、AVシステムの中心となるアンプらしく、AV信号を連動切替するAV入力セレクター、単独切替のRECセレクターとグラフィックイコライザーなどを使用する外部機器専用端子、ターンオーバー可変型トーンコントロールなどが備わるが、AUX1/TV、AUX2/Video、TAPE2/VTRと3系統のAV入力端子のうち、AUX2/Video端子は、フロントパネル面にもあり、フロントとリアがスイッチ切替可能である。
 パワーアンプは、150W+150W(6Ω負荷)の定格をもつが、電源部は、従来のトランスと比較し10~20%以上太い線を高密度に巻ける尭全整列巻線法を採用し、レギュレーションを改善している。線材は無酸素銅線、3重の磁気シールド内に特殊レジン封入で振動が少ない特徴がある。なお、電解コンデンサーは全数300Aの瞬間電流テストを行なう特殊電解液使用のオーディオ専用タイプで強力な電源部を構成し、310W+310W(4Ω負荷)、400W+400W(2Ω負荷)のダイナミックパワーを誇っている。
 JBL4344とLC-OFCコードによるヒアリングでは、ナチュラルに伸びた広帯域型のバランスと、聴感上でのSN比が優れ、前後方向のパースペクティブを充分に聴かせる音場感と実体感のある音像定位が印象的である。優れた物理的特性に裏付けられたクォリティの高さ、という従来の同社アンプの特徴に加えて、スピード感のある反応の早さ、フレッシュな鮮度感のある表現力が加わったことが、魅力のポイントである。新製品が登場するたびに、ひたひたと潮が満ちるようにリファインされているテクニクスアンプの進歩は見事だ。

ヤマハ A-1000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハからの新製品A1000は、昨年、高級プリメインアンプの市場に投入され見事な成果を収めたA2000と基本的に同一コンセプトをもつ製品である。
 このところ、ブラックパネルが大流行のようで、視覚的に各社間のデザイン的な特徴が希薄になりがちのなかにあって、ツヤを抑えたヤマハ独自のシルバー仕上げのパネルと、ウォルナット鏡面仕上げのウッドキャビネットを配したデザインは、クリアーで、エレガントな雰囲気をもつ新しいヤマハの顔であり、A2000とのパネルフェイスの違いは、好みが分かれるところであろう。
 アンプとしての構成は、MC型カートリッジをダイレクト使用可能な、NF/CR型ハイゲインイコライザー、低域をスピーカーに対応して約1オクターブ伸ばす独自の3段切替リッチネス回路とト-ンコントロールを備えたラインアンプ、B2x、A2000パワーアンプ部に順次採用されてきた、純A級アンプに電力損失を受持つAB級パワーアンプを組み合せたヤマハ独自のデュアル・アンプ・クラスA方式の120W+120W(6Ω負荷)、140W+140W(4Ω負荷)の出力をもつパワーアンプ、の3ブロック構成で、A2000の流れを受け継ぐものである。なお、パワーアンプ部にはヤマハ独自開発のZDR歪回路を採用し、一般的な純A級パワーアンプのわずかの素子の非直線性に起因する歪をも除去し超A級ともいえるリニアリティを実現し、織細で美しい音を得ている。
 電源部は、多分割箔マルチ端子構造ケミコン採用で、総計14万6千μFの超強力電源を構成し、2Ω負荷時のダイナミックパワーは、279W+279Wを得ている。
 機能面では、入力切替スイッチに2系統のTAPE入力を組み込み、アクセサリー端子を独立して設けたのが特徴。AV対応時のサラウンドアンプやグラフィックイコライザーなどの接続時に使い、使用しないときにはショートバーで結んでいる。なお、この端子の後に、ミューティング、モード、バランス、ボリュウムコントロールがあるため、接続されるアクセサリー横器の残留ノイズ等はボリュウムで絞られ、通常の使用時でのSN比は良く保たれる。
 JBL4344とLC-OFCコードによるヒアリングでは、音の粒子が、細かく滑らかに磨き込まれており、素直に伸びた適度なワイドレンジ感と、自然な雰囲気の音場感的な拡がりが印象的で、ナチュラルサウンドの名にふさわしく、洗練された音だ。A2000と比較すれば、全体の音を描く線が、細く、滑らかなのが特徴であり、このしなやかな表現力は、使うにしたがって本来の良さが判ってくるタイプの魅力だ。リッチネスを使うときのポイントは、わずかに、トレブルを増強することだ。

ソニー TA-F555ESII

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ソニーから、去る9月に発売された新プリメインアンプは、デジタルプログラムソースからアナログプログラムソースまで高忠実度で再生できるように、基本特性を向上させるとともに、AV対応にはビデオ入力端子を2系統と出力端子を1系統備えていることに特徴がある。
 アンプとしての基本特性の向上のポイントは、実使用時のダイナミックレンジ120dBと左右チャンネル間のセバレーション100dBを実現していることだ。
 アンプ構成上の特徴は、プリアンプ部とパワーアンプ部との間に新たにカレント変換アンプを設け、信号系をプリアンプ部とパワーアンプ部とに電気的に分離し、独立できるオーディオ・カレント・トラスファー方式にある。この方式は、電圧としてプリアンプ出力に出てくる入力信号を、いったん電涜信号に変換し、このカレント変換アンプ終段に設けたリニアゲインコントロール型アッテネーターで再び電圧信号に戻す、というものだ。この方式の採用でプリアンプとパワーアンプ相互間の干渉やグランドに信号電流と電源電流が混在することに起因する音質劣化や、歪、ノイズなどの問題が解消でき、実使用時のダイナミックレンジの拡大と優れたセバレーション特性を獲得し、音質を大幅に向上しているとのことである。
 この電流変換アンプに設けられた新方式アッテネーターは、最大から実際に使われる音量に絞り込むに比例してインピーダンスが低くなり、通常のリスニングレベルでの歪や周波数特性、SN比、クロストークなどの諸特性が改善できる特徴をもつ。
 パワーアンプ部は、独自のスーパー・レガートリニア方式パワーアンプと大型電源トランスを組み合せ、100W以上の大出力時にも広帯域にわたりスイッチング歪、クロスオーバー歪を激減させ、4Ω負荷時180W+180W、1Ω負荷で、瞬時供給出力500W+500Wを得ている。
 なお、音質を左右する大きな要素である配線材料には、このところ話題のLC-OFCを大量使用しているあたりは、いかにもOFCワイヤー採用以来のソニーらしい動向を示すものだ。
 JBL4344を、LC-OFCコードを使いドライブしたときの本機の音は、ピシッと直線を引いたように感じられるフラットな帯域バランスと、タイトで密度感があり、十分に厚みのある質感、ダイレクトな表現力などが特徴だ。低域は芯がクッキリとし、力感も充分にあり、従来のソニーアンプとは一線を画した見事なものだ。
 音場感的には、音像が前に出て定位するタイプで、輪郭はシャープ。前後方向のパースペクティプな再生も必要にして充分だ。
 質的にも洗練され、ダイナミックでストレートな表現力を備えた立派な製品である。

オンキョー Integra A-819RX

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDの登場により、デジタル記録をされたプログラムソースが手近かに存在するようになると、これを受けるアンプ系やスピーーカーも、根本的に洗いなおす必要に迫られることになる。いわゆる『デジタル対応』なる言葉も、このあたりをマクロ的に捉えた表現であるようだ。
 オンキョーからインテグラRXシリーズとして新発売されたプリメインアンプA819RXは、せいぜい入力系統の増設や1〜2dBのパワーアップ程度でお茶をにごした間に合せの『デジタル対応』でなく、根本的にデジタルソースのメリットを見直し、確実にそれに対応し得る本格派『デジタル対応』に取り組み完成した新製品だ。アンプ内部での位相特性を大幅に向上し、CDのもつ桁外れに優れた音場感情報の完璧な再現に挑戦したのが、新シリーズの特徴だとのことである。
 構想の基本は、スピーカーの電気的な位相周波数特性で、特にf0附近で大きく変化する電圧と電流の位相変位に着目し、これを駆動するパワーアンプの電源トランスに1対1の巻線比をもち非常に結合度を高くしたインフェイズトランスを設け、+側と−側の電解コンデンサーの充電電流の山と谷を打消して位相ズレ情報を除去し、電圧増幅部への影響をシャットアウトして、正しい位相情報を再生しようというものだ。
 また、インフェイズ・トランスにより、+側と−側の電解コンデンサーの充電電流が等しいということは、電源トランスの巻線の中央とアース間に電流が流れないことを意味し、フローティングも可能であるが、コモンモードノイズ除去のため、トランス中央はアースに落してあるとのことだ。
 アンプ構成は、MC対応ハイゲインフォノイコライザーアンプとパワーアンプの2アンプ構成で、パワーアンプは、SP端子+側からNFBをかけ、さらに、超低周波での雑音成分をカットするためのサーボ帰還がかけられ、SP端子−からはアースラインのインピーダンスに起因する歪や雑音をキャンセルする、ダブル・センシング・サーボ方式を採用。また、A級相当の低歪リニアスイッチング方式が採用されている。なお、音楽信号を濁らせる電解ノイズを低減するチャージノイズフィルター、外部振動による音質劣化を防ぐスーパースタビライザー、2系統のテープ端子用に独立したRECセレクターなども特徴である。
 試聴した印象では、独特の粘りがありながら、力強くエネルギー感のある低域をベースに、豊かな中低域、抜けの良い中域から高域がバランスをした帯域感と、説得力のある表現力を備えた独特のまとまりがユニークだ。音場感は豊かな響きを伴ってゆったりと拡がり、定位感もナチュラルである。この低域から中低域をどのように活かすかが使いこなしのポイントである。

ソニー CDP-552ESD + DAS-702ES、Lo-D HDP-001 + HDA-001 (DAD-001)

