ソニー HA-T1

井上卓也

ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 MC型カートリッジ本来の優れた音質を楽しむためには、ハイゲインイコライザーが標準的な装備となっているとはいえ、やはり、専用の昇圧トランスかヘッドアンプを使うのがオーソドックスな使用法だ。
 この2種類の昇圧手段のいずれを選ぶかについては、従来からも諸説があり、簡単には割切れない。個人的な考えとしては、数Ω以下の低インピーダンスMC型は昇圧トランスを、それ以上の中・高インピーダンスMC型についてはヘッドアンプの使用が好ましいと思う。低インピーダンス型独特の、低電圧・大電流で発電効率の高いタイプは、トランスのもつ電圧・電流の比を変えられるメリットを活かし、高電圧・小電流に変換する。つまり、電圧を高くし、その分だけ電流を減らしてMM型同等の出力電圧に昇圧して使うべきと思うわけだ。
 これに対して、インピーダンスの高いMC型は、出力電圧はやや高いが発電効率は低インピーダンス型より低く、小電流しか流れず、インピーダンスが上がるほど電流が減る。つまり、電圧型に移行するため、それならヘッドアンプで増幅したくもなる。
 今回、ソニーから発売されたHA−T1は、昇圧トランスの性能を支配するコア材に、理想の材料といわれるアモルファス(非晶質体)磁性材を採用した注目すべき新製品である。この新材料は、従来のパーマロイ系磁性材と比べ、低域での歪が少なく、高域での磁気損失が少なく、広帯域にわたりフラットな特性が得られる特長がある。
 今回採用された新材料は、ソニー・マグネプロダクツで開発、製造された35μmのハイファイ用アモルファス磁性材である。最近のディスクの大きなダイナミックレンジに対応するために大型のコアを使用し、入・出力特性のリニアリティを大きくとりダイナミックレンジを確保している。コイルは、コア材の優れた特性を十分に発揮させる目的で、無酸素銅線の多重分割巻き採用である。高・低インピーダンス切替スイッチは銀ムク密閉型。金メッキピンジャックなど信頼性の高い部品を採用している。
 HA−T1は、粒立ちが滑らかで、誇張感なく伸びた帯域バランスをもつ。いわば、トランス独特な緻密な力強さと、ヘッドアンプ特有の分解能が高く広帯域である利点を併せもつといった印象である。一聴に値する、新しい魅力を備えた注目製品だ。

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