Category Archives: 国内ブランド - Page 20

京セラ DA-910

黒田恭一

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 名古屋には、まるで渡り鳥のように、一年に一度、毎年同じ時期にいく。さる音楽大学で大学院の集中講義をするためである。一週間の集中鼓義が終わった土曜自の午後はいつもきまって、名古屋の友人の家で、彼が「宇宙一の音」と冗談半分に自慢する音をきかせてもらうことになる。
 集中講義の期間中はホテルに泊まっているので、当然のことにろくな音はきけないまま一週間をすごす。したがって、土曜日ともなれば、まるで砂漠を旅してきた旅人が喉のかわきを訴えるように、まともな音に対する欲求が切実なものとなっている。そういうところにきかされるその友人の家の音であるから、さしずめオアシスの水のようなもので、ひときわ美味しく感じられる。
 音楽のききかたで共感できる友人の再生装置の音をきかせてもらうのは、とても勉強になる。これはぼくにかぎっていえることではないと思うが、オーディオでは、とかくひとりよがりに陥りがちである。その悪しきひとりよがりから救ってくれるのが、信じられる友人の音である。なるほどと思いつつきいていて、自分の家の音のいたらなさに気づいたりする。
 今年も例年通り、彼の家で、さらにくわえて今年は、ぼくもかねてから親しくつきあわせていただいている彼の友人の家でも、音をきかせてもらった。ただ、今年の砂漠の旅人は、単に喉の乾きを癒しただけではなく、とんでもない宿題をおしつけられてしまった。どうやら、そのさりげない宿題の出題は、彼らふたりが結託してなされたようであった。
 ソニーが非売品としてだしているコンパクトディスクに、「コンパクトディスク、その驚異のサウンド」(ソニーYEDS・6)とタイトルのつけられたデモンストレイションディスクがある。そのコンパクトディスクのなかに、京都の詩仙堂で録音されたとされているししおどしの音をおさめたトラックがある。そのトラックを、名古屋の友人の家で、さらに彼の友人の家で、いかにもさりげなくきかされた。しゃくなことに、それはなかなかいい音であった。ご参考までに書いておくと、そのふたりの使っているコンパクトディスクプレーヤーは、ソニーのCDP5000Sである。
 その「コンパクトディスク、その驚異のサウンド」というコンパクトディスクは、ぼくも以前から持っていた。ただ、もともとレコードにしろ、デモンストレイション用のものをきくのがあまり好きでないので、これまできかないできた。ところが、名古屋の友人たちのところできかされたとなると、妙に気になってしかたがなかった。それで、一週間の集中講義をすませた後だったので、かなり疲れてはいたが、家に帰ってからすぐ、その件のししおどしをきいてみた。十全に満足するところまではいかないが、ほどほどの音がした。
 それから数日して、ぼくの部屋に五人ほどの友人が集まった。暑いさかりでもあったので、ほんのちょっとサーヴィスのつもりで、そのししおどしのトラックをリピートにしたままにしておいた。必然的に部屋ではししおどしの音が連続してきこえつづけた。遅れてやってきた、若い、しかし端倪すべからざる耳の持主である友人が、ぼそっとこういった、「なんだ、この家のししおどしはプラスティックか!」
 これにはまいった。その友人のいったことは、当たらずといえども遠からずであった。それは自分でも薄々は感じていたことであったので、反論の余地はなかった。たしかにその友人のいう通り、竹の音にしてはいくぶん軽すぎるきらいが、わが家のししおどしの音にはなくもなかった。
 それからしばらくして、京セラのコンパクトディスクプレーヤーDA910を、この部屋できく機会にめぐまれた。深夜、ひとりで、こっそり(なにもそんなにこそこそする必要もないのに!)そのコンパクトディスクプレーヤーでししおどしの音をきいてみた。これが素晴らしかった。プラスティツクが竹に近づいた。
 その後、いまだに、あの端倪すべからざる耳の持主には、ししおどしの音をきいてもらっていないものの、これなら、「なんだ、この家のししおどしはプラスティックか!」とはいわれないに違いないと思えるいささかの自信がある。むろん、名古屋の「宇宙一の音」とは一対一の比較ができるはずもないので、それをいいことに、どうだ、ぼくのししおどしだって満更ではないぞ、とひとりで悦にいっているのであるが、こういうことはオリンピックとは違うので、多少曖昧な部分を残しておいた方がお互いのためといえなくもない。
 敢えてつけくわえるまでもなく、京セラのコンパクトディスクプレーヤーDA910が、その持前の威力を発揮したのがししおどしの音にかぎられるはずもない。ともするとプラスティックの筒の音にきこえがちな音を、しっかり竹の音にきかせるだけの能力のあるコンパクトディスクプレーヤーであれば、おのずとピアノの音はよりピアノの音らしくなって、音としてのグレイドが一段階アップしたのは、まぎれもない事実であった。
 京セラのDA910のなににもましていいところは、音にとげとげしたところがなく、響きに安定感のあるところである。このような音であればCDアレルギーを自認する人でも、ことさら抵抗なく楽しめるのではないか。

ケンウッド L-02A

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 管球アンプ時代のアンプといえば、ブリアンプとパワーアンプという、セパレート型アンプが一般的なタイプであり、それもプリアンプと専用電源部、パワーアンプと専用電源部という構成のものも多く存在し、プリメインアンプ、つまり、プリアンプとパワーアンプを一つの筐体に組込んだモデルが特殊な存在であった。
 ステレオ時代に入ると次第に管球アンプもプリメインアンプの形態をとることが多くなり、ソリッドステート化されるに及び、プリメインアンプがアンプの主流を占めるようになる。
 その基本的な回路構成は、フォノイコライザーアンプ、フラットアンプ兼トーンコントロールアンプとパワーアンプという3ブロック構成がスタンダードなタイプである。シンプル・イズ・ベストの思想とアンプ構成の単純化による原価低減、さらにMCカートリッジが主流を占めるなどの背景により、現在のプリメインアンプは、ハイゲイン・フォノイコライザー部とパワーアンプの2ブロック構成がベーシックな回路構成になっている。
 一方において、シンプル・イガ・ベストの思想に基づいてアンプとしてのクォリティの向上を追求する傾向が古くから一部に存在し〝イコライザー付きパワーアンプ〟をキャッチフレーズとして最初に開発されたモデルが、たしか、ラックスの5L15であったように思う。
 この、二つのプリメインアンプの動向をベースに、ここで、取上げた、ケンウッドL02Aを考えてみることにしたい。
 もともと、トリオのプリメインアンプには、初期から利得配分で他社にない特徴があったようだ。ソリッドステートアンプが完成期を迎えた時期のトリオの名作プリメインアンプといわれたKA6000では、フォノイコライザーアンプ、ゼロ利得のトーンコントロールアンプと、ハイゲインパワーアンプの3ブロック構成で、パワーアンプの入力電圧は、たしか0・2V程度でフルパワーとなる、いわば英クォードのセパレート型アンプ的な特徴があった。つまり簡単に考えれば、一般的には20dB程度の利得をもつ、フラットアンプ兼トーンコントロールアンプを通すことによる音質の劣化を避けた点に特徴があるともいえる設計である。
 L02Aは独立した電源部とプリメインアンプ部の2ブロック構成をもち、機械的にアンプ部と電源部を一体化してブリメインアンプ化も可能であり、その回路構成は、ハイゲイン・フォノイコライザー部とパワーアンプ部の2ブロック構成という特異性の強いモデルである。各種の条件から考えて、やはりトリオ/ケンウッドのブランドにおいてもっとも誕生しやすい土壌があったと考えてよいだろう。
 この、特異ともいうべき超高価格な製品を、ブリメインアンプの最高峰に位置するモデルとして市民権を獲得し、世に認めさせるとともに、営業的にもそれなりの成功を収めたことは、その性能に裏付けさせられた音質面の優位性、ブランドの信頼感の高さに加えて開発スタッフのオーソドックスなアプローチと努力の賜として賞讃を送りたいものである。
 一方において、L02Aはプリメインアンプという形態を採用しているだけに、これとペアになるチューナーの存在も大きな意味を持つことになる。この点でもFMのトリオに相応しく、FM専用チューナーL02Tの存在は不可欠なものだ。
 ちなみに、このL02Tの音は、数多くの高級FMチューナーが存在するが、バリコンを同調回路に使うFMチューナーとして、かつてのマランツの♯10Bの再来を思わせる素晴らしさであると思う。
 L02TとL02Aのペアは、個人的にも、リファレンスFMチューナーとリファレンス用プリメインアンプとして、長時間にわたり、その大役を果している。L02Aは、CDや、ハイファイVTR登場以前の開発であるため、現状ではややファンクション系の不足があること、セパレート電源部方式を採用しているため、アンプと一体化しても、電源供給ラインにコネクターが入ってしまう点などの小さな問題点も存在はするが、上昇量が切替可能であり、パラメトリックイコライザー的に周波数が可変できるラウドネスコントロールは、各種のスピーカーをコントロールルするときに予想以上に有効に働く機能であり、ナチュラルな帯域バランスと、素直な音色、ストレートで伸びやかであり誇張感のない音は、基本的なクォリティが高く、作為的な効果を狙った印象が皆無であるのが好ましい。
 また、いろいろと話題を提供した独自の㊥ドライブ方式も、スピーカーコードの影響を皆無とすることは不可能であるが、スピーカーシステムをアクティブにコントロールし、追込んで使いたいときにはかなり有効な手段であると思う。
 L02Aは、プリメインアンプの頂点をきわめた立派なモデルであるが、マルチプログラム時代になり、高品位、ハイレベル人力のプログラムソースが増加する今後のオーディオにとっては、セパレートアンプよりも合理的なアンプの原型として、この形態は、見直してしかるべきものと思う。

ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 ビクターのラボラトリーシリーズのコントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10は、いま、聴いておきたい音、というよりは、いま、安心して聴ける音、といった性格のセパレート型アンプである。
 従来からもビクターには、オーディオフェアなどで見受けられた一品生産的な特殊なモデルを開発する特徴があったが、その技術をベースに、薄型コントロールアンプの動向に合せた7070系のコントロールアンプと、いわゆるパルス電源を初めて採用したモノ構成の7070パワーアンプをトップランクの製品として持ってはいたが、ビクターのセパレート型アンプとして最初に注目を集め、多くのユーザーの熱い期待を受けたモデルは、パワーアンプのM7050であろう。
 これらの従来から築きあげた基盤の上に、アンプの基本思想として、忠実伝送と実使用状態における理想動作を二大テーマとして、ラボラトリーシリーズのセパレート型アンプとして1981年秋に開発されたモデルが、P−L10とM−L10である。
 コントロールアンプP−L10は、かつてのソリッドステート初期に、グラフィックイコライザー(SEA)を搭載した超高級コントロールアンプとして注目を集めたPST1000以来、久しぶりに本格派のコントロールアンプとして総力を結集して開発された意欲的なモデルである。
 最新の技術的産物としてのアンプではなく、音楽性追求のための技術という考え方を基本にして開発されただけに、例えば、音量を調節するボリュウムコントロールには、一般的に抵抗減衰型のタイプが使われるが、これでは可変抵抗器が信号ラインに入り接点をもつために、位置による音質のちがいが生じやすい点が問題にされ、アンプの利得を可変にすることにより音量を変える新開発Gmプロセッサー応用のボリュウムコントロールが採用されている。
 このタイプは、ボリュウムを絞っていけば、比例してノイズも減少するため、実用状態でのSN比が大幅に改善され、結果として、音場感情報が豊かになり、クリアーな音像定位や見通しのよい広い音場感が従来型に比較して得られる利点がある。このバリエーションとして、昨年来のプリメインアンプA−X900やA−X1000にスイッチ切替型として採用されているが、この切替えによるSNの向上が、いかに大きく音場感再生と直接関係しているかは、誰にでも一聴して判かる明瞭な差である。
 また、フォノイコライザーでのGmプロセッサーの応用にも注目したい。入力電圧を電流に変換増幅後、その電流をRIAA素子に流す単純なイコライザー方式は、CR型の伝送・動特性とNF型の高域ダイナミックレンジを併せ持つ特徴があり、電圧を電流に変換する変換率を変えればトータル利得を変化できるため、MMとMCポジションで性能、音質が変わらず、トータルな周波数特性はRIAA素子のみで決定されるため、RIAA偏差は自動的に100kHzまでフラットになることになる。
 フォノ3系は低出力MC用ハイゲインイコライザーで、入力感度は70μVと低いが、SN比は非常に優れているのが特徴である。外装は、ビクター独自のお家芸ともいえる高度な木工技術を活かした、21工程に及ぶ鏡面平滑塗装仕上げ、これは見事だ。
 ステレオパワーアンプM−L10は、ビクター独自のスイッチング歪をゼロとした高効率A級動作方式〝スーパーA〟の技術をベースに、スピーカー実装時のアンプの理想動作を追求した結果、全段カスコード・スーパーA回路を新採用している。この回路も、実際の試聴により、スピーカー実装時のアンプ特性劣化や、音楽再生時のTIM歪や発熱による素子のパラメーターの変化に注目した結果、優れた回路方式として採用されている点に注目したい。
 この方式は、パワー段までカスコード・ブートストラップ回路を開発し、採用しているため、出力段のパワートランジスターは数ボルトの低電圧で動作し、電流のみ変化する特徴があり、電圧と電流の位相がズレるスピーカー実装負荷でも、ダミー抵抗負荷と同じ動作、性能が確保され、アンプは負荷の影響を受けない利点がある。また、低電圧動作のパワー段は、発熱量が低く、従来型に比較してスピーカー実装時の瞬間発熱量は1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流の安定化にもメリットがある。
 構成部品は、エッチングなしのプレーン箔電解コンデンサー、高速ダイオード、高安定金属皮膜抵抗、低雑音ツェナーダイオードなど定石的な手法が各所に認められる。
 外装は、平均的に16工程程度とされるピアノ塗装を上廻る21工程の鏡面仕上げローズ調リアルウッドのキャビネット採用。
 定格出力時、160W+160W(20Hz〜20kHz・8Ωで、THD0・002%)周波数特性DC〜300kHz−3dBの仕様は、セパレート型アンプとしてトップランクの特性である。
 P−L10とM−L10のペアは、充分に磨き込まれた、安定感のある、タップリとしたナチュラルな音が特徴である。各種のキャラクターが異なるスピーカーシステムに対しても、ナチュラルな対応性を示し、それぞれの特徴を活かすセッティングも、個性を抑えたセッティングも、かなりの自由度をもってコントロールできるようだ。
 好ましいアンプというものは、個性的なキャラクターの強い音をもつものではなく、結果として、電気信号を音響エネルギーとして変換するスピーカーシステムに対して、充分なフレキシビリティをもって対応可能なことと、聴感上でのSN比が優れ、音場感的情報量をタップリと再生できるものであるように思う。
 この意味では、このセパレート型アンプのペアは、発売以来3年を迎える円熟期に入ったモデルであるが、各種のスピーカーシステムに対する適応性の幅広さと、ビクターの伝統ともいうべき、音場空間の拡大ともいうべき、音場感情報の豊かな特徴により、現時点でも、安心して聴ける音をもつ、セパレートアンプとして信頼の置ける存在である。

