ビクター Zero-1000

井上卓也

ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ワイド・アンド・ダイナミックを標傍するZeroシリーズのスピーカーシステムは、Zero5/3にはじまる。現在ではスコーカーにファインセラミック振動板を採用したZero5F/3F、トゥイーターに同じ振動板を採用した2ウェイ構成のZero1Fを加えた第2世代のシリーズに発展し、爽やかに拡がる音場感の豊かさと、明るくダイナミックな表現力により好評を得ている。今回は、平面振動板ユニット採用のZero7の上級機種として、シリーズのトップに位置づけられるZero1000が登場した。
 ユニット構成は、標準的な3ウェイ構成に、さらにスーパートゥイーターを加えた4ウェイ方式。ファインセラミック振動板を初めてウーファー用コーンに導入した32cm口径ウーファーをベースとし、同じ振動板材料を、これもドーム型スコーカーに初採用の7・5cm口径ユニットを中音に、トゥイーターも同様な3・5cmドーム型、それに独自のダイナフラットリボン型のスーパートゥイーターから成る。
 ウーファーコーンのファインセラミック化は、コーンの固有キャラクターの原因となる不要な高域共振を排除し、剛性が高いため大振幅時にも空気圧でコーンが変形したり歪むことがなく、透明でクリアーな、色づけのない安定したベーシックトーンが得られるメリットがあるという。
 スコーカーとトゥイーターは、半球に近いドーム形状を採用している。これは、モーダル解析により求めた理想的な形状とのことで、周波数特性、指向性ともに優れた基本設計である。特に、7・5cm口径のスコーカーユニットは、80年代のドーム型ユニットらしい設計で、従来のハードドーム型ユニットとは基本的な設計が異なっている点に注意したい。
 一般的に、ドーム型スコーカーでは振動板の前にイコライザーを設けるが、Zero1000のユニットにはイコライザーがない。ダイアフラムの内側も、従来は振動板材料固有のキャラクターを抑える目的で制動剤を塗布したり、貼りつけたりしてコントロールする例が多かった。この方法は、確実で容易な手段であるが、振動板重量が増加し、能率の低下や聴感上での鋭いピークの伸びや分解能を損ないやすく、せっかくの高剛性、軽質量のメリットが活かせないためにダイナミックスを抑える傾向が強い。Zero1000では、振動板を直接制御する方法を排除し、ファインセラミックの利点がフルに活かされている。この、イコライザーレス、フリーダンプダイアフラムの2点は、進歩した設計による現代ドーム型ユニットの特長で、今年登場の、優れたハードドーム型ユニットを採用した高級ブックシェルフ型システムに共通の、注目すべき技術革新である。
 エンクロージュア型式は、Fシリーズがすべてバスレフ型であることと対比的に、完全密閉型であるのがZero1000の外観上の特長であろう。エンクロージュアは、一般的にチップボードや積層板といった板材を切断して組み立てる方法が採用されているが、Zero1000のエンクロージュアは、それとは根本的に異なった材料が導入されている。
 ブルーグレイ調にカラーリングされたフロントバッフルは、フラットバッフルでは避けられない回折効果による指向性の乱れを俳除するために、微妙なカーブを描くスーパー楕円形状が採用されている。4個のユニットを直線配置とすると、ユニットマウント用の穴をあけることによる強度不足が問題になってくるが、今回はこの解決方法として、最も響きが美しい木材を超えるヤング率や内部損失をもった特殊レジンを材料に選択している。さらに、一体成型モールドの利点を活かして、バッフル裏側に強度を確保する目的で複雑なリブ構造を施し、理想的なフロントバッフルを作りあげている。実際に叩いてみても、その響きは木材と判断しかねる印象だ。また、裏板部分も、エンクロージュア内部の定在波の処理やユニットの背圧問題、不要振動の排除などの多角的な影響を抑えるために、裏板中心部分の板厚が最も薄く四隅が厚い、逆ピラミッド型に裏板内側が成型されている。この特殊形状を、チップボードを一体成型するウッドキャスティングにより可能としている。なお、側板、天板と底板は、一般的な板材使用である。
 ネットワークも重要な部分だが、高級機相応の高品質、低損失設計であり、レベルコントロールは定インピーダンス・ステップのスイッチ切替型である。
 その他構造上の特長として、低域のダイナミックレンジを拡大するために、ウーファーの磁気回路ブロックとエンクロージュア裏板間を強力なボルトでつなぎ、最適位置で固定してあるのも見逃せない。
 ややトールボーイ型のZero1000は、ステレオサウンド試聴室では床上約25cmほどに設置して、最適バランスが得られる。音の粒子は細かく滑らかで、基本的に柔らかい音とナチュラルに伸びた帯域バランスをもつ。音の反応はシャープでダイナミックであり、誇張感のない実体感とディフィニションの優れた音場感の透明さは、紙のコーン採用のシステムとは異次元の再生能力だ。使いこなしには努力を要するが、その結果は想像を上廻る見事なものである。

Leave a Comment


NOTE - You can use these HTML tags and attributes:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください