Category Archives: 井上卓也 - Page 29

BOSE 901 SeriesIV

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 コンサートホールのプレゼンスをリスニングルームに運び込む目的で、背面に8個、正面に1個の小口径フルレンジユニットを配置した特殊構造のエンクロージュア方式と、専用イコライザーを使う、901の最新モデル。充分な間接音成分とシャープな直接音のエネルギーバランスは絶妙で、ソリッドでパワフルな低域は外形からは驚異的でさえある。必要に応じて2段、4段と積重ねるのも効果的で、ひと味ちがった使用法だ。

ヤマハ NS-690III

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ヤマハ最初の本格的3ウェイ・ブックシェルフ型として一躍脚光を浴びた、ソフトドーム型ユニット採用の完全密閉型NS690の、2度目のフレッシュアップモデルだ。ピアノ響板材料をパルプに使った新ウーファー、再設計を加えられたソフトドーム型ユニットの構成は、カラレイションがなくスムーズなレスポンスをもち、しっとりと滑らかでプレゼンスが優れる。現代の高性能アンプで駆動するソフトドーム型は新鮮な魅力だ。

BOSE 301 Music Monitor

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 小口径フルレンジ型ユニットを複数個使ってシステムアップするボーズの特殊技術の成果は、小型ポータブルPA用スピーカー802の凄くパワフルなサウンドに代表されるが、301はミュージックモニターと名付けられたように小型モニターを目標として開発された製品。聴取位置正確な音像定位をコントロールするフォーカシング機構はユニークで効果は抜群だ。ガッツがあり、パワーハンドリングの優れた音は、さすがにモニター。

ヤマハ PX-3

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 ヤマハでは理論的に一般のオフセットアームに比べて性能が高いリニアトラッキングトーンアームに早くから着目し、いち早く超高級プレーヤーシステムにこのタイプのトーンアームを採用したPX1を開発。続いてリニアトラッキングシステムを合理化した第2弾製品PX2を市場に投入しているが、今回、このシリーズの第3弾製品としてPX3を新発売した。
 リニアトラッキング方式で最重要のシステム構造は、基本的にはPX2系のもので、アームベース内に非接触・光学式トラッキングエラーセンサーがあり、DCコアレスサーボモーターが不平衡電圧によりアームベースを駆動する。サーボ回路には±0・5mmの不感帯があり、レコードの偏芯が0・5mm(JISで0・2mm以下)ならレコード内周方向にのみアームは移動する。結果的に、これにより針先偏位は±0・5mm、アーム角度±0・15度以下で動作をし、歪発生を最小に抑えている。
 無共振構造ストレートアームは、材料の吟味、加工精度を始めフィンガーフックもない左右完全対称型設計、アーム基部の二重構造などで実効質量17gに設定されている。この値は、市販MM型20種、MC型10種の重量とコンプライアンスを測定した結果からf0 12Hzを目標に決定。レコードのソリ(1・1Hzが基本成分)、偏芯(0・55Hzが基本成分)の超低域成分と音楽信号成分が約12Hzを分岐点として高低に分かれている測定結果からの値である。
 ターンテーブルは重量1・6kgアルミダイキャスト製。モーターはDC4相8極コアレスホール型で、全周積分FG付のクォーツ制御方式である。キャビネットは高比重BMC製。1・1kgダストカバー付で、ゴム・スプリング複合型インシュレーターが附属する。
 機能は、電子制御フルオートマニュアル盤径選択後、PLAYで動作する方式だ。
 PX3は、豊かで柔らかい低域から中低域をベースとした安定感のあるナチュラルな帯域バランスをもつ。音色は適度に明るく、音の伸びやかさもある。試みに手もとにあったスタビライザーを乗せると、中低域が緻密になり全体に音が引き締って鮮度感が上がる。リニア方式独特の音場感の自然な拡がりと定位のシャープさは現時点でも新鮮な魅力。バランスの優れたシステムだ。

