パイオニア P-D90

井上卓也

ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 P−D90は、D70ベースの音質重視設計の新製品である。
 考えてみれば、大変に不思議なことであるかもしれない。CD開発当初より驚異的な特性を基盤として、超ハイファイをキャッチフレーズにしてスタートしたCDプレーヤーは、当然、音質最優先であるはずである。この、はずが実は問題なのだ。
 CDプレーヤーの基本性能は、f特でこそ、上限が20kHzとアナログに劣るが、SN比、ダイナミックレンジ、セバレーション、ワウ・フラッターなど、さすがにデジタル機器らしく、アナログディスクとは、比較にならぬ次元のデータを示している。この優れたデータが、結果としての音質や音場感情報量に活かすことができれば、超ハイファイになるはず、というのが、いわば希望的観測であるわけだ。
 音質的にも、CD発売以前は、一部ではデータが驚異的なだけに、CDプレーヤー間で、差が出ないのではないかとの話しもあったが、先行したEIAJ規格のPCMプロセッサーでの結果と同じく、機種間、メーカー間の音の差が、明確に存在しているのは衆知の事実である。
 CDプレーヤーで音質が変わる部分は、その構成部品すべてであるといっても過言ではない。一般的には、DAコンバーターからフィルター、それにアナログアンプに、そのもっとも大きな原因があるとされているが、それも現在の段階では、という但し書きをつけてのことである。
 P−D90の基本メカニズムは、D70を受継ぐ、独自の方式を採用した自社開発によるものだ。対物レンズをフォーカス方向と半径方向のトラッキングを独立させ、トレース能力を向上させたクロスパラレル支持方式、プリズム、コリメーターレンズ、対物レンズなどの光学系を一直線上に配置し対物レンズをはさんで2個の磁気回路と2個のコイルでダブル駆動とし駆動系の感度アップと高精度化を計ったフォーカスパラドライブ方式の2点がピックアップ系の特徴である。
 一方、ディスクまわりのメカニズムは、D70で採用されたタイプに手を加えたもので、メカニズムの機械的な検討がボイントであろうが、この部分も予想以上に大幅に音質を変化させるキーポイントである。
 これらの高精度化されたピックアップ系の採用にともないデジタル信号処理回路には、2チップからなる高性能LSIを採用、ディスクの反りや、ピットのばらつき、キズなどによる信号の欠落に対して、最大12フレームにおよぷドロップアウトを原信号に戻す強力な誤り訂正能力を実現している。
 DAコンバーター以後のアナログ回路は、パイオニアのオーディオ技術を駆使したもので、各オーディオアンプ基板上に専用の定電圧電源を置くとともに、オーディオ回路のオペアンプやアナログスイッチ類を全てシングルタイプとしたシングル駆動の採用、さらに電源ライン、アースラインとも、デジタル系とアナログ系を完全分離する処理がD70にないD90の特徴である。
 また、回路部品の高音質C・R、オリエントコア使用の電源トランスやOFCで絶縁体にも音質対策を施し、極性表示された音質が優れた電源コードなど、高級アンプと共通の部品選択が見受けられる。
 機能面は、D70と共通ではあるが、電源のON・OFF以外のすべてのコントロールができるワイヤレスリモコンが標準装備される。なお外装は、ブラックとシルバーの2モデルが選ペるのもD70と異なるD90の魅力である。
 試聴は、スピーカーにJBL4333、アンプは、デンオンPRA2000ZとPOA3000Zを組み合せて使う。
 CDプレーヤーでは、基本的な情報量が多いだけに、アンプと接続するRCAピンコードの種類でかなり大きく音質が左右され、簡単にこれがこのモデルの音といった結論は出しがたいものである。
 基本としては、付属コードもしくは、メーカー指定のコードで聴くことが原則と考えるが、意外にこのあたりは軽視されがちで、専用コードの指示を依頼しても、確答のないメーカーがある例や、雑誌の試聴室でも、比較的に良さそうなコードが適当に使われているのが実情である。
 この点、D90の付属RCAピンコードは、金メッキ処理されたプラグ付の無酸素銅線便用で、平均的な使用では、充分に安心して使える品質をもつだけに有難い。
 操作系は、テンキーをもたないが、シンプルで、実用上文句のない使い勝手である。CDディスクをトレイに入れ、ディスクが装着されるまでの機械音は、メカニズム系の状態の概略を知るうえで、かなりの手掛かりとなる。とかく、軽視されがちで、プラスティック成形品が使われやすいトレイ部分は、軽金属ダイキャスト製でスライド中のノイズも少なく、フィーリングも良い。なお、装着時のカタッとかパシャッとかいうメカノイズも水準以上で、メカニズムが適度に調整されていることが感知できる。あるレベル以上の製品で、この装着時のノイズが、パシャとかカチャッとかのように、機械系のガタや共鳴音が出る場合には音質面に悪影響を与えるため、要注意だ。
 置場所は、充分に堅く、共鳴や共振のない木製の台に置きたい。聴感上の帯域バランスは、適度に力があり豊かな低域をベースとしたナチュラルなタイプで、クォリティは高く、いわゆるデジタル的な軽々しさや、表面的な表現にならないのが好ましい。音場感の拡がりはナチュラルで、定位もクリアーで過不足はない。ノイズも質もよくさすがに、第3弾CDらしい好製品である。

Leave a Comment


NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください