井上卓也
ステレオサウンド 71号(1984年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より
パイオニアから、従来のA150に替わるモデルとして発売されたA150Dは、デザイン的には、オプションのサイドパネルを除き変更はないが、その内容面は、大幅な変更を受け、基本から完全に新設計された、意欲的な新製品である。
基本的な特徴は、電源トランスを含め左右独立したモノーラル構成のパワーアンプと、同じく、電源トランスを含む、小信号系の独立したイコライザーアンプという、3ブロックに分割した内部構成にある。
パワーアンプの左右チャンネルをモノーラル構成とするメリットは、左右の信号の相互干渉がなく、混変調歪、セバレーションが優れ、聴感上では、音場感的な空間情報量が豊かであり、音像定位がクリアーになる特徴がある。また、小信号系を分離すれば、変動が激しいパワーアンプの影響を受けず、音質向上が計れることば、セパレート型アンプのメリットにつながるものだ。
簡単に考えれば、プリメインアンプでセパレート型アンプに近似したメリットを実現させようという考え方で、一時は、この動向がプリメインアンプの主流を占めた時代があったが、最近では、主に価格的な制約が厳しいため、採用される例は少ない。
このタイプで問題になるのは、構造面の機構設計の技術である。プリメインアンプであるだけに、同じ筐体内に、分割したブロックを組込むためのスペース的な制約は厳しく、この部分の設計が、目的を達成するか否かにかかわる鍵を撮っている。
パワーアンプは、A150のノンスイッチング方式を発展させた、ノンスイッチング回路タイプIIと呼ばれるタイプで、従来型の100kHzまでのノンスイッチング動作から、100kHz以上までと動作領域を広帯域化している。また、B級増幅のアイドリング電流のドリフトに起因するサーマル歪や出力段で発生する非直線歪に対して、新しくアイドリング電流を電源スイッチ投入直後や大きな信号が入った直後にも、瞬時に安定化する特殊回路が開発され、出力段の歪みは従来の1/10となっているという。
経験的に150W+150Wクラス以上のパワーアンプでは、一般的な試聴のように、数分間程度信号を加えて音を聴き、数分間、音を止め、再び音を出す、という間欠的な動作をさせると、音を出した最初の10〜20秒位の間は、音が精彩を欠いており、これが次第に立上がって本来の音になることを常々体験し、温度上昇との因果関係をもつことを突きとめてはいるが、アイドリング電源の安定度との相関関係も非常に興味深いものがある。
このところ、スピーカーのインピーダンスは、従来の8Ωから6Ωに主流は移行する傾向を示していることの影響をも含めて、パワーアンプの低負荷ドライブ能力が、再び、各メーカーで検討されているようだ。
A150Dも、低負荷ドライブ能力の向上は、設計上での大きなテーマであり、パルシプな入力がスピーカーに加わった立上がり時に、見かけ上のインピーダンスが、サインウェーブで測った公称インピーダンスより低くなる動的インピーダンスに対しての駆動能力を確保する必要性を重視した結果、パワーアンプは、電流供給能力を増強した設計で、4Ω負荷時190W+190W、2Ω負荷時で270W+270Wが得られると発表されている。
機能面は、トーンコントロール回路や、モード切替えスイッチをパスさせて、信号系路をシンプルにするラインストレートスイッチ、多様化するプログラムソースに対応するための、5系統の入力切替えスイッチと2系統のテープ切替えスイッチを備えている。なお、MC型カートリッジは、A150同様に、昇圧トランスを使い、3Ωと40Ωが切替え使用できるタイプである。
リアパネルのスピーカー端子は、太いスピーカーケーブルの使用に対応するため、ターミナルのコード接続部の開口は、3×5φmmと大きく、構造的には、2枚の金属板を庄着するタイプが採用されている。
試聴は、JBL4344、ソニーCDP701ES、バイオニアP3a十オルトフォンMC20IIを使う。
外観的には、オプションのウッドボードをボンネットの両側に取付けると、かなり大人っぽい落着いた雰囲気になる。各コントロールは、適度に明解さの感じられる節度感のある感触があるが、大型のボリュウムのツマミは、A150と格差を感じる金属削り出しに格上げされ、そのフィーリングは高級磯らしい好ましいものだ。
また、機構面も目立たないところだが、A150と比較すれば確実にコントロールされており、ボンネットや内部の機械的な共振や共鳴が抑えられ、手でたたいてみても、雑共振が尾を引いて響くことはない。
音質面でのA150Dの最大の特徴は、従来の、豊かで柔らかい低音から脱皮した、余裕のある力強い安定した低音への変化である。この新鮮な感覚の低域をベースとして、密度感があり、気持よく抜けた中域とナチュラルな高域が巧みにバランスを保ちスムーズに伸びた帯域バランスを聴かせる。基本的なクォリティは、充分に高く、A150に対する価格の上昇を償って充分以上の内容の向上である。
音色は、ほぼ、ニュートラルであり、アンプの本質がもっとも現われる、音場感の空間情報量や音像定位のクリアーさでも従来とは一線を画したパフォーマンスだ。
オプションのサイドパネルを取付けると、制動効果で音は少し抑えられるが、クォリティ的には少し向上する傾向が聴き取れる。総合的に、電気系、機械系のバランスが大変に優れた、注目すべき新製品である。
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