13万円〜30万円未満の価格帯の特徴(カセットデッキ)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 15万円以上の価格ともなると、当然のことながら製品の機能・性能は非常に高くなるものの、ディスクとは異なり、デッキ特有の各種各様に存在するテープの選択と、デッキとテープとのマッチング、さらに録音レベルの設定による音質変化と転写の問題などが最終的な音質と直接関係するクラスであり、使いこなしを充分におこなわなければ、せっかくの高性能デッキが活かされないことになりかねないので選択には注意されたい。この価格帯も20万円を境界線として二分するほうが選択には便利だろう。20万円未満は実質的な高性能デッキの存在するところで、使いこなせば10万円未満とは一線を画した優れた音質が楽しめるはずである。20万円以上は、事実上各社のトップモデルが置かれる価格帯である。各社各様の開発方針が色濃く出た製品がほとんどで、フルオート化を選ぶか、マニュアルチューニングの高性能機を選ぶかが選択の要点。

7万円〜13万円未満の価格帯の特徴(カセットデッキ)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 7〜13万円の価格帯は、8万円と10万円を境界線として考えるほうがよい。7〜8万円は、従来からも優れた実用モデルともいうべき製品が置かれていた価格帯で、3ヘッド型が多くなり、それぞれ専用ヘッドを備えるだけに性能も高く、音質も優れる。また、オートリバースの高信頼度のモデル、新ノイズリダクション方式の採用の製品など、ディスクファンの平均的要求に好適な内容をもつデッキが多く、ぜひともこの価格帯から、デザインを含み、性能・機能を実際にチェックしてから選出してほしいものだ。10〜13万円クラスは、それ未満の延長線上に位置するモデルが存在するところだ。製品数は比較的少ないが、価格的にも余裕があり、デッキメーカーとしてのキャリアと実績をもつ各社の製品であるだけに、いずれを選択してもさしたる問題を生じないのがこのクラスの特長である。最近のデッキの進歩を知ることができるのもこのクラスだ。

ソニー PS-X800

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 ソニーのPS−B80は、世界最初のMFB制御方式のバイオトレーサーアームを採用した製品として、オーディオの歴史に名をとどめるフルオートプレーヤーシステムであるが、今回新しく登場したPS−X800は、理論上で理想のトーンアームであるリニアトラッキング方式のアームをバイオトレーサー化して採用した注目の新製品である。
 リニアトラッキング方式のトーンアームは、レコード制作時に使うカッティングレースの動作と近似の動作をするために水平方向のトラッキングエラーが極めて小さく、トーンアームの全長が短く、軽質量でトラッキング能力が高いメリットをもっている。
 しかし、現在市場にあるリニアトラッキングアームは、細かく見れば針先の移動に対してトーンアーム支持部の動きが静止・移動・静止と断続的に移動する方式が多い。この細かい点に注目して、今回発売のリニア・バイオトレーサーでは、アクティブ・トレース・サーボ方式を開発、アーム支持部の速度と針先速度の差として得られるトラッキングエラー角を検出し、常に針先速度とアーム支持部の速度が同じになるようにサーボをかけ、トーンアーム自体が動くという新リニアトラッキング方式を採用している。
 リニアトラッキング方式にはアーム支持部を移動させるためのガイドを必要とする。PS−X800のガイドはモノレール型で、アーム支持軸とアーム支点が常に同軸上にある。また、軸受にはノイズ発生の原因となるベアリングを排除し、特殊樹脂に含油したスライド軸受により振動を防いでいる。
 アーム駆動は独自のリニアトルクBSLモーター採用であり、アーム部のコントロールには垂直と水平が独立した速度センサーを備え、独立したリニアモーターに速度フィードバックをかけて低域共振を抑えるとともに、トーンアームが動くリニアトラッキング方式の問題点を解決している。
 機能は自動アームバランス、純電子式針圧印加をはじめ、自動盤径選択とレコード有無選択、2速度のアーム移動、それにカセットと連係動作用の別売のシンクロリモートコントロールRM65がある。
 音の傾向はスケールが大きく、素直で抑制の効いた、安定感のある表現が特長。独特の素気なさがかえって現代的な魅力だ。