テクニクス SE-A1、ヤマハ 101M

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 セパレート型アンプのジャンルでは、コントロールアンプに比較して、パワーアンプに名作、傑作と呼ばれる製品が多い傾向が強いように思われる。
 こと、コントロールアンプに関しては、管球アンプの以前から考えてみても、いま、残しておきたい音というと、個人的には、管球アンプのマランツ♯7と、ソリッドステート以後ではマーク・レヴィンソンLNP2の2モデルしか興味がない。
 これに比較すれば、パワーアンプではいま聴きたい音、あるいはとっておきたい音は数限りなくあるといってもよいし、個人的にもパワーアンプのほうが好きなようで、手もとに残してある製品を考えても、パワーアンプの総数はコントロールアンプの3倍はあると思う。とくに、この号が発刊される頃(秋)は、感覚的にも、管球アンプを使いだすシーズンであり、音的には体質にマッチしないが、マッキントッシュMC275を再度入手したいような心境である。
 国内製品でも、パワーアンプには興味深い製品が数々あり、AクラスパワーアンプのエクスクルーシヴM4、全段FET構成のヤマハBI、 ハイパワー管球アンプのデンオンPOA1000Bなどは、オーディオの夢を華やかに咲かせた。それぞれの時代の名作であり、コレクション的にも興味のある作品と思う。
 パワーアンプでAクラス増幅の高品位とBクラス増幅の高効率が論議され、各社から各種のBクラス増幅のスイッチング歪とクロスオーバー歪を低減する新方式が開発された時点で、スイッチング歪とクロスオーバー歪の両方が発生せず、しかもAクラス増幅で350W+350Wという超弩級のパワーをもつ驚異的なパワーアンプとして、テクニクスから1977年9月に登場した製品がテクニクスA1だ。
 テクニクスの伝統ともいうべきか、全段Aクラス増幅のDCコントロールアンプのテクニクスA2と同時に発表されたA1は、独特のコロンブスの卵的発想によるAプラス級動作と名付けられた新方式を採用した点に最大の特徴がある。
 基本構想は、スイッチング歪とクロスオーバー歪が発生しない低出力A級増幅パワーアンプの電源の中点をフローティングし、別に独立した電源アンプで信号の出力増幅に追従するようにA級増幅アンプの電源中点をドライブするという2段構えの構成での高効率化である。
 これにより、アンプの外形寸法はA級増幅の100W+100Wなみに抑えることが可能となり、しかも強制空冷用のファンなしの静かなパワーアンプが可能となったわけだ。またこのモデルは、入力や出力のカップリングコンデンサーや、NFBループ中にもコンデンサーのないDCアンプを採用しながら、DCドリフト対策として、出力のDCドリフト成分を信号系とは別系統の系を通してDCドリフトの要因となる回路素子に熱的にフィードバックし、素子間の温度バランスを補正し、DCドリフトの要因そのものを打消すアクティブサーマルサーボ方式を採用していることも特徴である。
 機能面は、4Ω、6Ω、8Ω、16Ωのスピーカーインピーダンスによる指示変化を切替スイッチで調整可能の対数圧縮等間隔指示のピークパワーメーター、レベルコントロールによりプリセット可能な4系統のスピーカー端子、2系統の入力切替、電源のON/OFFのリモートコントロールなどが備わっている。
 周波数特性、DC〜200kHz −1dB、スルーレイト70V/μsec、350W+350W定格出力時(20Hz〜20kHz)で0・003%のTHDと、スペックのどれをとってもパワーアンプとして考えられる極限の性能を備えていた。しかも、業務用ではなく、純粋にコンシュマーユースとして開発された点に最大の特徴がある製品だ。
 柔らかく、穏やかな表情と、しなやかで、キメ細かい音が特徴であったが、余裕たっぷりの絶大なスケール感は、ハイパワーであり、かつ、ハイクォリティのパワーアンプのみが到達できる独自の魅力で、現在でも鮮やかに印象として残るものである。今あらためて、ぜひとも最新のプログラムソースと最新のスピーカーシステムで聴いてみたい音だ。また、このAプラス級増幅方式と共通の構想として、それ以後、エクスクルーシヴM5、ヤマハB2xなどが誕生していることも、見逃せない点だ。
 1982年末に、500W十500Wという超弩級ステレオパワーアンプとして初登場したモデルが、ヤマハ101Mである。外観のデザイン面からも判然とするように、ヤマハ一連のアンプデザインと異なった印象を受けるが、基本構想はレコーディングスタジオでのモニターアンプ用として開発されたモデルでナンバー末尾のMは、モニターの意味であると聞いている。
 構成は、筐体は共有しているが、内部は電源コードまでを含み完全に左右チャンネルは独立した機構設計をもっている。人力系は、欧米でのスタジオユースを考えオスとメスのキャノン型バランス入力とRCAピンのアンバランス入力とレベルコントロール、さらに、BTL切替スイッチが備わり、BTL動作時は、1500W(8Ω)のモノパワーアンプになる。なお、出力系は、切替スイッチはなく、1系統のダイレクト出力端子のみ、というのは、いかにも、プロフェッショナル仕様らしい。
 パワー段は、+−70V動作のメタルキャンケース入り、Pc200Wパワートランジスター5パラ動作をベースに、+−120V動作の4パラ動作が必要に応じて加わる方式で、ヤマハ独白のZDR方式採用でパワーパワー段での各種歪、スピーカーの逆起電力による歪までをキャンセルし、定格出力時THD0・003%は、見事な値だ。
 音の輪郭をシャープに描き出し、ストレートに力強い表現をする音は、一種の厳しさをも感ずる凄さがあり、国内製品として異次元の世界を聴かせた印象は今も強烈だ。

マランツ Sc1000, Sm1000

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 マランツの製品は、創業期から現在にいたるまで、比較的に、コントロールアンプとパワーアンプのバランスがよいモデルを送り出していることに特徴があるようだ。
 いまも聴きたい音という意味からは、かつての管球アンプ時代の♯7コントロールアンプと♯2モノパワーアンプ×2の組合せは、私個人にとってはマランツの最高傑作と信じている黄金のペア、いや、トリオである。
 コントロールアンプは、ステレオタイプとなり♯7で完成の域に達したが、パワーアンプは、♯5、ステレオタイプ♯8B、♯9と発展をする毎に、製品としての合理性、商品性、安定度などは確実に向上をしているが、パワーアンプとしての魅力は、次第に後退し、♯2の印象は♯5ですでに消失しているように感じられる。
 ソリッドステート化第一作の、♯7Tコントロールアンプ、♯15パワーアンプは、第一作という意味での不安感が少なく、完成度も充分にあり、現在でも少し古いディスクを再生するときにはなかなか楽しめる音を聴かせるペアである。
 ♯15に続く、♯16以後、しばらくの期間は、パワーアンプは、♯250、♯510と続くが、コントロールアンプが不作の時代である。
 基本設計を米国で、実際の開発と生産を国内で行なおうとする、いわば新世代のマランツの製品は、不巧の名作といわれたプリメインアンプ♯1250が代表作になるわけだが、トップランクのセパレート型アンプを目指して、より良き伝統を受継ぎながら最新のテクノロジーとデバイスをマランツらしく生かして久し振りに開発された第1弾作品が、400W+400Wのパワーを備えたステレオパワーアンプSm1000である。
 パワー段は、メタルキャンケース入りのパワートランジスター3個パラレルに対して1個のドライバーを組み合せたものを1組とし、これを、3個組み合せて、3段ダーリントン方式の出力段としている。つまり、3×3=9が+側と一側にあるわけだから、片チャンネル18個のパワートラジスターを使っていることになる。
 ハイパワーアンプの放熱対策は、重要な機構設計上のポイントになるが、Sm1000では、空冷用ファンを組込んだ、風洞型の放熱器を♯510から受継いで採用している。この方式により、400W+400Wの定格出力を持ちながら、外形寸法面でのパネルの高さを抑え、比較的に薄型にすることを可能としている。
 風洞内部には、両チャンネル用の36個のパワートラジスターと12個のドライバーが組込まれているが、風洞内で均等に各トランジスターを冷却するために、風下にいくに従って冷却効果を高めるために長さが次第に長くなっているサブ冷却フィンが整然と並んでいる様は、視覚的にも美しく、一見に値する眺めではあるが、容易に外側から見られないのが大変に残念な点である。
 電源部は、伝統ともいうべき強力タイプで、左右独立した800VAの容量をもつカットコア採用の電源トランスと20000μF、125Vのオーディオ用コンデンサーを+側と一側に2個採用したタイプで、一部を積上げ電源として使うスタック型パワーサプライ方式である。
 入力系は、レベルコントロール付で、アンバランス型のRCAピンジャックと、1と2番端子がコールド、3番端子ホットのキャノンプラグ付、出力系は、ダイレクト端子と切替可能なSUB1とSUB2の3系統をもつ。
 Sm1000は、基本的には、無理に帯域を広帯域型としないナチュラルなバランスと、クッキリと粒立ちがよく、音の輪郭をクリアーに描き出す、ダイナミックで力強い♯510系の延長線上に位置する音をもっている。いかにも、マランツらしいイメージをもつ、ストレートさが最大の魅力と思う。後継モデルのSm700の、しなやかで明るく、音場感を広く再現する性質とは対照的で、安定感のある力強い長兄と、伸びやかで、現代なフィーリングをもつ次男といったコントラストが面白い。
 コントロールアンプSc1000は、Sm1000に続くパワーアンプSm700と、ほぼ同時に開発されたマランツのトップランクコントロールアンプである。
 基本構成は、シンプル・イズ・ベストであり、ディスク再生における最高の音楽表現を目指し、入力から出力までのスイッチなどの接点数を極少とし、裸特性を極限まで追求した増幅回路、負荷電流の変動にいかなる影響も受けない超低インピーダンス化した理想的電源部などがポイントだ。
 フォノイコライザーは、A級動作、全段プッシュプル構成DCアンプを2段使ったNF・CR型、機械的に連動と非連動に変わるバランスコントロールを省いたボリュウムコントロールと、それ以後は、2系統に分かれ、それぞれ専門の出力端子をもつフラットアンプとトーンコントロールアンプをパラに設置したユニークなブロックダイアグラムを特徴としている。なお、電源部は筐体の半分を占める、各ユニットアンプ間チャンネル間の干渉を排除した8独立電源で、事実上のインピーダンスを0としたシャントレギュレ一夕一方式を採用している。また、TUNER、AUX用とTAPE入力用にバッファーアンプを備えているのも特徴である。
 基本的には、アナログディスク再生に焦点を合せたコントロールアンプではあるが1981年当時の設計としては、フラットアンプの性能が追求されており、ハイレベル入力系に対してカラレーションのない音を聴かせるのが本機の特徴である。特徴の少ない音だけに、最初の印象は薄いかもしれないが、使込んで次第に内容の高さが判かってくる。これこそ、いま、聴きたい音である。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 C2301というサンスイのコントロールアンプはぼくが目下、大いに興味をもっている製品である。まだ新しい製品なので、ぼくも、それほど長くじっくりと使ったわけではないし、恐らく、これからファンが増えてくるアンプだろう。ぼくにとっては、国産、海外製を問わず、多くのコントロールアンプと接触する中で、これは、本気になってつき合ってもいいなという気を起こさせるアンプなのだ。
 ぼくの部屋にはアンプ棚がある。ここには六段の棚があって、一段に2台ずつのアンプが置けるから、計12台の収納が可能である。そのうち、コントロールアンプのためのスペースとしては、使用上の高さなどからして最上段や最下段は不適当だから、中三段ぐらいということになる。しかし、他にも、CDプレーヤーやチューナーも置かなくてはならないから、4〜5台というところがコントロールアンプのためのスペースだ。ここにある時期、継綻的に収まるものは、結果的にいって、ぼくの好きな製品ということになる。もちろん、好きなものでも、古いものは他の場所に片づけたり、あるいは、一時的に他のものと入れ替えたりすることがあるし、ほとんどが使わないのに、JBLのSG520とマランツの7Tは飾り物と化して居坐ったままというのが現実である。このJBLとマランツは、コントロールアンプのデザインの、偉大で対照的なクラシックだと自分では思っているので、想い出も含めて、どうも片づけてしまう気がしないのである。それはともかく、この棚には、こんなわけで、長年、収まりかえっているものや一日か数時間で取り出されてしまうものがあって、
ぼく自身も、結果的に、自分との関わり合いの濃淡を感じさせられることになるのである。ここにひと月以上入っているというのは、明らかにぼくの気を惹いた製品、三ヵ月になると、愛の芽生えたもの、半年を超えると相思相愛、一年以上同じ場所に居続けた製品は、伴侶である。なんとなく、こんな因果が、この10年くらいの間に出来上がってしまったようなのだ。コントロールアンプのアウトプットをつなぐパワーアンプ群は、ほとんど、この棚の裏部屋に収まっているので前からは見えないが、ここにも、これと似通った状況が見られるのである。
 サンスイのC2301は、まだ、合計で数時間しか、この棚に収まったことがない。しかし、その数時間で、それっきりになってしまわないなにかが、このコントロールアンプにあることを、ぼくはずうっと意識させられていたのである。本誌70号の新製品紹介記事を書くために聴いたC2301の音の魅力が頭から去らないのであろう。あの時、ぼくは、その音を耽美的な情感に満ちていると書いた。また、音楽に人間の生命の息吹きや、感情的高揚を求め彷徨している快楽主義者であるぼく……などと気恥ずかしい告白もやってのけた。天上の音楽を奏でるに相応しい無垢の音とは感じなかったけれど、それだけ暖か味のある魅力を、このアンプから感じ取ったことはたしかである。そして、〝ぼくにとってはこれでよい。いや、このほうがよい。色気がある音だから…〟と書いたのを覚えている。C2301は、明らかにぼくの情感を刺戟した。リビドーを感じさせた。アンプによっで、こうしたレスポンスを心の中に呼び起こすものと、そうではないものとがあることは一つの不思議である。その不思議ゆえにオーディオは面白く、また、その不思議と、科学的な技術問題の関連をさぐること、識ることが、オーディオの尽きない興味である。
 ルドルフ・フィルクスニーの慈愛と高潔の精神に満ちた音が、月並みな甘美さにしか聴こえなかったり、ひどい時には脆弱で鈍い音にしか聴こえなかったりする経験をぼくは知っている。この名ピアニストの、しかも、ぼく自身が録音したレコードによってさえ、ぼく自身にあれこれ聴こえるオーディオの音は、時として面白さを越えて恐ろしくすらある。C2301は、フィルクスニーを甘美に、そして、セクシーに響かせる。そこに、ぼくはこのアンプの魅力と不安を感じているのである。この稿を書く気になったのも、その魅力と不安からであった。そして、今、再び、C2301はぼくの部屋の棚に収まっている。一日ゆっくり、いろいろなレコードを聴いてみた。そして、ぼくは、一段と大きな魅力を、このコントロールアンプに感じ始めているのである。基本的には、ぼくの第一印象は間違っていなかった。しかし、聴けば聴くほど、そのヒューマンな暖か味と、情感の魅力の再現に惹かれていく自分を発見した。

Do me wrong Do me right Tell me lies But hold me tight Save your goodbyes For the morning’s light But don’t let me lonely tonight

 ローズマリー・クルーニーの歌う一節である。この人生経験豊なべテラン歌手の歌唱は見事という他はない。まさに熟女の官能とペイソスである。都会的である。
〝今夜だけは私を一人ぼっちにしないで……。しっかり抱いて……。さよならは夜が明けるまで云わないでほしいの……。〟
 理性と感情が、官能の虜の中でゆれ動く、この円熟した女の心と身体を深く美しく歌いあげる彼女、ローズマリー・クルーニーの表現は、このC2301の音の魅力と同質である。これ一曲を聴くためだけでも、このアンプの存在価値は高いといってもよいほどだ。
 このアンプが、これから、どんな音を聴かせてくれるかは大きな期待である。B2301とのバランス接続で聴いてもみたい。まったく異質なアンプとの組合せの妙も試してみたい。私のアンプ棚で、どんな存在になるのかは、私自身にも、今はわからない……。

ソニー APM-8, APM-6、パイオニア S-F1、テクニクス SB-M1 (MONITOR 1))