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 1982年10月のCDプレーヤー発売以来、まる2年が経過した。というよりも、3年目に入ったという言い方のほうがよいかもしれない。なぜならば、多くのメーカーのCDプレーヤーは第三世代目が登場しているからだ。例によって異常に闘争的で気短かな日本のメーカーの気迫のおかげで、2年間としては驚くほどの機種数が発売され、第一目標の10万円はさっさと割り、ついに5万円が普及品の競争価格となった。いいものを安く作って売ることは大いに喜ばしい。しかし、一方において、高くてもより優れたものを作ることも大切だ。この2年間のCDプレーヤーは、価格的にも内容的にも、中級からスタートを切って、上下へ発展したように見える。しかし現実は必ずしもそうではなく、価格的にはその通りなのだが、内容としては、個々の機器によってまちまちで、価格と性能・音質との関連は見出しにくい。安くても音のいいもの、高くてもそれほどでもないもの、そして、さすがに高いだけあって素晴らしい音のものなどが入り乱れているといってよい。
 デジタルオーディオは、もともと音に差の出るものではなく、フォーマットが同じならば、それですべてが決るのだと聞かされてきた。もし、その通りなら、いまの現実がおこるはずはない。ほんとうは安くても高くても、その基本性能と本質的な音に変りはないはずなのである。少なくとも、価格の安いもののほうが音がよいなどということがおこってはいけないはずである。しかし、それはあくまで『はず』であった。CDプレーヤーが出る何年も前に、私はデジタルプロセッサーとビデオデッキを使っての実験的な録音を何度か行なったが、その度に、このデジタルエンジニアリングの専門家の言葉を疑わざるを得ない体験をしてきた。同じプロセッサーで、デッキを変えると音が変わる。テープによっても若干の音質の変化があるという体験をした。CDが実用化して、多くの人達が、プレーヤーによる音の変化を指摘した。皆、一様に、そんなはずはないのだが、実際に違うのだと首をかしげたものだ。ついには日本オーディオ協会が主催して、市販のCDプレーヤーの音を聴き比べる実験も行なわれた。私もこれを聴いて、改めて、その違いに驚かされた。出席した数百人のマニア諸兄も同様の感想をアンケートに残したのである。
 この2年間、自宅で数多くのCDプレーヤーに接したが、ますますその観を深めている。CDプレーヤーもまた、多くのオーディオコンポーネントと同じく、この複雑微妙な音と音楽の再生に個性をもつことが、私たちの耳で確められたのである。ただし、アナログプレーヤーのような大きなバラつきがないことは事実であって、その下限(今後のことは未知だが……)の水準は、アナログの最低水準よりはるかに高い。価格を考え合せるとなおさらのことで、例えば、5万円の価格で、カートリッジつきプレーヤーとイコライザーアンプまでを含めたアナログの再生システムとなると、まともなコンボーネントの範疇には到底入れられないレベルのものだろう。しかし、上限はどうか? これはどうやら今の段階では明言し難いようだ。私見でば、現在のCDフォーマットの16ビット/44・1kHzというのは、不十分と感じられる。人間の感覚と音楽の妙、その芸術性に謙虚に技術が奉仕するためには、不必要と思われる余裕のある規格、例えば、22ビット/100kHz以上のサンプリング周波数で、実際ものを作り、多くの人に聴かせ、経済性との妥協点でどこまで下げられるかをじっくり時間をかけて検討すべきだと私はメーカーに言い続けてきた。現在のCDフォーマットは既成の学説の鵜呑みに理論値をあてはめたもので、決して十分な実験の結果決められたものではない。いずれ、そのうちに、スーパーCDフォーマットなるものが出来るような気もするのである。とはいうものの、現在のCDの能力は、いまだに計り知れないところがあって、新機種の中には、驚くほど音がよくなったものがあるのも事実である。そして、今や、私個人の楽しむプログラムソースとしても、CDはすっかり定着し、よきにつけあしきにつけ、アナログディスクにはない特徴に日常親しんでいるのである。
 CDの可能性は未知だと書いたが、それを再生倒で強く感じさせてくれたのが、今回登場のソニーCDP552ESD+DAS702ESと、Lo-D、DAP001+HDA001という2機種であった。
 図らずも、ほぼ同時に発売されたこれらの機種の共通点は、セパレート型CDプレーヤーシステムというもので、光学メカニズムを含む信号処理部までのデジタル系と、DAコンバーター以後のアナログ系とを、それぞれ別のシャーシに分離してまとめられた新しいコンセプトによるものだ。このコンセプトは従前から話題にはなっていたもので、ぜひ製品化の実現が望ましいと考えられていたものである。その理由はいくつかあるが、一つには、デジタル系とアナログ系を狭い共通のシャーシ上に同居させることによる各種の干渉による悪影響が想像されていたからだ。そして、このコンセプトによる製品は当然コスト高となるが、それによってさらに、各部の品位を上げることに連ることが予想されたのである。現に2機種とも、ただセパレートにしたのみならず、それぞれ、デジタル部もアナログ部も従来機よりも一層入念な回路設計、コンストラクション、パーツの選択に磨きがかけられているのである。次に、この形態をとることにより、プレーヤーとプロセッサーが独立製品となり、コンポーネントとしての発展性と趣味性が高まることである。今のところ、Lo-Dとソニーでは、プレーヤーのデジタル信号出力の出し方に違いがあって、出力端子を含めてしかるべく統一が図られるべきだし、その方向に向っているが、そうなると、他のメーカーからDAプロセッサー単体が発売される可能性が出て、プレーヤーとプロセッサーの組合せの自由度が生まれることになるだろう。すでに、これを大いに歓迎しているアンプの専門メーカーもあり、こうなるとCDプレーヤーのハイエンドユーザー層への浸透に拍車がかけられることになるはずである。CDプレーヤーの普及化もよいが、一方において、熱心なハイエンドユーザーに認知されないことにはCDの市民権は不十分である。ユーザーの中には、まだまだCDアレルギーの人々が多いはずで、それらの人の中には、問答無用、聴く耳持たず……といった感情的な姿勢の人も少なくないことを知っているが、同時に、現在のCDの水準が文句なく受け入れられるレベルにまでは至っていないのも事実である。私自身のCD観は初めに書いた通りなので重複は避けるが、この新しいテクノロジーの成果と可能性はもっと虚心坦懐に受け入れたほうがよい。こだわりも必要だが、前向きの明るさも大切だ。人生、ネアカジュクコウが私のモットーである。

ソニー CDP552ESD + DAS702ES
 さて、このソニーとLo-Dの2機種についてだが、詳しくは、後で御紹介するそれぞれの機械の直接の担当エンジニアとのインタビューを読んでいただくとして、その概略を述べておこう。
 ソニーCDP552ESDは、同時発売のCDP502ESと基本的に同じCDプレーヤーであるが、本機は、それにデジタル出力端子を装備したものである。このプレーヤーの最大の特徴は、その操作性の完成度の高さであって、きわめて静粛かつ迅速なアクセスはあらゆるCDプレーヤー中、群を抜いている。20キーを持ち、最大20曲までメモリー可能、呼び出しはこれにプラス10キーを加えて30曲まで瞬時におこなえる。メモリーは演奏中にプログラムのチェック、追加、変更も可能である。また、シャッフルプレーといって、プレーヤー自身で再生曲順をランダムに選定するという面白い機能ももっている。新しいLSIの開発で主要デバイスは一新され、光学系のメカニズムやサーボもより完成度を高めた。フローティングマウントにより、メカ自身と外部からの振動への対策も図られている。CX23033ICによるデジタルオーディオインターフェースでピンプラグ一本で簡単にデジタル出力がシリーズアウトされる。これでCDのサブコードなども送信可能である。ピックアップ駆動にはリニアモーターが使われ、サーチはきわめて速い。速すぎてディレイスイッチが用意されているほどだ。また、サーチ中の不快なノイズも全く気にならない。ディスクトレイの出入もスピーディで全くいらいらすることがなく、一度このプレーヤーを使うと、他機種のそれがスローモーションでじれったくなってしまうだろう。リモートコントロールユニットRM-D502は、CDP502ESと共通の赤外線パルス式である。
 DAS702ESは将来の放送衛星やSHF放送試聴の備えをもったDAプロセッサーで、サンプリング周波数は32kHz、44・1kHz、45kHzに自動切換えにより対応する。DAコンバーターはLR独立型、オーディオ回路には電源トランス、コンデンサー、線材などに入念な音質対策が施され、ESシリーズ共通の剛性の高いシャーシコンストラクションとなっている。

Lo-D DAP001 + HDA001
 Lo-D/DAP001も、大筋においては変りはなく、光学系のメカニズムと信号処理部までのデジタル回路をもつたCDプレーヤー。このプレーヤーのアクセス機能は既存のDAD600に準じるもので、10キーを備えたコンベンショナルなもの。操作性は標準的といってよいだろう。内容的な特徴としては、5重訂正という大きな訂正能力をもつが、これは新しく開発されたC-MOS・LSIによりエラーは1回/20万年という高性能、かつ、訂正もれによる補間雑音も最小限におさえられているという。150億以上のピット信号が刻まれているCDだから、読み出しのエラーはつきものである。またCDそのものの成形もパーフェクトにはいかないから、そのローカルディフェクトも無視出来ない。デジタル系で音が変わるとすると、誰もがまずエラーレイトを想起するし、事実、エラーレイトのチェック以外に、今のところ、デジタル系に起因する音質の定量的チェック方法はないらしい。必要以上とも思われる5重訂正という従来の倍以上の訂正能力をもたせ万全を期したものだろう。デジタル信号の出力は、今のところアンフェノール24ピン・コネクターによっているが、いずれ、ソニーと同じフォーマットに改められる予定である。この部分は今後、いろいろな論議を呼ぶことになりそうである。このプレーヤーは、ソニーと正反対といってよいデザインイメージで、ソニーがブラックなのに対し、こちらはシルバー。メカニカルなソニーのパネルフェイス廻りに対して、こちらは木製サイドボードをもったウォームなものである。
 HDA001はデジタルフィルター、DAコンバーター、サンプルホールド、ローパスフィルター、アナログアンプの各ブロックをまとめたプロセッサーである。DAコンバーターはリニア積分型でLR独立して使われている。デジタルフィルターはオーバーサンプリング方式で、この辺りは、ソニー、Lo-D共に自社開発のLSIを使っているのでパーツの差はあるが、基本方式としては同じとみてよいだろう。アナログアンプ部は、これも入念な配慮がみられ、電源トランス、コンデンサーなど、コンストラクション、品位ともども十分検討されたものだ。キャビネットの無共振化、外部振動の遮断などへの配慮も、DAP001とともによく検討された作りである。
 それでは、以下、ソニー、Lo-Dそれぞれの開発担当者とのインタビューによって、それぞれの製品の特徴を中心にさらに話を進めることにしよう。私が、ソニー、Lo-Dのエンジニアに質問する形で進行することにする。

●ソニー開発担当者エンジニア
──CDプレーヤーを、セパレート化された理由をお聞かせ下さい。
『CDプレーヤー開発する前に、PCMプロセッサーPCM-F1を商品化したわけですが、このとき、音を徹底的に追及したかったため、使い勝手をやや犠牲にしながらもセパレート型を採用し、そのおかげで、かなり満足すべき結果が得られました。
 PCMレコーダーでセパレート型を開発したことにより、CDプレーヤーにおいても、メカニズムが発生する振動がエレクトロニクス部分に与える影響、それに、デジタル回路とアナログ回路の干渉が、音質劣下をきたすのではないかと、感じていました』
──CDP101を発表された時に、既にセパレート型の方が音がいいことは判っておられたのに、なぜ、最初のCDプレーヤーは、インチグレーテッド型で出されたのですか。
『アンプにも、インテグレーテッド型とセパレート型があり、それぞれ意味があるわけですが、CDプレーヤーでも同じことが言えます。われわれとしましては、高級機はセパレート型も考えていましたが、まだ、その時点ではCDプレーヤーのデジタルアウトの規格が決まっておらず、CDを普及させる意味もあって規格が決まるまで待っていたわけです。
 このデジタル・インターフェースの規格は、プロ用デジタル機器の規格に準じたもので、ドラフトが一九八二年末に、最終文書が翌年九月に配布されています。これは現在はIECで標準化されようとしています』
──具体的には、どの部分から分けられたのですか。
『D/Aコンバーターを、プロセッサー側に内蔵する形態を採りました。これは、将来出てくるであろう衛星放送チューナーやDATに対応できるようにするためです。
 プロセッサーは、サンプリング周波数をCDの44・1kHzの他に48kHz、32kHzにも対応できるように設計していますので、フォーマットさえ同じなら他のデジタル機器でも接続可能になるわけです』
──セパレート型でしかできないこと、それに、ソニーの第三世代のCDプレーヤーとして第1、第二世代のモデルとの違いはありますか。
『インテグレーテッド型の場合、一つのシャーシにメカニズム、デジタル回路、アナログ回路を収めるため、スペース的余裕がなく、どうしてもアナログ回路は妥協せざるをえなかったわけですが、スペース的に余裕のあるセパレート型は、アナログ回路にアンプ開発で培ったノウハウ、技術を充分に生かすことができました。
 従来の光学系はギヤで駆動しており、メカニズムの機械ノイズ、経時変化の問題がありましたが、今回採用したリニアモーター方式は、ギヤ駆動の問題点をすべて解決することができ、また、アクセスのスピードアップも可能となりました。
 さらに、ピックアップ部と駆動部を一体化したことにより、加工精度が向上して、より正確な信号のピックアップが可能になりました。また、この部分を、シャーシからフローティングしていますので、メカニズムが発生する機械ノイズがエレクトロニクス部分に影響を与えることはありませんし、外部振動からピックアップ部が逃げられるなどの、メリットがあります』
──デジタルは、音が変わらないとCDの発売当初は言われましたが、実際にはかなり大きな違いがありますが、このことについて、設計者の方は、どうお考えでしょうか。
『LSIとデジタル回路の設計は、純粋なデジタルのエンジニアが担当していますが、メカニズム、アナログ回路を含めたCDプレーヤーの全体的な設計は、長くオーディオを担当しきたエンジニアがやっており、彼等がデジタル回路を見直しますと、音の変わる要素が数多く出てきます。
 さらに、デジタル波形を見てみますと、理論上では0と1しかないはずですが、0にもいろいろな0があり、1にも同じことが言えます。単純に、デジタル信号は0と1だけとは、現在では言えないように思っています』
──それは、どういったことが原因で起こるのですか。
『まだ正確なことは言えませんが、おもに個々のパーツが発生するノイズ、デジタル回路が出すノイズ、機械ノイズ等の影響からくるものだと考えられます。将来的には、この辺を完全にクリーンにして、デジタル信号を理論通りの0と1のみにして、信号処理していくつもりです。
 今回のモデルが、CDで出せる究極の音とは言いませんが、デジタルのもつ優れた可能性を伺い知ることのできるものだとは思っています』

●Lo-D開発過当エンジニア・インタビュー
──セパレート化されたコンセプトは、どこにありますか。
『エレクトロニクス回路は、デジタル、アナログに関係なく電源は重要なポイントだと思っています。
 一般的なCDプレーヤーは、1つのシャーシにデジタル回路とアナログ回路とを同居させているため、それぞれに理想の電源をもたせることは無理ですし、どこかで妥協せざるをえない。また、共通の電源を介して起こる干渉と、デジタル回路から発生するノイズの、アナログ回路への飛びつきを防ぐために、セパレート化に踏み切ったわけです』
──セパレート型と、インチグレーテッド型との音の差はどの程度ですか。また、それは、ただ単にセパレートしたためによるものですか。
『作ったわれわれが驚くくらい、非常に大きい差と言えます。しかし、ただ単にセパレート化したことだけによる音質向上ではなく、現時点で、考えられるだけのことをやり、徹底したコンストラクションの見直し、パーツの追及によるところも大きいと思います。
 今回のモデルの開発は、おもにアナログ系を重点的に音を詰めていきました。デジタル部も新たにLSIを起こしましたし、五重訂正回路の採用により、これまでは平均値補間で処理してきた大きなエラーも、正しいデータに直り、アウトプットされます』
──電源には、どういったことがされていますか。
『電源は、ローノイズの高速ダイオード、4700μFの音質対策コンデンサー、そして15Vに定電圧化して、そのコンデンサーの容量も1000μFものを使用しています。ようするに、セパレートアンプの電源と同じ考えで、音質追求を図っています』
──どの部分から、分けているのですか。
『D/Aコンバーターは、プロセッサー側に入っています。この分けかたは、基本的にはソニーのものと同様といえます。ただし、ソニーは、ピンケーブル一本で信号の受け渡しを行っていますが、われわれは、24ピンのアンフェノールコネクターを用いました。
 受け渡しの信号の内容は、シリアルデータ、データのクロック、サンプルホールドの信号とエンファシスの有無の信号、ミューティング、グランドラインで、これをモジュレートせずに送りだすか、モジュレー卜するかだけが、われわれの方式とソニーの方式の違いですが、互換性をもたせるためにピンコネクター方式に変更すべく、検討中です』
──特性データをとると皆同じになるデジタルですが、その音の違いはアナログ以上に思うのですが、データと聴感の関係をどう考えられていますか。
『各社とも、あまりにも音が違いすぎる。しかし、データをとると皆同じ。われわれは、これを解明するには現在考えられる究極のものをやってみなければならないという結論に達したわけです。
 同時に、高級アナログプレーヤーを使われているユーザーにも、満足していただけるような音をCDからいかに出すか、ということも目標としてありました』
──音決めをされる場合、デジタル部とアナログ部と、どちらが比重が高いのですか。
『パーツ交換による音の変化は、アナログ系のほうが大きいです。しかし、デジタル系も使用パーツの違いによって、そうとう音が変わるのも事実です。アナログ系のもう一つの特徴は、ローパスフィルターの後のオペアンブの出力に、能率の高いスピーカーならドライブできるほどのパワーをもつバッファーアンプを備えていることです。これは、音質向上にそうとう大きな効果があったと考えています。
 CDに含まれている情報を正確にピックアップしてアナログに変換しても、それをプリアンプに正確に伝送しなければ、なんにもなりません』
──このモデルは、インチグレーテッド型と比べて、音の差が非常に大きいわけですが、これはセパレート化によるところが大きいと思われますか。
『このモデルは、いろんな細かいことの積み重ねによって、ここまでのクォリティがえられたのだと思います。ですから、もしかすると、どれかひとつでもかければ、がらりと音が悪くなるのかもしれないし、ひとつぐらいかけてもそれほど音は変化しないのでは、とも思えます。このへんは、これから追及していきたいところでもあり、疑いだすときりがなく、オーディオの一番象徴的な問題がでてきた感じで、設計者泣かせのところでもあります』