7万円未満の価格帯の特徴(カセットデッキ)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 カセットデッキは、メタルテープ対応以前から6万円未満の59800円が各社間の製品競争が激しいところで、他社と差別化するために、性能・機能ともに優れた製品が次々に新製品として登場し、製品寿命も短いのが特長である。7万円未満では、やはり、6万円未満と区別して考えるべきである。6万円未満でも実質的には5万5千円未満と以上でさらに二分され、性能・音質はやはり1ランク異なるようだ。このうち6万円未満の59800円クラスの製品が、カセットデッキを本格的に使うためのベーシックモデルで、性能優先型か、性能と機能のバランス型かどちらかを選ぶ必要がある。また、ドルビーCなどのノイズリダクションを新採用のモデルは、そのベーシックモデルがベストバイだと思う。6〜7万円は、それ未満のバリエーションモデルや3ヘッド型、オートリバース型と選択は広くなるが、音質もやはり、一段と高い。

オンキョー Integra A-817D

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 アンプの出力の+側と−側から2系統のサーボをかけるオンキョー独自のWスーパーサーボ方式を採用したプリメインアンプ、A817、815に改良が加えられ、それぞれモデルナンバー末尾にDのイニシアルの付いた新モデルに発展した。
 改良の主なポイントは、Wスーパーサーボを一段と強化して、歪みの原因となる超低域成分や電源部アースインピーダンスに起因する雑音成分を40dB以上も抑えたこと。これは100倍以上も強力な電源部を使ったことに相当する効果であるとのことで、従来の50倍から2倍アップしたものだ。この結果、中低域での音の分解能が一段と向上したとのことである。
 また、DCアンプ特有のスピーカーへのDCリークも、強化されたWスーパーサーボの副次的なメリットとして−100dB以上も抑圧し、スピーカー振動板の偏位がなくリニアリティノよ五百とが得られる。Dタイプとなってパワーも増加し、A815Dが55W+55W、A817Dが75W+75Wになった。
 基本構成は従来と同様で、ハイゲインイコライザーアンプとハイゲインパワーアンプの2アンプ構成。トーンコントロールは、特別なトーンアンプを使わずパッシブ素子だけで構成するダイレクト・トーン方式で、オンキョー独自の回路設計である。
 パワーアンプは、普遍的なBクラス増幅と各社各様の発展型高能率Aクラス増幅が最近では一般化しているが、オンキョーでは高能率Aクラスに多いバイアス可変方式を避けて、Bクラス増幅ながらAクラスなみのリニアリティをもち、バイアス変動のないリニアスイッチング方式を採用している。このあたりは、各社ともに何を重視してアンプ設計をおこなうかというポリシーの現れるところでそれぞれ一長一短が存在するだけに、どの方式を結果の音としてユーザーが支持するかにつきるところだ。
 MC20MKIIとDL305を用意して聴く。音の粒子が滑らかに磨かれ、独特のスムーズさのあるしなやかなワイドレンジ型の音だ。微妙に薄化粧をしたようなこの音は大変に美しく、音場感は少し遠くに拡がる。総合的にDL305がマッチするが、MC20MKIIともどもゲインが不足ぎみでMM型を標準に使いたいアンプだ。