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 平面振動板採用のユニットを使ったスピーカーシステムといえば、1970年代の末期に急激に開花した徒花といった表現は過言であるのだろうか。
 毎度のことながら、国内のオーディオシーンでは、これならではのキャッチフレーズをもった、いわば、究極の兵器とでもいえる新方式や新材料を採用した新製品が、開発され、ある時期には、各社から一斉に同様のタイプの新製品が市場に送り込まれ、盛況を見せるが、それも長くは継続せず、急速に衰退を元す、といった現象が、繰返されている。平面振動板を採用したユニットによるスピーカーシステムも、その好例であり、現在では継続してこのタイプのユニットによるシステム構成を行なっているのは、テクニクスとソニーの2社といってよいであろう。
 平面振動板は、スピーカーユニットの振動板形態としては、もっとも、シンプルなタイプであり、振動板の振動モードを検討する場合に、オルソンの音響工学にもあるように、常に引合いに出されるタイプだ。
 従来からも、平面振動板を採用したダイナミック型のユニットは、特殊なタイプとしてはすでに1920年代から存在することが知られているが、いわゆる、コーン型ユニット的に、ボイスコイルで振動板を駆動する製品としては、かつて、米エレクトロボイスにあったといわれる、木製の板を振動板としたユニット、ワーフェデールのコーン型ユニットの開口部を発泡性の合成樹脂の平らな円板でカバーしたウーファーなどが一部に存在をしたのみである。これが、急速にクローズアップされたのは、宇宙開発や航空用に開発された軽金属製のハニカムコアが、比較的容易に入手可能となり、これに、各種のスキン材を使って、振動板として要求される、重量、剛性、内部損失などの条件がコントロール可能になったためである。簡単にいえば、新しい材料の登場が、急速な平面振動板ユニット開発のベースとなっているのである。
●ソニーAPM8/APM6
 平面振動板を採用した原点は、全帯域にわたり完全に近いピストン振動をする、いわば、スピーカーの原器ともいえるシステムを開発するためといわれ、アキユレート・ピストニック・モーションの頭文字をとりAPMの名称がつけられている。
 APM8は、11978年1月に開発されたAPMスピーカーをベースに製品化された第一弾製品で、ハニカムサンドイッチ構造の角型板勤板ユニットを4ウェイ構成とし、フロアー型バスレフエンクロージュアに組込んだシステムである。アルミ箔スキンの低音は、4点駆動で、中心にローリング防止ダンパー付。中低域以上は、カーボンファイバーシートをスキン材に採用している。
 磁気回路は、アルニコ系鋳造磁石を採用し、プレートとセンターポールの放射状スリットと、磁気ギャップ近傍のプレートやボールに溝を設けるなどの機械加工による電流歪低減と、各ユニットのインピーダンスを純抵抗と純リアクタンスに近づけ、単純化し、ロスを減らし、特性をフラット化する設計が見受けられる。
 エンクロージュアは、200ℓ、自重60kgで25mm厚高密度パーチクルボード製。ネットワークは、SBMCの高圧成形の防振構造を採用している。
 ユニット性能を最重視した基本設計は、国内製品として典型的な存在である。物理的な性能は超一流のレベルにあるが、システムとしての完成度に今一歩欠けるものがあり、発表以後、改良が加えられた様子はあるが、サウンド的には未完の大器であり、非常に残念な存在である。完全にチューンナップした音が聴きたいモデルだ。
 APM6は、APMユニットをモニターとして最適といわれる2ウェイ構成とし、エンクロージュアをスーパー楕円断面の特殊型として、デフテクションの防止を図ったAPM第二弾製品である。2ウェイ構成のため、セッティングは非常にクリティカルな面を示すが、追込めばさすがに、従来型とは一線を画したスピード感のある新鮮な音を聴かせる。使い手に高度の技術を要求する小気味のよい製品だ。
●パイオニア S−F1
 世界初の平面同軸4ウェイユニットを開発し、採用した、極めて意欲的、挑戦的モデルである。基本構想は、音像定位、音場感を最優先とした設計であり、混変調歪やドップラー歪に注目して一般型としたソニーAPM6と対照的な考え方と思う。
 角型ハニカム振動板は、低域と中低域のスキン材にカーボングラファイト、中高域と高域用はベリリュウム箔採用だ。磁気回路は、同軸構造採用のため、ウーファー振動板40cm角に対して32cm型のボイスコイルであり、背面の空気の流れを確保するため非常に巧妙な考えが見受けられる。とくに、高域と中高域の同軸構造磁気回路は、シンプルでクリーンな設計である。
 エンクロージュアは、230ℓのバスレフ型で、システムとしての完成度は、相当に高いが、今後のファインチューニングを願いたい内容の濃いシステムである。
●テクニクス/モニター1
 SB7000で提唱した位相特性平坦化を平面振動板採用で一段とクリアーにした理論的追求型のシステムだ。独特のハニカムコア展開法は、振動板外周ほどコアが大きくなり、軽くなる特徴をもち、4ウェイ構成のユニットはすべて円型振動板採用。
 低域用の特殊構造リニアダンパー、高域用のマイカスキン材をはじめ、磁気回路の物量投入は、価格からみて驚威的で、非常に価格対満足度の高い製品である。特性は充分に追込まれているが、システムアップの苦心の跡としてバッフル前面のディフューズポールや、内部定在波を少し残して低音感を調整したあたりは巧みである。この製品の内容を認めて、使いこなせる人が少ないのが、現在のオーディオの悲劇であろうか。

パイオニア A-150D

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから、従来のA150に替わるモデルとして発売されたA150Dは、デザイン的には、オプションのサイドパネルを除き変更はないが、その内容面は、大幅な変更を受け、基本から完全に新設計された、意欲的な新製品である。
 基本的な特徴は、電源トランスを含め左右独立したモノーラル構成のパワーアンプと、同じく、電源トランスを含む、小信号系の独立したイコライザーアンプという、3ブロックに分割した内部構成にある。
 パワーアンプの左右チャンネルをモノーラル構成とするメリットは、左右の信号の相互干渉がなく、混変調歪、セバレーションが優れ、聴感上では、音場感的な空間情報量が豊かであり、音像定位がクリアーになる特徴がある。また、小信号系を分離すれば、変動が激しいパワーアンプの影響を受けず、音質向上が計れることば、セパレート型アンプのメリットにつながるものだ。
 簡単に考えれば、プリメインアンプでセパレート型アンプに近似したメリットを実現させようという考え方で、一時は、この動向がプリメインアンプの主流を占めた時代があったが、最近では、主に価格的な制約が厳しいため、採用される例は少ない。
 このタイプで問題になるのは、構造面の機構設計の技術である。プリメインアンプであるだけに、同じ筐体内に、分割したブロックを組込むためのスペース的な制約は厳しく、この部分の設計が、目的を達成するか否かにかかわる鍵を撮っている。
 パワーアンプは、A150のノンスイッチング方式を発展させた、ノンスイッチング回路タイプIIと呼ばれるタイプで、従来型の100kHzまでのノンスイッチング動作から、100kHz以上までと動作領域を広帯域化している。また、B級増幅のアイドリング電流のドリフトに起因するサーマル歪や出力段で発生する非直線歪に対して、新しくアイドリング電流を電源スイッチ投入直後や大きな信号が入った直後にも、瞬時に安定化する特殊回路が開発され、出力段の歪みは従来の1/10となっているという。
 経験的に150W+150Wクラス以上のパワーアンプでは、一般的な試聴のように、数分間程度信号を加えて音を聴き、数分間、音を止め、再び音を出す、という間欠的な動作をさせると、音を出した最初の10〜20秒位の間は、音が精彩を欠いており、これが次第に立上がって本来の音になることを常々体験し、温度上昇との因果関係をもつことを突きとめてはいるが、アイドリング電源の安定度との相関関係も非常に興味深いものがある。
 このところ、スピーカーのインピーダンスは、従来の8Ωから6Ωに主流は移行する傾向を示していることの影響をも含めて、パワーアンプの低負荷ドライブ能力が、再び、各メーカーで検討されているようだ。
 A150Dも、低負荷ドライブ能力の向上は、設計上での大きなテーマであり、パルシプな入力がスピーカーに加わった立上がり時に、見かけ上のインピーダンスが、サインウェーブで測った公称インピーダンスより低くなる動的インピーダンスに対しての駆動能力を確保する必要性を重視した結果、パワーアンプは、電流供給能力を増強した設計で、4Ω負荷時190W+190W、2Ω負荷時で270W+270Wが得られると発表されている。
 機能面は、トーンコントロール回路や、モード切替えスイッチをパスさせて、信号系路をシンプルにするラインストレートスイッチ、多様化するプログラムソースに対応するための、5系統の入力切替えスイッチと2系統のテープ切替えスイッチを備えている。なお、MC型カートリッジは、A150同様に、昇圧トランスを使い、3Ωと40Ωが切替え使用できるタイプである。
 リアパネルのスピーカー端子は、太いスピーカーケーブルの使用に対応するため、ターミナルのコード接続部の開口は、3×5φmmと大きく、構造的には、2枚の金属板を庄着するタイプが採用されている。
 試聴は、JBL4344、ソニーCDP701ES、バイオニアP3a十オルトフォンMC20IIを使う。
 外観的には、オプションのウッドボードをボンネットの両側に取付けると、かなり大人っぽい落着いた雰囲気になる。各コントロールは、適度に明解さの感じられる節度感のある感触があるが、大型のボリュウムのツマミは、A150と格差を感じる金属削り出しに格上げされ、そのフィーリングは高級磯らしい好ましいものだ。
 また、機構面も目立たないところだが、A150と比較すれば確実にコントロールされており、ボンネットや内部の機械的な共振や共鳴が抑えられ、手でたたいてみても、雑共振が尾を引いて響くことはない。
 音質面でのA150Dの最大の特徴は、従来の、豊かで柔らかい低音から脱皮した、余裕のある力強い安定した低音への変化である。この新鮮な感覚の低域をベースとして、密度感があり、気持よく抜けた中域とナチュラルな高域が巧みにバランスを保ちスムーズに伸びた帯域バランスを聴かせる。基本的なクォリティは、充分に高く、A150に対する価格の上昇を償って充分以上の内容の向上である。
 音色は、ほぼ、ニュートラルであり、アンプの本質がもっとも現われる、音場感の空間情報量や音像定位のクリアーさでも従来とは一線を画したパフォーマンスだ。
 オプションのサイドパネルを取付けると、制動効果で音は少し抑えられるが、クォリティ的には少し向上する傾向が聴き取れる。総合的に、電気系、機械系のバランスが大変に優れた、注目すべき新製品である。

ヤマハ CD-2

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ヤマハのCDプレーヤーは、価格的にもトップランクの高級機、CD1が最初の製品であった。比較的に短期間に、CD1は、改良が加えられ、CD1aに発展するが、これと、ほぼ時を同じくして、かつてパワーFETの開発で注目を集めた、独自の半導体技術を駆使して、驚異的短期間に、CD専用LSIを完成させ、これを搭載したモデル、CD−X1は10万円のボーダーラインを最初にきった製品として、センセーショナルに登場した。
 今回、発売されるCD2は、価格的には、コンポーネントライクなCDプレーヤーが数多く存在する価格帯の、やや下に価格設定をされた、ヤマハCDプレーヤーのスタンダードモデルともいうべき新製品である。
 基本的なベースとなったものは、CD−X1であるが、外形寸法が、いわゆるコンポーネントサイズの横幅435mmにまとめられているように、筐体関係は完全に基本から新設計された、ヤマハの第3世代のCDプレーヤーである。
 CDプレーヤー独特の高度な音質と使いやすさの2点を両立させたモデルとして開発された印象を受けるCD2は、クォリティオーディオを推進するヤマハの製品らしく、その基本は当然のことながら音質を優先させた開発であることは、いうまでもない。
 現時点でのCDプレーヤーの音質についての要求は、大別してアナログ的な味わいを残したタイプと、デジタルならではの高性能さを、ストレートに音に活かしたタイプに分けられているように思われる。
 ヤマハの製品で考えれば、第一弾製品であるCD1は、やや前者寄りに属する音が特徴であり、CD−X1は、基本的な音質に重点をおいて聴けば、ある種の物足りなさを感じるのは、価格から考えれば当然のことであるが、その素姓の素直さ、という聴きかたをすれば、シンプル・イズ・ベストの例のようにむしろCD1/1aを上廻るものがあると私は思う。
 余談にはなるが、安易にコントロールアンプの上に積重ねて、CD1/1aを使っているとすれば、CD−X1を充分に使いこなして追込めば、クォリティ的にはかなり、近接した結果にすることは可能である。
 このあたりが、価格に関係なく基本性能が、ほぼ同じである、CDプレーヤーの前例のない大きな特徴であろう。
 CD2は、開発にあたり、音づくりではなく、CD本来の可能性を最高に引出すことをテーマとしており、この考えかたは今後のCDプレーヤーの標準的な流れとなるであろう。
 その内容は、音に大きく影響を与えるフィルターには、ヤマハが開発したLSIに内蔵したデジタルフィルターとアナログフィルターを組み合わせた、いわゆる音が良いフィルターを使用し、電源部には大型低インピーダンス電源トランス、配線は無酸素銅線、アース系の銅板バスバーなどを、アナログ系アンプには、アンプで手がけているクォリティパーツを導入している。
 光ピックアップは3ビーム方式で、独自のアドレス制御法により、再生系の回転変動を吸収し正確な信号読取りが可能。
 筐体関係は、機械的な設計や加工で定評のある、ヤマハの技術を充分に活かした設計で、細部にわたる振動や共鳴の制御は、CDプレーヤーにおける、独自のノウハウの産物のように思われる。このあたりが、優れたCDの音を最良に引出すための陰の立役者なのである。
 機能面は豊富であり、常時受付けの10キー、12曲までのランダムメモリー再生が可能。A−B2点間を含むリピート機能に加えて、曲間及びABリピート繰返し間に+3秒の間隔を作るスペ−ス・プレイやディスクを挿入すると自動的にプレイするAUTO、プレイボタンで再生スタートするNORM、1曲ごとにポーズ状態となるSINGLEの3段階に切換わるプレイモードが特徴的な機能である。なお付属の赤外線リモコンは、基本操作のほとんどをカバーする機能を備える。
 試聴は、JBL4344とデンオンPRA2000ZとPOA3000Zを使う。
 ディスクを装着するトレイの動きと音は軽いタイプであるが、機械的な精度は高いらしく装着時の音も、不快な共振や共鳴が抑えられたカタッと決まった印象がある。付属のRCAピンコードは、平均的なタイプで、聴感上の帯域バランスは、ハイエンドとロ−エンドを少し抑えた、いわば、安定型で、比較的にキャラクターをもつ中級ブックシェルフ型スピーカーや、機構的な追込みや、コントロールが難しい中級のプリメインアンプでは、この程度のバランスがマッチすると推測される。
 各種のRCAピンコードを試用し、追込んでみると、CD2の潜在的な能力が次第に発揮されるようになり、帯域バランスもワイドレンジ型に変わり、音場感の空間情報の豊かさや、定位感がシャープに決まるようになる。CDプレーヤーの置き場所を選び安定させると、コンパクトディスクの録音の差や、アンプ系のわずかのキャラクターも音として検知できるようになってくる。このときの音は、適度に伸びやかで、軽快なイメージのサウンドである。いわゆるデジタル的な浮上がった吾がなく、ノイズの質もかなり良い。
 使い勝手は機能が豊富だけに、ある程度の慣れが要求されるが、当然のことだろうう。総合的にみて、CDプレーヤーとして、トータルバランスが優れており、開発目的を充分に達成した印象が強い製品だ。

パイオニア P-D90

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 P−D90は、D70ベースの音質重視設計の新製品である。
 考えてみれば、大変に不思議なことであるかもしれない。CD開発当初より驚異的な特性を基盤として、超ハイファイをキャッチフレーズにしてスタートしたCDプレーヤーは、当然、音質最優先であるはずである。この、はずが実は問題なのだ。
 CDプレーヤーの基本性能は、f特でこそ、上限が20kHzとアナログに劣るが、SN比、ダイナミックレンジ、セバレーション、ワウ・フラッターなど、さすがにデジタル機器らしく、アナログディスクとは、比較にならぬ次元のデータを示している。この優れたデータが、結果としての音質や音場感情報量に活かすことができれば、超ハイファイになるはず、というのが、いわば希望的観測であるわけだ。
 音質的にも、CD発売以前は、一部ではデータが驚異的なだけに、CDプレーヤー間で、差が出ないのではないかとの話しもあったが、先行したEIAJ規格のPCMプロセッサーでの結果と同じく、機種間、メーカー間の音の差が、明確に存在しているのは衆知の事実である。
 CDプレーヤーで音質が変わる部分は、その構成部品すべてであるといっても過言ではない。一般的には、DAコンバーターからフィルター、それにアナログアンプに、そのもっとも大きな原因があるとされているが、それも現在の段階では、という但し書きをつけてのことである。
 P−D90の基本メカニズムは、D70を受継ぐ、独自の方式を採用した自社開発によるものだ。対物レンズをフォーカス方向と半径方向のトラッキングを独立させ、トレース能力を向上させたクロスパラレル支持方式、プリズム、コリメーターレンズ、対物レンズなどの光学系を一直線上に配置し対物レンズをはさんで2個の磁気回路と2個のコイルでダブル駆動とし駆動系の感度アップと高精度化を計ったフォーカスパラドライブ方式の2点がピックアップ系の特徴である。
 一方、ディスクまわりのメカニズムは、D70で採用されたタイプに手を加えたもので、メカニズムの機械的な検討がボイントであろうが、この部分も予想以上に大幅に音質を変化させるキーポイントである。
 これらの高精度化されたピックアップ系の採用にともないデジタル信号処理回路には、2チップからなる高性能LSIを採用、ディスクの反りや、ピットのばらつき、キズなどによる信号の欠落に対して、最大12フレームにおよぷドロップアウトを原信号に戻す強力な誤り訂正能力を実現している。
 DAコンバーター以後のアナログ回路は、パイオニアのオーディオ技術を駆使したもので、各オーディオアンプ基板上に専用の定電圧電源を置くとともに、オーディオ回路のオペアンプやアナログスイッチ類を全てシングルタイプとしたシングル駆動の採用、さらに電源ライン、アースラインとも、デジタル系とアナログ系を完全分離する処理がD70にないD90の特徴である。
 また、回路部品の高音質C・R、オリエントコア使用の電源トランスやOFCで絶縁体にも音質対策を施し、極性表示された音質が優れた電源コードなど、高級アンプと共通の部品選択が見受けられる。
 機能面は、D70と共通ではあるが、電源のON・OFF以外のすべてのコントロールができるワイヤレスリモコンが標準装備される。なお外装は、ブラックとシルバーの2モデルが選ペるのもD70と異なるD90の魅力である。
 試聴は、スピーカーにJBL4333、アンプは、デンオンPRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて使う。
 CDプレーヤーでは、基本的な情報量が多いだけに、アンプと接続するRCAピンコードの種類でかなり大きく音質が左右され、簡単にこれがこのモデルの音といった結論は出しがたいものである。
 基本としては、付属コードもしくは、メーカー指定のコードで聴くことが原則と考えるが、意外にこのあたりは軽視されがちで、専用コードの指示を依頼しても、確答のないメーカーがある例や、雑誌の試聴室でも、比較的に良さそうなコードが適当に使われているのが実情である。
 この点、D90の付属RCAピンコードは、金メッキ処理されたプラグ付の無酸素銅線便用で、平均的な使用では、充分に安心して使える品質をもつだけに有難い。
 操作系は、テンキーをもたないが、シンプルで、実用上文句のない使い勝手である。CDディスクをトレイに入れ、ディスクが装着されるまでの機械音は、メカニズム系の状態の概略を知るうえで、かなりの手掛かりとなる。とかく、軽視されがちで、プラスティック成形品が使われやすいトレイ部分は、軽金属ダイキャスト製でスライド中のノイズも少なく、フィーリングも良い。なお、装着時のカタッとかパシャッとかいうメカノイズも水準以上で、メカニズムが適度に調整されていることが感知できる。あるレベル以上の製品で、この装着時のノイズが、パシャとかカチャッとかのように、機械系のガタや共鳴音が出る場合には音質面に悪影響を与えるため、要注意だ。
 置場所は、充分に堅く、共鳴や共振のない木製の台に置きたい。聴感上の帯域バランスは、適度に力があり豊かな低域をベースとしたナチュラルなタイプで、クォリティは高く、いわゆるデジタル的な軽々しさや、表面的な表現にならないのが好ましい。音場感の拡がりはナチュラルで、定位もクリアーで過不足はない。ノイズも質もよくさすがに、第3弾CDらしい好製品である。

オンキョー Monitor 2000

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 モニター2000は、価格帯からみれば、1ランク上のゾーンにあるシステムではあるが、今回の比較試聴に加えた製品である。
 早くから巷の噂では、オンキョーの高級機種に、2000、3000、5000の3モデルがあるとのことであったが、その第一弾として発売されたモデルがこのモニター2000である。
 オンキョーのスピーカーシステムは、ユニット形式のうえからもバラエティが豊かであり、ときには、非常にユニークな発想に基づいたシステムの開発が特徴である。最近では、小型なGR1システムが、その好例だ。
 伝統的には、ホーン型ユニットの開発に独自の技術があり、他の形式のドーム型などでも、中域や高域ユニットを優先開発する傾向が、従来は感じられた。ウーファー関係については、ポリプロピレン系のデルタオレフィン振動板の開発と採用が、新材料導入の実質的な出発点と考えてよい。
 今回モニター2000に新しく採用されたピュア・クロスカーボン・コーンは、平織りのカーボン繊維を三層に角度を30度ずらせて重ね合わせた構造をもっている。カ−ボン繊維の軽質量、高剛性を活かし、コーンに要求される内部損失を、カーボン繊維を張り合わせるエポキシ系接着材で確保するという考え方が、その基本設計思想である。
 この新コーンの開発で、特許面を含めて制約の多かったデルタオレフィン系コーンから完全に脱皮し、従来から独自に開発していたマグネシュウム振動板採用の中域、高域ユニットの性能を充分に活かした、総合的にバランスがとれたシステムへと一段の発展をとげることになった。
 モニター2000は、新開発のピュア・クロスカーボンを採用したウーファーに最大の開発エネルギーを投入してつくり出されたシステムである。そのことは、使用ユニットを眺めれば一目瞭然である。ウーファーユニットは、38〜40cm口径の大型ウーファー用に匹敵するφ200×φ95×25tの巨大なバリュウムフェライト磁石を採用した磁気回路をもち、情報量が多く、エネルギーを要求されるベーシックトーンを完全にカバーしようとする設計だ。
 中域ユニットは、独自のマグネシュウム合金振動板を採用し、軽量高剛性の基本性能に加えて、マグネシュウム系が適度な内部損失をもつことに着眼点を置いた素材選択に特徴がある。このため、材料独特の内部損失を活かして、ドーム内部に制動材などを入れずに素材そのものの音を素直に引出すという設計方針である。なお、中域の振動板形式は、φ65mmマグネシュウム合金振動板と10cmコーンとの複合型で、純粋ドーム型と比較して高能率であることが特徴である。いわば手慣れた材格の特徴を最大限に引き出しさりげなく仕上げたユニットが、このスコーカーである。
 トゥイーターは、マグネシュウム合金振動板採用のドーム型で、振動板周辺のフレーム形状で軽くホーンロードをかけた設計が、オンキョー独特のタイプと考えられ、このあたりにもホーン型ユニットに伝統があるオンキョーのオリジナリティが感じられる。
 エンクロージュアは、バスレフポートからの不要輻射を避けた背面ポート型で、裏板に28mm厚のアピトン合板、他は25mm厚パーティクルボード使用という構造も、一般的にバッフル部分を厚くする設計と異なった特徴である。また、バッフル面から不要輻射の原因であるバッジ類やアッテネーターパネルを廃し、ツマミのみを最少限の大きさとして残し、聴取時にはツマミが引込み、バッフル面はフラットになる設計が見受けられる。アッテネーターをバッフル面に取付けないとシステムの商品価値が失われるとする主客転倒的な考え方が定着している現状では、リーゾナブルな処理であるといわなければならないだろう。
 今回対象としたランクのスピーカーシステムでは、基本的に6万円前後の価格帯の製品とは比較にならぬ質的な高さが要求されているが、せっかく優れたユニットを採用しているにもかかわらず、慣例的にアッテネーターを前面バッフルに取付け、総合的なクォリティを劣化させていることは、見逃せない問題である。実際に、アッテネーターやバッジ類を良質の薄いフェルトなどで覆って試聴をしていただきたいものだ。この変化を聴き取れない人がいないとは考えられないほどの音質の向上が認められる。
 関連した問題として、響きを重視するエンクロージュアにアッテネーターパネル用の孔をあけること自体すでに好ましいものではない。また、電気的、磁気的にみても、リーケージフラックスが非常に多い一般的な外磁型フェライトマグネットの磁気回路に近接して、コイル状に抵抗線を巻いた抵抗器や信号系の配線が存在することは、簡単に歪の増加として検出されることなのである。
 もちろん、この程度のことは設計側では旧知の事実だけに、使用者側が良識をもって判断すれば、このクラスのスピーカーの性能と音質は、確実に飛躍的な向上を遂げるはずだ。
 モニター2000は、基本的に、やや広帯域型の現代的なレスポンスをもつ安定感のある音をもっているが、いわゆる、聴かせどころの要所を的確に抑えた表現力のオリジナリティに大きな特徴がある。
 セッティングは、他機種と同じコンクリートブロックでスタートしたが、システムの特徴である低域の表現力を活かし、一段と力強い音を求めて、ここでは変則的ではあるが、木製キューブの3点サポートを試みてみた。少なくとも、SS試聴室ではこのセッティングが、カタログコピーにある多彩な表現力を満すためのベストセッティングで、大変に気持のよい鳴り方である。
 組合せは、しなやかで、響きが美しく、適度に緻密さのあるアンプと、オーディオ的に充分にコントロールされた音のCDプレーヤーが望ましい。

ダイヤトーン DS-1000

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの当初からの伝統的なコンセプトともいうべき、小型高密度設計の思想を現在に伝えるモデルが、このDS1000である。
 外観上は、この価格帯のシステムとしてひとまわり小型であり、サイズが重要な商品価値とすれば、物足りない印象を受けることもあるだろう。しかし、エンクロージュア形状に、回折効果を抑えて音場感情報が豊かなラウンドバッフル構造を採用しているあたりは、放送モニター2S305のイメージを残した、高性能タイプらしい主張が感じられる。
 基本的な構想は、新世代のダイヤトーンシステムとして開発されたDS505以来培われてきたハニカムコンストラクションコーンとDUD構造が、すでに完成期を迎えたことをひとつの契機として出発している。つまり、ユニット全体の完成度をさらに一段と高める目的で、ユニットを構造面から再検討し、見直すというアプローチである。
 この構造面からの検討というのは、逆に考えれば、独自の材質と構造をもつハニカムコンストラクションコーンやDUD構造の潜在的能力をさらに引出そうという意図でもある。つまり、従来構造をベースに検討された振動系の可能性の限界が、新しく、理論的に合理化さされた構想を土台とすれば、さらに未知の領域にまで発展する可能性があることを意味している。
 ウーファーフレームは異例に大型で、磁気回路全体を覆い、後から磁気回路をフレームに強固に保持する構造が特徴である。
 現在の国内製品では、磁気回路とフレームはネジ止めされているが、それは、前側のプレートとフレームのみであり、磁石とボールを含む後側のプレートは、接着材で固定されているのが普通だ。
 磁気回路とフレームの重量は、振動系の重量よりは圧倒的に大きく、振動系の動きに対しての反動は無視できる値とするのが常識的な様子である。しかし、海外製品を見ると、アルテック、JBL、タンノイなどでは、前後のプレートは、磁石を間にはさんでネジ止めされ、そして、前側のプレートとフレームが別のネジで固定されるという構造である。このあたりは、機械的な部分に伝統的な強みをもつ彼等らしい確実な手法である。
 このタイプを一段と発展させ、フレームで磁気回路を抑え込む構造がDS1000のウーファーの特徴だ。
 中域と高域ユニットは、ウーファーとは異なった手法である。いうなれば、シンプル・イズ・ベストの考え方による単純化が行われている。従来は、ユニットをエンクロージュアに取付けているフレームにまず振動系を取付け、さらにこれを磁気回路に、ネジ止めしていたわけだが、DS1000では、磁気回路の前側のプレートそのものをフレームとし、これに振動系を取付けるという単純化がなされている。振動系にとっては、支持されている位置が、磁気回路自体なのか、間接的なフレームなのかの違いだが、この差は大きく、高速応答性面での改革が果されている。
 音としての基本ラインは、ワイドレンジ高速応答タイプのサウンドであるが、中、高域ユニットのSN比が向上し、いわゆるダイレクトで、シャープなDUDボロンドームのキャラクターと従来いわれていたものの大半が実はフレーム関係の共振や共鳴が原因であったことが判かったようだ。
 一方、土台を受持つウーファーは、余裕があり、安定感が増し、音が鮮明になったことが特徴だ。また、音場感的な空間情報の量が大幅に増大したことは、このDS1000独自の特徴で、これは新しい次元への展開を予感させる。
 使いこなしのポイントは、まず関連機器のメインテナンスが先決条件であり、システム系の問題点を、サラッと音として聴かせるため、これをスピーカー自体のキャラクターと誤認することが多いであろう。
 試聴時でも、置台は平均的な左右間隔、前後位置も基準位置としたままで、CDプレーヤーの置きかた、アンプの位置決めなどの差が、かなりクリアーに聴きとれた。とくにアンプ系の筐体構造面から生じる機械的な共振や共鳴は、中域から中高域のメタリックな響きとなってかならずと言っていいほど音に出るため、細心の注意が必要である。
 置台の間隔は、ブロックの幅2/3程度が底板に重なる位置、前後方向は、中低域の量感で伸びやかに鳴るように、中心からやや後に偏った位置が良かった。このシステムも、響きの美しさを引き出す意味においては、ブロックよりも、木製ブロックかキューブを是非とも使いたい。ブロックの場合には、上にフェルトを敷く必要があり、またブロックの孔の部分、および床とスピーカー底板の間の空洞には、吸音材を入れ、中域から高域の良い意味での高い分解能、ハイスピード応答の魅力を引き出したい。、本来の意味でのハイスピードとは、ナチュラルな反応のしなやかさと鮮度感であり、むしろ、物足らないほどの印象を受けることもあるだろう。
、ネジ類の増締めは、順序を追って適度を守って行えば、反応はかなりシャープに変化をする。とくに、スピーカーターミナル部分の増締めは、全体に音が静かになり、音場感の空間情報量が確実に増す。しかし、取付けネジが木ネジのため、取扱いに注意が必要なことは他のモデルと共通の要点だ。
 左右は、メーカー推奨のLRでよい。アッテネーター、バッジなどのオーナメントがいっさいないため、この部分での問題は生じないが、サランネットを取付けると平均的システム+αの範囲に留るため、質的な要求度が高いときには、ネットは取り外したい。
 コード関係は、大きくその影響を受けるため、OFCやLC−OFC系の同軸タイプで追い込みたい。少しのキャラクターを残しても情報量の豊かさが重要で、あとは置台の選択と、台上でのわずかな位置調整で、バランスの修整は比較的に安易である。