 以上、それぞれのCDプレーヤーの担当エンジニアの談話である。その話からもわかるように、セパレート型のメリットは明らかなようだ。そして、その理由は、デジタル回路とアナログ回路の干渉をおさえることによる音質改善、メカニズムの発生する振動がエレクトロニクス部分に与える影響の回避、十分なスペースを確信し、余裕のあるコンストラクションの確保、そして、それらによって得られる高品位をさらに高めるパーツや回路の洗練によるものであることが解る。
 2機種ともに、実際の試聴でその音のよさは明確に認識され、初めに書いたようにCDの音の可能性の高さを知らされることになったのだが、興味深いことは、この2台のCDプレーヤーシステムがそれぞれに違う音を聴かせることである。
 ソニーのCDP552ESD+DAS702ESは明らかに同社のCDプレーヤー中、CDP5000Sをのぞいては最高のもので、一体型とは次元を異にする音である。音の厚味、透明感、立体感、品位が一段と上り、細部がいっそう明解に聴こえながら、音が機械的な冷たさをもっていない。実に豪華な響きなのである。
 Lo-DのDAP001+HDA001も、同社の一体型とは次元を異にする音であることでは変りない。しかも、このプレーヤーシステムの音は、音の厚味に払いてはソニーのそれを上廻り、前者が華麗な響きなのに対し、これはより落着きのある、しっとりとした響きである。まるで、よく出来たMM型のカートリッジとMC型のそれを聴いた時のような音の違いが、この2台のCDプレーヤーから感じられた。つまり、ソニーがMM型、Lo-DがMC型である。こうした音の質感の違いこそが、オーディオコンポーネントの楽しさであるし、難しさであるが、CDプレーヤーとして一歩も二歩も前進したこの2台においても、依然としてそれが存在する──いや、かえって大きく存在するかもしれない──のは面白い。
 2つの機種を同時に扱えば、当然比較対照することになるし、読者の関心も、どっちがどうだ? というところに集中すると思われる。しかし、この2機種、価格の上ではかなりの差があって、ソニーが38万円、Lo-Dが60万円である。そして、Lo-Dは今のところ受注生産の形をとっているため、コスト計算は両者では全く違い、どちらかといえば、Lo-Dのほうがかなり割高につくと思われる。音質では、Lo-Dが優位であるが、その辺を考えると、どちらともいえない難しさがある。しかも、ソニーの抜群の機能とアクセスの優秀性を考え合せるとなおさら、コストパフォーマンスとしてはソニーに軍配が上がりそうである。どちらにしても、CDプレーヤーのマニア層への浸透に大きな力となるものだし、その質的向上と発展性を高めた有意義な新製品として大歓迎である。