サンスイ AU-X11

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 サンスイのプリメインアンプは、現在のシリーズの出発点であるAU607、707から第2世代のAU−D607、D707、D907を経て、現在はAU−D607F、D707F、D907Fの第3世代に進化しているが、それぞれの特長として第1世代はDCアンプ構成、第2世代がダイヤモンド差動増幅方式採用、第3世代のスーパー・フィードフォワード方式が技術的な特長になっている。
 今回発売されたAU−X11は、従来サンスイプリメインアンプのスペシャリティモデルとして第2世代のプリメインアンプの時期に登場したAU−X1の後継モデルとして開発された製品である。
 基本的なデザインはAU−X1と同じだが、新しくヴィンテージの名称が付けられ、パネルサイドに木製サイドボードが加えられたのが異なった点だ。
 基本的構成は、ゲインと負荷抵抗切替可能なMCヘッドアンプ、イコライザーアンプ、フラットアンプとパワーアンプの4ブロック構成で、トーンコントロール回路はない。イコライザーアンプのダイヤモンド差動増幅DCサーボ回路、パワーアンプ部のダイヤモンド増幅スーパー・フィードフォワード方式に特長がある。
 電源部は伝統的な協力電源採用のポリシーを感じさせるもので、MCヘッドアンプ、イコライザー、フラットアンプ、それにパワーアンプがそれぞれ独立した左右独立型を採用。電源トランスはパワー段専用に左右独立巻線の大型トロイダル型、プリドライブ以前の回路用に左右独立の大型EIトランスを使う2電源トランス方式である。
 機能面は、イコライザー付パワーアンプともいえるシンプルなタイプで、左右独立のレベルコントロールをバランサーの代りに使う方式。イコライザー出力を直接パワーアンプに結ぶジャンプスイッチをもち、この場合にはゲインは−14dBとなる。また、サブソニックフィルターは、16Hz−3dB、6dB/oct型だ。
 コンストラクションは、オーディオアンプでその性能と音質を決定的に支配するところだが、AU−X1に比べAU−X11は、かなり大幅な変更が行なわれた。従来はパワートランジスター用左右チャンネルのヒートシンクが中央部に位置し、それをはさんで横一列に左右チャンネル各4個使用の電解コンデンサーが配置されていたが、今回は、この配置が入れ代り、8この電解コンデンサーを中央部に集中配置コンデンサーのタイプもより高性能型に変更されている。最近ではヒートシンクにヒートパイプを採用する例が多く、サンスイのFシリーズもこのタイプになったが、AU−X11のみは従来型の重量級ヒートシンクを採用している点は注目したいところだ。
 シャーシは、マグネティック歪対策としてAU−D907LIMITEDで採用した銅メッキが施され、ボンネットはアルミ製、サイドはローズウッドの木製に変っている。
 マイクロSX8000とMC20+AC3000MC及びDL305+DA401をプレーヤーに、JBL4343Bを使いAU−X11を聴く。AU−X1が、一般のアンプより1octほど伸びたように感じるソリッドな低域をベースに非常に押し出しの良いエネルギッシュなサウンドを特長としていたことに比べると、AU−X11は全体に音の粒子が細かくリファインされ、適度に力強い低域をベースとしたナチュラルな帯域バランスをもち、ディフィニションが優れた音場感の拡がりが加わった音になった。MC20、DL305ともに特長は素直に音となるが、MM型使用時の方がX1のイメージを強く持つようだ。ヴィンテージの名称の如く、パワーで押す若者が年月を経て余裕のある大人の魅力を備えた印象。

フィデリティ・リサーチ XF-1

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 低インピーダンス専用のスイッチレス型トロイダル巻線採用の高性能トランス。
 聴感上でナチュラルに伸びたワイドレンジ型に近いレスポンスと、音の粒子のキメが細かく、滑らかに磨込まれた美しく爽やかな印象が特徴で、クォリティはFRT3Gより一段と高い。
 MC20IIとの組合せは、豊かに量感タップリに鳴る、低域から中低域をベースとした情報虜が多い音である。音色は暖色系で滑らかさがあり、楽器の固有音をかなり正確に鳴らす。
 FR7fとすると帯域バランスはナチュラルとなり、音色もニュートラルになる。素直に聴かせる分解能の高さ、ダイナミックで余裕のある表現力、ナチュラルに拡がる音場感のプレゼンスなど、優れたカートリッジの性能をフルに引出した音。