テクニクス SB-M3

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 平面型振動板採用のシステムは、一時期各社から開発され、盛況を呈したが、現状では、ひとつのユニット形式として市民権を獲得していると思う。
 もともと、振動板解析の基本には、円形の平板を使う手法が古くから行われているように、平面振動板は、ある意味では、理想の振動板形態ということができる。この理想的な振動板を採用した数多くのシステムが、なぜ古典的なコーン型や、比較的に新しいドーム型ユニットなどと、少なくとも同等以上の成果が得られなかったのだろうか。短絡的に考えれば、平面型振動板駆動方式などを含めた、スピーカーユニットとしての完成度に問題があったようだ。
 各方式の平面型振動板を採用したシステムのなかにあって、テクニクスの製品は、ユニット自体の完成度がもっとも高いということが際立った特徴である。
 テクニクスの平面型振動板は、軽金属のハニカムコアを採用することでは標準的であるが、単純にコアをカットして両面にスキン材を張るという方法ではなく、コロンブスの卵的発想ともいえる独自の2段階のステップをもつコアの展開方法により、中央ではコアが密に、周辺ではコアが粗になる独特の構造を採用しているのが特徴である。いわば、コアが均一ではなく、質量分散型ともいえるコア構造のため、コア内部の空洞共振や共鳴が分散され、振動板の構造としては、通常型よりも好ましい。さらに、コア両面に張るスキン材が、外周の端末部分で両側から巻き込まれているために、端末部分の断面でコアが露出して不要共振が発生することを抑制している点も見逃せないところだ。
 また、ローリングを生じやすい平面型振動板をコントロールする目的で節駆動方式が採用されているが、ボイスコイルダンパーは、角型状に四方に対称形のギャザーを配した特殊形状のリニアダンパーが特徴的である。
 また、国内では比較的に軽視されやすいシステムの上下方向の指向特性を改善するために、トゥイーター用マグネットは、長方形型を採用し、スコーカーとの間隔を狭めたユニット配置としている。
 かつでSB7000で国内最初にテクニクスが提唱したリニアフェイズ方式は、当初においては、ユニットにドーム型やコーン型を混用していたため、エンクロージュア構造を変えて、ウーファーに対してスコーカー、トゥイーターを後方に偏らせることで実現されていた。しかし、平面型振動板の開発と全面的な採用により、通常型のエンクロージュアでリニアフェイズ方式としたアプローチは、いかにもテクニクスらしく、オーソドックスな、しかも、理詰めの手法であると思う。
 SB−M3は、4ウェイ方式フロアー型システムとして異例の価格で登場したSB−M1、その3ウェイ版であるSB−M2に続いて開発されたモニターシリーズの第三弾製品である。デジタル時代のモニターシステムとして、広大なダイナミックレンジ、SN比の良さ、音像定位の明解さが要求されるが、このSB−M3では、リニアダンパー採用のパワーリニアリティに優れたウーファーをベースに、振動板前面に音源中心がくる平面型ユニットの特徴が活き、シャープさ、リニアフェイズ方式独特の位相特性面での優位性が積極的に表われている。特に、音場感の空間情報の豊かさ、素直な広がりが目立つシステムである。
 基本的にキャラクターが少なく、ナチュラルで適度に抑制の効いたサウンドをもつだけに、使いこなしは容易なタイプだ。低域は軽く、いわゆる重低音を志向したものでないだけに、中低域の豊かさ、反応の軽快さを活かしたバランスをつくり、奥行き感のある平面型独自の魅力に加えて、実体感のある音像を充分に前へ引き出すことを狙うのが使いこなしのポイントになる。
 置台は、ブロック一段なら間隔は基準よりも狭めとし、やや、柔らかい傾向をもつエンクロ−ジュアの音を引締める。前後方向は、基準より少し前方とし、重低域を狙わず、中低域と低域のバランスを重視して決める。いわゆるモニター的サウンドを志向するならば、コンクリートブロックよりも密度が高く、重量がある台形のコンクリートを置台に使い、その上に、数mm程の厚さのフェルトを敷くのがよい。
 左右は、バスレフポートを外側にするのが原則だ。残念なことは、SB−M3では、ポートと対称位置に二個のアッテネーターがあることだ。この部分の共振の影響は、素直な平面型振動板の特徴にデメリットとして働き、中域以上の分解能、SN比を劣化させている。試みに、1mmほどの薄いフェルトでアッテネーター前面をマスクしてみると音源が遠いと感じやすいSB−M3の個性が薄らぐ。しかし、抜けがよくなり、音像は一段と前に定位し、実体感が加わって、積極的な意味での平面型振動板の良さと、リニアフェイズ方式のメリットが聴感上にはっきりと感じられるようになる。
 この中高域以上の改善は、本来、柔らかく、穏やかな性格のウーファーにも影響を与え、反応は一段と早まり、鮮度感や力感の表現すら可能になる。この変化は、現実に体験をしないと判からないほどに劇的なもので、スピーカーならではの使いこなしの楽しさであり、魅力である。
 ネジ関係の増締めは、素直に反応を示すが、前面から鬼目ナットを装入するタイプで、2〜3回転は簡単に廻わり、最後でジワッと固くなる特徴がある。なおスピーカー端子は、ゆるみが少ないことが、M2ともどもテクニクスの特徴と思う。
 コード類は、太い平行二芯やFケーブルは不適当で、無酸素銅同軸の外皮を+に用いる使用が好適であった。最新のLC−OFCも、その情報量の多さから試みたいコードだ。
 組合せには、素直でキャラクターが少なく、適度に伸びやかさが加わったアンプと、軽快なワイドレンジタイプの音をもつCDプレーヤーを使う。

パイオニア S-9500

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 昨年9月発売のS9500は、価格設定から考えると、ユニット構成は物量投入型で、内容が充実している。さらに、エレクトロニクス・バスドライブ方式という国内最初のダブルボイスコイルを使う新しい武器をも備えた、NS1000Mにとっては、かつてなかった強力なチャレンジャーだ。
 デジタルプログラムソース時代に対応するスピーカーシステムとして、低域再生能力の向上とダイナミックレンジの拡大という二大技術的目標をもって開発されたこのモデルは、パイオニアのトップランクモデルとして長期間にわたりシンボル的な存在である955シリーズでの基本技術に加え、独自の通気性二重綾織ダンパーと、改良されたカーボングラファイトコーン、さらに、新技術EBD方式を搭載した、明らかに新世代のパイオニアスピーカーシステムの登場を思わせる製品である。
 システムとしての最大の特徴は、低域のEBD方式である。ボイスコイルは2組あり、一方は、標準的なバスレフ動作で使用し、やや腰高だがフラットレスポンスからシャープに低域がカットされる特性である。他方は、システム共振周波数以下の帯域でのみ動作させ、システムとしての低域特性を一段と向上させようとするもので、発表値によれば、この外形寸法のエンクロージュアで、50Hzまでフラット再生が可能という、驚異的な値だ。
 この低域レンジの拡大をベースとすれば、スコーカーに要求される条件は、受持帯域の下側のエネルギー量が充分にあるユニットの開発である。
 一般的に、3ウェイ方式のシステムでは、ウーファー帯域が音楽信号の最大のエネルギー量をふくむ帯域を受持つため、最低域と中低域のバランスを両立させることが、システムアップの技術で鍵を揺る部分である。この解決策のひとつが、中低域専用のミッドバスを加えた4ウェイ方式であるが、ユニットの数が増しただけ変化要素が複雑になり、価格の上昇もさることながら、システムアップの難易度は、3ウェイ方式とは比較にならない。
 ちなみに、比較同時試聴でも、3機種の比較は容易だが、4機種となると急に難しくなることに類似している。
 ここで、EBD方式はダブルボイスコイルを採用しているから、一般のウーファーとは違うのではないか、という疑問が生じることだろう。簡単に考えて、ウーファーのボイスコイルを収める磁気回路のギャップの体積は、諸条件がからみあまり大きく変更できない。しかし、ここに2組のボイスコイルを収めるダブルボイスコイル方式は、通常タイプの受持帯域のエネルギーを減らした分だけを最低域用に振替えるタイプで、基本的には通常タイプと同等に考えるべきものと思う。
 さて、前述した要求条件を満たすためのスコーカーは、市販製品では最大の口径をもつ76mmドーム型ユニットが開発され採用されている。振動板材料は、独自のベリリュウム技術をもつパイオニアならではのダイアフラムで、方向性がなく、大パワーでも亀裂が生じない特徴を誇るタイプだ。なお、磁気回路のマグネットは、外径156mmのヤマハと同サイズを採用しているが、ボイスコイル直径が、ヤマハの66mmに対して76mmと大きいため、約10%も磁力が強いストロンチウムフェライト磁石を採用している。大口径スコーカーを採用すると、トゥイーターも受持帯域の下側のエネルギーが必要になる。独自のベリリュウムリボン型ユニットは、従来より一段と低域特性を改善して、ウーファーと共通思想で開発されたダイナミック・レスポンス・サスペンション方式を採用している。
 なお、パイオニアのスピーカーシステムの特徴として、ネットワーク回路が、業務用機器の600Ωラインに採用されているタイプと同じ、バランス型であることがあげられる。このタイプは、通常タイプと比較して、音場感の空間情報が多いのが特徴。
 使いこなしの要点は、量的に充分にある低域の豊かさを活かすことだ。誤った使用方法では、低域がダブつき、反応の鈍い、焦点のボケたシステムと誤認するだろう。現実に、市場でこのシステムの評価がいまひとつ盛上らないのは、使いこなし不在が、その最大の要因である。
 置台は、前例と同じブロック一段とする。左右の間隔は、基準より狭く、ブロックの外側とシステム側板が一致するあたりだ。置台が一段では少し低いため、間隔をつめて、システムの底板の鳴りを制動気味にする必要がある。前後位置は、前方に動かしたほうが全体にシャープ志向のモニター的サウンドとなり、後方に動かせば、伸びやかに闊達に鳴る開放的な響きとなる。当然使い手の好みで判断すべきだが、変化は穏やかで予想以上に使いやすい。ここでは、豊かさと適度なライブネスがあり、音場感の空間情報が多い方向が、システム本来の構成、性格から好ましいと判断して、やや基準点より後方にセットをした。
 積極的に使う場合には、置台は、コンクリートブロックよりも、堅木のブロックもしくはキューブが、響きのナチュラルさの点で好ましい。低域の量感が豊かなため、置台とシステムの間の空間には適量の吸音材を入れ、中域以上の透明感、SN比を向上させるべきであろう。
 ネジ関係の増締めは、適量を厳守されたい。無理をすると比較的容易に破損する。
 左右の置きかたは、バスレフボートを外側にするのが原則。ポートからのパルシブな圧力波的なものが音場感を乱し、大音量時には耳に圧迫感がある。音量レベルは家庭内の平均レベル程度がベストで、低域の量感の豊かな特徴が棲極的に活かせるし、大口径中域の余裕あるエネルギー感が楽しめる。スピーカーコードは、低域が豊かだけに、OFC、LC−OFCなどの情報量の豊かなものを使用し、固有のキャラクターを抑えて、充分に物量の投入された豪華なシステムの特徴を活かしたい。

ヤマハ NS-1000M

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 発売当初は、スリリングなまでに鮮烈なイメージを受けた独自のサウンドも、年月を経過するにしたがい、現在では激しさは姿をひそめ、むしろ、ナチュラルで、標準的な音をもったシステムという印象だ。
 この変化は、単に時代の変化という言葉で片づけることもできようが、その背景には、数多くの要素が複雑に絡みあっていると思う。
 まず、スピーカーシステムは、その基本的な部分が機械系のメカニズムをもつためいわゆるメカニズムとしての熟成度の向上が大きい要素だろう。平均的に言って、スピーカーシステムでは、試作段階のタイプより、生産ラインに乗せてひとたび生産ライン面でのクォリティコントロールが確保されてからの製品のほうが、よりスムーズで、穏やかな、安定感のある音となる傾向が強いようだ。
 経験上では、NS1000Mもこの好例のひとつで、初期の製品よりも、序々に生産台数が増加するにつれ、角がとれた大人っぼい印象の音に変化をしている。
 また、ある期間にわたって使い込んでいく間にみせるエージングの効果も明瞭にあり、前にも述べたが、トゥイーターの音が滑らかになるとともに、スコーカーは、受持帯域の下側が豊かになり、ウーファーとのつながりが厚く、一段と安定感のあるバランスに移行する。
 一方、超ロングセラーを誇るモデルだけに、細部のモディファイやリファインが行われているようで、気のついたことをあげれば、まず低域の質感と音色の変化である。初期製品は、中低域の量感を重視した、当時新開発のコーン紙を採用していたためか、いわゆるダイナミックな表現力を志向して、重低音と感ずる帯域に、力強く、ゴリッとした印象のアクセントを持っていた。しかし、しばらく期間が経過した後に、重低音の力強さは一歩退き、豊かで、まろやかな質感へと変化している。
 当然のことながら、材料の性質をナチュラルに活かしたものとして好ましいモディファイであると思う。ちなみに、巷の話では、現在の中低域の豊かさを保ちながら、重低音の厚み、力強さが出ればベスト、といった説明や解説がみられる。質的なものを犠牲にすれば、不可能ではないが、質的なレベルを維持するかぎり、平均的な構成の3ウェイシステムでは、ウーファーの受持帯域内の聴感上のレスポンスは重低域を重視すれば、中低域の量感は減じ、逆に、中低域の量感を得れば、垂低域のアクセントは消失するもので、それを両立させようという要求は、原理的に不可能な要求である。
 その理由は、特別な処置をしないかぎり、アンプからウーファーのボイスコイルに送られるエネルギー量は一定であるからだ。現実にコントロールできるのは、この一定のエネルギーを、聴感上で、どの帯域に分布させるかが、チューニングの基本である。もちろん、機械的な共振や空気的な共鳴を利用すれば、聴感上でのエネルギー感は増加をするが、クォリティの確保はできない。
 話題が少し外れたが、再びNS1000Mに戻れば、低域の変化に続いて、この低域とバランスをとるためか、高域の音の輪郭が少し強調され、表現を変えれば、質感が少し粗いと感じられたこともあった。
 また、2〜3年前頃だと思うが、ネットワーク関係が見直され、中域、高域のクォリティが向上し、音場感的な空間情報量が豊かになり、聴感上でのSN此が改善されるというリファインもあった。
 もちろん、振動板系においては、他の金属と合金を作りやすい特徴を活かした素材的な進歩があり、品質の向上が早いテンポでおこなわれる接着剤関係の改良、そして配線用線材なども、おそらく変更されているのではないかとも思われる。
 熟成し、完成度が高い現在のNS1000Mは、平均的には、使いやすいタイプである。なお、5モデルのスピーカーは、パイオニアP3aとオルトフォンMC20II、ソニーCDP701ESS、デンオンPRA2000Z、POA3000Zを組み合わせて試聴をおこなった。
 置台には、表面にビニール系のテーブルクロス状の布を張った本誌試聴室で使っているコンクリートブロックを、一段、横置きにして使う。左右間隔は、底板が半分乗った基準位置、前後方向は、中央より少し前側が、この部屋では好ましい位置だ。
 順序に従って、ユニット取付ネジなどの増締めを行なうと、その効果もクリアーで、かなり、リフレッシュしたサウンドに変わる。
 使いこなしの要点は、左右スピーカーを、メーカー指定とは逆に、アッテネーターが外側にくるようセットすることである。その理由は、大きなヤマハのエンブレム、2個のアッテネーターパネルとツマミからの輻射や雑共振が、中高域から高域の音を汚しているからで、逆に置けば、聴感上のSN比は向上し、音場感的な拡がりは明瞭にクリアーになる。
 概略のセッティングを完了し、ここでスピーカーコードを常用のFケーブルから日立製OFC同軸コードの外皮を+、芯線を−とする使用に変える。Fケーブルでの、中域重視型ともいえる、ややカマボコ型のレスポンスが、フラット傾向の誇張感のない、ややワイドレンジ型になり、分解能が一段と向上した反応の早い音は、現時点でも立派だ。
 結論としては、完成度が高く、構成部品のバランスが優れているところが、このモデルの際立つ特徴で、使い込めば、現代でも第一級のクォリティが得られる見事な内容を備える。ただし、ウーファー前面のパンチングメタルの共鳴が少しきついのが、アキレス腱的存在である。しかし、取外したとしても、トータルバランスは劣化するから要注意。
 組み合わせたのは、音場感情報が多くなったアンプと重量級CDのペアだ。使いこなしの要点を整理し、順序を守ってトライすれば好ましい結果は比較的容易に得られよう。

オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「THE BIG SOUND」より

 オンキョーは、 もともと、スピーカー専門メーカーである。そのンキョーが今回発売した「グランセプター」は、同社の高級スピーカーシステム群「セプター・シリーズ」の旗艦として登場した。しかし、このシステムは元来商品として開発されたものではなく、研究所グループが実験的に試作を続けていたもので、それも、ごく少数の気狂い達が執念で取組んでいた仕事である。好きで好きでたまらない人間の情熱から生れるというのは、こういう製品の開発動機として理想的だと私は思う。ただ、情熱的な執念は、独断と偏見を生みがちであるから、商品としての普遍性に結びつけることが難しい。
 変換器として物理特性追求と具現化が、どこまでいっているかに再びメスを入れ、従来の理論的定説や、製造上の問題を洗い直し、今、なにが作れるか、に挑戦したオンキョーの研究開発グループの成果が、この「グランセプター」なのである。そして、その結果が音のよさとしてどう現われたか? このプロトタイプを約一年前に聴く機会を得た私は、条件さえ整えば、今までのスピーカーから聴くことのできないよさを、明瞭に感知し得るシステムであることを認識したのであった。
 限られた紙面で、そのすべてを説明することは不可能であるが、このシステムの最も大きな特徴と、その成果を述べることにする。
 オールホーンシステムである「グランセプター」は、ホーンスピーカーのよさであるトランジェントのよい音のリアリティ、ナチュラリティを聴かせるのに加え、従来のホーンシステムのもっていた、いわゆる〝ホーン臭い〟という癖を大きく改善している。それは、ホーン内の乱反射による時間差歪を徹底的に追求した結果として理解出来るのだが、それが実際、こんなに音の違いとして現われたというのは、新鮮な驚きであった。可聴周波数帯域内での時間特性の乱れは、スピーカーの音色に大きな影響を与えるものであることは知られていた。
 ここでいう時間特性というのは、周波数別に耳への到達時間がずれるかずれないかを意味するもので、ユニットから放射された音がホーンの開口から放射される前に、内部で起きる反射や回折によって時間的遅れを生むのを極力防ぐことに大きな努力が払われたのが、このシステムの一大特徴である。一般に、この時間が2〜3ミリセコンド以下なら人間の耳は感知しないといわてきた。
 そして、屋内での空間放射の現状を知ると、システムそのものの時間特性の僅かなずれは問題にならないと考えるのが常識であった。「グランセプター」では、ウーファーとトゥイーターのユニット間の時間特性をコントロールするという大ざっぱなことではなく、一つのドライバーが受け持つ帯域内での時間のずれまでを可能な限りコントロールしているのが注目すべきところである。前述のように、ダイレクトラジェーターと異なり、ホーンドライバーの場合、ホーン内の反射回折、ホーン鳴きなどはすべて時間特性の乱れとして見ることが出来るので、これを、ホーンのカーブと構造、その精密な加工技術、材質の吟味を、途方もない計算と試作の積重ねによって徹底的に微視的追求をおこなっている。これによって、あたかもヘッドフォンと耳との関係に近いところまで時間のずれをなくすべく努力が払われているのだ。この効果は、例えば、ピアノやヴァイオリンの単音の音色の忠実性にも現われるはずで、単音に含まれる複雑な周波数成分の伝送時間のずれがもたらす、音色の変化が少ない。ましてや、オーケストラのトゥッティのような広帯域成分の音色では、たしかに、大きな差が出る。耳と至近距離にあって時間ずれの起きないヘッドフォンの音色の自然感に通じるものなのである。
 オールホーンの2ウェイシステムで、能率が88dBというのは、異常なほどといってよい低能率ぶりである。ウーファーのホーンロードのかかりにくい帯域に合わせてそのf特とトゥイーターのレベルを抑え込んだ結果である。ウーファーはデルタオレフィン強化のリングラジェーターをもつ強力なドライバーで、波のコーン型ウーファーではない。振動板実効口径は23cm。これが800Hzまでを受け持つ。トゥイーターは65φの窒化チタンのグラデーション処理──つまり、断層的に窒化の施されたチタン材である。いい変えればセラミックと金属のボカシ材だ──を施したダイアフラムを採用。剛性とロスのバランスを求めた結果だろう。
 指向性は、水平方向に30度、垂直方向に15度と比較的狭角である。これも放射後の位相差を招かないためであり、従って、リスニングエリアはワンポイントである。厳密なのだ。無指向志向や反射音志向とは全く異なるコンセプト、つまり、技術思想が明確である。反面、左右へリスニングポジションを動かした時の定位は比較的安定している。
 使用にあたっては、かなり厳格に条件を整えなければならない。決してイージーに使えるようなシステムではない。それだけに条件が整った時の「グランセプター」は得難い高品位の音を聴かせるのである。
 とにかく、この徹底した作り手側のマニアックな努力と精神は、それに匹敵した情熱をもつオーディオファイルに使われることを必要とし、また、そうした人とのコミュニケイションを可能にする次元の製品である。そして過去の実績を新たなる視点で洗い直して、歩を進めるという真の〝温故知新〟の技術者魂に感銘を受けた。

ユニットの美学──ヤマハNS1000M以降、現代日本スピーカーの座標を聴く

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
特集・「クォリティオーディオの新世代を築くニューウェイヴスピーカー」より

 現在の日本のオーディオ産業の実力は、もはや、その質、量ともに、世界の頂点に位置づけされるまでに到達している。
 しかし、その実力を発揮出来るのはエレクトロニクス技術にもとづくアンプ、チューナー、カセットデッキ、そしてCDプレーヤー、PCMプロセッサーの分野であるとする見解もある。トランスデューサー関係のスピーカー、カートリッジ、マイクなどの分野では、いまだに欧米製品に一日の長があるとするその見解は、根強く残っているようすである。
 スピーカー関係に的を絞って考えれば、たしかに1970年代までは、欧米製品の優位性を認めることはできる。しかし、それ以後、海外メーカーの開発能力に一種の陰りが見受けられ、かつてのように際立った新製品の登場が稀になっていることに加えて、国内製品は、新素材の導入、新技術の開発を繰り返してその水準はここ数年のあいだに確実に向上し、世界のトップランクの位置を確保しようとしているようだ。
 欧米メーカーといっても、国内市場で名実ともに認められたブランドは、予想外に少ない。それらのメーカーの特徴は、かつてはとても国内製品に望めなかった、優れた基本設計と材料をベースに充分な物量を投入して開発した強力なスピーカーユニットにあったわけで、米国系のアルテック、JBLや、英国系のタンノイが典型的な例であることは、いうまでもない。
 この、いわば強力なスピーカーユニットをベースにしたシステムづくりの動向は、国内製品にも強い影響を与えたのは事実である。ここしばらくは、ユニット開発を最優先とした傾向が強かったことが、国内製品の最大の特徴であろう。
 ことに、振動板関係の新素材の導入と開発はますます激化し、ベリリュウム、ボロン、航空・宇宙開発の産物であるハニカムコアに各種のスキン材を組み合わせたタイプ、カーボングラファイト、発泡軽金属、カーボン繊維などと、新素材の導入は、いまや珍しいものではなく、感覚的には、常識化されているといっても過言ではあるまい。
 現在では、普及機クラスのシステムにおいても、平均的な傾向は、物量投入型である。強力なユニット、オーバーデコレーション気味のデザインが標準であり、この二点が国内製品の特徴を明確に示している。
 残された問題は、エンクロージュア関係のチューニング技術の確率や、ネットワーク系、磁気回路系の内部的、外部的な干渉や妨害の検討を含め、総合的にバランスの優れたシステム開発を行うことである。
 現在の国内スピーカーシステムの実力を聴くために選んだ機種は、価格的に10万円を少し超した価格帯の製品であり、形態的には、ブックシェルフ型のモデルである。
 簡単に考えると、現在市販されているスピーカーシステムのなかで、いわゆるシスコン用としてメーカー独自のトータルシステムにも組み込まれるタイプを除いて、単体のコンポーネントと思われるランクの製品は、5万円前後の製品以上としてよいであろう。
 この、5万円をボーダーラインとする考え方は、スピーカーの分野に限らず、プリメインアンプやカセットデッキなどでも、従来から慣例的に行われてきたことである。いわゆる、〝売れ筋〟という表現でいえばスピーカーシステムにおいても従来から最大の需要をまかなってきた価格帯の製品だ。
 さらに細かく分類すれば、5万円前後とはいっても、5万円未満の25~28cm級ウーファー採用の3ウェイ構成の製品と、5万円以上の30~33cm級ウーファー採用の3ウェイシステムに区別されるが、ここでは、後者の価格帯の製品についてその内容を眺めてみよう。
 いわゆる標準的なブックシェルフシステムという見方をすれば、30cm級以上のウーファーを採用しているだけに、エンクロージュアの外形寸法は、このクラスですでに標準サイズ的な大きさになり、ユニット構成が3ウェイ方式であるかぎり、10万円以上のクラスの製品にいたるまで、この外形寸法にさして変化はない。これが、ブックシェルフ型システムの国内製品に見られる特徴である。
 一方、デザイン面から見ても、いわゆる売れ筋の価格帯の製品であるだけに外観は重視され、基本的に音質、性能と関係のない装飾用のオーナメント類にかなりの予算が投入されている。これは、むしろ10万円以上のクラスの製品よりも華美をきわめているといってよいだろう。
 このデザイン面と共通したこととして、国内のブックシェルフ型システムは、その初期から、取外し可能なサランネットが標準装備であり、この部分についても10万円以上の製品と変わらない必須条件とされているようだ。
 6万円前後のブックシェルフ型システムは以上の2点のような、より高価格なシステムと共通の要求条件を満たしながらも価格を守り、しかも年々その内容は次第に高まってはいる。しかし、エレクトロニクス関係が計算機付クォーツ時計の例のように急速に価格低減が可能な特徴をもつことに比較して、基本的にメカニズムであり、単純な構造をもつだけに、スピーカーの合理化による価格の低減は非常に至難の技である。すでに現状で、価格を維持すれば、その内容的な向上は飽和領域に入っている思われる。
 短絡的な表現をすれば、2000ccの排気量の自動車に、より排気量の少ない平均的な効率のエンジンを搭載した車種、といった比喩ができるのが、このクラスのブックシェルフ型システムといえる。
一方、10万円後半から20万円クラスのブックシェルフ型システムを見れば、外形寸法的にもかなりの自由度があり、ユニット構成も、3ウェイ方式、4ウェイ方式と共通性は少ない。したがって、平均的に、国内製品のスピーカーシステムの実力を試す目的には、やや外れた印象がある。やはりこのランクは、ブックシェルフ型システムのスペシャリティクラスと考えるべきで、それだけに、いわゆるオーソドックスな使いこなしのノウハウがなければ、簡単にはその高い物理的性能を音として還元しきるものではないと考える。
 現状では、10万円前半の価格帯のブックシェルフ型システムが、コンポーネント用としては、標準的な性能と内容を備えた製品である。
 この価格帯のブックシェルフ型として定着したのは、ヤマハのNS1000Mが、その最初の製品であり、現在に至るまで、稀に見る超ロングセラーを誇っているモデルである。
 標準的な仕上げと前面にサランネットを備えた、家具としても見事な仕上げをもつNS1000の、米国流にいえばモニター仕上げタイプとして開発されたNS1000Mは、当時としては、非常に個性的なブラック仕上げのアクセントの強いデザインで登場した。いわゆるエキゾチックマテリアルとして注目を浴び、当時としては驚異的なベリリュウム振動板を採用して、高域ドーム型ユニットは鮮烈なシャープネスを得、ブックシェルフ型の当時のイメージとは一線を画したダイナミックな低音により検聴用モニター的な受取りかたがされた。そして、急速にファンを獲得して不動の地盤を形成し、現在に至っている。
 この間、各社からそれぞれ強力な内容を備えた、価格的にも15万円クラスまでの挑戦者が送り込まれたが、NS1000Mを倒すまでにはいたらず、姿を消していった製品の数も多い。
 しかし、昨年来より再び、価格的にもNS1000Mに焦点を合わせた新製品が登場しはじめ、この価格帯の状況は、にわかに興味深いものになりだしたようだ。
 私見ではあるが、NS1000Mが超ロングセラーを誇る理由をここで考えてみたい。発売時期の1975年でさえ、現在の物価感覚と比較して、当時としては非常に高価な145000円のNS1000と同じユニットを採用したモデルであっただけに、108000円というその価格は、もともと価格対満足度の優れた製品であったことが最大のポイントである。つまり、強力なユニットをベースとして開発された特徴は、JBLやアルテックなどの製品のもつ優位性と共通であり、物価上昇を加味すれば、それ以後に登場する挑戦モデルは、開発が新しいほど不利になる。
 もちろん、価格を維持する目的と性能を向上する目的からNS1000Mもモディファイはされている。しかし、ウーファーと同等の強力な磁気回路とボイスコイル直径65mmのベリリュウムダイアフラムを採用したスコーカーは、エージングが進むにつれてウーファーとのつながりの部分が豊かになり、低域から中域の厚みが充分にあることがわかる。これは、NS1000Mの特徴で、比較的に使いやすく、音に安定感があり、ピアノの音の魅力ある再生に代表される好ましいキャラクターが、他のシステムにない強みとなっているようだ。
 例えば、スピーカーのセッティングに少しの問題を残したとしても、このスコーカーの威力は非常に大きく、場合によっては、3ウェイ方式ながらもスコーカーだけですべてのバランスをとっているといってもよい鳴りかたをするように思う。
 一方において、プログラムソース側の質的な向上や、ドライブをするアンプ側の確実な進歩も、現時点でいえば、物量投入型のシステムの力を引出す、背景にもなっていると感じる。
 結果としては、強力なスコーカーの存在がNS1000Mの鍵を握ってはいるが、このシステムは、いわゆるユニット最優先型の国内製品とは異なった部分がある。
 それは、次の各点である。第一に、完全密閉型のエンクロージュアは、一般型とは構造が異なり、かつてのタンノイ社のレクタンギュラーヨークに代表される欧州系の手法と思われる、エンクロージュア内部に中央を抜いた隔壁をもつ特異なタイプであること。第二に、吸音材処理方法に独自の手法が見受けられること。第三に、モニター仕上げであり、サランネットがないために、試聴時にはネットを外し、実際にはネットを取付けて聴くという、特性的にも音質的にも問題を残す国内製品独特の特異性が基本的に存在しないこと、などである。また、システムを構成する各パートのバランスが、当時としては異例に高かったことが、潜在的な特徴であると思う。
 このNS1000Mを中心に比較するシステムは、昨年来より急激に物量投入型の開発をはじめたパイオニアS9500を筆頭に、特許問題で最適な材料が使いにくいポリプロピレン系の振動取を脱皮してカーボンクロスコーンを新採用したオンキョー/モニター2000、独自の優れたハニカム構造の平板型ユニットを推進するテクニクスSB-M3、ユニット構造の基本から洗いなおした小型高密度タイプのダイヤトーンDS1000の4機種を加えた5機種で、現在の国内スピーカーの実力を聴いてみようということになった。
 結論からいえば、このクラスの製品を選んでおけば、あとは使いこなし次第でかなり高度な要求にも応えられるであろうし、今後、長期間にわたり、安心して楽しむことができるとすれば、価格も高くはない。
 現在の各コンボーネントのなかで、もっとも基本性能が高度なものは、エレクトロニクス系のアンプであろう。例えば、歪率(THD)をとってみても、スピーカーシステムに比較すれば、2桁は異なるはずだ。
 しかし、その優れた特性のアンプも、特性の劣るスピーカーで聴かなければ音質は判からない。これは、かのオルソン氏の、現在でも通用する名言である。
 最近の傾向として非常に困ったことは、スピーカーというのは、買ってきて、例えば、コンクリートブロックの上に乗せて結線をすれば、それで正しく鳴るものだ、とする風潮である。
 かつては、スピーカーシステムを使いこなすことに悪戦苦闘をすることは常識でさえあり、故瀬川冬樹氏のように、異常とも思える情熱をスピーカーの使いこなしに注いだ人もいたが、最近では雑誌も興味がないらしく、表面的な、床に近く置けば低音再生に有利になり、壁に近く置いても同様とする程度の認識で、セッティングに関してのかつての常識は、もはや皆無といってさえよいようだ。いまどきオーディオに携わる人々が、スピーカーシステムの置き台の差や、わずかのセッティングのちがいで音が大幅に変化することに驚いていたりすること自体が、大変に奇妙な話である。そればかりでなく、左右のスピーカーの置き台が異なっていても平気で製品の試聴をおこなう例などはもはや論外ともいうべきである。また、メーカーがセッティングした試聴の場合でも、左右のスピーカーコードの長さが異なっている例や、場合によっては、長いコードがコイルのように巻かれたままになっていることに驚かされるのは、いつものことなのである。
 この、使いこなしの不在。つまり、シスコンのように、買ってきて配達の人にセッティングをして賓ったらそれで終り、とする風潮がオーディオを面白くないものとし、オーディオビジネスを不況に導いた最大の理由なのである。
「コンポーネントシステム」というからには、各製品を選択し、基本に忠実にセッティングをしたときが終着駅なのではなく、その時点が実は出発点であるはずである。
 スピーカーシステムを新しく購入したとしよう。このときに要求されるのは、スピーカーのセッティングではなく、まず、従来から使用してきたシステムの総占検なのである。ここでは、細部にわたり書くだけの紙数がないために、基本的な部分のみ簡単に記しておく。
■AC電源関係
①プリメインアンプなどのアンプ類は、壁のコンセントから直接給電する。セパレート型は、プリアンプ、パワーアンプを、それぞれ壁コンセントから単独に給電する。不可能な場合は、大容量のコードを使ったテーブルタップを使う。
②アナログプレーヤーも①に準ずるが、プリアンプのACアウトレット使用時は、アン・スイッチドから給電する。
③デジタル系のCDプレーヤーは、アンプ系と異なる壁コンセントから給電する。
④AC電源の極性は、対アース電位の低い方を基準とする。メーカー側で極性表示をしてある場合でも、マーク側がホットか、グランドかは、メーカーによっても異なるし、場合によれば、同一メーカーでも、アンプとアナログプレーヤーで異なる例もあり、実測が基本である。
⑤アナログプレーヤー使用時は、CDプレーヤー、FMチューナー、TV、VTRなどの電源スイッチはOFFにする。
⑥アナログプレーヤーの近くに照明用に螢光灯は使ってはいけない。
■結線関係
①RCAピンコードは、よく吟味をし、最適なものを選択するとともに、プラグの先端-分、アンプなどのジャック部分をクリーニングする。
②スピーカーコードは、左右同じ長さを使用し、スピーカーに給電する経路、位置などを左右対称にするとともに、最短距離にカットして使う。また、端末処理は芯線を切らないように注意し、ターミナルは確実に締めること。
 線材は、平行2線タイプの充分に容量のある線を基本とし、チューニングアップ時には、同軸型、スタッカード型などの構造的な違いや、OFC、LC-OFCなどを状況に応じて試用する。
■セッティング関係(スピーカー以外)
①アナログプレ-ヤーの設置場所は、充分に剛性があり、固有の共鳴や共振がない場所を選び、ハウリングマージンに注意する。カートリッジの針圧は、MC型、MM型を問わず、最適針圧を中心に0・1gステップで軽・重両側に調整する。
②アンプ関係は、積み重ねず、アナログプレーヤーに準じた状況に置くこと。
③CDプレーヤーの置き場所は軽視されがちだが、アナログプレーヤー以上に置き場所の影響を受けるため、設置場所は、充分に注意をし、誤ってもプリアンプなどの上に乗せて使用しないこと。
 概略して以上の諸点は必ずチェックをしていただきたい最少限のことである。
■スピーカーのセッティング
①左右の条件を可能なかぎり同等にする。
②置き台に乗せるときには、グラつきを抑えないと低音の再生能力は激減する。
③置き台にグラつきや、ガタがある場合には床と置き台の間に適当なスペーサーを入れスピーカーと置台の間には入れないこと。
④一般的なコンクリートブロックを使う場合を例にする。簡単にするために、横方向に一段だけ使うとすれば、左右ブロックの間隔は、スピーカーの底板がブロックに半分かかる位置が基準。前後方向の位置も、底板に対してブロックの前後が等しくなる。つまり、ブロックの中央に置く位置が基準。
 左右の間隔は、システムの低域のダンピングに関係し、広くすれば、明るく、開放的な傾向を示し、低域の量感も増す。狭くすれば、制動気味になり、タイトな低域になるが、量的には減る傾向を示す。
 順序は左右間隔の調整を先行させる。
 最適間隔を決定後、前後方向の位置決めをする。変化量は、ウーファー帯域のレスポンスが変化した印象となり、前に動かすと、低域の下側の量感が増し、ややモニター的な音となる。後に動かすと、低域の上から中低域の量感が増し、伸びやかな音になる傾向がある。左右、前後とも極端に動かし、傾向をつかんでから、少なくとも、2~3cmきざみで追い込む。
⑤ブロックとスピーカー底板の間には、フェルトなどのクッション兼ダンピング材を入れ、ブロックの固有共鳴を抑える。ブロックのカサカサした響きが中域以上に悪影響を与えるからである。
⑥ブロックと床面、それにスピーカー底板で形成する空洞の反射、共鳴を避けるため、吸音材的なものを軽く充たす。これは、中域以上の分解能、SN比を飛躍的に向上させる決め手として重要な処理だ。
■ユニットの増し締め
 概略のセッティング終了後、高域・中域・裏板部分のスピーカー端子取付ネジ・低域の順序でステップ・バイ・ステップ、結果を確認しながら適度の増し締めをす
る。概略的には1/8~1/16回転ほどの余裕を残して増締めをすること。とくに木ネジの場合は、「適度な増し締め」を絶対に厳守されたい。ネジ構造は、ゆるめて取外してみれば明瞭だ。無理な増締めは故意の破壊であり、クレームの対象とはならないことを、くれぐれも注意していただきたい。