ダイヤトーン DS-3000

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 プログラムソースのデジタル化は、コンシュマーサイドでは、EIAJフォーマットのPCMプロセッサー、CD、ごく最近でのLDをデジタル化したLDDとバラエティも豊かになり、かつては、特別な響きをもって受け止められていた『デジタルプログラムソース』の言葉も、最近は身近な存在となり、伝統的なアナログプログラムソースと共存のかたちで定着しつつあるようだ。
 デジタルプログラムソースの一般化により、その桁外れに優れた基本特性に裏付けられた情報量豊かなサウンドと素晴らしい機能の両面から、従来の伝統的なアナログプログラムソースで育ち、発展してきたオーディオコンポーネントの全ジャンルにわたって、少なからぬ影響を与え、非常に興味深い結果が生じているようである。
 ダイヤトーンの新世代の到来を感じさせた500シリーズの第1作DS505は昭和55年に発売されたモデルだが、いち早くデジタルプログラムソース時代に対処して開発された、いわばデジタル対応スピーカーシステムの第1号機ともいえるコンセプトをもつシステムであった。
 今回、発売されたDS3000は、4ウェイ方式完全密閉型エンクロージュア採用というアウトラインから判断すれば、DS505を受継ぐモデルと思われるだけに、いわゆるマークII的なモディファイによる開発なのか、または、似て非なる完全な新製品であるかについて、DS505以来のDS503、DS501と続く500シリーズ、一昨年から始まった1000シリーズともいうべきDS5000、DS1000などとの相関性から探ってみることにしよう。
 最初に、ユニット構成、使用ユニット、スペックなどからDS505とDS3000の比較をしてみよう。基本コンセプトが同一だけに、両者の相違点を探せば結果は明瞭に出るはずだ。
 まず、エンクロージュア関係では、外形寸法的な高さと幅が3cm大きくなり、外容積では13ℓ増加しているが、内容積は70ℓから78ℓへの増加だ。外観的には判らないが、ミッドバス用バックチャンバーは、DS3000用のユニットの磁束密度が向上しているため、チャンバーに取り付けたときのQを臨界制動の0・7にする目的で、容積は12ℓから9・7ℓに縮少された。また、使用材料の変更で、本体重量は42kgから52kgに増加した。
ユニット関係では、低域と中低域振動板はアラミドハニカム・ストレート型コーンを採用し口径も同じだが、磁気回路とフレームの相対的な構造はDS1000で初めて採用されたDMM方式になっている。
 中高域と高域は、チタンベースにボロンを拡散した独自の製法による材料を使い、ボイスコイルと振動板を一体成型した直接駆動DUDドーム型採用は同じだが、中高域ユニットの口径が40mmから50mmに大型化され、ダイアフラム周辺に取り付けられた6個のディフューザー的なフィンは廃止された。なお、構造的には、低域や中低域ユニットと同様に、DS1000での技術を受け継いだDM方式が採用された高剛性設計である。
 また、発表された定格からは、再生周波数帯域、最大許容入力、定格入力などに相違を認めるが、決定的な差はなく、周波数特性、指向周波数特性での僅かな改善と、高調波歪特性で現状の限界値と思われる、100Hz~10kHz間で-60dBというラインに、DS505より一歩近付いたようだ。
 これらかち判断すると、デジタル対応スピーカーシステム第1号機として誕生した昭和55年当時のDS505において既に、ユニット関係の、とくに振動板周辺技術は完成されており、現在でもトップランクの性能を当時から獲得していた先進性は、発表された定格値が示している。
 一方、DS505以来の500シリーズの歩みを考えてみると、翌年の昭和56年に、口径65mmDUDボロン振動板採用の中域ユニットを開発し、ダイヤトーンの3桁シリーズは完全密閉型が原則という禁を破ったバスレフ型3ウェイシステムDS503を開発し、続く、昭和57年に新材料ωチタン採用の3ウェイ密閉型システムDS501と、DS502での開発の成果である65mm口径のDUDドームユニットに、新開発のアラミドハニカム・カーブドコーン採用の27cm口径ミッドバスユニットを中核とした4ウェイ構成バスレフ型のフロアーシステムDS5000を完成させている。このDS5000は、モデルナンバー的には500シリーズを受け払いだ♯1000シリーズの第1弾製品であるが、使用ユニットからみれば、500シリーズの技術の集大成として頂点を極めたモデルであり、モデルナンバーもDS500+0と考えられ、500シリーズのスペシャリティという類推もなりたつように思う。
 CDが実用化され、実用面での安定度が高まり、ソフト側のプログラムソースも数を増しはじめた昨年秋に、ダイヤトーンが新製品として発売したDS1000は、DS5000やDS505以来の500シリーズのシステムとは、一線を画した内容をもつコンパクトなブックシェルフ型システムである。表現を変えれば、500シリーズが新世代のダイヤトーンを象徴するとすれば、DS1000は新々世代、つまり、近未来型ダイヤトーンシステムの出発点となるモデルである。その技術的内容は500シリーズで展開し、完成されたアラミドハニカムとDUDボロンの2種類の振動板の優れた性能を一段と高め、より次元の高い音の世界への進化を目的として、振動板周辺のユニット構造を再検討し、構造面での性能アップを図っている点が最大の特徴である。
 この構造面での新技術は、きわめて基本的な部分での検討に端を発したもので、コーン型ユニットのフレームと磁気回路の相対関係にメスを入れたDMM方式と、ドーム型ユニットのフレームレス化を計ったDM方式が2本の重要な柱であり、DMM方式の採用で問題点として浮上してきたことがらが、変形8角フレームよりも振動減衰モードが単純で、音質向上ができる円形フレームの採用と、均等分割8点止めのユニット取付方法、さらに、フレームの不要輻射を抑えるための前面露出面積の縮少などがあげられる。
 これらの新構造ユニットの完成でクローズアップされたものが、ディフラクションを抑えるラウンドバッフルの採用へとつながった。ダイヤトーンにとってはこのラウンドバッフルは、放送用モニター2S305に初採用し2S208へと続く、いわば伝統的な手法であるが、このタイプを最初にコンシュマー用に採用したのがDS1000だ。
 このように、スピーカーシステムを歴史的に開発の流れに従って眺めてみると、今回発売されたDS3000は、1000シリーズのモデルナンバーが意味するように、DS1000をベースに4ウェイ構成化をしたシステムであることが判るであろう。
 DS3000で採用された4ウェイ構成は、帯域の分割方法により各種のバリエーションが存在するが、ここでは当然のことながら、DS505、DS5000での成果が反映された設計になるであろう。
 DS505の開発時点でダイヤトーンが名付けた、ミッドバス構成4ウェイシステムという考え方は、一般的な3ウェイシステムの場合に、低域を受持つウーファーは重低音から中低域までをカバーしており、これは音楽の最もエネルギー量の多いところだが、1個のユニットでこの帯域を完全にカバーすることはたいへんに難しいようだ。
 大ホールのライブネスやライブハウスのプレゼンスを重視すれば、中低域のレスポンスはタップリ必要となるが、それでは重低音が弱くなり、いわゆる重心が高い腰高の低音になってしまう。逆に、重低音を要求すれば、線が太くゴリゴリとした、力感めいたものがある低域になるが、いわゆる楽器の低音とは少し異なったものになる。
 現実は、二者択一で、重低音型のチューニングのほうがユーザーに判りやすく、いわばオーディオファン好みでもあるため、このタイプのほうが一般的であり、巷の評価も高いように思われる。
 この3ウェイ方式での問題点である低域ユニットの受持帯域を、重低音を受持つウーファーと中低音を受持つミッドバスユニットに分割したものが、ミッドバス構成4ウェイ方式とダイヤトーンで名付けたタイプで、それぞれの帯域を専用ユニットで再生するだけに制約は少なく、理想に近い低音の実現が可能である。
 この構想に至るまでには、ダイヤトーンにも、かなりの期間が必要であったようだ。もともと、コンプリートなスピーカーシステムとして市販されている製品では、4ウェイ構成のシステムはそれほど多くないが、ダイヤトーンではコンシュマーユースのシステムを手がけた第1作のDS301が4ウェイ構成を採用している。しかしこの場合の帯域分割の方法は、1500Hz以上を3個のユニットで分割したタイプで、放送用モニターシステム2S305の高域ユニットTW25の受持帯域を3ウェイ化したような特殊な4ウェイ化である。
 DS301の次期モデルとして開発されたDS303も4ウェイ構成のシステムだ。この場合は、低域と中域のクロスオーバー周波数が600Hzあたりで、標準的な3ウェイシステムにスーパートゥイーターを加えたとも考えられる帯域分割である。
 この2モデルの開発を通じて得られた結果が、ミッドバス構成4ウェイシステムに到達し、ユニット開発面での性能向上の要求が、コーン型ユニットではハニカムコンストラクションコーンの開発 スキン材のCFRPからアラミドへの発展と進化し、ドーム型では、フェノール系、紙などを使った従来型のタイプから、ボイスコイルボビンとダイアフラムを一体成型したDUDボロン型が開発され、従来のモデルにくらべて驚異的ともいえる性能と内容をもったDS505が完成されたわけだ。
 DS3000の低域と中低域ユニットは基本となるDS1000の27cmウーファーの帯域を拡張し2分割するために、結果としてはDS505での成果を受け継いだ32cm口径のウーファーと16cm口径のミッドバスユニットとなったが、ユニット構造はともにDMM方式を採用している。
 DMMとは、ダイレクト・マグネティックサーキット・マウントの略で、簡単にいえば、スピーカーフレームと磁気回路を機械的な強度を上げて結合しようというものである。国産ユニットでは一般的に、磁気ギャップがある前側の磁気プレートはフレームとネジで国定してあるが、マグネットとポールを含む後側磁気プレートは接着剤で糊付けする方法がとられている。
 ボイスコイルにパルシブな信号が人り、例えば前に動けば、その反動でフレームと磁気回路は後に動くのは当然であるが、このときに、フレームと前側のプレートと、マグネットと後側プレートは、接着剤で固定されているため個別な運動をするわけだ。
 海外製品ではマグネットのフェライト化にあたり、古くは米ポザーク、昨今では英タンノイ、米JBLなどは、この糊付部分は、ネジで固定し強度的にも問題はないようにしている。
 DS3000で採用されたDMM方式は、低域はフレームと別ピースのブロックで磁気回路を抑えるタイプ、中低域が磁気回路全体をフレームが包み込むタイプと、構造的違いはあるが、保持する部分が後側プレートのボールピース外側を抑えるアウターサポート方式と呼ばれるタイプで、DS1000のボールピース中心を抑えるセンターサポート方式と異なった方法を採用している。
 両者の得失は、モーダル解析の結果から、一次モードに対しての制動効果はセンターサポートが強烈だが、高次モードの高い周波数では効果が激減するのとくらべ、アウターサポートは広い周波数帯城のモードに安定した効果があり、ミッドバスを含めた中低域までの高剛性化では、アウターサポートが優れるという。この結論から、DS3000ではアウターサポート方式が採用された。
 中高域ユニットと高域ユニットは、独自のボロナイズドチタンDUDドーム型でDM構造採用である。DMとは、ダイレクトマウントの略で、従来型がフレームに振動系を組み、これと磁気回路をネジで固定していたが、DM方式では、磁気回路の前側プレートに振動系を組み、このプレート自体をエンクロージュアに取り付ける構造で、磁気的なエネルギーロスにより、わずかに磁束密度に影響は出るが、フレームの固有音や共振が皆無となり、シンプルで高剛性化が達成でき、非常に優れた応答性を実現している。
 中高域ユニットは、外観はDS1000の中域ユニットと類似するが、バックチャンバーレスとなり、バックチャンバーの形状、材質などに起因する固有音の発生や鳴きがなく、一段と純度が高い再生音が得られるユニットに発展している。なお、振動板関係は、DS1000の中域ユニットとエッジ部分を除いて共通である。このタイプのダイアフラムは、DS505の中高域ユニットと比較して、口径のほかに、ボロンが強化拡散化され物性値の向上と、ボイスコイルボビン部分までボロン処理が行なわれ、ボビンの長さも短縮してある。
 高域はDS1000のトゥイーターと同じ振動系に、φ85×φ32×13tからφ100×φ50×16tのストロンチュウムフェライト磁石を採用し、これはDS505の高域ユニットと同じものだ。
 エンクロージュア内部の吸音材も音質を左右するポイントとして、一部では古くから研究が続けられてきた。DS505時点でも、聴感上でのSN比を向上させるために、ナイロンロック、アセテートファイバーにグラスウールを加えた吸音材が採用されていたが、フレームを含めたユニット関係やネットワーク関係での高SN比が促進されたために、DS3000ではグラスウールは全廃され、ピュアウール、フェルト、ナイロンロックの3種のノイズの少ない吸音材が使われている。ちなみに、グラスウールはノイズの発生が目立つが、繊維状のガラスとほぼ同量の粒子状のガラスが混っているのがその原因であろう。この点で少しは、米国系のグラスウールは粒子の混入が非常に少なく、ノイズの発生も少ない。いずれにせよ、吸音材関係の研究は、いまだにメーカーサイドでもあまり意欲はなく、マンネリな吸音材の使用をしているのが実態のようで、音質に非常に有害なアッテネーターやレベルコントロールの問題を感知していない点も含み、使う側の使いこなしの欠如とも相まって、スピーカーの問題点は山積しているようである。
 ネットワーク関係も、ユニットと同等に音質を左右する重要なファクターである。基本的には、フィルムコンデンサーを主体としたDS505当時とは逆に、フィルム系独特の音的な強いキャラクターを避けるため、音質面で充分に検討されたバイポーラ電解コンデンサー主体の方向に進んでいる。
 アッテネーター、レベルコントロールの類を全廃しているのは、DS1000に続く見事な英断である。レベルコントロール用のツマミ類は、それ自体が、パッシブラジエーター的に中高域あたりの周波数でノイズを発生することにはじまり、アッテネーターをバッフル面に設けることにより、配線経路の延長と磁気フラツクスの影響による歪の発生、接点の存在や半田付処理の必要、さらに経時変化的接触不良の問題、バッフル板に穴あけが必要で、バッフルの響きを損うなどの問題が発生する。性能、音質を極限にまで追求する高級スピーカーシステムにおいては諸悪の根源といっても過言ではない存在だ。
 コイル関係は、ダイヤトーン独自の特殊コア採用の低歪型。配線材料は一種OFC、1・4スケアを中低域と中高域に、LC-OFCを低域と高域に使い分けている。素子間の接続などは、すべてノンプレーティングOFCスリーブを使用した庄着によるもので、入力端子部分のターミナルはDS5000と同一仕様の大型金メッキターミナルを採用し、各ユニット間の電流密度を均一化する特殊給電方式が採用されている。
 DS3000の試聴を始めることにしよう。このクラスの完成度が高いシステムでは、結果を決定的に支配するのがセッティングである。セッティングに関係なく、だれが使っても良い音で鳴るスピーカーが優れた製品とされた時代があるが、基本性能を向上させ、細部のモディファイを続けて追い込んでいくと、スピーカーシステムは、反応がシャープになり、無視されるようなセッティングの差や、わずかのアンプやプレーヤーシステムの使用条件の変化も音の変化として聴かせるようになるものだ。
 現在の優れたスピーカーシステムは、適当なセッティングでも程よく鳴り、正しく使いこめばシャープに反応を示し、圧倒な素晴らしいサウンドとプレゼンスが得られるものだと考える。このことは、いわゆるシャープな音からソフトな音まで、ダイナミックなサウンドからキメ細やかな繊細な響きまで、かなりの幅でコントロールできるだけのフレキシビリティを備えることを意味している。
 最初のラフなセッティングは、重量級のブロックや硬質な木製のブロックなどを置き、その上にスピーカーをのせて、ガタガタしないように置くことが条件である。ブロックを2段積む場合は、ブロック間に数mm厚のフェルトを挟む必要があり、スピーカー底板とブロック間にもフェルトを敷くべきだ。
 調整は、左右のブロックの幅をコントロールして低域と高域のバランスをとり、続いて前後方向に移動をさせてシステムの鳴りっぷり、表情をコントロールする。ポイントは、左右、前後ともに大幅に置き方を変えてみて、変化量を試してから細かい調整をすることだ。細かいコントロールを要求するときには、ブロックの穴は吸音材などで塞ぐべきであるし、スピーカー底板と床面、左右のブロック間の反射を避けるために、スピーカーに当らぬように吸音材を軽く入れるとよい。この吸音材にグラスウールの使用は不可だ。詳しくは、本誌71号の特集を参照されたい。
 本誌試聴室での試聴は、硬質な木製ブロックを1段で使ったが、床がコンクリートの上にカーペットを直接貼った仕上げのためか、この木製のブロックでは、やや重く、鈍く、反応が遅い傾向の音になるようだ。この条件では、重量級ブロックかビクターのLS1のような木組みのスタンドがマッチするだろう。使用コードはLC-OFC。手元にあったのは4本の芯線がパラレルになったタイプだけで、しかたなくそのうちの2本のみを使い、残りは使用していない。
 全体の傾向としては、柔らかく芯がクッキリとした安定感のある低域をベースに、、厚みのある中域、シャープな分解能が高い中高域から高域という広帯域型のバランスをもつが、聴感上のSN比が非常に優れ、音像定位がクリアーに立つ、音場感情報の豊かさが他のシステムと一線を画した特徴で、聴感上のSN比は、ブロック周辺の吸音材の使用と密接な関係がある。
 注意点としては、システム全体のメインテナンス、つまりコード関係のクリーニングやAC極性のチェックと機器の給電方法、プレーヤーやアンプの置き方などをあらかじめ整えてからヒアリングを始めることだ。システムに不備があれば、それはそのまま音に出て、スピーカーの責任と受け取りやすいことが往々にしてあるからである。DS3000はまず、整備された試聴室などで試聴をし、少しセッティングを変えながら、自分にとって好ましいかをチェックすることが必要であろう。イージーに使っても、優れた特質の片隣は聴かせるが、どのように使いこなすかによって、結果は大幅に変わるだろう。これが、試聴の印象を最少限にとどめた理由である。DS3000は使い手の力量が試されるシステムである。しかしそれにもまして、内に秘めた力をとことん引き出してみたいという強烈な誘惑にかられるシステムである。