6万円以上の価格帯の特徴(カートリッジ)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 6万円以上の製品では、実質的には10万円がカートリッジとしての上限である。もちろん、それ以上の価格の製品も存在はするが、カンチレバー材料やボディ部分に、ダイヤモンドやサファイアなどの宝石材料を使用するスペシャリティな製品で、ベストバイの意味では、対象の範囲に入らぬ、特別な需要を満たすためのカートリッジといえるだろう。
 6〜10万円の価格帯では、国内・海外製品ともに、各社のトップモデルが置かれるところで、それぞれのメーカーのサウンドポリシーがもっとも強く現われているだけに、その選択は大変に興味深いものがある。何れを選択するにせよ性能が高いだけに、プレーヤーや、MC型では昇圧の方法など、使用するコンポーネントにより音質が大幅に変わるデリケートさをもっているために、各カートリッジに対する使いこなしはかなり時間をかけて取組まないと、せっかくの性能・音質が引出せない点に注意したい。

フィデリティ・リサーチ FRT-3G

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 リング型コアにトロイダル巻線を採用した入力インピーダンス2段切替の製品。
 最近の製品らしく、昇圧トランスとしては帯域の狭さを感じさせないレスポンスと、キメ細かく滑らかでありながら適度に力感もある音に特徴がある。
 MC20IIは、少し細身のスッキリした音になるが、音場感はスムーズに拡がり、再生の難しいディスクの大振幅でも、破綻を見せずこなしてしまう。音の表情は素直で、適度なダイレクトさもある。
 DL305では、MC20IIよりもトランスのキャラクターにマッチし、伸びやかなレスポンスと一段と分解能が高い音を聴かせる。音色は明るく軽く、反応も適度に速い。FR2は穏やかで素直な表情と爽やかでバランスが優れた音である。

4万円〜6万円未満の価格帯の特徴(カートリッジ)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 4〜6万円の価格帯も、さらに5万円でボーダーラインを引きたい。5万円未満の価格帯は、特例を沿い手国内製品MC型実質的な高級モデルが数多く存在する。カートリッジは高級モデルになるに従い、軽量振動系を採用したワイドレンジタイプになるが、国内製品の高級MC型がほとんどこのタイプで、繊細さ分解能の高さを聴かせることに較べ、オルトフォン系は重針圧型のダ円針付、と好対照である。一方MM型は、海外製品の高級モデルのそれぞれ魅力的な個性が十分に楽しめる。
 5万円以上は事実上のカートリッジのトップモデルが顔を揃える価格帯である。MM型は海外製品が多く、軽質量振動系採用のワイドレンジ型であり、振動系のカンチレバー材料に宝石パイプ採用のモデルも登場しはじめる。MC型はトップモデルの置かれる価格帯で、このクラスとなれば、せびとも専用の昇圧トランスかヘッドアンプを組み合わせたい。

アントレー ET-200

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 高性能化を目的として入力スイッチを取除いた低インピーダンス専用トランス。
 ET100と比べると全体に音のキメが細かく、一段とワイドレンジ型になったのが判る。MC20IIは、やや細身の高域にアクセントがついたスッキリ型になり、爽やかさはアルが、やや実在感不足の傾向がある。FR7fは、予想より低域バランスの線が太い大味な音になる。アントレーEC30を組み合わすとやはり、それなりに納得のいくバランスとなり、力強いMC型というEC30の特徴が素直に聴かれる。
 このトランスもRCAピンコードによる音の変化があり、ET15でナチュラルなバランスとなったコードはメリハリ強調型となり、付属コードですっきりした音になるが、今一歩なのだ。

4万円未満の価格帯の特徴(カートリッジ)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 スピーカーシステムのような外形寸法が大きく、重量もあるコンポーネントに比べ、カートリッジは小型軽量であるため、海外製品の実売価格が非常に低く、特例を除いてこの4万円未満で入手できるのが、特長であり、今回のような価格帯別のベストバイを考えるときに大きな問題点になってくる。従って、ここでは、国内製品を中心にして価格帯を考えてみよう。
 4万円未満でも2万円と3万円は、さらに、それぞれボーダーラインとなる。
 2万円未満はMM型も数あるが、狙うならMC型で古典型から現代型まで数機種が並ぶ。
 2〜3万円は高性能で信頼性の高いMM型とMC型の中級機種が存在する価格帯で、MM型の高性能化、MC型の実質的魅力かが選択のキーポイントになるだろう。
 3〜4万円は、実売価格が高いデッカ、オルトフォンの製品が存在し、これらは4万円以上と互角の魅力をもっている。