ダイナベクター KARAT 17D2

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤモンドのカンチレバーといえば、オーディオファンなら、ぜひとも一度は使ってみたいと憧れる思いにかられるであろう。従来は、高価な宝石としても最高にランクされる材料であり、その硬度もビッカース硬度10という最高の値をもつために、ダイヤモンドを研磨する方法はダイヤモンドで磨くほかはない加工上の制約があり、とても手軽に購入できる価格帯の製品に採用されることはありえないことであったわけだ。
 この夢のカンチレバー材料ともいうべきダイヤモンドカンチレバーを採用したMC型カートリッジが、世界で最初にダイヤモンドカンチレバー採用のMC型カートリッジを開発したダイナベクターから、驚異的な低価格の製品として発売された。
 新製品KARAT17D2は、八一年12月に発売されたKARAT17Dに採用された、全長1・7mmの角柱状ダイヤモンドカンチレバーを、同じサイズの直径0・25mmの円柱状のムクのダイヤモンドカンチレバーに形状変更をし、針先に70μ角の微細なダイヤモンド柱から研磨したダ円針を装着したモデルである。
 スペック上では、再生帯域とチャンネルセバレーションに、わずかの差があるが、相互の発表時期の隔りから考えて、カンチレバー以外は同じと推測され、特徴的な銀メッキコーティングによりコントロールされた振動系支持ワイヤー、ダンピング動作をさせない支持機構、波束分散理論に基づいた、異例ともいうべき全長わずかに1・7mmの短かいカンチレバーなどは、KARAT17Dを受継ぐものだ。
 それにしても、驚異約なことは、価格であり、68、000円から一挙に38、000円に下げられたことは、エポックメイキングなできごとであろう。
 試聴には、このところ、ステレオサウンドで、リファレンスとして使用されているトーレンスのリファレンスシステムとSME3012Rゴールドを使った。
 最初は、アンプのMCダイレクト入力で使う。ナチュラルに伸びた帯域バランスと音の芯がクッキリとした腰の強い、彫りの深い音が印象的である。音色は程よく明るく、厚みのあるサウンドは、とかく、繊細で、ワイドレンジ型の音となり、味わいの薄い傾向を示しやすい現代型のMCの弱点がなく、リッチな音が特徴である。
 次に、低い昇圧比のトランスを組み合せる。聴感上での帯域感は少し狭くなるが、エネルギー感は一段と高まり、いかにも、アナログならではの魅力の世界が展開される。針圧は少なくとも0・1gステップで追込む必要があるが、最適値に追込んだときの低域から高域にかけてのソノリティの豊かさには、ダイヤモンドカンチレバーで実績のあるメーカーならではのものだ。

デンオン PMA-960

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのプリメインアンプの新製品として昨年暮に市場に出たPMA960は、プリメインアンプとしては10万円を超える価格からして、明らかに高級製品といえるものだろう。たしかに、内容の充実は目を見張るものがあり、物量面と、ハイテクノロジーがふんだんに盛り込まれた力作であることが解る。しかし、残念ながら、そのデザインやフィニッシュに、新鮮味が欠けるため、うっかりすると、旧製品として見過してしまうような雰囲気のアンプである。反面、オーソドックスで、おとなしい外観のもつ地味な容姿は嫌味のなさともいえるかもしれないが……。のっけからこんな苦情をいいたくなったのも、このアンプの技術的な斬新性と、その音のもつ大人の風格に大きな魅力を感じさせられたからであって、そこそこの仕上りではある。
 このアンプの技術的特徴は、同社のデュアル・スーパー無帰還回路と称する伝送増幅方式と、それをバックアップする余裕のある電源部であろう。ピュアー・ダイナミック・パワーアンプという名称とは印象の異なる、おだやかで、ウォームな音のするアンプだが、優れた特性のアンプというものは、決して形容詞的に使われるダイナミズムやパンチが表に出てくるものではないようだ。このアンプのように、別にどうということのない、自然な鳴り方にこそ、アンプの特性の優秀な点が見出されるように感じられるのである。このアンプのメーカー資料に書かれている一言一句は、すべて力と迫力を感じさせるものであるのが不思議な気がする。もっとも、これは、このアンプだけではなく、アンプというものが、スピーカーをドライブするパワーの役割を担うところから、こういうアピールをするメーカーがほとんどだが……。
 6Ω負何で170W+170Wというパワーは、プリメインアンプとしては大出力アンプといってよいが、試聴感としては、むしろ、ローレベルのリニアリティ、つまり、小出力時のSN比のよさ、繊細な響き分けといった面に印象が強く、魅力が感じられた。大型スピーカー(JBL4344)を手玉にとって、これ見よがしの迫力を聴かせるような荒々しさや雄々しさといった面はこのアンプの得意とするところではなさそうだ。初めに、大人の風格と書いたのはこの辺のニュアンスである。しかし、どちらかというと、ややナローレンジの感じさえする柔らかい質感が捨て難い魅力のアンプであって、音が大きくても、うるささは感じられないといった自然な音の質感に近い鳴り方をする。色に例えればオレンジ系の暖色である。とげとげしく、冷徹なメカトロニクスのフィーリングが氾濫する中で、こういう雰囲気のアンプは貴重な存在といえるだろう。欲をいえば、低域の実在感、深々とした奥深い響きが望まれる。

サンスイ XL-900C

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ブックシェルフ型スピーカーを価格帯別に眺めると、6〜10万円の範囲に製品数が少なく、いわば空白の価格帯が存在していることが、他のアンプやカセットデッキと異なる奇妙な特徴ということができる。
 この価格帯に、今回サンスイから、意欲的な新製品が発売されることになった。
 ユニット構成は、従来のSP−V100で採用された、ポリプロピレン系合成樹脂にマイカを混ぜた、バイクリスタル型に替わり、発泡高分子材の表面をカーボンファイパークロス、裏面をグラスファイパークロスでサンドイッチ構造としたTCFFと名付けた新素材を採用した32cmウーファー、アルミベースにセラミックを溶射したHSセラミック材採用の5cmドーム型ミッドレンジと振動板ボイスコイル一体構造型25mm口径の熱処理スーパーチタン採用ドーム型トゥイーターの3ウェイ構成。
 エンクロージュアは、この価格帯では初の回折効果を避けたラウンドバッフルを採用したバスレフ型であることに注目したい。また、実用的というよりは、現状ではアクセサリー的な意味しかもたない中域と高域のレベルコントロールを省略し、信号系に音質劣化の原因となるスイッチが存在しない点は高く評価すべき特徴である。
 試聴室でのセッティングは、平均的なコンクリートブロックやビクターのLS1のようなガッチリとした木製スタンドでも比較的に容易に鳴らすことができるが、適度に力強く音の輪郭をクッキリと聴かせる傾向がある本機では、木製スタンドの響きの美しさを積極的に活かして使いたい。
 LS1をシステムの底板をX字状に支える方法でセッティングを決める。聴感上での帯域バランスは、広帯域指向型ではなく、ローエンドとハイエンドを少し抑えて受持帯域内のエネルギー感を重視したタイプだ。
 音色は明るく、全体に線は少し太いが、彫りの深い表現力が特徴。芯が強く力強い低域は、独特の表情があり、エレキ楽器のドスッと決まる感じをリアルに聴かせる。中域は輝かしく、低域とのつながりは少し薄いタイプだが、高域とのクロスは充分につながり、この部分の鮮やかさと、独特の低域がXL900Cの音を前に押し出す。モニターライクなサウンドの特徴を形成しているようだ。
 音場感と音像定位では、優位にあるラウンドバッフルの効果は、シャープな音像定位に活きているようである。
 明快でアクティブに音楽を聴かせるキャラクターはたいへんに楽しいものだが、アナログ系のディスク再生では、スクラッチノイズに敏感であるため、高域の滑らかなカートリッジの選択が条件であり、それも細かく針圧を調整して追込むと、本機の特徴が積極的に活かされるだろう。個性派のたいへんに興味深い新製品の誕生である。