その他のベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 LDプレーヤーとCDプレーヤーを同じ筐体にまとめ、さらに、LDの音声をデジタル化したLDDにも対応可能なパイオニアCLD9000は、LD、CDともに、低域の厚み、安定感で、質的な向上があり、価格的にも文字どおりベストバイのトップランク商品だ。これに、CDのユーザーズビットのディスプレイが加われば完全だ。
 PCMプロセッサー関係はEIAJフォーマットが14ビットであること、長時間録音可能に対応する選曲や頭出し機能の問題などもあって、特殊なオープンリール的需要の域を出ないようだが、βIIIで使用可能なプロセッサー、ソニーPCM501ESは、リーゾナブルな価格も魅力的である。サウンドプロセッサー関係のdbx4BXはエキスパンダーとして最高のモデルで、この威力は、まさに、麻薬的な恐しい魅力とでもいえよう。待たれるのは、デジタルディレイユニットなどの登場である。

カセットデッキ、オープンリールデッキのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 オートリバース機の中では、独立3ヘッドという構成と再生時のみリバース可能という独自性からナカミチのDRAGONを選んだ。走行系はスーパーリニアトルクモーターを採用し、コギングの発生はないという。また、機能面
でも自動アジマス調整機構(NACC)により、録音済みのテープに対しても最適アジマスが得られるのも特徴だ。
 スタンダードタイプは10万円未満がソニーTC−K555ESII。10〜20万円が、同じくソニーTC−K777ESである。K555ESIIは555ESのグレードアップヴァージョンでLC−OFC巻線ヘッド、ツインモノ構成のアンプ部が特徴だ。サウンドは、このクラスの枠を越え、上級のK777ESにも迫るものである。K777ESはESシリーズのトップモデルであり、銅メッキの鋼板シャーシを採用し過電流を抑え、歪みの改善を図っている。情報量の豊かさとキメ細かなサウンドが得られている。オープン部門では、高い完成度と品位の高いサウンドが得られるルボックスB77IIをベストワンとした。

カセットデッキのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 カセットデッキの高性能化、機能の多様化は、すでに完成期を迎え、オーディオ製品というよりは、プログラムソースのベースとしての必需品的な性格が強くなり、ステレオサウンド的オーディオとは関係のない商品へと進んでいる様子である。
 価格的にも、すでに10万円前半が高級機の上限的な傾向が定着し、カセットテープの高性能化によるクォリティアップという好材料もあって、最下限の音質が向上したため、一段とオートリバース、Wカセットへの方向が促進されるだろう。
 10万円未満では、リバース型のビクターDD−VR77、ヤマハK750aが音質、機能に優れ、音質重視型ならソニーTC−K555ESIIが抜群の音を聴かせる。
 10万円以上では、ビクターDD−VR9のリバース型、ヤマハK1xの音質重視設計がベストバイに値する。オープンリール型は、すでに特殊な存在で対象外。

FMチューナーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 私の住居はFMレセプションに恵まれていて感度やマルチパスのトラブルにも悩むことなく、T字形フィーダーで間に合わせるという不心得を承知で怠けている。したがって、チューナーに関して物をいう資格はないと思うのだが、それでも、いくつかのチューナーを聴いてみると、その操作性やデザインはもちろん、音の違いに驚かされることがある。それぞれの価格帯からもれなく製品を推薦したが、たまたま自分が接したチューナーの中でよいものを上げたに過ぎず、他のチューナーとの間に歴然とした差が確認されたわけではない。ただ、ケンウッドのKT2020、KT3030は別で、この2機種の音は、明らかにベールをはいで、まるでFMステイションと自宅をラインで結線したような音の印象をもったものである。いい加減なアンテナで、こんな音が聴けるとは思わなかった……というのが実感である。

FMチューナーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 目覚しい発達を遂げたプリメインアンプに代表されるオーディオアンプに匹敵する高度な進歩をしたにもかかわらず、むしろ注目されないのがFMチューナーである。
 現状の県域放送をタテマエとするNHK・FM放送を中心に、コマーシャルに徹して音楽放送のプログラムソースをレコードにほとんどを依存する民放FM局が特別な地域で受信可能という、貧しい状況下では、FM放送の高い音質をもつ特徴も活かされていないわけだ。したがって、特別な要求がないかぎり、プリメインアンプのペアチューナーの選択が巻本と考えたいため、ベストバイの対象外としている。
 普及価格帯のモデルの性能の向上、機能の充実も見事であるが、シンセサイザーチューナーの性能を向上させ、アナログタイプの高音質にまで接近させた、ケンウッドKT3030の音場感情報の豊かさと、FM放送の魅力を再認識させた音は凄い成果だ。

カートリッジのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 カートリッジは嗜好品だとよくいわれる。たしかに現在のカートリッジの性能面は水準が高く、問題にするとしたら、音色や表現性の違いが主なものだろう。中には、トレーシングスタビリティの点で難点のあるものもなくはないが、その数は多くない。4ランクの価格帯があるが、全体でも10機種という制約があり、どうしても魅力的なものが高価格帯に多いので、2万円未満のものは、いいものもあるが、涙を飲んでパスすることにした。
 2万〜4万円ではオーディオテクニカAT160MLが最も好きな製品だ。テクニカの全製品の中でもベストだといいたいぐらいである。解像力があって響きが豊かで安定性も高い。ソニーXL−MC7は心憎い作りで、ややハイに気になる派手さがあるが、明解な音色は快い。FR/MCX3はあまさと輝きに美しさが感じられる。なかなか繊細な情報の再現にも優れていると思う。
 4万〜8万円では、B&O、MMC1が彫りの深い音の質感とハイコンプライアンスらしい繊細さのバランスのよさが光る。小型軽量の外観からは想像出来ない強靭さもあって、リアリティのある音だ。オーディオテクニカAT36EMCは、ウエルバランスと定位、セパレーションの明確さが両立したよさを評価する。質感はやや華麗だが、この艶のある音は魅力的だ。ハイフォニックMC−A6は繊細な再現に優れ、楽音の細やかな響きをよく鳴らし分ける。それでいて全体のふっくらとした空間感もよく出すし、フレッシュなサウンドである。
 8万円以上ではオルトフォンSPUゴールドシリーズの実感効果とでもいうべき個性の普遍性、説得力の強さはアナログディスクを聴く喜びを倍加させる。トーレンスMCH−I/IIはEMTのスタイラスを変更したものだが、そのよさの上に現代レベルのワイドレンジを兼ね備えている。EMTのカートリッジの陰が薄くなってしまった。その独特の音の魅力と風格は伝統文化の香りという他はない。ゴールドバグMr,ブライヤーは、そうした強い個性こそ持たないが情緒性と、現代カートリッジの性能とを併せもっていて、私にとっては今や最も標準的なカートリッジになっている。AKG/P100リミテッドは独特な強靭さと冴えた透徹さが魅力の新製品で、他のいかなるカートリッジとも異なるフレッシュなサウンドが魅力だ。

カートリッジ、昇圧トランス/ヘッドアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 2万円未満のカートリッジは、キャリアの充分なユーザーが、限定した条件下で選択し、使うべき製品であると考えるため、選択の対象外として除外した。
 2万〜4万円は、カートリッジを買ったという実感のある音の変化が確実に得られるだけの内容をもった製品があるゾーンだ。MM型を積極的に選びたい価格帯で、オーディオテクニカAT150E/Gは定評のある、明るく、音楽性が豊かな伝統的な音が聴ける製品であり、AT160MLは、滑らかで、解像力が優れた新世代のテクニカサウンドが魅力。優れた性能が素直に音に出るテクニクス250CMK4、表現力豊かなMC型ヤマハMC505も一聴に値する音だ。
 4万〜8万円では、MC型の魅力と海外製品独自な音が楽しめるゾーンだ。定評の高いデンオンDL305、DL303の後継モデルDL304は、リファレンス的意味を含め、信頼性、安定度は抜群であり、オーディオテクニカAT36EMC、37EMCの実感的な音の魅力は見事である。MM型の超高性能型テクニクス100CMK4、海外製品シュアーV15タイプVMR、オルトフォンMC20MKII、SPU−AEなどは、これぞカートリッジ的存在。
 8万円以上は、スペシャリティの世界だ。針先とコイルを直結したMC型第1号機ビクターMC−L1000。少なくとも異次元の世界の窓が開いた印象である。これと対照的存在が、軽量振動系MC型の代表作デンオンDL1000Aだ。これに続くのが、ハイフォニックMC−D15、ヤマハMC2000であり、聴感上のSN比が優れ、情報量の多さは、近代型MCならではの新しいアナログの世界を展開する。
 昇圧トランス/ヘッドアンプは、低インピーダンスMCには昇圧トランス、高インピーダンスMCにはヘッドアンプという組合せが選択の基準だ。
 10万円未満のトランスでは、トランス独特のエネルギー感と緻密な豊かさを聴かせるオーディオニクスTH7559、安定感があるオーディオテクニカAT700Tがベストバイ。ヤマハHA3のMC型用イコライザーという構成と音にも注目したい。
 10万円以上では、高インピーダンスMC型に見事な対応を示した昇庄トランス、デンオンAU1000がベストバイである。

トーンアームのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 トーンアーム単体を使うほどのマニアは限られているだろう。だから、よほどのものでない限り、プレーヤーシステムを求めるほうが早道だし、間違いはない。現在の高級プレーヤーシステムについているトーンアームは、もはやつけ足しのものではないからだ。しかし、立体的に、より高度なアナログディスクの再生を目指すファンにとって、単体のトーンアームが存在する理由はなくはない。3機種と限定されたから私は10万円未満でSME3010RとFR/FR64fxを選んだが、理由は私自身が使って満足しているからに過ぎない。パフォーマンスでいえば、それ以上のも、それに匹敵するものは他にもあるだろう。10万円以上ではオーディオクラフトAC3300を選んだが、正直なところバラエティを考えたからで、本当はSMEのシリーズを上廻るアームは未だにないと思っている。

トーンアームのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 コンプリートなシステムが優先する時代となり、トーンアームも製品数が少なくなり、やや淋しい印象を受ける昨今である。
 10万円未満。本来はこの価格帯に充分性能が高いモデルがあるべきところだが、機械加工による製品だけに、高価格は仕方ないことであろう。ベストバイは、超ロングセラーを誇るシンプルなオーディオテクニカAT1503IIIだ。適度にクォリティが高く、明るく、活発な音が魅力。SME3009/SIII、3010Rも、カートリッジにより使い分ければ、デザインともども、やはり非常に素晴らしい製品だ。
 10万円以上では、独自のメカニカルなダンピング方式を採用したデンオンDA1000の活き活きとした音の魅力が際立つ存在。SME3012R、3012R PROも、現時点での高級アームとして充分以上の実力をもつ。オーディオクラフトAC3300は、使いやすく、音も見事だ。

ターンテーブルのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 ベースをもつシステムと、ベースなしのターンテーブル本体のみのものとがあるが、原則的にはベースを含めてパフォーマンスが決るので、そのほうが好ましい。
 30万円未満では、ベースなしだがテクニクスSP10MK3が抜群の回転性能で見落せない。トーレンスTD126MKIIIBCセンティニュアルはデザインの違いはあるが同等品。バランスのよい音と実用性の高さは抜群。
 30万〜60万円では同じくトーレンスのTD226BCがウエルバランスで秀逸だ。TD226システム同様、デザインは好みではないが……やや高級感に乏しい。
 60万円以上ではトーレンス〝プレスティージ〟が文句のないところ。〝リフアレンス〟ほどではないが、その風格、美しさは、音のよさに匹敵するものといえるだろう。マイクロSX8000II+RY5500IIはBA600ベースとAX10Gアームベースのトータルシステムで威力を発揮する力作である。

ターンテーブルのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 30万円未満では、京セラの第2作、P910がベストバイだ。組合せアームはSMEが平均的、追込み型ならオーディオクラフトが最適だ。シンプルなタイプならARが価格的にもリーゾナブルで良い。
 30万〜60万円は、事実上のトップランクのターンテーブルが存在しそうな価格帯だが、やや谷間的な印象を受けるゾーンだ。価格対満足度では、総合的にバランスが優れるマイクロSX111FVがベストだ。
 60万円以上は、本格的な、これならではの強烈な印象を受ける、まさにアナログならではの世界が展開する価格帯だ。トップは、’84COTYのマイクロSX8000IIシリー
ズだが、SX5000IIとの組合せも、価格差を考えればもっと注目されてよいモデルと思う。デンオンDP100は、ぜひともDA1000トーンアームと組み合せたい。メカニカル制御のこのアームの音はアナログの魅力。

アナログプレーヤーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 フルオートプレーヤーシステムはその性格上、デザイン、使い勝手がかなり重要なウエイトを占めるだろう。この分野で何といっても魅力的な製品を作り続けているのがデンマークのB&O社であり、その美しいデザイン感覚による仕上げには誰でも魅力を感じるのではなかろうか。フルオートプレーヤーでレコードを演奏するというのは、マニュアルプレーヤーのそれとは、音楽を聴く姿勢に違いがあると思われてならない。人によって考え方は異なるだろうが、私にとっては、イージーハンドリング〜イージーリスニングという傾向になることは否定出来ないのである。もっと演奏するのにたいへんなCDプレーヤーが、それに見合ったより凄い音で出てこないものかと真剣に考えることがある。B&Oのプレーヤーでは8002、6002が素晴らしい。しかし、少々高価である。5000を選んだのは、ただ、それだけの理由で、B&Oは忘れてはならないという気持ちが強いのだ。テクニクスのSL−M3はユニークなリニアトラッキング式で、うるさいことをいわなければハイファイ性もなかなかなもの。デンオンDP37Fはバランス設計がうまく、この価格を考えると断然おすすめである。
 10万円未満ではパイオニアPL7Lが光る。他にもいいものが沢山あるが、新製品らしい新製品なのでこれに注目。トータルコンセプトが好ましい。よい音だし、ユニークなデザインである。
 10万〜20万円ではオーソドックスなヤマハGT2000L。しっかりした音像の安定感は立派だ。デンオンDP75Mも巧みな設計で本格派である。
 20万〜50万円には、やや中途半端な存在のものが多くパス。
 50万円以上にはそれぞれのコンセプトによるコストにこだわらない製品を見出せる。テクニクスSL1000MK3/Dは内容もフィニッシュもメカニズムの美しさに到達した出来栄え。デンオンDP100Mもそうだ。どちらもヒューマンな暖か味にはやや欠けるが、優れた機械の風格がある。EMT930stは誰もが欲しくなる魅力に優れたオーソドックスなプレーヤーメカニズムで国産にはない魅力だろう。トーレンスTD226は少々デザインが野暮だが、音は、トーレンス一流のバランスのよいリファレンスだ。

アナログプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 基本的に、機械的な構造物がアナログプレーヤーであるだけに、優れた音質を望めば、代償として高価な出費を必要とするといった、いわば残酷なシャンルだ。
 したがって、ここでは、機能を優先としたフルオート機は選択の対象外とする。
 10万円未満では、従来は音質を追求すれば、相当に不満が残る価格帯であったが、このところ内容の充実はめざましく、かなり期待に応えてくれる製品が増加している。あまりオーディオ的な配慮をしなくても、適度にクォリティの高い音が得られ、使いこなせばそれに応えられる幅の広い適応性をもつモデルとしてパイオニアPL7Lをトップランクの製品とする。多角的な防振対策と優れた音質は相関性があり、総合的なバランスでは抜群のできだ。機械的、音楽的に安定した台に乗せて使うという条件下では、ヤマハGT750/1000、デンオンDP59M/59L、それにケンウッドKP880DIIなどが、使いこなせば期待に応えてくれるモデルだ。
 10万〜20万円では、平均的要求では充分な内容の製品が多い。ヤマハGT2000L/2000、デンオンDP75M、ビクターQL−A95あたりは信頼がおける製品であり、かなりクォリティの高いカートリッジを組み合せても、それなりの期待に背かない結果が得られる内容をもっている。ユニークな存在は、マイクロBL99VWで、重量級ターンテーブルと高剛性トーンアームの組合せは、DD型とはひと味ちがったアナログならではの音の魅力を垣間見させてくれるようだ。
 20万〜50万円は、完全なシステムとしてはそれほど製品の数が多くない価格帯だ。ここでの注目製品は、アナログディスクの偏芯を自動制御する見事な構想に基づいたナカミチの第二弾製品ドラゴンCTである。ディスクの偏芯と音質の関係は他の方法でも実験可能だが、これは実際に体験しないと納得できない盲点とでもいえる驚くべき問題である。その他、総合的バランスの優れたトーレンスTD126MKIIICも、趣味性の高いモデルだ。
 50万円以上では、超強力なDDモーター採用のデンオンDP100Mが、価格対満足度で抜群の存在であり、豪筆なキャビネットにメカニズムを組込んだ家具調の雰囲気をもつエクスクルーシヴP3aも素敵だ。

CDプレーヤーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 CDプレーヤーは3段階の価格帯から合計10機種の選択である。下は49800円からあるのが現状だし、未だ過渡期成長商品であることを考えると、各価格帯から平均して選ぶことのほうが妥当ではないかと考えた。ソニーのコンパクトな新製品D50は、コンポーネントとして選ぶにはいささか特殊であり、CDが1枚3千円以上するのに5万円以下のCDプレーヤーがなければならないというのも少々アンバランスではある。しかし、ものは考えようで、このコンパクトで低価格の製品の意義は未知だが無視するわけにはいかなかった。
 12万〜18万円のクラスはコンポーネントシステムの新しいプログラムソースプレーヤーとしての中心的な優れた製品が多く、4機種を選んだが、一応、音質とアクセス機能とのバランスで評価したつもりである。ヤマハCD2は、機能的にも音質の面でもよくバランスしたプレーヤーで使いやすく音質も耳馴染みのよい製品。特に拡がりのある中高域の美しさは印象的で、まろやかな響きはCDプレーヤーの中で異色だと思う。ケンウッドDP1100IIは、このクラスのベストだと私は思う。音質の自然さ、プレゼンスの豊かさ、スムーズで滑らかな高域の再生は見事だ。マランツCD84も質感が滑らかで暖かい。音色の響き分けがよく、ニュアンスがよく伝わる。Lo−D/DAD600は低域が厚く音に安定感がある。重厚な響きをよく出すから、デジタル嫌いの人には抵抗の少ないものと言えるだろう。
 18万円以上では、ソニーのCDP552ESD+DAS702ESとLo−D/DAP001十HDA001の2機種が注目される。どちらも、デジタルプレーヤーとプロセッサーのセパレート型で、今後のCDコンポーネントの発展の姿を予見させる意欲作だからだ。音はたしかに一桁上廻っていて、鮮度が上り、厚味が増し、より透徹である。点数としてはソニーが3点、Lo−Dが2点だが、これは総合的にソニーのCDP552ESDのもつアクセス機構の素晴らしさを評価した結果であって、音質的にはLo−Dのほうが上だと思う。好き嫌いかもしれないが、ソニーはやや華麗、Lo−Dは重厚だ。ただLo−Dのは、今のところ受注生産だというのが惜しい。テクニクスSL−P50も並々ならぬ緻密でソリッドな音だ。

CDプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 エレクトロニクスの集大成とでもいえるジャンルの製品であるだけに、開発当初40〜50万円相当のモデルを政治的価格で発売したなどの話は過去のものとなり、すでにアナログプレーヤーと同等の価格まで下がっているようだ。初期のマイコン関係の不調も解消されたかのようで、価格競走の一方では、本格的な音質対策が始められたように見受けられるのが最近の動向である。
 内部的、外部的振動に強い構造と、ピットからの情報を正確に読取り、補間などを極力少なくするピックアップサーボ系の設計などが主なポイントになるようだ。とにかく、価格に関係なく、基本性能がほぼ同じというのがCDの特徴であり、使いこなしのポイントになるわけだ。
 12万円未満という少し奇妙な分類の価格帯では、標準サイズのビクターXL−V300が、活気があり、ダイナミックな音に特徴がある。ヤマハCD−X2は、クリアーで明解さが特徴だが、AC極性を逆にするとナチュラルな音場感型に変わる。ダークホース的存在はダイヤトーンDP105だ。スピーカーと共通性のある音が、第3作で聴かれるようになった。異色作はソニーD50。AC電源使用時より、電池使用のほうが音質は優れ、安定した台にでも置けば、これは驚威の音だ。そろそろ、特性が悪くても音が良い的な神話は崩れ、特性の良いものが音が良いという科学にオーディオをしそうな気配がCDにはある。
 12万〜18万円は、現状のCDの内容から考えて、充分なクオリティのプレーヤーが存在すべき価格帯であり、メーカーの実力がうかがえるゾーンであるとも考える。安定感のある柔らかでクォリティの高い音のパイオニアP−D90をトップとするが、厚みのある低域に支えられたケンウッドDP1100IIは、甲乙のつけがたい双璧である。そのほか、マランツCD84、デンオンDCD1800R、ヤマハCD2、ソニーCDP502ESも好製品。
 18万円以上は本来は高級機のあるべき価格帯だが、現在が、そのスタート時点のようである。ソニーCDP552ESD+DAS702ESは、予想されたソニーらしいステップに基づくモデルであり、独自の機構設計の京セラDA910も興味深い音を聴かせる。

パワーアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 独立型パワーアンプとなると、どこかでプリメインアンプのパワー部を超える何かがなければなるまい。その第一は大型スピーカーシステムを楽々とドライヴする能力。第二は「ちがう!」という印象を与える音質の高い品位と個性である。並のアンプとは次元がちがうということを感じさせるものであるべきだ。
 20万円未満では全面的に惚れ込めるものがなくパス。
 20万〜40万円ではアキエフェーズP300LとデンオンPOA3000Zをあげた。前者はC200L同様練りに練られた製品だけに、このクラスのアンプとして全く不満がない。音の生き生きした表情と鮮度は素晴らしい。後者は実に透明で、柔軟な質感と豊かなソノリティを聴かせながら力もある。また、パワーアンプとしては不必要なほどの美的仕上げも魅力の一つといえるだろう。
 40万〜80万円ではサンスイのB2301が弾力性のある音の質感で聴き応えがある。デザイン、仕上げはもう一歩。ハーマンカードンXIはシャープな現代感覚の冴えた音がユニーク。ヤマハBX1はモノアンプ構成で、パワーは大きくないがスピーカーに負けないドライヴ能力と強靭な音でありながら滑らかも魅力だ。アキュフェーズP600はあらゆる点で入念な作りだし、明晰な音には一点の陰りもない。しかも冷たくない。マランツSm700は輝やかしく張りのある音が豪華でありながら、過度に堕さない。マイケルソン&オースチTVA1は管球式だが実に熱っぽく力強く鳴る。だから音楽演奏のヒユーマニティが生きる。
 80万〜160万円ではオンキョーの新製品M510が力作。豪華下品な外観は好きではないが、このアンプの安定した音圧感はどこか一味違う。クレルKMA100の音は他にないよさを感じる。緻密で豊か。しかもベタつかない。パワーアンプでこんなに音が違うものかを強く実感させる素敵な個性と品位の高い音だ。マッキントッシュMC2255はマッキントッシュだけのもつ魅力だ。堂々たる音でいて繊細でしなやかな高域も美しい。大きくは、クレルKSA100、マッキントッシュMC2500にも同じことがいえる。特にMC2500については、このアンプのもつ500W+500Wというハイパワーの能力と、その音の緻密さを考え合せると、現代パワーアンプの最高峰といってよいだろう。

パワーアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 入力信号である電圧を、複雑な変動負荷であり逆起電力という招かれざる客をもつスピーカーに、電力として供給するパワーアンプは、コントロールアンプよりも平均的にレベルが高いといわれているが、その要因としては、トランス、放熱器といった重量物が多く使用され、機械的な強度が機構設計上要求されるために、電気対機構のバランスがよいものが出来やすいとも考えられる。平均的に、海外製品に比べ、機構設計面で不備な点が散見されるのは、残念ながら国内製品に多いようである。
 20万未満では、常識的なパワーアンプとは異なるが、素晴らしい機構設計が音質に活かされたボーズ1701は、異色のボーズ専用パワーアンプだ。ただし、対応の幅は予想外に広く、好結果が期待できる。標準型では、デンオンPOA1500あたりか。個性型は、QUAD405−2。
 20万〜40万円では、中級モデルが数多く選べべる価格帯。新しさと、内容の充実した点で、デンオンPOA3000Zの洗練された音の魅力、アキュフェーズP300Lの安心して使える信頼感の高い音は、ともに’84COTYに相応しい製品。また新しいヤマハの音を聴かせたB2x、完成度が高く、安定感のある、ビクターM−L10、マランツMA6も注目製品だ。独自の振動解析に基づく機構設計がダイレクトにデザインに活かされた京セラB910は、’84COTYに選ばれた製品だが、国内製品パワーアンプとしてベストバイとしてもトップ製品に値する見事な作品である。
 40万〜80万円では、予想外に最新モデルが少ない価格帯で、完成度の高さ、安定した実力を買うべきところで、嫌な表現だがアナログ的感覚で捉えたい印象が強い。伝統的モデルながら、新しいプログラムソースにも予想外の対応を示し、改めて新鮮な魅力を聴かせてくれるエクスクルーシヴM4aがトップの存在だ。マランツSm700、Sm11、ハーマンカードンXI㈵、ヤマハBX1も、なかなか魅力のある音を聴かせてくれる。
 80万〜160万円では、ベストバイの対象外と考えるため積極的には製品を選びたくない価格帯だ。
 印象深い製品では、ハーマンカードン/サイテーションXX、新製品では、オンキョーM510が、かなり個性型の音で新しい魅力が聴き取れるが、そのデザインの点では一考を要するといえよう。

コントロールアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・435選コンポーネント」より

 コントロールアンプという独立型のアンプはプリメインアンプにない美的味わいを感じられるものでなくては意味がない。ただ優秀なだけでは物足りない。またいかにデジタルソースが注目されているとはいえ、アナログレコードのイコライザーが並以上のクォリティでなければ評価は出来ない。同時に、デジタル対応としてライン入力の充実も必要であるのはもちろんである。それに加えて、仕上げ、操作性、デザイン感覚などを含むプラス・アルファの魅力が感じられなければ、このジャンルのアンプとして高く評価するわけにはゆかないとも思う。
 20万円未満からは残念ながら、惚れ込めるものがなかった。
 20万〜30万円には3機種。デンオンPRA2000Zはデザインにやや淋しさがあるが、すっきりした低歪感に、適度なふくよかさと滑らかさが加わり好ましい。ビクターP−L10は暖色のトーン、どっしりとした重厚なバランスで安定感のある音が魅力だし、仕上げも入念で軽薄さがない。エスプリTA−E901はソリッドで艶のある音色が、外装のメカニカルなイメージとマッチして、いかにも現代感覚に溢れる魅力がある。
 30万〜50万円の領域からはアキュフェーズC200Lを推した。デビュー以来10年のパネル、シャーシをフェイスリフトにとどめ、内容の充実に磨きをかけ、独特の艶麗な音質に風格が加わった。形は古さが否めないが、その分、嫌味がない。
 50万〜100万円では6機種が浮上したことからして、ここがコントロールアンプの中心帯と見ることが出来る。エクスクルーシヴC5はなんとも鈍重な外観が惜しいが、その透徹な音は評価出来る。サンスイC2301は新しい製品としての技術の新鮮さと伝統的なアンプ技術のバランスが魅力で、力感と透明な空間感の再現が見事。アキュフェーズC280は明晰で豊潤な高品位な音と入念の仕上げが内外に見られる力作である。カウンターポイントSA5はSN比も実用レベルに改善され音像が立体的でまろやか、しかも、解像力に優れ、募囲気満点である。マッキントッシュC29、C33は見てよし、聴いてよし、完成度の高い製品で、高級品で実用性の高いコンセプトは抜群のレベルにある。C29は堅実、C33はそれに情緒性が加わった心憎い音のまとめ。