アントレー ET-100

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 入力インピーダンスが3Ω、10Ω、40Ωの3段切替で使える昇圧トランスで、定評の高かった初期の製品を改良したのが現在のモデルである。
 聴感上の帯域は、安定感がある低域をベースに少し抑え気味の中域と輝きがある中高域から高域が適度のバランスを保つ。音色は明るく、音表情は穏やかで安定感がある。
 MC20II、FR2、DL305の3種のMC型に対し、それぞれの特徴を引出しながら適度にクッキリとコントラストの効いた、プレゼンスのある音として聴かせる。価格的にみて、現状では高価な製品ではないが、昇圧トランスの一種の基準尺度として使えるだけの信頼性の高い音は見逃せない。ET100は付属コードでバランスがとれる。

アントレー ET-15

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 3Ω、40Ω切替型の昇圧トランスである。
 聴感上の帯域バランスは、柔らかく軟調の低域、抑え気味の中域、硬質でコントラストをクッキリとつけるがやや粗い中高域から高域をもつ、個性の強いタイプだ。
 MC20IIとDL305ともに、トランスの個性のために大きな傾向の差が出ないが、音色が明るく細かさも出てくる点でDL305の方が良い。
 パスを含むスイッチ切替実験の結果、付属RCAピンコードを普通のタイプに交換してみると、個性の強さは大幅に減り、トランスとしては素直でキャラクターが少なく、ナチュラルな帯域バランスをもっていることが判った。昇圧トランスやヘッドアンプでは、使用するRCAピンコードで音が大幅に変わることが多い点に注意したいものだ。

20万円〜40万円未満の価格帯の特徴(プレーヤーシステム)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 20〜40万円の価格帯になると、スピーカーシステムでいえば中型フロアーシステム、アンプでいえば中級セパレート型に相当する性能・音質をもつ製品が存在するところでややベストバイの意味からは外れた位置づけにあるプレーヤーシステムである。
 選択のポイントは、①性能と機能のバランスを重視してフルオート機を選び、イージーオペレーションで、適度にクォリティの高い音質をリラックスして楽しむか、②高性能さを優先させて大型/重量級のマニュアル機を選び、普及機では再生し得ない、ディスクにカッティングされている底知れない情報量を汲みとるか、の二者択一であろう。また、このクラスならシステムとは別にアームレス型を選び、使用するカートリッジにマッチしたトーンアームを組込んで、セミカスタム型のシステムを作るのも効率の高い選択である。当然、選択にはある程度のキャリアが必要だが、その結果には夢がある。

EMT STX20

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 EMTのTSD/XSD15専用の昇圧トランスであり、今回は当然、TSD15を組み合わせて使う。適度に伸びた重厚で力強い低域をベースに、厚みが充分にある中域と、ハイエンドを抑えた高域が、安定感のある帯域バランスを形成している。
 全体に音の芯がクッキリとし、やや硬質で線の太さが感じられる音だが、楽器それぞれに固有の振動を見事に聴かせるのはさすがだ。プログラムソースに対しては適度に反応を示し、ソリッドな魅力があるが、カシオペアのようなジャンルは不得手である。
 試みにMC20IIを使ってみる。バランス的に低域を抑えたクリアーで小柄な音になり、低域が豊かすぎてカブリ気味のスピーカーには効果的に使えそうだ。