デンオン DCD-1800

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 一昨年、脚光を浴びて新登場したCDプレーヤーも、大勢としては、ローコスト化の方向に向いながらも、すでに、第二、第三の世代に発展しているが、今回、デンオンから、第二弾製品として、同社独自の開発によるDCD1800が発売された。
 価格的にも、標準と思われるクラスの製品で、デザイン的にも、左右にウッドパネルを配した、同社の高級モデルに採用されるポリシーを受継いだ落着いた雰囲気を備えており、機能面でも、ダイレクト選曲、プログラム選曲、インデックス選曲、イントロサーチ、スキップモニター、2点間リピートを含むリピート、タイマー再生など、リモコン機能を除き、フル装備というに相応しい充実ぶりである。
 ブラックにブルーの文字が鮮やかに輝やく集中ディスプレイは、トラック、インデックス、演奏経過時間とプログラムされた曲番と次の演奏曲番表示をはじめ、プレイ、ポーズ、リピートなどの各機能が3色に色分けされて表示される。
 本棟の注目すべき点は、レーザーピックアップ駆動に業務用仕様DN3000Fに採用された扇形トレースアームの外周をモーター駆動するリニアドライブトレーサー方式が導入され、トレースアーム軸とディスク用スピンドルの2軸が完全平行を保ちながら、厚手のダイキャストベースで支えられ、かつ、ダイキャストベースはシャーシからフローティングされ、外来の振動を防止して、高精度、耐久性、応答性の早さ、などを獲得している機構にある。それに加えて電気系の最重要部たるDAコンバーター個有の、アンプでいえばB級増幅のスイッチング歪に相当するゼロクロス歪を解消する新開発スーパーリニアコンバーターを採用し、特性上はもとより、聴感上での、いわゆるデジタルくさい音を抑え、飛躍的に音質を向上させたことがあげられる。
 聴感上では、本機は、ナチュラルな帯域バランスと細かく、滑らかに磨込まれた音の粒状性が特徴である。平均的にCDプレーヤーは、シャープで、音の輪郭をスッキリと聴かせる傾向が強いが、伸びやかさとか、しなやかさで不満を感じることが多い。DCD1800は、この部分での解決の糸口を感じさせてくれるのが好ましい。
 音像は比較的に小さくまとまり、音場感もスムーズに拡がり、水準以上の結果を示すが、もう少し改善できそうな印象がある。
 問題点の出力コードの影響は、比較的に少ないが、平均的なコントロールアンプ程度の影響は受けるため、細かい追込みには、各種のコードの用意が必要である。
 機能面は実用上充分であり、機能の動作、フィーリングも、ほぼ安定している。ただテスト機では、トレイのオープン時の反応が鈍かったが、個体差であろう。安定感が充分に感じられる手堅い新製品である。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 サンスイのアンプは、AUシリーズのプリメインアンプ群の充実したラインが確固たる基盤を築き、すでに8年にわたって基本モデルを磨き上げ、多くの技術的特色を盛り込みながらリファインにリファインを重ねるという、地道な歩みを続けている。初期のものと、8年後の現在のものとでは、中味は別物のアンプといってよいほど充実していながら、型番やデザインを変更せずに、また、音のポリシーも一貫したサンスイの感覚で練り上げるという地に足のついた姿勢は誰もが認めるところであろう。まさにオーディオ専門メーカーらしい自信と頑固さといってよく、また、それゆえに、今回の信頼と成果が得られたといってよい。当然、より上級のセパレートアンプの開発は技術者の念頭に常にあったにちがいないが、安易に商品として出さない周倒さも、このメーカーらしい用心深さというか、今か今かと待っていたこっちのほうが、じりじりさせられたほどである。
 82年暮に、パワーアンプB2301が発表され、続いて翌83年初頭に、その弟分ともいえるB2201が満を持して発売された事は記憶に新しい。このパワーアンプは、さすがに実力のある内容で、その分厚く、どっしりとした音の質感は、豊かな量感を伴って、音楽の表現の暖かさと激しさを、そして、微妙な陰影に託した心のひだを、よく浮彫りにしてくれる優れたアンプである。内容の充実の割には、見た目の魅力と、品位に欠けるのが憎しまれるが、部屋での存在として必ずしも表に現われることのないパワーアンプの性格上、容認できるレベルではあった。しかし、その時点においても、このパワーと対になるコントロールアンプは遂に姿を見せることはなかったのである。
 C2301としてベールをぬいだのが、その待望のコントロールアンプであって、去年のオーディオフェアの同社のブースに参考出品として展示されていたのを記憶の方もあるかもしれない。本号の〆切に、その第一号機が間に合って、試聴する機会を得たのは幸いであった。
 C2301。パワーアンプのB2301と共通の型番を持つこのモデルは、どこからみてもサンスイの製品であることが一目瞭然のアイデンティティをもっているのが印象的で、パワーアンプで苦情をいったアピアランスは、コントロールアンプでは一次元上っている。どうしても、目立つ存在であり、直接操作をするコントロールアンプとして、しかも、かなりのハイグレイドな製品ならば、使い手の心情を裏切らないだけの雰囲気を持っているべきだ。
 細かい内容は余裕があれば書くことにして、まずこのコントロールアンプの音の印象を記すことにしよう。サンスイのアンプの音の特徴はここにも見事に生きている。それは音の感触が肉厚であること。弾力性のある暖かい質感だ。脂肪が適度にのっていて艶がある。それでいて決して鈍重ではない。低音はよく弾み、ずーんと下まで屈託なくのびている。中域から高域は、決してドライにならず、倍音領域はさわやかだが、かさつかない。ブラスの輝やきは豪華だが薄っぺらではないし、芯がしっかりと通る。弦の刺戟的な音は、やや抑えられ過ぎと思えるほど滑らかになる傾向をもつ。どちらかというと解脱には程遠い耽美的な情感に満ちている傾向のアンプである。音楽は宇宙だから、そこにはすべての世界を包含するが、このアンプで天上の音楽を奏でることは無理だろう。正直なところ、筆者のように俗物として、音楽に人の魅力や生命の息吹きを求め彷徨している快楽主義者にとっては、これでよい。いや、このほうがよい。色気がある音だから。しかし、あまりに強くこういうことをいいたくなるというのは、長く聴いているとやや食傷気味になるような個性なのかもしれない……などと思ってみたりしている。なにしろ、きわめて限られた時間の試聴だから、完全に自信のある印象記は書けない。
 オーディオ的な表現をつけ加えるならばプレゼンスはたいへんよいし、定位感も立派なものだ。奥行きの再現、音場の空気感も豊かだし、見通しのよい透明度もまずまず。肉感的な音の質感だから、音像のエッジはそれほどシャープな印象ではない。シャープさを望むなら、他に適当なアンプもあるから、このほうが存在理由があると感じられる。紙数がなくなったが、このアンプも、最近のサンスイ・アンプの技術的特徴であるバランス回路方式をとっていて、出力はアンバランスとバランスの両方が得られる。
 コントロールアンプとしての機能はよく練られ、随所に細かい気配りとノウハウのみられる力作である。

デンオン PRA-2000Z, POA-3000Z

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのセパレート型アンプの新世代を意味する製品として、PRA2000とPOA3000が登場してすでに5年の歳月が経過している。今回、その安定した評価を一段と高めるために、最新のアンプ技術が投入され、新しく型番末尾にかつてのプリメインアンプPMA700Zで使われた、栄光のZの文字がついたPRA2000ZとPOA3000Zとして新登場することになった。
 デザイン的には、当然のことながら従来の製品イメージを受継いではいるが、操作性を向上するために細部の改良点は数多くある。たとえば、PRA2000Zでは、セレクタースイッチのパネル面の凹みへの移動、パネル下側の扉部分の開閉にロック機構が追加されたことなどだ。
 PRA2000Zは、パワーアンプに先行して発売されたモデルである。前作が発売以来5年というロングラン製品であり、その間に、PCMプロセッサー、CDプレーヤーなどのデジタルプログラムソースが登場したこともあって、アンプとしての内容は完全に一新され、現時点での最新のコントロールアンプに相応しいものがある。
 基本構成は、アナログ系のフォイコライザーにCR型を採用するデンオン独自のタイプであることは前作と同様だが、今回はフォノ入力系が3系統独立したタイプに発展し、スーパーアナログ対応型としている点に特徴がある。イコライザーの構成は、入力部に約1対7の昇圧比をもつステップアンプトランスを備えたヘッドアンプ①、MC型力−トリッジをダイレクトに使用できるヘッドアンプ②とMM型に代表される高出力型力−トリッジ用のヘッドアンプ③の後に切替えスイッチがあり、これに続いてCR型RIAAイコライザー・ネットワークとフラットアンプが置かれる。
 イコライザー出力と、チューナー、DAD、AUXの3系統のハイレベル入力は、電子スイッチと高精度リレーによるソフトタッチ作動方式により切り替えられ、この部分にはプリセット機能をもち留守録音などに対応可能である。
 ファンクション切替え、テープモニター、サブソニックフィルター、バランス調整、ボリュウム調整に続き、フラットアンプ兼リアルタイムトーンコントロール部と出力のバッファーアンプが信号系の通路となる。
 フラットアンプは、最高級機PRA6000で開発された無帰還技術を発展させたハイスルーレイトなダイレクトディストーションサーボ回路による無帰還型で、トーン使用時には、ディストーションサーボ回路内組込みの素子を使うリアルタイムトーンコントロールとして動作する。なお、出力部のバッファーアンプも無帰還型ハイスピードの低出力インピーダンス型だ。
 また、電源部は、従来の2倍の容量をもつ90VA級の大型トロイダルトランス採用。AC電源コードは、デンオン伝統のPMA500以来採用されている大容量型の新開発コードで、これらの部分はコントロールアンプの死命を決定する要点である。
 POA3000ZはPRA2000Zより根本的に設計変更が行なわれていることは、定格出力が250W+250W(8Ω)とハイパワー化されていることからも明瞭である。従来のPOA3000は、純Aクラスベースの高能率型アンプを特徴としていたが、今回は、その後のデンオンアンプに採用された、一般的なBクラスベースのノンスイッチング型に変わったとともに、独自の無帰還技術が全面的に新採用され、飛躍的に高度な性能を引出している。
 無帰還方式でNF技術を使わず歪みを除去するために、静的歪み除去のためのデュアルスーパー無帰還回路、信号のフィードバック、時間遅れ、スピーカーの逆起電力の影響などを排除するパワー段の新開発無帰還回路などが駆使されている。
 電源部は、左右独立トータル5電源型で、電源トランスは大型トロイダルクイブ採用。大型のピークレベルメーターは、0dBが200W(8Ω)表示で、内部に異状温度上昇と左右チャンネルの動作状態をチェックする自己診断ディスプレイを備える。なお、機能面には、CDプレーヤーをダイレクトに接続できるDAD IN端子を備える。
 PRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて試聴をする。
 従来のペアが、柔らかく、滑らかで、美しい音を聴かせながらも、内側にかなり芯の強いキャラクターをもち、これが程よい音の芯を形成したり、ある場合には、音の傾向から予想するよりも、はるかに強く輝かしい個性を示したりする傾向をもち、柔らかく、穏やかだが、芯の強さのあるアンプという印象であった。それと比較すると、固有のキャラクターが大幅に弱められて、プログラムソースの内容に素直に対応し、柔らかくもシャープにも音を聴かせるナチュラルさが感じられる点と、音場感的なプレゼンスやディフィニッション、音像定位のナチュラルさなどが加わったことは大変に好ましい新製品らしい成果である。
 アナログディスクをプログラムソースとする場合、とくにMC型カートリッジには、PRA2000Zの独特の3系統のフォノ入力が、積極的に使いこなせるようだ。
 昇圧トランスをもつフォノ㈰は、トランスの昇圧比が低いため、あまり、カートリッジ側のインピーダンスの差に影響されず、トランス独特の程よく帯域コントロールされた密度の濃い、いわばアナログならではの豊かな音を聴かせてくれる。いわゆる低インピーダンス型MCや、軽針圧タイプの空芯高インピーダンス型MCで、広帯域型であるために、力強さや、音の厚みに欠ける場合などはこのフォノ①が好適であり、一般的な嗜好からはこのサウンドのほうが熱い支持をうけるにちがいない。
 ダイレクトにMC型が使用できるフォノ②は、①とは対照的に、広帯域でディフィニッションの優れた、現代型の軽量級空芯MC型の特徴を引出すに相応しい音である。CDを使うことが多くなると、このポジションで使う音が、アナログディスクでも標準となるであろうし、最新のアナログディスクの質的な内容を聴くためには、このクォリティがぜひとも必要になるであろう。フォノ③は、MC型なら外附けの昇圧トランスやヘッドアンプ用に使いたい。
 CDなどのハイレベル入力で音質が優れているのは、PRA2000Zの魅力だ。一般的に、ハイレベル入力からプリアンプ出力までのアンプで音の変化が大きいのが常だが、この部分の質的向上を望みたい。

フィデリティ・リサーチ FR-7fz

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 エフ・アールを代表する独創的な発電メカニズムをもつMC型カートリッジ、FR7は、七八年の発売以来、八〇年のFR7f、八一年の受註生産のスぺシャルモデルFR7fcとモディファイがおこなわれ、すでにシリーズ製品としては、長期間にわたるロングセラ㈵を続けている。
 今回、このFR7fに改良が加えられ、モデルナンバー末尾に、このタイプの発電方式による究極のモデルを意味するZの文字が付けられてFR7fzに発展し発売された。
 力−トリッジ、とりわけMC型では、その発電メカニズムそのものが結果としての音質を決定するキーポイントであるが、FR7系の発電方式は、3Ωという低インピーダンス型ながらも、コイル巻枠に鉄芯などの磁性材料を使わずに、空芯の純粋MC型として、驚異的な0・2mVの出力電圧を獲得している点に最大の特徴がある。
 では、どうして低インピーダンス型にこだわるのか。カートリッジを電圧×電流つまり電力で考える発電機として考えてみれば、出力電圧は、同じ0・2mVとしても、インピーダンスが、3Ωと30Ωでは、負荷に流せる電流の値は、簡単に考えて約10対1の差があると思ってよい。つまり、発電できる電力としては低インピーダンス型に圧倒的な優位性があるわけで、この発電効率の高さが、例えば高能率型スピーカー独特の余裕のある力強さや、豊かさに似た、音質上の魅力のもとと考えてよく、低インピーダンス型MCを絶対的に支持するファンは、この特徴に熱烈な愛着を持っているにほかならない。
 FR7fzの特徴は、コイルの線材に特殊製法の純銅線を採用し、コイル部分の再設計をおこない、負荷インピーダンスを3Ωから5Ωに変え、出力電圧を0・2mVから0・24mVと高めたことにある。
 試聴には、トーレンスのリファレンスとSME3012Rゴールドを使用した。ただ、シェル一体型で自重30gのFR7fzでは、この場合バランスはとれるが、最適アームであるかについては不満が残る条件である。なお、昇圧トランスは、XF1タイプLおよび他のものも用意した。
 FR7fが、押し出の効いた豊かな音をもってはいるが、やや、最新録音のディスクで不満を残した音の分解能やスピード感などが、新型になって、大幅に改善されるとともに、新しい魅力として、伸びやかで活き活きとした表現力の豊かさが加わった印象である。昇圧トランスを使わず、MCダイレクト入力でも使ってみたが、やはり真の発電効率の高さは、トランスで活かされることは、その音からも明瞭である。
 製品としての完成度は、非常に高いが、アナログ究極のMC型力−トリッジとしては、現在開発中と伝えられる、カンチレバーレスのダイレクトMC型に期待が持たれる思いである。

NEC A-11

井上卓也

ステレオサウンド 69号(1983年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 アンプのエネルギー源である電源回路は電圧増幅を行なうコントロールアンプはもとより、電力増幅を行なうパワーアンプでは、直接アンプそのものの死命を制する最重要な部分だ。従来からも大型パワートランスや大容量コンデンサーの採用をはじめ、テクニクスがかつて採用したパワー段を含めての定電圧化、ソニーやビクターのパルス電源方式、ヤマハのX電源など各種の試みが行われてきた。しかし最近では、模準的な商用電源を使う電源トランス、整流器、大容量電解コンデンサーを組み合わせたタイプに戻っているのが傾向である。
 NEC A10プリメインアンプで採用され、新電源方式として注目を集めたリザーブ電源方式は、標準的な電源方式をベースに独創的な発想によるサブ電源を加えて開発されたタイプだが、今回、発売されたA11とA7では、これをさらに発展させたリザーブII電源方式を採用している。その内容は、蓄電池に代表される純直流電源とAC整流型の一般的な電源の比較検討の結果から、電源コンデンサーへ充電する場合の両者の波形の差に注目して、主整流電源の充電波形の谷間を埋める副整流電源を加えることで、限りなく純直流電源に近づけ、充電電流による混変調歪を抑え、低インピーダンスで電流供給能力の優れた電源とするものである。
 結果として物量投入型の電源となるために、価格制約上で定格出力は他社比的に少なくなるが、負荷を変えたときのパワーリニアリティは、A11で8Ω負荷時70W+70W、4Ω負荷時140W+140Wと理想的な値を示しているのは、注目すべき成果である。
 A11の主な特徴は、各増幅農独立の5電源方式とリザーブII電源、全段独立シャントレギュレーター型定電圧電源、全段プッシュプル型増幅回路の採用などである。
 A11の音は、安定な低域をベースにクリアーで、ストレートな音を特長としたA10の魅力を受継ぎながらも、一段と余裕があり、しなやかな対応を示す表現力の豊かさが加わったことが印象的だ。いわば大人っぽくなったA10といえるわけだが、試聴機は機構面での仕上げに追込みの甘さがあり、聴感上での伸びやかさ力強さがやや抑えられ、スピード感が弱められているのが残念な印象であった。