8万円〜20万円未満の価格帯の特徴(プレーヤーシステム)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 8〜20万円未満でも、さらに10万円、15万円は製品としての境界線である。10万円未満は、8万円未満の延長線上に位置する製品である。プログラムソースとして、ときにはディスクを使うという程度なら、8万円未満を選択したほうがよいが、やはりディスク中心のプログラムソースで楽しむのならこのクラスである。マニュアル、フルオート、リニアトラッキングアーム、ベルトドライブなどテーマも多いが、メカニズム的にもこのクラスは信頼性が高く、その音質にかなり聴きごたえする価格帯である。15万円未満は、実質的な高級モデルの存在する価格帯である。最近では高性能機はマニュアルという誤解も少なくなり、フルオート機がかなり登場している。また、リニアトラッキングアームの本来の特長が活かされるようになる価格帯でもある。20万円未満は15万円未満の延長線上で製品も少ないが、それ以上の価格帯に相当する好製品が存在する。

8万円未満の価格帯の特徴(プレーヤーシステム)

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プレーヤーシステムは、コンポーネントシステムの入口を受持つ位置づけにあるため、その選択を誤ると、アンプやスピーカーシステムにいかに高性能な製品を使ったとしても、希望する音が得られなくなる点に注意したい。8万円未満の製品といっても実質的には6万円、7万円をボーダーラインとして3つのグループに分けて考えたほうが現実的だ。6万円未満の製品はプレーヤーシステムとしてベーシックなモデルであり各社の製品競争が激しいところで、比較的優れた製品が多い。最近の傾向としては、ストレートアームを備えたフルオート型が主流を占めるようであるが、選択は必ず比較試聴をして決めたい。7万円未満はいわば標準モデルで、6万円未満とは音質的に1ランク差があるようだ。8万円未満は、30〜40万円クラスのコンポーネントシステムの組合せに使えるだけの性能・機能・音質を備え、一般的にこのクラスの製品を選べば安心して使用できる。

ダイナベクター DV-6A

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 DVカートリッジ用に開発された、巻線を含む全ての線材に銀線を採用し、一次巻線はスイッチ切替でバランス型とアンバランス型に使用できるユニークな構想にもとづいた製品である。
 入力インピーダンス40ΩでDL305を使う。柔らかな低域をベースとした安定型の帯域バランスをもつことはDV6Xと似るが、音の基本クォリティは格段に高く、豊かな響きと少し硬質な中高域がバランスを保つ。音場感はナチュラルでスピーカーの奥に拡がる。
 試みにバランス型に切替えると帯域バランスはナチュラルに伸び全体にクリアーで表情豊かな音に変わる。とくに前後方向のパースペクティブがスッキリと感じられるのはバランス型の大きな特徴で、今後の発展が楽しみな製品である。

ダイナベクター DV-6X

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 DV6Aのジュニアタイプとして開発されたスイッチレスの昇圧トランス。
 入力インピーダンスは3〜60Ωと発表されているために、MC20IIとDL305を使う。
 聴感上の帯域バランスは、柔らかな低域をベースとした暖色系の音色をもった穏やかなタイプで、ハイエンドはなだらかに下降するレスポンスをもつようである。
 DL305は低域ベースで高域が下降気味となり、柔らかな雰囲気は楽しめるが、本来の、解像力があり爽やか音とは別のキャラクターに感じられる音になる。
 MC20IIは、DL305よりは明快さが出てくるが、やはり本来とは異なった穏やかな音になる。製品の性格からいっても、ダイナベクター・カートリッジ専用の昇圧トランスという印象が強い。

デンオン HA-1000

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 DL103Dの発売とほぼ同時に開発されたセパレート型電源採用のヘッドアンプで、利得切替は24dBと32dBの2段切替型だ。
 MC20IIは、ローエンドを少し抑えたワイドレンジ型で、ハイエンドはやや上昇ぎみのバランスとなる。いわゆるスッキリとした細身のバランスで、音の表情は淡泊でサッパリとし、音を整理し凝縮して小さく聴かせる傾向がある。音場感はナチュラルでプレゼンスはかなりのものだ。
 DL305は情報量も多く、滑らかに伸びたレスポンスと、トータルバランスの優れたクォリティの高さ、やや抑制の効いた素直な表情が特徴である。全体に音楽を凝縮して聴かせる傾向は24dBの利得の方にもあるようで、一般的にはもう一段とスケール感が欲しい。